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第1部 子爵家の次男
エイルに合わせてあげたいのに *リュカリオ視点
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「エイル! 王家からの招待状は届いたか!?」
俺は、エイルとのしばらく抱擁を堪能したあと、意気揚々とそう声をかけた。
少し、いや、かなり名残惜しいが——この暑さの中、エイルを外に出しておくわけにはいかない。
王家からの招待状ーー殿下の婚約発表を祝うパーティが開かれることは、すでに学園でも話題の中心だった。
国内の貴族のほぼすべてが招かれるという、大規模な催し。とはいえ中心はもちろん大人たちで、俺たち子供は「おまけ」みたいなもの。
ルアンみたいにまだ婚約者がいない者にとっては、ちょっとしたお見合いパーティの側面もあるのだろう。
「殿下の婚約発表会? だっけ」
「そうだ! 俺たちはパートナーだからな。衣装も合わせて行くぞ!」
「はいっ!」
元気よく返事をするエイルに、俺の胸もふわっと温かくなる。
エイルは「美味しいものあるかな~」「王宮初めてなんだけど~」と、目を輝かせながら楽しみにしている。
実はこの話、春頃から出ていたため、俺の実家ではすでに準備がほぼ終わっている。
「あ、そうだ。忘れてた。俺たち、殿下にご挨拶もしないとな」
そう——婚約の儀は済ませたものの、王家への正式な報告はまだだった。
今回のパーティを機に、改めて挨拶の機会が設けられたのだ。
……正直、面倒くさい。
殿下にエイルを紹介するくらいなら、王宮の装飾に感動するエイルとか、見た目も可愛いデザートをキラキラした表情で眺めるエイルとか、それをにこにこと嬉しそうに食べるエイルとか、そういうのを見ていたい。ずっと。
——よし、いとことして最低限の紹介だけしたら、あとはさっさと譲ろう。
挨拶したい人なんて山ほどいるはずだし、俺はエイルに集中したい。
「王宮はな、何度か行ったことあるけど……それはもう、煌びやかだぞ」
そう言って、俺はエイルを連れて、幾分か涼しい屋内へと入った。
「学園はどうですか? 新しいお友達、できました?」
部屋に入るなり、エイルは俺のまわりをちょこまか動いて質問を飛ばしてくる。
……なんだこの小動物。
前よりちょこまかしてないか? いや、俺の背が伸びたから、そう見えるだけか。
エイルは小型の種族だからか、成長はとてもゆるやかだ。
俺が兄のルアンの身長を越したのも、もはや懐かしい。
「ふは、まぁ落ち着け。"俺と仲良くしたい"っていうより、"公爵家と仲良くしたい"って奴が大半って感じだな」
「えぇ、何それ。最低ですね」
「まぁ、そんなことより——今日は帰らなきゃだけど、パーティの二日前からうちに来い。衣装はほぼ仕上がってるけど、ブローチとか小物の最終調整をしたい」
「っ!! やったぁ~! 久しぶりのお泊まり~!!」
エイルが手放しで喜ぶ姿は、何度見ても愛おしい。
その嬉しさが、広いお風呂のせいなのか、美味いご飯のせいなのか、それとも俺と一緒にいられることが嬉しいのかは……まあ、分からないけど。
……なんだか俺だけが、こんなにも離れがたく感じてる気がして、ちょっと切ない。
ま、パーティまでは時間がある。
その間に、今年はエイルと何をしようか——それが悩みだ。
学園にも入学したことだし、今年こそはレオ兄の付き添いなしで、エイルと二人きりで。
あわよくば、いちゃいちゃしたい。デート、したい。
「なぁ、エイル。馬に乗れるか?」
デートといえば遠乗りだろう。
だが、エイルが馬に乗ってる姿なんて見たことがないし、話題に出たこともない。念のため尋ねる。
「あぁ、うち、乗馬用の馬がいないんですよ。だから、乗ったことなくて……」
「そうか! なら、二人乗りで遠乗りしようぜ!王都を出て森の方へ行けば涼しいし、いい気分転換になる。エイルが一人で乗りたいっていうなら、俺が教えてやるし。何より入学前に乗れるようになっておいた方がいいし、な?」
「!! それはすごく素敵です! 遠乗り行きたいし、乗れるようにもなりたい!リュカ様が教えてくれるなら、きっとすぐ乗れるようになるっ!」
……ふふ、興奮のあまり敬語が抜けつつあるのも、また可愛い。
思えばエイルは、俺の話に「嫌だ」と言ったのは最初の一度きり。結婚の話の時だけ、ちょっと喧嘩になってしまったが直ぐに仲直りしたので、ゼロカウントでもいいかもしれない。
ルアンとはちょいちょい口げんかしてるのを見かけるが、俺にはいつも素直だ。
それが、なんというか、そう、優越感という形で胸に広がっていく。
ルアンは兄として導かねばならないから、時に厳しく接することもあるのだろう。
だが俺は、婚約者として——いや、恋人として、エイルの願いは、全部叶えてあげたい。
「リュカ様、キス……していい?」
「ああ。たくさん、しようか」
いつもみたいにキスをせがんでくるエイルに俺は笑顔で応えてやる。そろそろキスも少し大人の段階に進みたいが、あまり早急すぎるのも、エイルのためには良くないか。
そう思い、いつも通り最初はおでこ、次にほっぺ。
お互いにちゅっちゅと軽くキスを繰り返す。
ときどき魔力を込めて、互いの魔力に舞う光が絡み合って煌めいて——まるで祝福のように、美しくて綺麗だった。
唇にも、ちゅっとひとつ。
最大限の愛情と魔力を込めて、そっと。
離れ際、俺はその唇をペロッと舐めてみた。
「っな、舐めっ……!」
ぴくりと肩を震わせて、顔を真っ赤にするエイル。
……ああもう、何その反応。可愛すぎる。
「っぅぇっ、ちょ、苦しいです……!」
つい衝動的に、エイルをぎゅうっと抱きしめてしまった。そりゃあエイルが苦しむくらいに。
「ふは、ごめんごめん。でもな、エイルもやってみたかったら、してもいいんだぞ? ほら……ん? 恥ずかしくてできないか?」
「そんなことないもん!」
「「んっ!?」」
挑発すると乗ってくる単純なエイルは、勢いのままに俺の唇に舌を寄せてきて……そのまま止まれずに隙間から、俺の口内に侵入してきた。
慌てて、離れようとするエイルを、俺は逃がすまいと抱き留めた。頭を手で押えて逃げられないようにして、俺から出ていく舌を追いかけ、そのままエイルの口の中へ。
——ダメだ。止めなきゃ。
エイルはまだ子供。俺に合わせるんじゃなくて、俺がエイルに合わせないと。
……そう分かっているのに、体が言うことを聞かない。
結局、エイルが息を切らしてくったりするまで、俺はエイルを抱きしめてしまった。
半開きの唇、上気した頬、潤んだ目。
エイルが艶っぽく見えて、俺の理性は悲鳴を上げる。
「あー……ごめん。つい、歯止めが効かなくて。えぇと」
「えぇと、僕も……その、勢いあまっちゃって……でも、気持ちよかったです」
「それはアウトぉおお!」
俺は思わず叫んで、ガバッとエイルを抱きしめ直した。
うん。あの誘い文句で止まれた俺、偉い。拍手喝采だ。
——エイルが泊まりに来る日が、待ち遠しくて。
でも同時に、修行のようにも感じるんだよな……。
俺は、エイルとのしばらく抱擁を堪能したあと、意気揚々とそう声をかけた。
少し、いや、かなり名残惜しいが——この暑さの中、エイルを外に出しておくわけにはいかない。
王家からの招待状ーー殿下の婚約発表を祝うパーティが開かれることは、すでに学園でも話題の中心だった。
国内の貴族のほぼすべてが招かれるという、大規模な催し。とはいえ中心はもちろん大人たちで、俺たち子供は「おまけ」みたいなもの。
ルアンみたいにまだ婚約者がいない者にとっては、ちょっとしたお見合いパーティの側面もあるのだろう。
「殿下の婚約発表会? だっけ」
「そうだ! 俺たちはパートナーだからな。衣装も合わせて行くぞ!」
「はいっ!」
元気よく返事をするエイルに、俺の胸もふわっと温かくなる。
エイルは「美味しいものあるかな~」「王宮初めてなんだけど~」と、目を輝かせながら楽しみにしている。
実はこの話、春頃から出ていたため、俺の実家ではすでに準備がほぼ終わっている。
「あ、そうだ。忘れてた。俺たち、殿下にご挨拶もしないとな」
そう——婚約の儀は済ませたものの、王家への正式な報告はまだだった。
今回のパーティを機に、改めて挨拶の機会が設けられたのだ。
……正直、面倒くさい。
殿下にエイルを紹介するくらいなら、王宮の装飾に感動するエイルとか、見た目も可愛いデザートをキラキラした表情で眺めるエイルとか、それをにこにこと嬉しそうに食べるエイルとか、そういうのを見ていたい。ずっと。
——よし、いとことして最低限の紹介だけしたら、あとはさっさと譲ろう。
挨拶したい人なんて山ほどいるはずだし、俺はエイルに集中したい。
「王宮はな、何度か行ったことあるけど……それはもう、煌びやかだぞ」
そう言って、俺はエイルを連れて、幾分か涼しい屋内へと入った。
「学園はどうですか? 新しいお友達、できました?」
部屋に入るなり、エイルは俺のまわりをちょこまか動いて質問を飛ばしてくる。
……なんだこの小動物。
前よりちょこまかしてないか? いや、俺の背が伸びたから、そう見えるだけか。
エイルは小型の種族だからか、成長はとてもゆるやかだ。
俺が兄のルアンの身長を越したのも、もはや懐かしい。
「ふは、まぁ落ち着け。"俺と仲良くしたい"っていうより、"公爵家と仲良くしたい"って奴が大半って感じだな」
「えぇ、何それ。最低ですね」
「まぁ、そんなことより——今日は帰らなきゃだけど、パーティの二日前からうちに来い。衣装はほぼ仕上がってるけど、ブローチとか小物の最終調整をしたい」
「っ!! やったぁ~! 久しぶりのお泊まり~!!」
エイルが手放しで喜ぶ姿は、何度見ても愛おしい。
その嬉しさが、広いお風呂のせいなのか、美味いご飯のせいなのか、それとも俺と一緒にいられることが嬉しいのかは……まあ、分からないけど。
……なんだか俺だけが、こんなにも離れがたく感じてる気がして、ちょっと切ない。
ま、パーティまでは時間がある。
その間に、今年はエイルと何をしようか——それが悩みだ。
学園にも入学したことだし、今年こそはレオ兄の付き添いなしで、エイルと二人きりで。
あわよくば、いちゃいちゃしたい。デート、したい。
「なぁ、エイル。馬に乗れるか?」
デートといえば遠乗りだろう。
だが、エイルが馬に乗ってる姿なんて見たことがないし、話題に出たこともない。念のため尋ねる。
「あぁ、うち、乗馬用の馬がいないんですよ。だから、乗ったことなくて……」
「そうか! なら、二人乗りで遠乗りしようぜ!王都を出て森の方へ行けば涼しいし、いい気分転換になる。エイルが一人で乗りたいっていうなら、俺が教えてやるし。何より入学前に乗れるようになっておいた方がいいし、な?」
「!! それはすごく素敵です! 遠乗り行きたいし、乗れるようにもなりたい!リュカ様が教えてくれるなら、きっとすぐ乗れるようになるっ!」
……ふふ、興奮のあまり敬語が抜けつつあるのも、また可愛い。
思えばエイルは、俺の話に「嫌だ」と言ったのは最初の一度きり。結婚の話の時だけ、ちょっと喧嘩になってしまったが直ぐに仲直りしたので、ゼロカウントでもいいかもしれない。
ルアンとはちょいちょい口げんかしてるのを見かけるが、俺にはいつも素直だ。
それが、なんというか、そう、優越感という形で胸に広がっていく。
ルアンは兄として導かねばならないから、時に厳しく接することもあるのだろう。
だが俺は、婚約者として——いや、恋人として、エイルの願いは、全部叶えてあげたい。
「リュカ様、キス……していい?」
「ああ。たくさん、しようか」
いつもみたいにキスをせがんでくるエイルに俺は笑顔で応えてやる。そろそろキスも少し大人の段階に進みたいが、あまり早急すぎるのも、エイルのためには良くないか。
そう思い、いつも通り最初はおでこ、次にほっぺ。
お互いにちゅっちゅと軽くキスを繰り返す。
ときどき魔力を込めて、互いの魔力に舞う光が絡み合って煌めいて——まるで祝福のように、美しくて綺麗だった。
唇にも、ちゅっとひとつ。
最大限の愛情と魔力を込めて、そっと。
離れ際、俺はその唇をペロッと舐めてみた。
「っな、舐めっ……!」
ぴくりと肩を震わせて、顔を真っ赤にするエイル。
……ああもう、何その反応。可愛すぎる。
「っぅぇっ、ちょ、苦しいです……!」
つい衝動的に、エイルをぎゅうっと抱きしめてしまった。そりゃあエイルが苦しむくらいに。
「ふは、ごめんごめん。でもな、エイルもやってみたかったら、してもいいんだぞ? ほら……ん? 恥ずかしくてできないか?」
「そんなことないもん!」
「「んっ!?」」
挑発すると乗ってくる単純なエイルは、勢いのままに俺の唇に舌を寄せてきて……そのまま止まれずに隙間から、俺の口内に侵入してきた。
慌てて、離れようとするエイルを、俺は逃がすまいと抱き留めた。頭を手で押えて逃げられないようにして、俺から出ていく舌を追いかけ、そのままエイルの口の中へ。
——ダメだ。止めなきゃ。
エイルはまだ子供。俺に合わせるんじゃなくて、俺がエイルに合わせないと。
……そう分かっているのに、体が言うことを聞かない。
結局、エイルが息を切らしてくったりするまで、俺はエイルを抱きしめてしまった。
半開きの唇、上気した頬、潤んだ目。
エイルが艶っぽく見えて、俺の理性は悲鳴を上げる。
「あー……ごめん。つい、歯止めが効かなくて。えぇと」
「えぇと、僕も……その、勢いあまっちゃって……でも、気持ちよかったです」
「それはアウトぉおお!」
俺は思わず叫んで、ガバッとエイルを抱きしめ直した。
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