8 / 22
第八話 爆撃効果
しおりを挟む
ここから第二話の時点に時間が戻ります。
■1945年3月26日 沖縄西方
第58任務部隊
旗艦 空母バンカーヒル
「なんたる失態だ!」
普段は温厚なミッチャー中将が珍しく声を荒げた。
慶良間の第77歩兵師団と第54.2任務隊を砲撃した戦艦はすぐに見つかった。それは沖縄南部、浦添の海岸に堂々と停泊していた。憎たらしい事に今も砲撃を続けている。
米軍にとって、その戦艦は突然その場所に現れた様に感じられた。まるで魔法を使われたようなものだった
「我々の厳重な哨戒を掻い潜って敵戦艦が来られるはずはありません。つまり以前からこの場所に居たと思われます」
幕僚の一人が意見を述べた。
米軍は昨年9月頃から何度も沖縄を航空偵察し、その偵察結果に基づいて爆撃を行っている。爆撃目標はインフラ設備や軍事拠点だけでなく、庁舎や学校など防衛拠点になりそうな建物にまで及んでいた。
だから戦艦など絶対に見逃すはずがなかった。
三日前に沖縄を空襲した際にも、そこに戦艦がいたという報告は無かった。ただ以前には無かったコンクリート製と思われる建築物の存在が報告されていた。
当然、その建築物も爆撃し、破壊した事になっている。
「おそらく、この破壊した建造物は戦艦を隠すための擬装だったのでしょう。我々の確認が甘かったようです」
別の幕僚が今朝撮られた写真を示す。それを見る限り問題の建造物は激しく破壊されていた。
だがよくよく見れば飛び散った破片は只の木片で、その下に何か重厚な物体があることが見て取れる。
「つまり我々は、日本軍に一杯食わされたのです」
■浦添海岸 南西20キロ上空
TG58.1攻撃隊
ミッチャー中将は神風攻撃で損傷し後退したワスプを除く第58.1任務群のすべての空母(ホーネット、ベニントン、ベロー・ウッド、サン・ジャシント)に出撃を命じた。
総勢およそ150機の攻撃部隊が浦添の海岸に接近する。いつも通り敵迎撃機の姿は無い。
「あれか……」
TBMアベンジャー雷撃機の通信席から攻撃隊の指揮をとるコナード中佐が前方の海岸に黒い塊を見つけた。どうやらあれが問題の戦艦らしい。
彼は目標をじっくり確認しようと前方を覗き込んだ。その時そこに9つの巨大な火球が発生した。
「敵戦艦、発砲した!」
およそ20秒後、攻撃部隊の前方に白い煙の傘が開いた。それに触れた数機が白い煙を吐いて編隊から落伍していく。彼はその光景をフィリピンの海戦で目撃していた。
「リーダーより各機、編隊を開け!敵の対空砲弾だ!密集しているとやられるぞ!」
コナードの指示で攻撃部隊は間隔をあける。このため2度目の砲撃では2機が脱落しただけに留まった。
■戦艦武蔵 昼戦艦橋
「やはり三式弾は相手が散開してしまうと効果は低いですね……事前の射表が使えなくなるのも痛いです。副砲も当たる気配がありません」
撃墜できた敵機は5機ほどだろうか。越野砲術長が冷静に状況を分析する。彼我の距離と速度から主砲の対空射撃は2回が限度だった。
射撃方位盤が故障したままなので陸軍の観測を元に予め作成した射表に基づいて射撃を行っている。
精度自体は自前でやるよりむしろ高いようだが相手の動きの変化が速い場合は対応できない欠点があった。
「予想どおりではあるがね」
猪口は副砲の対空射撃もやめさせると、防御指揮官の工藤大佐を見た。
「工藤君、敵の爆撃開始とともに外の機銃は適時攻撃してよい。事前の方針を守る事だけ注意してくれ」
そして猪口は艦橋に居る全員に向かって言った。
「さて我々もそろそろ司令塔に入ろうか。これからキツクなるぞ」
去り際に猪口は敵編隊をもう一度睨んだ。口角が獣の様に吊り上がる。
「さあ、好きなだけ攻撃するがいい。こっちは痛くも痒くもない。もう沈むことはない。今度はそちらが己の無力さを思い知る番だ」
■戦艦武蔵 上空
TG58.1攻撃隊
敵の迎撃機は相変わらず姿を見せない。敵の対空砲火も沈黙している。このためコナードは攻撃前に敵戦艦を今一度じっくりと観察した。
その戦艦は海上に停止していた。いや海上ではない。よく見れば居るのは完全に陸上である。
ご丁寧なことに戦艦の海側には防波堤のようなものまで築かれている。その外には水深の浅い珊瑚礁の海が広がっている。
おそらく元は座礁着底した戦艦なのだろう。遠浅の海と防波堤で雷撃は不可能であるし、仮に行っても着底しているのでは効果は全く見込めない。
煙突の煙もほとんど見えず対空砲火も沈黙したままなので、既に深刻な損傷を負っているのかもしれない。ならばここで止めをさしてやるだけだ。
「リーダーより各機。あの状況では雷撃はできない。魚雷装備のVT(雷撃機部隊)は残念だが帰艦しろ。VF-45が護衛につけ。各VB(急降下爆撃機隊)と爆装のVTは攻撃開始。相手は固定目標だ。一発たりとも外すな!死にかけ野郎に引導を渡してやれ!」
コナード中佐の指示で攻撃隊は散開する。帰投していくアベンジャー雷撃機を見送りながら、彼は全ての雷撃機に1000ポンド爆弾を積んで来させれば良かったと後悔した。
■戦艦武蔵 周辺 機銃陣地
「目標、左45度爆撃機群!打ち方はじめ!」
艦の周辺に配置された機銃陣地が擬装網を取り払い射撃を開始した。
射撃指揮装置は接続されていないので目視照準ではあるが、敵機の撃墜を目的としていない。
空を飛ぶ航空機からの攻撃は自由なようで意外とそのルートが限定される。このため各機銃陣地は敵の攻撃を邪魔するような射線を形成するように配置され、射撃範囲も決められていた。
敵の攻撃を妨害するという目的においては、艦上に配置されていた時より効果的であった。
■TG58.1攻撃隊
急降下爆撃隊は小隊ごとに降下に移った。その時になって初めて、敵艦の周辺から対空射撃が開始された。
慌てて回避した事で爆撃の照準がずれる。その結果、多くの爆弾が命中することなく周辺に土煙をあげるにとどまった。だがそれでも投下される爆弾は多い。次々と敵戦艦の上に爆発が起こる。
その様子をコナードは冷静に観察していた。
「リーダーより各機、敵の抵抗は微弱だ。VTは落ち着いて水平爆撃しろ。VF(戦闘機隊)は周辺の機銃陣地を銃撃して潰せ」
■戦艦武蔵 司令塔
「ハハハ……わかっちゃいたが、これは手荒くキツイな」
猪口が壊れたように笑った。
次々と爆弾が命中し爆発が艦を揺さぶる。厚さ500ミリの装甲で覆われた司令塔の中は安全だが、周囲からは何かが破壊される音がひっきりなしに聞こえてくる。
「艦首甲板に被弾」
「右舷射出機に被弾」
「左舷中央に被弾2!第二兵員室に火災発生!」
次々と損害報告が入ってくる。そして司令塔の上の方からも轟音が聞こえた。
「どうやら艦橋にも命中弾があったらしいね。上に居たら今頃みんなお陀仏だったな」
「ハハハ……そのようですね」
加藤副長がひきつった笑いで答える。
その後さらに数分間。敵の爆撃は続いた。
■TG58.1攻撃隊
数分後、すべての攻撃が終了した。敵戦艦には火災が発生していた。周囲も爆煙で覆われている。
コナードは煙が薄れるのを待って戦果を確認した。
「少なくとも10発の命中を確認。敵艦の甲板に破口。火災が発生している」
今回の攻撃では合計30機が投弾している。つまりその3分の1が命中した事になる。
静止目標に対しての成績としてはあまり良ろしくはない。デブリーフィングではこってり絞る必要があるだろう。だが結果をみれば十分な効果はあったようにコナードには見えた。
「敵戦艦の破壊を確認」
彼は司令部に攻撃成功を報告すると、攻撃部隊に帰投を命じた。
■第58任務部隊
旗艦 空母バンカーヒル
「どうやら無事、破壊できたようですね」
攻撃隊からの報告を受け、幕僚の一人が安堵のため息をついた。これで上陸作戦を再開できる。
「安易に判断するな!すでに我々は一度失敗している。もう二度と失敗は許されんのだぞ。それを肝に命じろ」
幕僚達をミッチャー中将が怒鳴りつける。そして念を入れて再攻撃を命じた。
今回は命中率を考慮して急降下爆撃のみの編成であったが、その代わりに前回の倍の数を送り出していた。
さすがにこれで大丈夫と確信したミッチャーは、スプルーアンスに目標破壊成功の報告を送った。
これが安易な判断であった事を彼は後に激しく後悔する事となる。
■戦艦武蔵
「本艦に命中した爆弾は合計で24発です。主砲塔にも合計4発の命中弾がありましたが砲身・砲塔ともに被害は有りません。装甲区画で上甲板を抜かれたの3カ所のみです。中甲板以下にはほとんど被害はでておりません」
加藤副長が損害集計を報告する。
戦艦武蔵は二度の空襲を見事に耐え抜いていた。
「まったく、シブヤン海では余程に運が悪かったようだね」
猪口が苦笑する。
あの時はわずか一発の爆弾で大損害を受けてしまった事を彼は思い出していた。
あれが無ければもっと戦えただろうが、その代わりに今頃はシブヤン海の底だったかもしれない。運とは分からないものだと猪口はつくづく思った。
「はい、誠にそのようですね。それと射撃指揮所と第二副砲が破損。こちらはもう使えないでしょう。兵員は敵の爆撃前に艦内に退避させていたため死傷者はいません。至近弾が海岸の連絡通路上にも落ちましたがこちらも損害なし。今までどおり第32軍と連絡、通信ともに可能です」
傍目には武蔵は廃艦同然となっていた。
艦橋上部は大きく抉れ、マストは崩れ落ち、艦尾の射出機とクレーンは奇妙に曲がりくねったオブジェと化している。甲板に施されたコンクリート装甲も砕け散り、一部の穴からは今も煙が立ち上っている。
これ程の被害にも関わらず、艦内に死傷者はほとんど無かった。
甲板の破口に見える部分もほとんどはコンクリート装甲と甲板材が吹き飛ばされただけである。その下の装甲は無事だった。
外に展開していた機銃分隊には敵戦闘機の機銃掃射で被害も出ていたが、塹壕と土嚢で保護されていたため、想定よりは死傷者は少なく破壊された機銃もない。
そして肝心の主砲はいずれも無傷だった。
すべての主砲塔が被弾していたが、いずれも爆弾を弾き返している。受けた被害は砲塔内部の照明が落下したくらいである。
砲身付近の甲板にも被弾したが、爆弾の爆風や弾片程度で46センチ砲の発射に耐える砲身がどうにかなる訳もない。
つまり、現状はまさに猪口の計画どおりという訳だった。
「まあ想定の範囲内だね。主砲発射の妨げにならない限り上辺の瓦礫撤去も修理も必要ないよ。このまま死んだふりして敵の油断を誘おうか」
そう言って猪口はいたずらっぽく笑った。
【後書き】
もう沈まない、主砲以外は要らないので、被弾上等、バッチコーイです。
史実でもソ連戦艦ペトロパブロフスクの様に着底した戦艦というものは非常にしぶとい、敵からみれば厄介極まりないものになります。
作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想をお願いいたします。
■1945年3月26日 沖縄西方
第58任務部隊
旗艦 空母バンカーヒル
「なんたる失態だ!」
普段は温厚なミッチャー中将が珍しく声を荒げた。
慶良間の第77歩兵師団と第54.2任務隊を砲撃した戦艦はすぐに見つかった。それは沖縄南部、浦添の海岸に堂々と停泊していた。憎たらしい事に今も砲撃を続けている。
米軍にとって、その戦艦は突然その場所に現れた様に感じられた。まるで魔法を使われたようなものだった
「我々の厳重な哨戒を掻い潜って敵戦艦が来られるはずはありません。つまり以前からこの場所に居たと思われます」
幕僚の一人が意見を述べた。
米軍は昨年9月頃から何度も沖縄を航空偵察し、その偵察結果に基づいて爆撃を行っている。爆撃目標はインフラ設備や軍事拠点だけでなく、庁舎や学校など防衛拠点になりそうな建物にまで及んでいた。
だから戦艦など絶対に見逃すはずがなかった。
三日前に沖縄を空襲した際にも、そこに戦艦がいたという報告は無かった。ただ以前には無かったコンクリート製と思われる建築物の存在が報告されていた。
当然、その建築物も爆撃し、破壊した事になっている。
「おそらく、この破壊した建造物は戦艦を隠すための擬装だったのでしょう。我々の確認が甘かったようです」
別の幕僚が今朝撮られた写真を示す。それを見る限り問題の建造物は激しく破壊されていた。
だがよくよく見れば飛び散った破片は只の木片で、その下に何か重厚な物体があることが見て取れる。
「つまり我々は、日本軍に一杯食わされたのです」
■浦添海岸 南西20キロ上空
TG58.1攻撃隊
ミッチャー中将は神風攻撃で損傷し後退したワスプを除く第58.1任務群のすべての空母(ホーネット、ベニントン、ベロー・ウッド、サン・ジャシント)に出撃を命じた。
総勢およそ150機の攻撃部隊が浦添の海岸に接近する。いつも通り敵迎撃機の姿は無い。
「あれか……」
TBMアベンジャー雷撃機の通信席から攻撃隊の指揮をとるコナード中佐が前方の海岸に黒い塊を見つけた。どうやらあれが問題の戦艦らしい。
彼は目標をじっくり確認しようと前方を覗き込んだ。その時そこに9つの巨大な火球が発生した。
「敵戦艦、発砲した!」
およそ20秒後、攻撃部隊の前方に白い煙の傘が開いた。それに触れた数機が白い煙を吐いて編隊から落伍していく。彼はその光景をフィリピンの海戦で目撃していた。
「リーダーより各機、編隊を開け!敵の対空砲弾だ!密集しているとやられるぞ!」
コナードの指示で攻撃部隊は間隔をあける。このため2度目の砲撃では2機が脱落しただけに留まった。
■戦艦武蔵 昼戦艦橋
「やはり三式弾は相手が散開してしまうと効果は低いですね……事前の射表が使えなくなるのも痛いです。副砲も当たる気配がありません」
撃墜できた敵機は5機ほどだろうか。越野砲術長が冷静に状況を分析する。彼我の距離と速度から主砲の対空射撃は2回が限度だった。
射撃方位盤が故障したままなので陸軍の観測を元に予め作成した射表に基づいて射撃を行っている。
精度自体は自前でやるよりむしろ高いようだが相手の動きの変化が速い場合は対応できない欠点があった。
「予想どおりではあるがね」
猪口は副砲の対空射撃もやめさせると、防御指揮官の工藤大佐を見た。
「工藤君、敵の爆撃開始とともに外の機銃は適時攻撃してよい。事前の方針を守る事だけ注意してくれ」
そして猪口は艦橋に居る全員に向かって言った。
「さて我々もそろそろ司令塔に入ろうか。これからキツクなるぞ」
去り際に猪口は敵編隊をもう一度睨んだ。口角が獣の様に吊り上がる。
「さあ、好きなだけ攻撃するがいい。こっちは痛くも痒くもない。もう沈むことはない。今度はそちらが己の無力さを思い知る番だ」
■戦艦武蔵 上空
TG58.1攻撃隊
敵の迎撃機は相変わらず姿を見せない。敵の対空砲火も沈黙している。このためコナードは攻撃前に敵戦艦を今一度じっくりと観察した。
その戦艦は海上に停止していた。いや海上ではない。よく見れば居るのは完全に陸上である。
ご丁寧なことに戦艦の海側には防波堤のようなものまで築かれている。その外には水深の浅い珊瑚礁の海が広がっている。
おそらく元は座礁着底した戦艦なのだろう。遠浅の海と防波堤で雷撃は不可能であるし、仮に行っても着底しているのでは効果は全く見込めない。
煙突の煙もほとんど見えず対空砲火も沈黙したままなので、既に深刻な損傷を負っているのかもしれない。ならばここで止めをさしてやるだけだ。
「リーダーより各機。あの状況では雷撃はできない。魚雷装備のVT(雷撃機部隊)は残念だが帰艦しろ。VF-45が護衛につけ。各VB(急降下爆撃機隊)と爆装のVTは攻撃開始。相手は固定目標だ。一発たりとも外すな!死にかけ野郎に引導を渡してやれ!」
コナード中佐の指示で攻撃隊は散開する。帰投していくアベンジャー雷撃機を見送りながら、彼は全ての雷撃機に1000ポンド爆弾を積んで来させれば良かったと後悔した。
■戦艦武蔵 周辺 機銃陣地
「目標、左45度爆撃機群!打ち方はじめ!」
艦の周辺に配置された機銃陣地が擬装網を取り払い射撃を開始した。
射撃指揮装置は接続されていないので目視照準ではあるが、敵機の撃墜を目的としていない。
空を飛ぶ航空機からの攻撃は自由なようで意外とそのルートが限定される。このため各機銃陣地は敵の攻撃を邪魔するような射線を形成するように配置され、射撃範囲も決められていた。
敵の攻撃を妨害するという目的においては、艦上に配置されていた時より効果的であった。
■TG58.1攻撃隊
急降下爆撃隊は小隊ごとに降下に移った。その時になって初めて、敵艦の周辺から対空射撃が開始された。
慌てて回避した事で爆撃の照準がずれる。その結果、多くの爆弾が命中することなく周辺に土煙をあげるにとどまった。だがそれでも投下される爆弾は多い。次々と敵戦艦の上に爆発が起こる。
その様子をコナードは冷静に観察していた。
「リーダーより各機、敵の抵抗は微弱だ。VTは落ち着いて水平爆撃しろ。VF(戦闘機隊)は周辺の機銃陣地を銃撃して潰せ」
■戦艦武蔵 司令塔
「ハハハ……わかっちゃいたが、これは手荒くキツイな」
猪口が壊れたように笑った。
次々と爆弾が命中し爆発が艦を揺さぶる。厚さ500ミリの装甲で覆われた司令塔の中は安全だが、周囲からは何かが破壊される音がひっきりなしに聞こえてくる。
「艦首甲板に被弾」
「右舷射出機に被弾」
「左舷中央に被弾2!第二兵員室に火災発生!」
次々と損害報告が入ってくる。そして司令塔の上の方からも轟音が聞こえた。
「どうやら艦橋にも命中弾があったらしいね。上に居たら今頃みんなお陀仏だったな」
「ハハハ……そのようですね」
加藤副長がひきつった笑いで答える。
その後さらに数分間。敵の爆撃は続いた。
■TG58.1攻撃隊
数分後、すべての攻撃が終了した。敵戦艦には火災が発生していた。周囲も爆煙で覆われている。
コナードは煙が薄れるのを待って戦果を確認した。
「少なくとも10発の命中を確認。敵艦の甲板に破口。火災が発生している」
今回の攻撃では合計30機が投弾している。つまりその3分の1が命中した事になる。
静止目標に対しての成績としてはあまり良ろしくはない。デブリーフィングではこってり絞る必要があるだろう。だが結果をみれば十分な効果はあったようにコナードには見えた。
「敵戦艦の破壊を確認」
彼は司令部に攻撃成功を報告すると、攻撃部隊に帰投を命じた。
■第58任務部隊
旗艦 空母バンカーヒル
「どうやら無事、破壊できたようですね」
攻撃隊からの報告を受け、幕僚の一人が安堵のため息をついた。これで上陸作戦を再開できる。
「安易に判断するな!すでに我々は一度失敗している。もう二度と失敗は許されんのだぞ。それを肝に命じろ」
幕僚達をミッチャー中将が怒鳴りつける。そして念を入れて再攻撃を命じた。
今回は命中率を考慮して急降下爆撃のみの編成であったが、その代わりに前回の倍の数を送り出していた。
さすがにこれで大丈夫と確信したミッチャーは、スプルーアンスに目標破壊成功の報告を送った。
これが安易な判断であった事を彼は後に激しく後悔する事となる。
■戦艦武蔵
「本艦に命中した爆弾は合計で24発です。主砲塔にも合計4発の命中弾がありましたが砲身・砲塔ともに被害は有りません。装甲区画で上甲板を抜かれたの3カ所のみです。中甲板以下にはほとんど被害はでておりません」
加藤副長が損害集計を報告する。
戦艦武蔵は二度の空襲を見事に耐え抜いていた。
「まったく、シブヤン海では余程に運が悪かったようだね」
猪口が苦笑する。
あの時はわずか一発の爆弾で大損害を受けてしまった事を彼は思い出していた。
あれが無ければもっと戦えただろうが、その代わりに今頃はシブヤン海の底だったかもしれない。運とは分からないものだと猪口はつくづく思った。
「はい、誠にそのようですね。それと射撃指揮所と第二副砲が破損。こちらはもう使えないでしょう。兵員は敵の爆撃前に艦内に退避させていたため死傷者はいません。至近弾が海岸の連絡通路上にも落ちましたがこちらも損害なし。今までどおり第32軍と連絡、通信ともに可能です」
傍目には武蔵は廃艦同然となっていた。
艦橋上部は大きく抉れ、マストは崩れ落ち、艦尾の射出機とクレーンは奇妙に曲がりくねったオブジェと化している。甲板に施されたコンクリート装甲も砕け散り、一部の穴からは今も煙が立ち上っている。
これ程の被害にも関わらず、艦内に死傷者はほとんど無かった。
甲板の破口に見える部分もほとんどはコンクリート装甲と甲板材が吹き飛ばされただけである。その下の装甲は無事だった。
外に展開していた機銃分隊には敵戦闘機の機銃掃射で被害も出ていたが、塹壕と土嚢で保護されていたため、想定よりは死傷者は少なく破壊された機銃もない。
そして肝心の主砲はいずれも無傷だった。
すべての主砲塔が被弾していたが、いずれも爆弾を弾き返している。受けた被害は砲塔内部の照明が落下したくらいである。
砲身付近の甲板にも被弾したが、爆弾の爆風や弾片程度で46センチ砲の発射に耐える砲身がどうにかなる訳もない。
つまり、現状はまさに猪口の計画どおりという訳だった。
「まあ想定の範囲内だね。主砲発射の妨げにならない限り上辺の瓦礫撤去も修理も必要ないよ。このまま死んだふりして敵の油断を誘おうか」
そう言って猪口はいたずらっぽく笑った。
【後書き】
もう沈まない、主砲以外は要らないので、被弾上等、バッチコーイです。
史実でもソ連戦艦ペトロパブロフスクの様に着底した戦艦というものは非常にしぶとい、敵からみれば厄介極まりないものになります。
作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想をお願いいたします。
33
あなたにおすすめの小説
転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!
克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。
転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。
征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~
蒼 飛雲
歴史・時代
ワシントン軍縮条約、さらにそれに続くロンドン軍縮条約によって帝国海軍は米英に対して砲戦力ならびに水雷戦力において、決定的とも言える劣勢に立たされてしまう。
その差を補うため、帝国海軍は航空戦力にその活路を見出す。
そして、昭和一六年一二月八日。
日本は米英蘭に対して宣戦を布告。
未曾有の国難を救うべく、帝国海軍の艨艟たちは抜錨。
多数の艦上機を搭載した新鋭空母群もまた、強大な敵に立ち向かっていく。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
九九式双発艦上攻撃機
ypaaaaaaa
歴史・時代
欧米列強に比べて生産量に劣る日本にとって、爆撃機と雷撃機の統合は至上命題であった。だが、これを実現するためにはエンジンの馬力が足らない。そこで海軍航空技術廠は”双発の”艦上攻撃機の開発を開始。これをものにしして、日本海軍は太平洋に荒波を疾走していく。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる