10 / 16
第十話 戦艦大和 怪獣を撃滅す
しおりを挟む
■昭和十七年(1942年)12月 横浜沖
東京湾に侵入した12体の怪獣の群れは、針路を西に変え横浜に向かっていた。東京湾内で待機していた三川中将の指揮する第一戦隊の戦艦4隻(大和・武蔵・長門・陸奥)は、その上陸を阻止しようと横浜港の前面に布陣した。
なお、第二戦隊(伊勢・日向に予備として重巡部隊を編入)および第三戦隊(金剛型4隻)は、それぞれ中部方面と九州方面の防衛に就いている。関東の安全は第一戦隊の働きにかかっていた。
「東京湾要塞の攻撃は効果なしとのことです。怪獣の総数は変わらず12体。内訳は丙種8体、乙種2体、甲種2体です」
三川とともに第三戦隊から移ってきた参謀の有田中佐が状況を報告する。陸軍はサルベージした扶桑と山城の主砲を要塞砲に転用しようとしていたが、残念ながらまだ戦力化されていない。東京湾要塞の要塞砲は未だ古い中口径砲のままだった。
ちなみに第一戦隊は怪獣と直接戦闘を行うことから連合艦隊司令部直卒から外されている。このため連合艦隊司令部自体も陸上に移っており、長官以下の司令部要員は大和に乗っていない。
「PDOからの情報では、南太平洋で発見された他の3群は、予想どおり豪州、ハワイ、そして米国本土へ向かっているとのことです。これを受け第二、第三戦隊への警戒は解除されました」
PDO(太平洋防衛機構:Pacific Defense Organization)とは、怪獣の脅威に立ち向かうため、日米英が中心となり太平洋沿岸に関係する主だった国家で構成された組織である。現在はまだ情報交換が主目的であり、実質的な戦力も日米英の三国しかないが、将来的にはPDOを通して各国戦力を有機的に運用することも検討されていた。
「では我々は目の前の怪獣だけを処理すれば良いだけだな」
「はい、その通りです」
三川の問いに有田が頷く。
「艦長、大和は今回が初陣となるが、どうだ、やれそうか?」
次いで三川は松田少将に声をかけた。大和の就役と第一戦隊への編入とともに、松田は大和の艦長に任命されていた。
「はい。問題ありません。艦の状態および練度に問題は有りません。しかし……」
「しかし?」
「はい、申し訳ありません。小官には2点不安があります。一つはおそらく戦闘が夜となること、もう一つは大和型の回頭性能です」
今回は怪獣との会敵時間は深夜になると予想されていた。怪獣との夜間戦闘は今回が初めてとなる。
「大佐、たしかに夜間のため航空機は使用できません。しかし各艦の探照灯に加え、陸軍も探照灯部隊を海岸に展開しています。戦闘が想定される海域では十分な視界は得られるはずですが?」
松田の一つ目の不安に有田が反論した。
「たしかに怪獣が海面上に体を出しているならば、探照灯で問題ないでしょう。しかし最近では怪獣共は潜って身を隠す事が多くなったと報告されています。夜間に潜られると探照灯では発見は困難になります」
「つまり接近される恐れが高いと?その場合、大和型の回頭性が問題になると言う訳だな?」
三川は松田の懸念を理解した。松田が黙って頷く。
大和型はその艦容の割に非常に小回りが利く戦艦である。その旋回半径はおよそ600メートル、ずっと小さい金剛型の四分の三ほどしかない。しかし応答性は最悪だった。
転舵をしても艦首が動き始めるまで100秒ほども掛かるのである。つまり回頭する遥か手前から舵を切らないと大和型は思う様に動けないこと意味していた。これでは近距離で怪獣と戦闘になった場合、怪獣を避けきれず組み付かれる恐れがあった。
艦政本部もこの問題を認識しており、3番艦以降は艦首にも舵を設置するとともに主舵と副舵の面積も増やされる事になっている。だが残念ながら就役したばかりの大和と武蔵はこの改造をまだ受けていなかった。
「ふむ……ならば対策はあるか?」
三川は松田と有田ら参謀に尋ねた。
「潜った怪獣に対しては見張りを厳にするしかないかと。また、水深が浅いですから水面になんらかの変化が出る可能性があります。それを見逃さない様にすれば、ある程度は接近を防げるかもしれません」
「それでも組み付かれた場合は?」
「本艦の排水量ならば、片舷に相当のしかかられなければ横転する事は無いと思われます。それでも念を入れて、あらかじめ注水して重心を少しでも下げておくと良いかもしれません」
「たしかに気休め程度ですが多少の効果はあるでしょう。これまで戦艦が怪獣に喫水線下を破られた例はありません。浸水の恐れは少ないので注水しても問題ないでしょう」
参謀らから意見が出る。
「よし。それで行こう。見張りを増やして海面の変化に目を配れ。艦長、両舷に戦闘に支障がない程度の注水を。有田君、他の艦にも同様の指示をだしてくれ」
三川は彼らの意見を採用し、可能な限りの準備を整えて怪獣に立ち向かう事とした。
深夜12時を回った所で、ついに横浜沖に怪獣が姿を現した。多数の探照灯で、その姿が海上に照らし出される。
「第二小隊(長門・陸奥)は丙種を狙え!第一小隊(大和・武蔵)は乙種と甲種を相手取る!」
夜間ということもあり、やや遠めの8000メートルで三川は攻撃を指示した。
既に狙いを定めていた各艦が一斉に発砲する。目が眩むような巨大な火球が辺りを照らし、強烈な衝撃波は海面を窪ませた。その光景は戦艦という兵器が最強の暴力装置であることを改めて見る者に印象付けた。
初撃という事もあり、怪獣は避けることもなくその攻撃をくらった。一撃で2体の丙種と2体の乙種が青い血しぶきとともに弾け飛ぶ。
だがそこまでだった。すぐに怪獣らは海に潜り姿をくらませる。探照灯が探し回るが、水面の反射で水中の様子を伺うことはできない。だがよく見ると海面のわずかな盛り上がりが8つ、徐々に三川の艦隊に迫ってくるのが見えた。
「海面に異常あり!2つが波が向かってきます!距離6000!速い!」
「同じく6つの波が第二小隊に向かっています!20ノット以上!」
見張りの報告が入る。予想どおり残った怪獣は海に潜って身を隠した。だが海面の動きでなんとか動きを捉える事には成功していた。
「武蔵は第二小隊を援護!本艦はこちらに向かう2体を相手する!各艦、怪獣が姿を現し次第、攻撃せよ!」
三川の命令を受け、各艦は怪獣の動きにあわせてそれぞれ動きはじめた。
途中で息継ぎでもしたのだろうか。それとも周囲の様子を探るためか、不用意に頭を海面に出した丙種怪獣がいた。すかさず長門と陸奥が発砲しそれを仕留める。これで残りは7体となった。だがその中には恐るべき甲種怪獣が2体含まれている。油断はできない。
それ以降は怪獣らは一切海面に姿を現さず接近してきた。各艦に緊張が走る。そしてわずか数百メートル手前で怪獣は一斉に海面に姿を現した。
「撃て!」
各艦が再び一斉に発砲する。もう目を瞑っても外す距離ではない。青い血しぶきとともに丙種4体が穴だらけになり吹き飛ぶ。残り3体。
だが再装填までの間に残りの怪獣が素早く接近してきた。27ノットを発揮可能な大和と武蔵は一旦遠ざかる事に成功したが、長門と陸奥は脚が遅い。
「しまった!接近された場合は交互射撃にすべきだったか……」
三川の背後で砲術参謀が悔しそうにつぶやく。そしてついに陸奥が2匹の怪獣、甲種と丙種に取りつかれてしまった。
陸奥は捩るように転舵するが振り払うことができない。そしてあまりに近すぎて自らの主砲を撃つこともできない。陸奥の船体に当たる危険を無視して、僚艦の長門が発砲した。その射撃は見事に丙種怪獣を捉え陸奥から引き離す事に成功する。
だが、その間に巨大な甲種怪獣が陸奥に完全に圧し掛かってしまった。怪獣は陸奥の煙突と艦橋をつかむと反動をつけて引き倒す。艦橋がへし折れ煙突が根元から引きちぎられる。復元限界を超えた陸奥は完全に横倒しにされてしまった。
そして煙突のあった場所に空いた大穴から一気に海水が流入した。前進一杯発揮のため緊急圧力に達していたボイラーは、流入した海水に触れ盛大に水蒸気爆発を起こした。艦中央部に大穴の空いた陸奥は大破着底し、日本は貴重な16インチ砲戦艦の1隻を失ってしまった。
「殺れ!」
勝利の雄たけびを上げる甲種怪獣を睨みつけ三川が叫ぶ。すかさず大和と武蔵が発砲する。至近距離で多数の18インチ砲弾を浴びた甲種怪獣は、一瞬で上半身を粉微塵にされ、残った下半身だけがゆっくりと海面下に沈んでいった。
その間に残った最後の甲種怪獣が武蔵に接近してきた。武蔵も回避しようとするが艦長が舵輪を回しても艦は反応しない。松田の懸念した回頭性能の悪さがここに来て表面化していた。
そしてとうとう武蔵に甲種怪獣がとりついた。だがさすがに巨大な甲種怪獣でも7万トンの戦艦をひっくり返す事はできない。事前の注水も多少は効果があったのだろう。
怪獣はイラついた様子で武蔵を殴り、頭突きを食らわせる。武蔵の艦上構造物は次々と破壊されていくが、分厚い装甲で覆われた船体はびくともしない。だが武蔵の方も怪獣が近すぎて発砲する事ができない。
「砲術長、できるか?」
「任せてください。長門にできて本艦にできない事はありません。武蔵には傷ひとつ付けませんよ」
松田の問いに何をと問い返す事もなく砲術長が答える。
「撃て!」
放たれた砲弾は狙い違わず甲種怪獣の頭部を吹き飛ばした。力を失った腕が武蔵の舷側から離れ、体がズルズルと海に滑り落ちていった。
こうして日本は怪獣襲来の第二波を戦艦陸奥の喪失と引き換えに防ぐことに成功した。日本が得た教訓は、やはり大和型以上でないと甲種怪獣との近接戦闘は危険なこと、そして大和と武蔵の回頭性能の悪さであった。
なお、豪州と米国に向かった怪獣の群れも英米の戦艦により撃退されている。だが18インチ砲戦艦を持たない両国は、この戦闘で少なくない戦艦を失っていた。これにより両国はモンタナ級、守護聖人級の建造をさらに加速させるとともに、代替となる兵器の開発にも注力していく事となる。
【後書き】
10話目にして、ようやく大和が登場。陸奥はお約束。
作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。
東京湾に侵入した12体の怪獣の群れは、針路を西に変え横浜に向かっていた。東京湾内で待機していた三川中将の指揮する第一戦隊の戦艦4隻(大和・武蔵・長門・陸奥)は、その上陸を阻止しようと横浜港の前面に布陣した。
なお、第二戦隊(伊勢・日向に予備として重巡部隊を編入)および第三戦隊(金剛型4隻)は、それぞれ中部方面と九州方面の防衛に就いている。関東の安全は第一戦隊の働きにかかっていた。
「東京湾要塞の攻撃は効果なしとのことです。怪獣の総数は変わらず12体。内訳は丙種8体、乙種2体、甲種2体です」
三川とともに第三戦隊から移ってきた参謀の有田中佐が状況を報告する。陸軍はサルベージした扶桑と山城の主砲を要塞砲に転用しようとしていたが、残念ながらまだ戦力化されていない。東京湾要塞の要塞砲は未だ古い中口径砲のままだった。
ちなみに第一戦隊は怪獣と直接戦闘を行うことから連合艦隊司令部直卒から外されている。このため連合艦隊司令部自体も陸上に移っており、長官以下の司令部要員は大和に乗っていない。
「PDOからの情報では、南太平洋で発見された他の3群は、予想どおり豪州、ハワイ、そして米国本土へ向かっているとのことです。これを受け第二、第三戦隊への警戒は解除されました」
PDO(太平洋防衛機構:Pacific Defense Organization)とは、怪獣の脅威に立ち向かうため、日米英が中心となり太平洋沿岸に関係する主だった国家で構成された組織である。現在はまだ情報交換が主目的であり、実質的な戦力も日米英の三国しかないが、将来的にはPDOを通して各国戦力を有機的に運用することも検討されていた。
「では我々は目の前の怪獣だけを処理すれば良いだけだな」
「はい、その通りです」
三川の問いに有田が頷く。
「艦長、大和は今回が初陣となるが、どうだ、やれそうか?」
次いで三川は松田少将に声をかけた。大和の就役と第一戦隊への編入とともに、松田は大和の艦長に任命されていた。
「はい。問題ありません。艦の状態および練度に問題は有りません。しかし……」
「しかし?」
「はい、申し訳ありません。小官には2点不安があります。一つはおそらく戦闘が夜となること、もう一つは大和型の回頭性能です」
今回は怪獣との会敵時間は深夜になると予想されていた。怪獣との夜間戦闘は今回が初めてとなる。
「大佐、たしかに夜間のため航空機は使用できません。しかし各艦の探照灯に加え、陸軍も探照灯部隊を海岸に展開しています。戦闘が想定される海域では十分な視界は得られるはずですが?」
松田の一つ目の不安に有田が反論した。
「たしかに怪獣が海面上に体を出しているならば、探照灯で問題ないでしょう。しかし最近では怪獣共は潜って身を隠す事が多くなったと報告されています。夜間に潜られると探照灯では発見は困難になります」
「つまり接近される恐れが高いと?その場合、大和型の回頭性が問題になると言う訳だな?」
三川は松田の懸念を理解した。松田が黙って頷く。
大和型はその艦容の割に非常に小回りが利く戦艦である。その旋回半径はおよそ600メートル、ずっと小さい金剛型の四分の三ほどしかない。しかし応答性は最悪だった。
転舵をしても艦首が動き始めるまで100秒ほども掛かるのである。つまり回頭する遥か手前から舵を切らないと大和型は思う様に動けないこと意味していた。これでは近距離で怪獣と戦闘になった場合、怪獣を避けきれず組み付かれる恐れがあった。
艦政本部もこの問題を認識しており、3番艦以降は艦首にも舵を設置するとともに主舵と副舵の面積も増やされる事になっている。だが残念ながら就役したばかりの大和と武蔵はこの改造をまだ受けていなかった。
「ふむ……ならば対策はあるか?」
三川は松田と有田ら参謀に尋ねた。
「潜った怪獣に対しては見張りを厳にするしかないかと。また、水深が浅いですから水面になんらかの変化が出る可能性があります。それを見逃さない様にすれば、ある程度は接近を防げるかもしれません」
「それでも組み付かれた場合は?」
「本艦の排水量ならば、片舷に相当のしかかられなければ横転する事は無いと思われます。それでも念を入れて、あらかじめ注水して重心を少しでも下げておくと良いかもしれません」
「たしかに気休め程度ですが多少の効果はあるでしょう。これまで戦艦が怪獣に喫水線下を破られた例はありません。浸水の恐れは少ないので注水しても問題ないでしょう」
参謀らから意見が出る。
「よし。それで行こう。見張りを増やして海面の変化に目を配れ。艦長、両舷に戦闘に支障がない程度の注水を。有田君、他の艦にも同様の指示をだしてくれ」
三川は彼らの意見を採用し、可能な限りの準備を整えて怪獣に立ち向かう事とした。
深夜12時を回った所で、ついに横浜沖に怪獣が姿を現した。多数の探照灯で、その姿が海上に照らし出される。
「第二小隊(長門・陸奥)は丙種を狙え!第一小隊(大和・武蔵)は乙種と甲種を相手取る!」
夜間ということもあり、やや遠めの8000メートルで三川は攻撃を指示した。
既に狙いを定めていた各艦が一斉に発砲する。目が眩むような巨大な火球が辺りを照らし、強烈な衝撃波は海面を窪ませた。その光景は戦艦という兵器が最強の暴力装置であることを改めて見る者に印象付けた。
初撃という事もあり、怪獣は避けることもなくその攻撃をくらった。一撃で2体の丙種と2体の乙種が青い血しぶきとともに弾け飛ぶ。
だがそこまでだった。すぐに怪獣らは海に潜り姿をくらませる。探照灯が探し回るが、水面の反射で水中の様子を伺うことはできない。だがよく見ると海面のわずかな盛り上がりが8つ、徐々に三川の艦隊に迫ってくるのが見えた。
「海面に異常あり!2つが波が向かってきます!距離6000!速い!」
「同じく6つの波が第二小隊に向かっています!20ノット以上!」
見張りの報告が入る。予想どおり残った怪獣は海に潜って身を隠した。だが海面の動きでなんとか動きを捉える事には成功していた。
「武蔵は第二小隊を援護!本艦はこちらに向かう2体を相手する!各艦、怪獣が姿を現し次第、攻撃せよ!」
三川の命令を受け、各艦は怪獣の動きにあわせてそれぞれ動きはじめた。
途中で息継ぎでもしたのだろうか。それとも周囲の様子を探るためか、不用意に頭を海面に出した丙種怪獣がいた。すかさず長門と陸奥が発砲しそれを仕留める。これで残りは7体となった。だがその中には恐るべき甲種怪獣が2体含まれている。油断はできない。
それ以降は怪獣らは一切海面に姿を現さず接近してきた。各艦に緊張が走る。そしてわずか数百メートル手前で怪獣は一斉に海面に姿を現した。
「撃て!」
各艦が再び一斉に発砲する。もう目を瞑っても外す距離ではない。青い血しぶきとともに丙種4体が穴だらけになり吹き飛ぶ。残り3体。
だが再装填までの間に残りの怪獣が素早く接近してきた。27ノットを発揮可能な大和と武蔵は一旦遠ざかる事に成功したが、長門と陸奥は脚が遅い。
「しまった!接近された場合は交互射撃にすべきだったか……」
三川の背後で砲術参謀が悔しそうにつぶやく。そしてついに陸奥が2匹の怪獣、甲種と丙種に取りつかれてしまった。
陸奥は捩るように転舵するが振り払うことができない。そしてあまりに近すぎて自らの主砲を撃つこともできない。陸奥の船体に当たる危険を無視して、僚艦の長門が発砲した。その射撃は見事に丙種怪獣を捉え陸奥から引き離す事に成功する。
だが、その間に巨大な甲種怪獣が陸奥に完全に圧し掛かってしまった。怪獣は陸奥の煙突と艦橋をつかむと反動をつけて引き倒す。艦橋がへし折れ煙突が根元から引きちぎられる。復元限界を超えた陸奥は完全に横倒しにされてしまった。
そして煙突のあった場所に空いた大穴から一気に海水が流入した。前進一杯発揮のため緊急圧力に達していたボイラーは、流入した海水に触れ盛大に水蒸気爆発を起こした。艦中央部に大穴の空いた陸奥は大破着底し、日本は貴重な16インチ砲戦艦の1隻を失ってしまった。
「殺れ!」
勝利の雄たけびを上げる甲種怪獣を睨みつけ三川が叫ぶ。すかさず大和と武蔵が発砲する。至近距離で多数の18インチ砲弾を浴びた甲種怪獣は、一瞬で上半身を粉微塵にされ、残った下半身だけがゆっくりと海面下に沈んでいった。
その間に残った最後の甲種怪獣が武蔵に接近してきた。武蔵も回避しようとするが艦長が舵輪を回しても艦は反応しない。松田の懸念した回頭性能の悪さがここに来て表面化していた。
そしてとうとう武蔵に甲種怪獣がとりついた。だがさすがに巨大な甲種怪獣でも7万トンの戦艦をひっくり返す事はできない。事前の注水も多少は効果があったのだろう。
怪獣はイラついた様子で武蔵を殴り、頭突きを食らわせる。武蔵の艦上構造物は次々と破壊されていくが、分厚い装甲で覆われた船体はびくともしない。だが武蔵の方も怪獣が近すぎて発砲する事ができない。
「砲術長、できるか?」
「任せてください。長門にできて本艦にできない事はありません。武蔵には傷ひとつ付けませんよ」
松田の問いに何をと問い返す事もなく砲術長が答える。
「撃て!」
放たれた砲弾は狙い違わず甲種怪獣の頭部を吹き飛ばした。力を失った腕が武蔵の舷側から離れ、体がズルズルと海に滑り落ちていった。
こうして日本は怪獣襲来の第二波を戦艦陸奥の喪失と引き換えに防ぐことに成功した。日本が得た教訓は、やはり大和型以上でないと甲種怪獣との近接戦闘は危険なこと、そして大和と武蔵の回頭性能の悪さであった。
なお、豪州と米国に向かった怪獣の群れも英米の戦艦により撃退されている。だが18インチ砲戦艦を持たない両国は、この戦闘で少なくない戦艦を失っていた。これにより両国はモンタナ級、守護聖人級の建造をさらに加速させるとともに、代替となる兵器の開発にも注力していく事となる。
【後書き】
10話目にして、ようやく大和が登場。陸奥はお約束。
作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。
22
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴
もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。
潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
運営に【通報】したけどスルーされてしまった件
蒼 飛雲
エッセイ・ノンフィクション
運営に不正を「通報」すれども、しかしそれを取り合ってもらえない底辺作者の悲哀と歯ぎしり。
このままだと、ほんとヤバいんだけど。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる