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だよな。
思った感想はそれだった。
目の前にはすやすや、すやすやと眠る眠り姫……もといセレナード。
自宅での猛特訓の甲斐あって、
「15秒だ。15秒までなら最長起きてられた」
おやすみ15秒という、不眠症のやつなら「早ぇよ!」と羨ましがりながらキレても仕方ない成果を得たセレナード。
巻きでやれば寝落ちする前に眠り姫が起き上がるシーンまでイケるか、と希望を抱いたのが数日前。
たぶん午前中のあれがなければなんとかなったかもしれない。
だが体力のないセレナードは走り回ってクタクタだったうえに、お昼寝時間も十分に確保できなかった。
一応抗おうとはしたのだろう。
胸の前でくずれた掌には薄っすらと爪のあと。
抗おうとして……抗えず寝落ちしたのだろう。
嫌でも感じる客席中の沈黙に背中に汗が伝う。
「おおっ……!なんと美しい姫だろう」
一縷の望みをかけて肩を揺する。
強めに揺するがやはり起きない。
「これほど美しい人は見たことがない。この白い肌、花びらのような唇……閉ざされたその瞳の色はどのような色をしているのだろう」
適当な台詞で時間稼ぎをしつつ、客席から見えないように頬を突き、つねり、叩き……なんとか起こそうとするが全然起きない。
腹立たしいほどにすぴすぴ、すやすやと安らかに眠ってやがる。
これ、もう絶対ぇ起きねぇやつだろ……。
爆睡だ。
揺すってもつねっても反応なし。
ちょっぴり赤くなってしまった右頬を見下ろしつつ俺は悟った。
これ、ムリだ……。
「美しい人……。私はあなたが目覚めるまでどれだけの時でも待ちましょう……」
起こすのを諦めた俺はムダに大仰な仕草で観客を引きつけつつ、こっそりと舞台裏の生徒たちに「幕、幕しめろ!」とジェスチャーでアピール。
戸惑っていた舞台係たちだが…………眠ってしまっているセレナードが目に入ったのだろう。
慌ててバタバタと動き出す。
緩やかに流れる音楽。
俺は脳をフル活動させ、 “姫の目覚めを待ち続ける王子” の感動的な台詞をひねり出しながら、ゆったりと降りる幕を「早くしろ、早く!」ともどかしい気持ちで待ちわびる。
そうして幕が下りきった。
姫が目覚めないラストに観客は一瞬呆然としていたが…………。
まさかの眠り姫役がガチで眠ってしまったなどとは予想だにしない観客たちは、こういう斬新な演出だと理解したのだろう。
パチパチとまばらに拍手がおき、やがて大きな拍手に包まれた。
その音を聞きながら俺はベッドに凭れ掛かって大きく息を吐く。
めっちゃ疲れた……。
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