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しおりを挟む今日も今日とてセレナード語の解読に手こずっていると、不意にメイドの一人が「閃いた!」という顔で手をあげた。
「もしかして……ギルバート様のお顔のクマのことでは?きっと奥様がそれを心配なさっていて……」
それだ!
きっと正解だろうそれに誰かから拍手がもれた。
我が邸ではこうした突発クイズ大会がよく開催される。
賞品は特にないが、正解した使用人たちは「自分はセレナード様のことを理解している」とドヤ顔で大変満足そうだ。
「クマは病気じゃないから死なないよ」
優しくそう告げれば、
「でもねぶそく?なんでしょ?」とセレナードが呟いた。
ねぶそく……寝不足と脳内変換し、ようやくああと納得した。
寝るのが大好きで睡眠が生活の2/3以上を占めるセレナードにとって、睡眠が足りない=死んじゃう!なのだと理解した。
まったく寝てないならともかく、数日睡眠が足りないぐらいで人は死なない。
第一、それなら宰相職で日々忙しい父上はとっくに死んでる。国王陛下も死んでるし、文官の何割かは死ぬ。
「にーさま寝て。はやく」
ぐいぐいと私の体をひっぱり、無理に体勢を倒させようとしてくるセレナード。
「本当に大丈夫だよ。それに今日中にこれを読みたいし」
私を心配してくれる弟の気持ちは嬉しいし、可愛いが、本の続きを読みたかったこともあって断った。
……が、ちっとも納得してくれない。
大きな瞳がうるうるしだし、「ギルにー死んじゃやだー」と泣かれれば嫌だと突っぱねることもできなかった。
寝っ転がれるだけの広さのあるソファに横になれば、時計を前にセレナードがふんす!と胸を張った。
「おこしてあげるね」
そうして少しだけ仮眠をとろうとしたのだが…………。
うっすらと目を開けていれば、すぐにセレナードの体がゆらゆらしだす。
ただでさえ重い幼児の頭がぐらぐらしだし……。
ぱぁんっ!
突然自分のほっぺを叩いたセレナードにびっくりして飛び起きた。
「セレナード?!」
「にーさま、起きちゃだめ!」
「そんなことよりなにをしているんだい?ああ、赤くなって……」
わずかに赤くなったほっぺを包む。
すぐさまメイドが濡れた手ぬぐいを差し出し、それを頬へとあてた。
「ギルにーはねるのー!ぼくが起こしてあげるのに」
その言葉にはっとすぐ下にある顔を覗き込んだ。
「もしかして……、自分が寝ちゃいそうになったからほっぺを叩いたのかい?」
その言葉が終わらないうちにふらりと頭がぐらつき、再び持ち上がった手を慌ててつかむ。
「やめなさいっ」
「セレナード様!!ギルバート様のことは私が起こしますので!!一緒にお眠りになられてはいかがでしょう?!」
ぷっくりした柔らかな頬が赤く染まってるのを見たメイドが涙目で懇願すれば、「救世主……!」という目でセレナードはメイドをキラキラした目で見つめた。
「ちゃんと起こしてくれる?」
「もちろんです。命に代えても!」
いや、大げさすぎだろう。
にっこり笑ったセレナードに「ありがと」とお礼を言われたメイドは感極まった表情で震え、ほかの使用人が悔しそうにそれを見ていた。
2人で寝るにはソファは少し手狭だと思ったのか、セレナードが私の手をぐいぐいと引っ張りベッドへと連れていく。
横になれば、お腹のあたりに抱き着いてくる温かい体温。
柔らかで温かな体温を抱き込めば、かすかに甘い香りがした。
いつしかその温かさに誘われるように、私の瞼もとろんと降りてきた。
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