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しおりを挟む杉本は言ってた。
「今日さ、七宮の奴さ、休み時間にクラスの女子たちと固まってなんか話してたんだよ。そんでさ、なにやってんのかなぁって思って見てたらさ、急にこっちの方、振り向いたんだよ。んでな、偶然って感じで俺と目ぇ合ったんだけどさぁ~。笑ったんだよ、七宮。俺の事、見て笑ったんだよ、七宮っ。七宮ってさぁ、なぁ~んか、可愛いよなぁ~。いっつも笑っててさ。いっつも笑ってるのに、そこからもっと笑うんだよなぁ~。ホント、いいよなぁ~。いっつも楽しそうでさ。七宮の事、見てるとこっちまで楽しくなるよなぁ」
杉本は言っていた。
「なあ。俺、笑ってるか? 楽しそうか? 七宮がさぁ~、言ってたんだよ。今日、体育の終わりにちょうど廊下で会ってさ。『杉本君、なんかこの頃、楽しそうだね』ってさぁ~。七宮さ、ニコニコしながら言ってたんだぜ。俺がさ、笑ってるとしたらさ、それってゼッタイ、七宮のせいじゃん? 七宮の事、見てたらさぁ~、なんかもう、楽しくてさぁ~。しかも、しかもしかも『この頃』って言ってたんだぜ、七宮。今日、たまたま俺がニヤけてんの見て、言ったんじゃなくてさ。俺の事、『この頃』ずっと見てたって事じゃんかよーっ。も~、なんかさ、楽しいよなあ。俺が七宮の事見てて楽しくてさ、もしかしたら七宮も俺の事、見て、楽しいとか思ってるんかもしんないじゃんかよぉ~。あーっ、もうっ。なんかさ。『好き』ってさ、すごいよなぁ~」
杉本は言っていた。
「なんかさ。不思議なんだよ。ずっと、気持ちは在ったんだぜ? 今の気持ちとおんなじ気持ちがさ。ゼンゼン、変わってない。それがさ、ホント、『あ。俺、コイツの事、好きなんだ』って思った瞬間さ、急に来たわけ。『くぅ~っ!』ってさ。『好きだ』って思った瞬間から『好き』なんじゃなくてさ、『もう、ずっと前から、好きだったんだなぁ』って、始まんだぜ? 不思議だよなぁ~。ずっと、ココロに在ったのにさ、それが何か分かるまで、ずっと、無いのとおんなじなんてさぁ~」
もともと私と杉本とはアルバイトの出勤曜日や時間帯が違っていたのだ。会って話をするのはもっぱら学校でだった。
昼休み。放課後。下校時。杉本は加奈子の事を聞くためにではなく、加奈子の事を話すために私を使っていた。
「なんかさ」
と。杉本は言っていた。
どうやらそれは彼の口癖のようだった。
毎度のように杉本は話し始めにそう置いてから言葉に詰まる。それから数秒、ぼんやりと遠くの空を眺めてみたり、斜め下の地面に視線を落としてみたりする。
語彙が乏しく、思っている事を言葉にして表す事が苦手なのか、それとも単純に、頭の回転が遅いだけなのか。頑張って頑張って次の句を探しているのだろうその様子を見て『可愛らしい』と好感を持つ人間もいるのかもしれないな、とは思ったが。残念ながら私にはそうは感じられず。『可愛らしい子供』というよりかも、やはり『ただの馬鹿』としか思えなかった。
杉本と話すたび、私は軽い苛立ちと疲れとを感じていた。
「ふぅん」
私は話を促さない。
いつも相槌を打つだけだった。
なにより。促しなんかしなくても、いつも杉本の話はずいぶんと自分勝手に進んでいくのだ。
「なんかさ」
と。杉本は話し始める。
「ふぅん」
と。私はそれを聞き続けた。
苛立ちと疲れとを、確かに感じてはいたのだけれど。
私は飽きもせず、毎日のように杉本の話を聞き続けた。
楽しかったのだ。
もちろん、
「なんかさ」
から始まる杉本の話が、じゃあない。
杉本自身が、だ。
私は杉本の話を聞きながら、
(バカみたい。)
奥歯の辺りに力を込めて、不必要な笑みは噛み殺す。そして、
「ふぅん」
と、頷いてやるのだ。
熱っぽく、加奈子を語る杉本が。私には楽しくてしかたなかった。
杉本は言っていた。
加奈子の事は中学の頃から気になっていたのだと。一度も同じクラスになった事はなかったけれど、加奈子の事は知っていたと。球技大会や合唱コンクール、自分たちが適当に流してきた舞台で誰よりも一生懸命に見えた加奈子の姿はとても印象的だったのだと。
「なんかさ」
杉本は熱く熱く語ってくれた。
私はそれらのエピソードを聞きながら、
(熱過ぎ。浮かれ過ぎ。感情、垂れ流しで。本当にバカなのね。)
順調に杉本への嫌悪感を募らせていっていた。
けれども、
「ふぅん」
と相槌を打つ私の顔は、笑っていた。
「へへへ」
と、私の隣で杉本も笑っていた。
苛立ちと疲れと、嫌悪感まで覚えながら。私は杉本を隣に置いていた。杉本の話を聞きながら、私の顔は笑っていた。
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