サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 66

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    第二章 2002年 春


    66 さよならR子さん

 おそらく僕の記憶では、隣の大音響スピーカーからのドコドコドンドンは深夜三時頃まで鳴り響いていたと思う。

 しかしそれに対して誰も文句を言わないから鳴り続けていたわけで、ラオス人の寛容さというか、ツーリストたちの順応性というか、僕にはサッパリ分からない。

 僕はかなり寝不足のまま、午前七時半頃に約束通りR子さんがドアをトントンと叩く音に目が覚めた。

 慌てて水シャワーを浴びて髭を剃り中庭に出ると、ちょうど彼女が宿代を女将さんに支払っているところだった。
 昨年と同じで三万Kip(約三百円)である。

 女将さんに「ちょっと彼女を送ってきます」と言って、僕が彼女のバックパックを背負い、タビソックゲストハウスをあとにした。

 彼女はバックパックを僕が背負ったことを大変恐縮していたが、僕にできることはこれくらいのことしかないのだ。

 飛行場跡を横切ってバス乗り場に着くと、既に十数人の旅行者が集まっていた。

「早く来てよかったね。座席を確保してから朝食にしましょう」

 彼女はルアンパバーンまでのチケットを購入し、バスの屋根の上で荷物の整理をしていた係員にバックパックを預け、座席確保のためにバスに乗り込んだ。

 幸いにも最も前の一人席が空いていたので、そこにガイドブックと帽子を置いて座席を確保した。

 朝食はバス発着場の近くに出ている屋台に入った。
 中年の女性が一人で切り盛りしている。

 ビエンチャンで食べたカオピャックを二人とも注文した。
 周りの食材にたくさんのハエがたかっているのも、何故か殆ど気にならない。
 随分と僕も衛生面の悪環境に慣れたものだと思った。

 七~八分で出来上がったカオピャックはビエンチャンで食べたものとほぼ同じだったが、味付けと麺のコシが微妙に異なり、明らかにビエンチャンの店の方に軍配が上った。

 屋台を出た。

 バスは午前九時発である。

 現在の時刻は八時四十分。次第にバスの周りに旅行者が溢れてきた。大部分が欧米人である。

 バスで移動する時は、できる限り早い時刻に来て、座席を確保することをお奨めする。

 特にこのような七時間もの長時間のバス移動の場合は、万が一座席がなくなるとプラスチックの簡易座席に座るか、立ったまま何時間もという破目になる。

 バスをバックにR子さんの写真を撮って、いよいよお別れだ。
 旅の初日から三日間、寝る時以外はずっと一緒だっただけに、別れが辛く感じてしまう。

◆彼女のうしろ姿(左隅)とルアンパバーン へのバス



 彼女の方から、「今度は大阪でお会いしましょうね。携帯の方に電話ください」と言ってくれた。

 僕はその言葉を聞いて狂喜乱舞しそうになった。

 何かを彼女のためにしたくて、近くの店に入ってお菓子やチョコレートを買って彼女に手渡した。

「それじゃ、このあと気をつけてね。バスが発車するのを見送るのは苦手だからここでお別れして宿に帰ることにするよ」

 僕達は最初で最後かも知れない握手を交わして別れた。

 飛行場跡を僕はゲストハウスの方にトボトボと歩いた。

 途中何度か振り返るとバスはまだ出発していない。
 九時になっていないのだから当たり前だが、今すぐタビソックゲストハウスに戻ってバックパックを手にして、僕もルアンパバーンへ向かおうかと思った。

 でも焦るような居たたまれないような気持ちを、かすかに残っている理性で辛うじて抑えた。

 僕は腑抜けのようになって宿に帰り、ベッドに仰向けに倒れ、そのままうたた寝をしてしまった。

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