魔王さまのヒミツ♡

黒木  鳴

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金の燭台の上で橙色の炎がユラユラと揺れる。
揺らめく炎が映し出すのは真紅の絨毯が引かれた華やかな空間。荘厳な広間に集う者たちは背筋を伸ばし、またあるいはこうべを垂れて畏怖と尊敬を示す。

この場で誰よりも強く、尊き者へと。

威厳ある重厚な造りの玉座。
そこに座すのはまだ年若い青年だった。

黄金を熔かして紡いだかのような金髪に白皙の美貌。
濃い緑に一滴の蒼を落としたような瞳の美しい玉座のぬしは、肘をついて退屈そうな視線を広間へと投げかけていた。

「レイ様」

己を呼ぶ声に若き王はおもてをあげる。

恭しく胸に手を当てこうべを垂れるのは副官でもある上級悪魔・ジェラルド。

アイスブルーの髪と瞳、冴え冴えとした色彩と裏腹な柔らかな物腰。
柔和な笑みを浮かべた彼は、この魔界において公爵の地位を有する絶大な力を秘めた存在だ。

如何いかがいたしましょう?此度こたびの……」

「ジェラルド」

澄んだ、声が響いた。
決して大きくはないのに響いたそれはジェラルドの言葉を遮る。

「お前に任せる」

「はっ……」

再び下げられた頭をやはり無感動に見つめ、玉座の主は席を立つとまるで全ての興味を失ったとでもいうように歩きはじめた。
広間に並ぶ誰もが無言でこうべを垂れ、その背を見送った。


レイ・ヴェルツナー。

先々代の魔王、ディードリッヒ・ヴェルツナーの一人息子であり、悪魔公爵として誰にも膝を折らぬだろうと思われていたジェラルドが絶対の忠誠と敬愛を捧げている存在。

それこそが魔王、レイ・ヴェルツナー。
うら若き、魔界において最年少の魔王だった。




「ううぅぅぅ~!!魔王もうやだぁぁぁ~~!!下剋上こわいよぉぉぉーーー!!!」

涙を浮かべ、えぐえぐと喚く青年。

頭上を飛ぶ使い魔のコウモリに羽でヨシヨシされつつ泣きじゃくっているのはあの魔王だった。
王の間では玉座から無感動な視線を周囲へと投げかけていた麗しき魔王。

…………なんのことはない、無感動に見えたのは必死に表情を押し殺していたためだ。

「も、やだぁぁぁ!!」

「大丈夫ですよレイ様。あなたは私がお守りします」

泣きじゃくるレイの手を掬い上げ、ジェラルドはそっとその指先へと口付けた。その仕草は実に優雅で、相手がなにも知らないうら若き乙女ならイチコロで恋に堕ちていただろう。

だけどレイは目を吊り上げて男を睨みつけた。
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