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第27話 守りたい
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社長室に呼ばれたのは、北海道出張の数日前だった。
重い扉を開けると、父はデスクの上の“何か”を眺めている。
机の上に一枚の写真が置かれている。
ラウンジで優美と向かい合って座る俺の姿。
この写真を撮ったのは……撮らせたのはこの人だ。
確信した。
「これはどういうことだ」
父の低い声に、俺は迷わず答えた。
「……真剣に付き合っています」
「真剣に、だと?」
父の眉がピクリと動く。
「借金を抱え、夜の店で働く女だぞ。お前はそれを承知で付き合っているのか」
「承知しています」
父の表情がさらに険しくなった。
「お前は副社長だ。そして将来この会社を背負う立場にある。そんな女と結婚などとなれば、株主や取引先にどう思われるか分からないのか」
結婚……。
その言葉に胸がざわついた。
まだ優美とそこまで話していない。
まだ俺たちはやっと恋人として歩み始めたばかりのようなものだ。
「よく考えろ。会社のことを第一に考えるのがお前の立場だ」
それ以上何も言えなかった。
父の前では、いつも子供の頃に戻ってしまう。
悔しさだけが胸に残った。
* * *
北海道出張。
予想外の大雪で、古い温泉旅館に泊まることになった。
優美と二人きりの部屋。
普通なら嬉しいはずなのに、父の言葉が頭から離れない。
『よく考えろ』
考えている。
ずっと考えている。
でも答えは変わらない。
俺にとって一番大切なのは優美だ。
会社も、跡継ぎという立場も、優美の前では色褪せて見える。
いっそ全部捨てて、優美と二人でどこか遠くに……。
気づけば口に出していた。
「優美、二人でどこかで暮らさないか」
優美の驚いた顔を見て、我に返る。
こんなことを言ってしまうとは。
「……冗談だ」
慌ててごまかした。
冗談、じゃない。
でも今の俺には、それが精一杯だった。
* * *
出張から戻った数日後。
俺が会議で外出している間に、優美が父に呼ばれたと父の秘書から聞いた。
血の気が引いた。
あの人と一人で戦わせてしまった。
俺は何をやっているんだ。
守ると言ったのに。
その日の夕方、社長室を訪れた。
「父さん、優美に何を言ったんですか」
「あの女のことか。なかなか面白い女だったな」
面白い?
「彼女はこう言った。『副社長の将来を決めるのは彼自身です。そして私の将来も私が決めます』とな」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
俺が父の前で言えなかった言葉を、優美は迷わず口にした。
一人で父と向き合って。
「強くなったな、優美……」
心の中でつぶやいた。
なら俺も、もう迷わない。
俺は父を見据えて言った。
「父さん、俺は彼女との関係を終わらせるつもりはないです」
「何だと?」
「会社がどうなろうと、俺の気持ちは変わりません」
父の顔が怒りで歪んだ。
もう後戻りはできない。
俺が守ると決めた。
この関係を、誰にも絶対に壊させはしない。
重い扉を開けると、父はデスクの上の“何か”を眺めている。
机の上に一枚の写真が置かれている。
ラウンジで優美と向かい合って座る俺の姿。
この写真を撮ったのは……撮らせたのはこの人だ。
確信した。
「これはどういうことだ」
父の低い声に、俺は迷わず答えた。
「……真剣に付き合っています」
「真剣に、だと?」
父の眉がピクリと動く。
「借金を抱え、夜の店で働く女だぞ。お前はそれを承知で付き合っているのか」
「承知しています」
父の表情がさらに険しくなった。
「お前は副社長だ。そして将来この会社を背負う立場にある。そんな女と結婚などとなれば、株主や取引先にどう思われるか分からないのか」
結婚……。
その言葉に胸がざわついた。
まだ優美とそこまで話していない。
まだ俺たちはやっと恋人として歩み始めたばかりのようなものだ。
「よく考えろ。会社のことを第一に考えるのがお前の立場だ」
それ以上何も言えなかった。
父の前では、いつも子供の頃に戻ってしまう。
悔しさだけが胸に残った。
* * *
北海道出張。
予想外の大雪で、古い温泉旅館に泊まることになった。
優美と二人きりの部屋。
普通なら嬉しいはずなのに、父の言葉が頭から離れない。
『よく考えろ』
考えている。
ずっと考えている。
でも答えは変わらない。
俺にとって一番大切なのは優美だ。
会社も、跡継ぎという立場も、優美の前では色褪せて見える。
いっそ全部捨てて、優美と二人でどこか遠くに……。
気づけば口に出していた。
「優美、二人でどこかで暮らさないか」
優美の驚いた顔を見て、我に返る。
こんなことを言ってしまうとは。
「……冗談だ」
慌ててごまかした。
冗談、じゃない。
でも今の俺には、それが精一杯だった。
* * *
出張から戻った数日後。
俺が会議で外出している間に、優美が父に呼ばれたと父の秘書から聞いた。
血の気が引いた。
あの人と一人で戦わせてしまった。
俺は何をやっているんだ。
守ると言ったのに。
その日の夕方、社長室を訪れた。
「父さん、優美に何を言ったんですか」
「あの女のことか。なかなか面白い女だったな」
面白い?
「彼女はこう言った。『副社長の将来を決めるのは彼自身です。そして私の将来も私が決めます』とな」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
俺が父の前で言えなかった言葉を、優美は迷わず口にした。
一人で父と向き合って。
「強くなったな、優美……」
心の中でつぶやいた。
なら俺も、もう迷わない。
俺は父を見据えて言った。
「父さん、俺は彼女との関係を終わらせるつもりはないです」
「何だと?」
「会社がどうなろうと、俺の気持ちは変わりません」
父の顔が怒りで歪んだ。
もう後戻りはできない。
俺が守ると決めた。
この関係を、誰にも絶対に壊させはしない。
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