サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ⑭

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     第一章 2001年 春

 ビエンチャンのメコン川土手の今昔(笑)、20年近くも経てば当然変わりますね~、でも旅人はいつまでも昔のままであって欲しいとわがままな気持ちなんです。






       十四

 メコン川はラオスの南西側を北は中国国境からくだり、ミャンマーとタイとのゴールデントライアングルを経てタイとの国境を雄大に流れ、カンボジアとの国境で別れる。

 首都・ビエンチャンのメコン川土手から、川や河川敷とまわりの人々とを眺めていると、その大河の流れはラオス人の暮らしの中に隅々まで流れ込んでいるように思えた。

 土手から降りたところの綺麗に舗装されたファーグム通りでは、けたたましい音を鳴らしてバイクを走らせる若者が目立つ。

 バイクといっても日本でいうカブのようなものだが、うしろに女性を乗せている若者も多く、得意顔で走っている。
 考えてみれば今日は土曜日だった。みんな週末なので破目をはずしているのだ。

 若者は日本でもラオスでも同じなんだなと、当たり前のことを僕は少し酔った気分で微笑ましく思うのであった。

 N君とふたりで、散歩をするように土手をゆっくりと歩いていると、一軒の屋台ジュース屋に目が留まった。

 そのジュース屋にはすごく綺麗な女の子がふたりいて、ガラスケースに入っているフルーツをその場で搾って客に手渡していた。
 屋台の周りには何人かが搾りたてのジュースを待っていた。

 屋台が人気なのはフレッシュなジュースが魅力だからか、女の子たちが綺麗だからは分からないが、僕達もマンゴーのような果物を指差してシェイクしてもらい、土手のテーブル席に座った。

 土手下にメコン川の静かな宵闇が見え、遥か川向うにはタイのシーチェンマイの町の明かりが揺れていた。

 川と反対側の大通りを行き交う人々は次第に増えていき、メコンの向こうに夕陽が沈んだあとのビエンチャンの街は、凌ぎやすい気温に下がったようにも感じられた。
 週末の夜はこれからだ。

 ふと見ると、僕たちの隣のテーブルにはふたりの可愛いラオス女性が涼んでいた。

 僕はN君に、「ほら、隣のふたり。現地の女性に違いないね。ちょっと声をかけてみようか」と提案した。

 ところが彼は「僕はそんな勇気はありませんよ。藤井さんが声をかけてください」と、僕のような中年男に任せるというのだ。

 でも結局、機会を窺って隣をチラチラ見ていると、やがてバイクに乗って三人の男性が現れ、彼女達のテーブルに近づいてなにやらラオス語で親しげに話しはじめた。

「何だ、彼氏が来たよ。仕方がないね」

 僕が残念そうに言うと、N君はニヤニヤしながら若者たちのグループを見ていた。

 しばらくして、中学生くらいの少年に手を引かれた盲目の老婆が土手をゆっくり歩いて来た。
 土手に並んでいるテーブル客たちは、その老婆が近づいて来ると少年が手に持っていたアルミのような器に幾ばくかの紙幣を入れていた。 

 ラオスでもタイでもそうだが、このような身体に障害のある物乞いに対して、皆嫌な顔ひとつ見せずにお金を渡している光景をしばしば目にする。

 難しい理屈などを並べる必要もなく、恵まれている者が恵まれない者に少しでも手を差し伸べることが、素朴な人間の本来の姿なのだと思った。

 隣のテーブルの男女五人も、老婆達が来た時にはそれぞれが紙幣を出して器に入れていた。

 厳つい顔をした日本で言うところの「族のカシラ」っぽい男性も、ポケットに手を突っ込んでくしゃくしゃの紙幣を取り出し、少年の器にそれを入れて胸の前で手を合わせるのであった。

 その光景を見ていて、僕はちょっとしたカルチャーショックに似たものを感じた。

 ラオスは社会主義国だが仏教国でもある。ラオスの歴史については、今回の旅の前に少しだけかじる程度に書物などを読んだだけだ。

 しかし浅い知識の中でも、ラオスはこれまで波乱の歴史を潜り抜け、近年でもフランスのインドシナ支配からベトナム戦争の影響を大きく受け、現在のラオス人民民主共和国に至るまでには、多くの国民の犠牲が刻まれていることは知っている。

 そのような歴史的背景を、この国の人々は当然理解しているのだろう。
 歴史の犠牲者が兵士であるなしにかかわらず、このような身障者に対しても敬意を表しているように思うのであった。

 その老婆と少年が僕達のテーブルの横を通り過ぎようとした。
 少年は僕達が旅行者だと思って遠慮したのかもしれなかった。

 僕はポケットから千Kip紙幣を1枚だけ掴んで、それを少年の持つ器にそっと入れた。N君も少し遅れながらもそれに続いた。

 少年は少しはにかんだ顔をして、何か小さな声で呟いて老婆とともに通り過ぎて行った。

 その様子を見ていたのか、隣の男女五人のテーブルから、厳つい顔の男性がジュースのグラスを顔の辺りに持っていって、何か言いながら笑いかけるので、僕もなんだか分からないまま、グラスを少し上に掲げて、「コンバンワ」と日本語で言った。

 そんな風にしてビエンチャンの初日は夜は更けていった。

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