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しおりを挟む「なにが大丈夫だっ!そもそも僕を魔王に仕立てあげたのお前じゃんっっ!!」
「ああ、そんな怒った顔も可愛いですね」
「いや聞けし!!……流れるように頬を包むな、口説き文句を吐き出すな!ちょっ、近い!!や、やめっ……」
「おや、てっきりその可愛らしい唇を塞いで欲しいのかと」
「ちがーう!!わっ、ほんと近い、近いっ」
「お戯れはほどほどに。閣下がご覧になられたら大変なことになりますよ」
ジェラルドを止めたストイックな印象の美丈夫はヴェルツナー家に忠誠を誓う騎士だ。
危ういところを助けられたレイは「クロノス……」と感極まった声で彼の名を呼び、反対にジェラルドはチッと低く舌打ちをした。
「レイ様、お茶とケーキをお持ちしました。新作のチョコケーキですよ」
「新作ケーキ!」
メイドのララの言葉にレイの表情がぱっと華やぐ。
先程までの泣き顔はどこへやら、幼いこどものように瞳は目の前に用意されるケーキにくぎ付けだ。
「いただきまーす。……おいひぃ」
ほにゃりと幸せそうに緩む表情に部屋にいる面々の頬も緩む。
2個目のケーキをおかわりしたところで部屋に一人の男が入ってきた。
二十代後半に見える男はケーキを頬張るレイへ甘く蕩けそうな笑みを向ける。
愛しくて仕方がない、そんな感情を瑠璃色の瞳に惜しげもなく宿し、ソファへと歩み寄る。
「よくも押し付けてくれやがったな」
優美な美貌から漏れたとは思えない口調。
ツイ、と顔を横へ向けた彼の表情は一変していた。
レイへと向けてた甘く蕩けそうな笑みとは別物の凍てついた表情と声を受けても怯むことなくジェラルドは完璧に作られた笑顔を返す。
「申し訳ありません、ヴェルツナー卿。レイ様が心配だったあまりつい」
「ご、ごめん父さん。僕が中途半端に退出したから…………」
険悪な雰囲気にフォークをわたわたと揺らしながらレイが声をあげる。
途端に男はにっこりと甘い笑みを取り戻した。
「気にすることはないよ。私が苛立っているのはこの若造にだけだから。パパはいつだってレイくんの味方だからね」
さぁ、この胸に飛び込んでおいで!とばかりに両腕を広げる男は先程までとはまるで別人。
温度差で風邪をひきそうな対応差だった。
どう見ても二十代後半の貴公子にしか見えない彼こそ、かつての魔王としてこの魔界に君臨していたディードリッヒ・ヴェルツナー。レイの実父である。
親子ということもありディードリッヒとレイの容姿はよく似ている。
パッと見は兄弟のようにも見える彼らだが…………彼らをよく知る者からすればその印象は全く異なる。
(この2人を似てるという奴らは見る目がないな)
若作りの食えない元・魔王を前にするたびにジェラルドはいつもそう痛感している。
「なにかな?」
「いいえ?なんでも」
にっこりと作り物の笑みを浮かべ合う彼らを眺める周囲は思った。
(このお二方、わりと似てるよな……)
(性格的にはジェラルド様の方が閣下と血のつながりがありそう)
(これ同族嫌悪ってやつでは?)
笑顔で睨みあう腹黒×2と無言で見守る使用人たち。
そんな中、レイだけはよくわかってなさそうに首をかしげつつ2個目のケーキを完食していた。
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