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第33話 二人の絆
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数日後、河内さんがまた北海道に来てくれた。
この日私は河内さんをある所に連れて行こうとしていた。
そしてそれを前もって伝えていた。
ホテルのロビーで待っていると、スーツを着た河内さんが来た。
手には見覚えのある紙袋を持っている。
「優美」
河内さんは私に紙袋を差し出した。
「持ってきた」
中を覗くと、淡いピンクの着物が入っていた。
あの時河内さんが買ってくれた、思い出の着物。
「着てくれ」
河内さんの目は真剣だった。
「……はい。自分で着付けします」
私は紙袋を受け取った。
* * *
客室で一人、鏡の前に立った。
丁寧に着物を着付け、帯を締める。
三年間の積み重ねが、迷いを消し去っていく。
あの時は手伝ってもらわなければ着られなかった着物も、今では一人でちゃんと着ることができる。
「お待たせしました」
扉を開けると、既に着物に着替えた河内さんが短く息を呑んだ。
「……あの頃と少し変わったな」
その一言で、背筋がすっと伸びた。
三年前と変わらない、河内さんの優しい瞳。
「行きましょう」
私は自然に微笑むことができた。
* * *
茶道教室の引き戸を開ける。
先生がこちらを見て、やわらかく微笑んだ。
「藤田さん。素敵な方とお知り合いなのね」
河内さんは私の背にそっと手を添えた。
「宜しくお願いします」
私たちは席に着いた。
私は畳に膝をつき、袱紗をさばいて茶道具を清めた。
茶杓を置く音が、静けさに響く。
手は、もう震えない。
あの時は当たり前のことすら何もわかってなかった。
茶碗をそっと差し出すと、河内さんが両手で受けた。
河内さんは一口飲んで、少し沈黙した。
次の瞬間、低い声で言った。
「……ちゃんと続けてたんだな」
「はい」
これが私なりに河内さんとの絆を繋ぐ方法だった。
「もし次会えた時、驚かせたかったので」
少し恥ずかしくなってしまった。
「正解だったな」
河内さんの目の奥は暖かかった。
先生が頷いた。
「藤田さんは本当に頑張られました」
胸の奥がじんと熱くなる。
私は深く頭を下げた。
* * *
お稽古が終わった後、私は先生に伝えた。
「先生、近々引っ越すことになりました。長い間、本当にお世話になりました」
「寂しくなるけれど……またいつでも帰ってきてくださいね。あなたはここの大切な生徒さんですから」
先生の声は変わらず穏やかで、優しかった。
「はい!」
廊下に出ると、河内さんが待っていた。
戸が静かに閉まる音。
その後二人で帰り道をゆっくりと歩いていた。
「優美」
呼ばれて、足が止まった。
「逞しくなったな」
「はい!もっと強くなりたくて」
ふと視線が合った時、周囲に誰もいないことを確認したあと、私たちはこっそりキスをした。
この日私は河内さんをある所に連れて行こうとしていた。
そしてそれを前もって伝えていた。
ホテルのロビーで待っていると、スーツを着た河内さんが来た。
手には見覚えのある紙袋を持っている。
「優美」
河内さんは私に紙袋を差し出した。
「持ってきた」
中を覗くと、淡いピンクの着物が入っていた。
あの時河内さんが買ってくれた、思い出の着物。
「着てくれ」
河内さんの目は真剣だった。
「……はい。自分で着付けします」
私は紙袋を受け取った。
* * *
客室で一人、鏡の前に立った。
丁寧に着物を着付け、帯を締める。
三年間の積み重ねが、迷いを消し去っていく。
あの時は手伝ってもらわなければ着られなかった着物も、今では一人でちゃんと着ることができる。
「お待たせしました」
扉を開けると、既に着物に着替えた河内さんが短く息を呑んだ。
「……あの頃と少し変わったな」
その一言で、背筋がすっと伸びた。
三年前と変わらない、河内さんの優しい瞳。
「行きましょう」
私は自然に微笑むことができた。
* * *
茶道教室の引き戸を開ける。
先生がこちらを見て、やわらかく微笑んだ。
「藤田さん。素敵な方とお知り合いなのね」
河内さんは私の背にそっと手を添えた。
「宜しくお願いします」
私たちは席に着いた。
私は畳に膝をつき、袱紗をさばいて茶道具を清めた。
茶杓を置く音が、静けさに響く。
手は、もう震えない。
あの時は当たり前のことすら何もわかってなかった。
茶碗をそっと差し出すと、河内さんが両手で受けた。
河内さんは一口飲んで、少し沈黙した。
次の瞬間、低い声で言った。
「……ちゃんと続けてたんだな」
「はい」
これが私なりに河内さんとの絆を繋ぐ方法だった。
「もし次会えた時、驚かせたかったので」
少し恥ずかしくなってしまった。
「正解だったな」
河内さんの目の奥は暖かかった。
先生が頷いた。
「藤田さんは本当に頑張られました」
胸の奥がじんと熱くなる。
私は深く頭を下げた。
* * *
お稽古が終わった後、私は先生に伝えた。
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「寂しくなるけれど……またいつでも帰ってきてくださいね。あなたはここの大切な生徒さんですから」
先生の声は変わらず穏やかで、優しかった。
「はい!」
廊下に出ると、河内さんが待っていた。
戸が静かに閉まる音。
その後二人で帰り道をゆっくりと歩いていた。
「優美」
呼ばれて、足が止まった。
「逞しくなったな」
「はい!もっと強くなりたくて」
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