怪獣大戦1941 ~ 戦艦大和、怪獣と激闘す

もろこし

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第十三話 マリアナ海溝調査

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■昭和十九年(1944年)11月 マリアナ海溝 海上

 昨年のPDOでの研究報告から、怪獣はマリアナ海溝の深部から出現しているらしい事が推測されていた。しかしこれまでは1万メートルもの深海を調査する手段を人類は持っていなかった。

 だがベルギーを脱出し米国に渡ったスイス人科学者ピカールが中心となって開発した深海調査船「バチスカーフ」が完成した事で、ようやくそれが可能となったのである。

 バチスカーフの構造自体は単純であり、もっとも重要な耐圧キャビンも戦艦や大砲を造れる技術があれば製造できる。このため開発完了後は米国だけでなく日英でも建造されていた。



 そして今日、マリアナ海溝の海上に日米英3カ国のバチスカーフが集結していた。洋上にはそのバチスカーフ母艦を務める各国の艦艇が遊弋している。

 日本の母艦は秋津洲と瑞穂の2艦である。秋津洲は水上機母艦から特殊潜航艇バチスカーフ母艦に類別が変更されており、瑞穂も類別変更と同時に秋津洲に準じたクレーンを艦中央に追加されている

 米国はカリタック級4隻、英国はユニコーンとアルバトロスをバチスカーフ母艦として派遣している。

 それぞれが各1隻のバチスカーフを搭載しており、日米英合計で8隻のバチスカーフが今回の調査に参加することとなっていた。

 秋津洲と瑞穂には日本が建造した特殊潜航艇「海龍」が搭載されている。



「では、行ってまいります」

 艇長の岩佐大尉が秋津洲の甲板員に敬礼し、小さなハッチから艇内に降りていった。

「協力感謝する。では行ってくる」

 ついで科学者である芹沢教授が軽く頭を下げハッチに入る。海龍は日本海軍の所属であるが、乗員が2名に限られ専門性が極めて高いため、特例として民間人も搭乗し運用されていた。

 二人はハッチの底の鋼鉄の球体にもぐり込むと重く分厚い扉を閉めた。12.7センチもの厚さのある鋼鉄で出来た球形のキャビンは、海底1万メートルの水圧にも耐えることが出来る。

 芹沢は席に座ると小さなアクリルの窓から外に居る助手の山根女史に笑顔で手を振った。山根は逆に心配そうは表情で振り返す。

「深度計、気圧計、電圧計、問題なし」
「バラスト電磁弁正常作動中、超音波通信装置正常、二酸化炭素吸収装置正常……」
「海水タンク弁正常、各舵動作正常、推進装置動作正常……」

 岩佐と芹沢はチェックリストを見ながら最終確認をすすめた。すでに二人は日本海溝で試験潜航を何度もおこなっている。確認手順はもう手慣れたものだった。

「全点検項目、問題なし。準備整いました」

「発進準備!潜水艇懸吊開始!」

 秋津洲の艦尾にある巨大なクレーンが海龍を吊り上げる。そして海龍をそっと海面に降ろした。

「吊索外せ!ベント開放!潜航開始!」

 海龍の比重をわずかに海水より軽くしていた空気が放出され、代わりにタンクが海水で満たされる。これで海水より比重が僅かに重くなった海龍は、ゆっくりとマリアナ海溝の底に向かって沈んでいった。



 海底までは5時間弱の道のりである。水深200メートルを超えれば日の光も完全に届かない。外は漆黒の闇の中、計器の小さな灯りだけが岩佐と芹沢の顔をぼんやりと照らしだしている。もちろんしっかりした室内照明や船外照明はあるが、電力は潜水艇の命綱でもある。海底に到着するまでは出来るだけ電気を節約する必要があった。

 音も光も無い中、取り留めのない話をするなかで、突然芹沢がぽつりと言った。

「……岩佐大尉、荒唐無稽な話かもしれんが……聞いてもらえるか?」

「もちろんです。この暇な時間を埋めてくれるならば、どんな話でも大歓迎ですよ」

 芹沢は少し躊躇うような素振りをした後、思い切って口を開いた。

「……私は、怪獣は地球の生物じゃないと考えている」

「地球の生物じゃない!?」

 さすがに教授ともあろう者の口からそのような話が出るとは、岩佐も思っていなかった。

「ああ、形こそ恐竜に似てはいるが、そもそもあの大きさの生物は物理的に地上を歩けるはずがない」

 その話は岩佐も科学雑誌で読んだ事があった。現代の生物の骨や筋肉の密度では、丙種怪獣のサイズですら歩くどころか立つ事すらできないらしい。

「それに中身も既存の生物と根本的に違っている。立派な口は有るのに消化器官らしいものが見つからない。血液も毒。そんな生物なんぞ聞いたこともない。地球の過去にも間違いなく存在していないだろう」

 巨大生物の死骸はその強固な外皮と大きさから解剖もできず、血液も毒性を持つため、これまで全て海軍艦艇で曳航し沖合に投棄されていた。

 投棄前に破損の激しい個体の内部調査が行われているが、今のところ腹部内に複雑な臓器は見つかっていない。骨格も鉄より硬い材質であることが、これまでの調査で判明していた。

「しかし現実に怪獣は存在し、海底からやってきています。ならば怪獣も地球の生物という事ではないですか?」

 岩佐は常識的な答えを返す。

「確かにその通りだが……あまりにも怪獣が異質過ぎて、私はこんな事を考えてしまう……」

 芹沢は言葉を切って岩佐をじっと見た。

「海底がもし別の世界に繋がっているとしたら……なんらかの意思をもった存在が、我々を攻撃するために、そこから怪獣を送り込んでいるのかもしれない……ははは、まったく馬鹿げた発想だな。忘れてくれ」

「まあとにかく、それを確認するのが自分らの仕事です。ほら、もうすぐ海底に到着します。そこに着けば教授の疑問もきっと解けるでしょう」

「その通りだな。大尉、失礼した……うむ、どうやら海底に着いたようだな」

 芹沢は照れ隠しに窓の外を見た。ちょうど海底の泥が巻き上げられる所だった。

「そのようですね。こちら海龍一号、ただいま海底に到着。異常なし。これより調査に移る」

 岩佐は超音波通信で海上の秋津洲に報告をいれた。水中の音波伝搬速度は地上の数倍あるが、それでも秋津洲から応答があるまで15秒もの時間がかかる。

 通信を終えると岩佐は船外ランプを点けようとスイッチに手をのばした。

「大尉、ちょっと待て!むこうに何か光が見える!」

 それを芹沢が制して窓の外を指さした。

「たぶん海龍二号か他国の潜水艇の灯りでしょう」

「いや、アーク光はあのように青白い光ではないはずだ」

 特殊潜航艇は深海でも点灯可能なクォーツアークを船外照明に用いている。だがその光は白色で、目の前に見える青白い光とは色調が違っていた。

 光は出っ張った崖の向こう側から見えていた。距離は200メートルほど。貧弱な推進装置しか持たない海龍でも移動できない距離ではない。

「判りました。このまま近づいて確認してみましょう。もし怪獣に関係するなら、こちらの照明は点けない方が良いですね」

 岩佐は照明を落としたまま、謎の光を頼りに、ゆっくりと海龍を進めていった。



「こ、これは……!!」

 崖をまわりこんで目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。

 海底一面が青白い光で満たされていた。

 直径数百メートルはあろうかという円形の範囲が、青白く光り、波打つように蠢いている。

 突然、その中央に爬虫類の瞳の様な裂け目が開いた。そこから何かが浮かび上がってくる。

「か、怪獣が!」

 裂け目から出てきたのは乙種怪獣だった。それはだらんと手足を脱力した姿で海面にむかって浮き上がっていく。怪獣が外にでると裂け目はすっと閉じた。一瞬開いた光の内部には、何か人工物らしきものが確認できた。

「ははは……なんだこれは?教授の予想通りだとは……奴ら、本当に別の世界から来てやがった、いや送り込まれていたのか……」

 岩佐の口から乾いた笑いが漏れる。

「大尉、あれ見ろ!……見た事のない怪獣も居るぞ!」

 意外と冷静に隣で撮影している芹沢教授が光の円の端を指さした。

 そこには、この場を守るように1体の怪獣が円の周囲を遊泳していた。ちょうど新たな裂け目が開きそこから甲種怪獣が上昇していく。ワニかセンザンコウを思わせる外見を持つ新手の怪獣は、あきらかに甲種怪獣より大きかった。

 その怪獣は海龍の存在に気付いてはいる様子だった。目の前を通り過ぎる時に巨大な眼が確かにこちらを見ている。だが脅威がないと判断しているのか襲ってくる様子は無かった。

「また別の新しい怪獣が……」

 裂け目が開き、新たな怪獣が上昇していく。それもまた新種の怪獣だった。甲種よりはるかに巨大なその怪獣は、頭部の左右に大きな角が生えた特徴的な姿をしていた。

「すまんが大尉、すぐにでも逃げ出したい所だろうがギリギリまで調査したい。もうしばらく付き合ってもらおう」

 秋津洲からしきりに超音波通信が来るが、怪獣を刺激しないように応答は控える。岩佐と芹沢は30分ほどこの場に留まり撮影を続けた。そしてゆっくりと慎重に後退し、十分離れた所で秋津洲にようやく通信を入れた。

 実は秋津洲の方では、着底後に海龍から超音波通信の応答が途絶えたため、遭難したかと大騒ぎになっていた。山根女史に至っては泣きわめいてパニック状態だったらしい。

 だが二人のもたらした報告は、世界にもっと大きな騒ぎを引き起こす事となる。



【後書き】

 次回、大和が新たな巨大怪獣に戦いを挑みます。

 作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。
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