16 / 19
16
しおりを挟む「も、ムリ…………」
「レイ様!しっかりっ!!」
いまにも口から魂が出そうなレイの肩をララが涙目で支えていた。
「ケーキ、チョコケーキをホールでご用意いたしました!」
「……ケーキ」
ドドーン!と差し出されるホールケーキにレイの目に少しだけ光が戻る。
その横ではレイを励ますのに必死なララに代わりクロノスが寡黙に紅茶を淹れていた。
基本的にいつもはボロが出ないよう人前に出るのも口数も最小限な魔王サマだが……今日はかなり長い時間クールな魔王サマモードを持続していたためレイは疲れ切っていた。
完全に戦闘での疲れでなく、営業時間を超えた魔王モードのためのお疲れだ。
「ご立派でしたよ。魔王として正に相応しいお姿でした」
「ほ、本当……?」
ジェラルドの誉め言葉にもレイは泣き顔だ。
さっきまでのクールな魔王様の面影は欠片もない。
しょんぼりとした顔のレイはフォークを片手に伺うようにジェラルドの顔を見ている。
まるで怒られた子犬のように。
「どうしました?」
「だって…………ジェラルド、さっきからなんか怒ってる。僕、ちゃんとやれてなかった……?」
片眼鏡を片手で弄っていたジェラルドは不安そうなレイの言葉に思わず手を止めた。そしてバツが悪そうに口を開く。
「あれは……、貴方というよりゼットたちに怒っているだけです」
それでもまだ「本当?」という眼差しを向けてくるレイにジェラルドはむっと唇を引き結びテーブルを叩いた。八つ当たりだ。
「いえ、貴方にも怒ってます。だいたい、あんな軽々しく血を吸うなど……!なにを考えているんです?!」
「えぇ~……だって、あの時は仕方なく……」
人差し指を合わせてもにょもにょと言い訳する。
正直、なにを怒られているのかよくわからなかった。
てっきり甘い処分や演技が所々崩れかけてたことを怒られるとばかり思っていた。
「あの反応を見たでしょう?!特にゼット!!」
「アイツどうしたの?」
キョトンと返すレイにジェラルドは大仰な溜息を吐いて額を押さえた。頭が痛い。
「刺激が強すぎたんだろうねぇ。レイくん、手加減なしに吸血しちゃった?」
「あっ……!」
軽いディードリッヒの言葉にあっ!と口を押える。
……熱を帯びたゼットの目。
アレを見た時にも思ったのだ……。
「ジェラルドや父さまの魅了にかかった相手みたい」と。
吸血鬼が吸血行為をするとき、媚薬成分にも似たものが分泌される。
それは相手の抵抗を奪うためであり、また傀儡として思いのままに操るためでもある。
暴走したオーガたちを止めるべく焦っていたこともあり……レイはなんの制御もなく吸血してしまった。
普段はポンコツだが、実はその実力はもの凄いレイに容赦なしの吸血をされたゼットは…………。
「レイくんの魅了は超強力だからね。なんたって私とララウェルの子だし」
「……?奥方も魅了持ちだったのですか?」
愛妻家のために魔王を辞めた話は有名なので当然知っているが、亡くなったレイの母親と面識のないジェラルドは意外そうに問いかけた。
魅了持ちは特別珍しい能力でもないが、そう多い能力でもない。
……この場には4人も居るが(吸血鬼×2、悪魔×1、ラミア×1)。
「そりゃあそうだよ。だって私の愛しのララウェルはサキュバスだし」
「……サキュバス」
ヒクリ……とジェラルドは頬を引きつらせ、恨めし気にレイを見た。
「……いつも人のことを “誑しのプロ” とか “魅了のプロフェッショナルこわい……!” とか言っておいて…………」
「……?だって本当のことじゃん?」
「あなたねぇ…………」
キョトンとする相手にそっくりそのままその言葉を返してやりたかった。
サキュバスとはある意味お仲間でもある悪魔の一種の夢魔で、男性の精気を奪う生き物だ。男性版はインキュバス。
それこそ魅了のプロフェッショナルである。
同じく魅了のプロフェッショナルであり強力な吸血鬼との子どもであるレイは言わば “魅了” のサラブレット。しかも元魔王の親さえ凌駕する魔力量を誇る怪物だ。
「まぁララウェルは魅了なんて必要ないぐらい魅力的だったけどね。もう可愛いってのなんの……!レイくんは容姿は私似だけど性格はララウェル似だよね~」
愛しい妻のこととあってご機嫌でディートリッヒは語る。
そんな彼の妻・ララウェルはサキュバスなのに純情という「それ、ある意味一番あざとくない?」という魅力的な女性だった。
ひとしきり妻自慢をして満足したディートリッヒは元の会話を思い出し、レイへと顔を向けると言い聞かせる。
「反感は綺麗に消えただろうけど……襲われないよう気をつけるんだよ」
「そ、それって……」
「もちろん、アイツがバカなことをしようとしたらパパがぶっ飛ばしてあげる」
「絶対に2人きりにならないように」
笑顔で「ぶっ飛ばしてあげる」と宣言するディードリッヒと不機嫌なジェラルドに挟まれたレイはべそをかきながらううっと肩を丸めた。
元々強さにこだわる者が多い魔族だ。
ゼットをはじめとするオーガはその傾向がより強く、そんな彼らが手が届かない程の格の違いをまざまざと目の当たりにさせられたうえ、一瞬とはいえ支配下に置かれたのだ。ゼットに至ってはそこに吸血行為による魅了まで影響している。
さらにはレイはすこぶる容姿がいい。
そんな彼が魔王としての確かな実力を示せばどうなるか……。
崇拝、狂信、恋慕……様々な感情を抱く者たちが増殖しても不思議はない。
現にあの場に居た魔族たちのレイを見る目は一変していた。
それこそ……下剋上でなく貞操の危機を心配しなくてはならないほどに……。
どうやら魔王として認められたはいいが、一件落着とはいかないようだ。
「もう魔王ヤダ~~~!!!」
フォークをお皿の上に投げ捨て、テーブルに突っ伏してうわ~ん!と泣き出したレイをみんなが代わる代わる慰める。
「大丈夫だよ、レイくんに手をだす不埒者はパパが容赦しないから」
「そうですよ。殺さない程度に痛めつけて差し上げますので」
「ちなみに私はお前のことも言ってるからね?」
「同意の上なら問題ないですよね?」
にっこり笑いながらバチバチと火花を散らす約2名。
「……やっぱいま殺そっかな」
「レイ様!このララにお任せをっ。レイ様の敵は毒爪で苦しめ、蛇体で締め上げて差し上げますわ!生かさず殺さずは得意ですもの」
「御身に危害が加えられることなどないようお守りします」
善意で慰めてくれるみんなだが、クロノス以外発言が大概物騒だった……。
32
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる