それは、キラキラ光る宝箱

花町 シュガー

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この世で最も幸せな、3分間の出来事

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「焦る必要は、ないと思うぞ」


「え……?」


「お前は、正直まだ自分のアイスのことをちゃんと意識してなかったんだろ? それなのにこういう形で運命の相手だと知った。
お前のそれは、多分責任感だ」

 俺があいつを苦しませているという、責任感。
 ジュースとして、早く解放してあげなければという焦り。

「それで変に告白して想いを通じ合わせ溶けさすのは、勿体ない。なにより後悔しか残らない。アイスと最期に過ごす3分間は……この世で1番幸せな時間なんだ」

 例えば、カップラーメンができるまでの間。
 歯磨きをするだけの時間。
 そんな風に揶揄する者もいる。


「だが、その3分間を味わえない人間は可哀想だなと思う」


 本当に、沢山の後悔が残った。
 溶けていく愛する人を、ただただ抱きしめてやることしか出来なかった。
 だが……あれほど慈愛に満ち溢れた幸福な時間は、他にはない。これから先もきっとないと、断言できる。

「アイスは、3分間のためだけに生きてる刹那的な人種だ。その3分間を、決して無下にするな。少なくともアイスを溶かす前に自分がジュースであると自覚したお前なら、きっと多少は後悔せず最期を迎えれるはずだ」

 (後悔せず…最期を……)


「なぁ清尾、お前卒業まであと何ヶ月ある?」


「後、7ヶ月…です」


「そうか。なら離れるまでのその間、ちゃんと自分のアイスと向き合ってみろ。 俺は今お前から聞いたことは誰にも言わないでおいてやる」

「え……」

「〝今回の学校も特に以上はありませんでした〟と国に報告する。
実は、少しでもジュースの可能性がある生徒には監視の目が着くようになってんだ。アイスの後を追って自殺しねぇように。そういうのに邪魔されたくねぇだろ?」

 卒業までの7ヶ月
 離れるまでの間、しっかり森と向き合ってみる。
 自分の中にある得体の知れないぐるぐるしたなにかを…整理する。

 ──整理、したい。


「っ、ありがとうございます、沢木さん」

「ん、防音の指導室にも感謝しろよ。
まぁ幸い両片思いならアイスは溶けることはない。気持ちが通じるまではちゃんとこの世に存在する。
運命の相手には嫌でも惹かれるもんだ。俺に言わせれば、お前もきっとその巡り合わせで今出会ってんだろう。ちゃんと自分のアイスを大切にしてやれ、自分の気持ちもな。そして、〝その時〟が来たら……迷わず、言ってやれ」

「……っ、はい」

 ポソッ
「まぁ、こんだけ悩んでんなら答えは出てるようなもんだがな」

「? 沢木さん??」

「いや……自分に欠けてるもんに関しては見つけるのは難しいだろう。そこは深く考えなくていい、アイスが教えてくれる。
7ヶ月間を、大事にな」

 「さて、もう相談は終わりだろう?」とガタリと席を立つ。

「ありがとうございました」

「あぁ。 ……なぁ清尾。

お前のアイスは、どんな奴なんだ?」


「俺の、アイスは……」



『あっ、清尾先輩笑ってる!

いま〝楽しい〟でしょ!!』




「──いつもの俺の表情に気づいてくれた、初めての……男です」


「クスッ、そうか。俺のアイスも男だった。俺たちは似てるのかもな」


「そうですね」


 〝表情が無い〟と、幼い頃から言われ続けてきた。

 喜怒哀楽はちゃんとあるのにそれが全く表に出なくて。
「それも個性」「そういう子」と認識されてきたのに、それを森は真っ向から崩した。


『清尾先輩っ?
先輩は、もっとこう〝笑ったほうがいいですよ?〟』


 部活中誤解されてしまう部分も、森がいるから俺はみんなとちゃんとコミュニケーションが取れていて。

 ──嗚呼……そうか。


 (もしかしたら、気持ちの整理は意外と早く着くかもしれないな)

 でも…俺は出来る限りの時間を森と過ごしたい。

 この気持ちを運命に気づかれるまで、どうか。



「~~~~っ、」



 不意に、これから来るかもしれないその瞬間に泣きそうになってしまって。
 森に……早く 逢いたくなってしまって。


 俺は、沢木さんにお礼を言いながら

 足早に指導室を去った──





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