【連載版】魔王さまのヒミツ♡ ~バレたら即・下剋上?!クール魔王の素顔は泣き虫チキンな箱入り息子~

黒木  鳴

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城の回廊を足早に歩いていたジェラルドは声をかけられるより早く振り返った。

「コンバンハ」

抑揚のない声が陰気に放たれる。
差し込む月の光に照らされたのは爬虫類の鱗を持つガリガリの男。

「イグナー」

ジェラルドがその名を呟いた瞬間、イグナーが腕を差し出す。
四方の闇から飛び出してきた影の攻撃をジェラルドは大きく後ろに飛んで避けた。
再び飛びかかってきた一匹を蹴り飛ばし、大きく振るわれた尻尾を魔術によって生み出した氷の刃で断ち切る。

ブツブツと漏れる呪文のような言葉。

それが詠唱だとはわかっていたが…………攻撃の類ではなかったから目の前の敵を優先した。

その判断が過ちだとも知らずに。

耳鳴りのような甲高い音を立てて周囲を取り囲む結界。

「なんのつもりです?自分を守るならともかく、周囲に被害が出ないようにとでもいうつもりですか」

足元の雑魚を踏みつけて挑発すれば、イグナーは薄気味悪く口角を持ち上げた。

ジェラルドとイグナーの力の差は明らかだ。それはイグナーがけしかけた雑魚共をいれようと変わらない。なのに妙に余裕のあるその様子に片眉をあげたその時だった。

「…………ぐっ」

不意に感じた違和感。

くらりと視界が揺れた。
眩暈のようなそれに周囲に視線をやれば、ほんの薄っすらと足元を白い靄のようなものが這い寄っていた。それがなにかを認識するより早く呻き声が響いた。

「ガァァアアアァアアア!!!」

倒れ伏した敵たちが喉を掻きむしり絶叫をあげる。

「毒かっ……!!」

口元を腕で覆い飛び退る。

張り巡らされた結界は密室を造り上げるためのもの。
強い毒にさえ耐性のあるイグナーは自らの配下たちをも巻き添えにして毒を散布したのだ。

瞬時に気づいたジェラルドは右手に魔力を込め結界を力技で破壊し、暴風を巻き起こすと毒を散らした。
靄を散らすように白い気体が薄れていく。

竜巻のような風が止む時にはイグナーは姿を消していた。

ぐらりと揺らぐ体に回廊に膝をつく。

(やられた…………!)

内心で悪態をつきつつ、無様に手を付きなんとか立ち上がった。
力の入らない体に鞭を打ってノロノロと歩み出す。

全身を蝕む痛みに脳がグラグラと揺れ、視界すら霞む。
はぁはぁと荒い自分の呼吸音が酷く耳障りに響いた。


ジェラルドにとって “毒” はそもそも忌まわしい記憶だった。

生まれた時、自分には片割れが居た。

気が弱く優しかった双子の弟はある日、親族の一人によって殺された。

幼い頃からジェラルドは神童と呼ばれる程に優秀だった。
強く才能に恵まれた彼を一族の者たちは次代の魔王へと推した。だが優秀すぎるが故にジェラルドには敵も多く、ごく一部の者たちは弟を担ぎ上げ意のままに操ろうとした。

弟は魔術こそ兄に劣るものの強い毒と毒への耐性を持っていた。
そのことを危険視した親族が先手を打って弟を排したのだ。

弟には玉座を狙う野心も兄を害する気もなかったのに……。

大切な弟の亡骸を抱きしめ、ジェラルドは決めた。

全てを凌駕する魔王になろう……!

繰り返される無意味な争い、犠牲、混乱……。

それらを全て終わらせるには誰よりも強く、圧倒的な魔王として君臨すればいい。

勝てる見込みがあるから、自分の方が強い、優れていると幻想を抱くからこそ誰もが争うのだ。
ならば誰もがひれ伏す程の高みに昇りつめればいい。

魔王になる決意を固めたジェラルドはその力を磨き、蓄え、同時に情報を集めた。
成長したジェラルドは益々強くなり、もはや魔界に彼に敵う者はそう居ない。

レイに近づいたのは彼の力を知る為だった。
玉座を退いたとはいえディートリッヒ・ヴェルツナーは現魔王よりもずっと強く、そんな彼の息子を警戒するのは当然だった。



「はじめまして」

ガーデンパーティーで初めて会った彼はぽっかりと目と口を開いてジェラルドを見ていた。

あどけない表情。
容姿はヴェルツナー卿とよく似ているのに、少しも似ていない。

人見知りなのかおっかなびっくり、だけどはにかみながら話す姿に……脳裏をよぎったのは弟の笑顔だった。

何度か会ううちにレイは瞬く間にジェラルドに懐いた。

子犬のように懐いてくるレイ。
思惑を持って近づいた筈なのに……彼の満面の笑みを向けられるたびに心に花が咲くように温かくなった。
可愛い弟のように、やがて弟のような存在を超えて惹かれていくのを無自覚に感じていた。

怖がりで、戦うのが苦手なレイ。

飛び出してきた魔獣に怯え、クロノスの背にしがみ付く彼を見て感じたのは安堵だ。

レイは脅威にはならない。

そのことにジェラルドは心から安堵していた。

だってそれは……レイを排除する必要がないということだから。

だけどある日ジェラルドは聞いてしまった。

「相変わらずあの子は魔術があまり得意じゃないようだね。家庭教師から小言を言われてしまったよ」

笑みを含んだディートリッヒの声にジェラルドは柱の陰に隠れた。
開いた扉をそっと覗き込む。
部屋にいるのはディートリッヒとクロノスのようだ。

「レイ様は攻撃魔術がお嫌いですから」

「あの子は優しいからね。けど……あの子が本気を出せば私ですらも上回る」

レイがディートリッヒ卿を上回る……?!

衝撃に息が止まるかと思った。
それからどう帰ったかも記憶がなく、数日は部屋に籠り悶々と考え込んだ。

そして出した答えは…………_____________。

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