麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

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「んむぅ」

微かな振動を感じて少しだけ意識が浮上した。

うっすらと瞼を開ければ、義兄さまの顔とお空。
覚めきらない意識の中でお帰りなさいませという声が聞こえたから、どうやら家に着いたらしい。

お姫さま抱っこで運ばれる振動が揺りかごみたいで気持ちいい。
目覚めた原因の振動が同時に眠りを呼び寄せる。

僕が必死に閉じようとする瞼と格闘しているとおでこにチュッと湿った感触。

「まだ眠いんだろう?夕御飯まで眠っていていいよ。今日はご馳走だよ。シェフが張り切っていたし、父上も早く帰宅してくださるらしい」

今日は義兄さまが帰ってきたお祝いだ。
久しぶりの家族勢揃い。

「もうちょっと……」

「ん?」

ふにゃふにゃと紡いだ言葉は伝わらなかったみたいでもう一回がんばる。

「ごはんのまえ、おこして。にーさ、まと……おはなし、する……zzz」

頭がかくんってなった。

ちゃんと伝わったかな?

もう目も口も開けてられない中、霞む思考でぼんやり思う。

みんなでごはんは楽しみだしうれしいけどその前に義兄さまとお話したい。
せっかく会ったのにまだほとんどお話できて、な……い。zzzzzz……。


甘いにおいがする。

においのする方に歩くと……お菓子の町があった。
建物も町全体もお菓子で出来てる。ひとつのお店に入りチョコとお茶を注文した。

ぱくりと口に入れたところで、ん?と首を傾げた。

唇に不思議な感触。
複数の笑い声にぱちりと目を開けた。

目を……つまり、僕は寝ていたようだ。
でも口の中にはチョコの甘さがあって、ついでに僕は義兄さまの指を咥えていた。

「セレナード、私の指まで食べないで?」

笑いながら僕を覗き込む義兄さまの指が逃げていく。

「おはよう。セレナちゃん」

向かいのソファーに座る母さまも優しい笑みを浮かべて僕を覗き込んでいた。

「お菓子の町は……?」

「お菓子の町?素敵な夢を見ていたのね。セレナちゃんったらギルくんが口元にチョコを差し出したらぱくりと食べたのよ。ふふっ」

「お土産を開けたら寝ながらお鼻をくんくんさせだしたからね。イタズラで口元に運んでみたら本当に食べたんだ」

僕のお鼻、優秀。

たぶんだけど、人は寝てても完全に意識が働いていないわけじゃない。

テスト前に「覚えるぞ!」って意気込んで寝るとちゃんと睡眠学習できるのがいい例だ。

前に書記に「睡眠学習ってことはさ、つまりお前って寝てるときに交わされてる周りの会話とかも覚えてんの?」って聞かれたけどそんなことはない。
第一それじゃあ安眠出来ないじゃないか。

「ちゃんとスイッチ入れて寝たときしか無理に決まってるだろう」と腕組みして返したら、なんとも言えない顔で僕を指差しながら「コイツ、スイッチついてんの?」ってエリオットに聞いてた。

物理的なスイッチなんかついてるわけないじゃないか。

意識のスイッチだ、意識の。

睡眠学習は極端な例だけど、無意識でも人は周りの状況を朧気ながら認識しているはずだ。

だからみんなは目覚ましの音に反応出来るのだし、僕だってエリオットはいつも全然起きないって怒るけど、義兄さまに起こされたときは揺すられたり乱暴にされなくても比較的ちゃんと起きれる。

きっと今回も大好きなチョコの匂いに反応したんだろう。
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