童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ

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第4話 流葉(ながれは)のステージ

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「うわーー!」

 アントンは崩れた土砂に巻き込まれ、川の中まで押し流されてしまいました。

「誰かぁ……助け……」

 水の流れに浮き上がったアントンを、 激流げきりゅうはどんどん下流へ流して行きます。

 もう……ダメかも……



 アントンが あきらめかかったその時……

「小僧! つかまれ!」

 すぐ近くで誰かの叫び声が聞こえます。目を開くと、真横に葉っぱのふちが見えました。アントンは急いでその縁をつかみ、葉っぱの上に乗り移ります。

「ふぅ……間に合ったな……」

「あ……」

 葉っぱの上には、数日前に出会ったキリギリスのギリィと、見知らぬ女の人がいました。

「あら? 誰を助けるのかと思ったら……。いらっしゃい、アリん子さん」

「あの……あなたは……」

「ん? 俺はキリギリスのギリィ。で、こっちは……」

鈴虫すずむしのリンよ。よろしくね、坊や。……どうしたの? せっかく助けてあげたのに……」

 アントンは助かったことを喜んだのも つか、父アリからの言いつけを やぶってしまったという罪悪感ざいあくかんで気持ちが しずんでしまいました。アントンの くもった表情に気付いたリンが、 不思議ふしぎそうにたずねます。

「……僕……ギリィさんとは……ちょっと……」

 ギリィとリンはアントンの返事を聞くとキョトンとし、次にリンは怒った声で言いました。

「ギリィ! あんたこんな小さな子に、いったい何をしたんだい!」

「は? いや……ちょ、ちょっと待てよ! 何の話だよ!」

 リンは手に持っていた小枝でギリィを数発叩きます。

「坊や、大丈夫よ! 安心なさい。コイツが何かしてもあたしが守って上げるから」

「え? いや……あの……」

 突然の 乱闘らんとうに、アントンは驚きながら答えました。

「ち……違うんです! 別にギリィさんから何かされたワケじゃなくって……」

「あら? 違うの? なぁんだ」

「『なぁんだ』じゃねぇだろリン! 急に何しやがるんだよ!  ってぇなぁ……」

 ギリィは2本の手を使い、リンから叩かれた身体をさすっています。

「お前ぇのせいで変な 誤解ごかいされただろが、坊主! ん……お ぇは……」

 アントンの顔をマジマジと確かめると、ギリィは笑顔になりました。

「なぁんだ! あん時の小僧じゃねぇか! えっと……アトム? アントー?」

「……アントン……です」

「あっ! そうそう! それだ! 働き者のアリん子アントン!」

 ギリィは うれしそうにアントンの名前を呼びました。

「で? その坊やが、どうしてコイツにそんな 態度たいどをとってるワケ?」

 リンが不思議そうに尋ねます。

「あの……お父さんとお母さんから……ギリィさんとはお話をしちゃダメって。……会っても 無視むししなさいって……」

「はぁ? お前ぇの 親父おやじとおふくろは何言ってやがんだ? 別に良いじゃねぇかよ、お話くらいよぉ……」

「……理由は?」

 ふてくされるギリィの声に重ねるように、リンが優しく たずねました。アントンは何と答えようかと考え、申し訳なさそうに口を開きます。

「……働きもしないダメ昆虫で…… なまけ者の大人だから……」

 アントンの返事を聞いたギリィとリンは、 唖然あぜんとした顔でお互いを見つめると……やがて「クククッ!」と笑い始め、ついに こらえきれない様子で、お腹を かかえて笑い出しました。

「はーはっはっ! ダメ昆虫の怠け者だってよ!  ちげぇねぇや!」

「アハハ……ほら、見てる人は見てくれてんのよ!『ダメ昆虫のギリィ』ってさ! ウケるぅ!」

 アントンはビックリしました。 正直しょうじきに本当の話をしたら、この人達が怒り出すかもしれない……と、どこか不安に思っていたからです。それなのに……なんでこんなに大笑いをしてるんだろう?

「ヒィヒィ……腹痛ぇ……」

 ギリィは笑いながらバイオリンを取り出しました。

「こ……この思いを……この曲に乗せて……」

 そう言うと、簡単に調律をすませたバイオリンに弓を当て、一気に 軽快けいかいな曲をかなで始めます。いつの間にか雨は止み、 あつく暗かった雲もうすれて晴れ間も見え始めていました。葉っぱの舟はまだ流され続けていますが、ギリィは上手にバランスを取りながら明るく元気な曲を奏で続けます。

 アントンは生まれて初めて聞いたキリギリスのギリィのバイオリンに圧倒されました。力強い 音色ねいろ……でも心から楽しそうに……そして、 しずんだ気持ちを引き上げてくれるような……
 
 雲の 隙間すきまからし込む陽射ひざしが、周りの水面みなもにキラキラ 反射はんしゃする流葉ながれはステージの特等席で、アントンはギリィの奏でる音色に自然と心を うばわれていきました。


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