35 / 82
第1部 子爵家の次男
とある令息から見た2人
しおりを挟む正直に言おう。
最初に「リュカリオ様の婚約者は子爵家の次男だ」って噂を聞いたとき、俺は思った。
――は?格差ありすぎじゃね?
公爵家の次男様だぞ?何でもこなせて好青年で、まだ学園1年生なのに将来は騎士団でも文官でも選び放題って言われてるんだ。
普通なら伯爵令嬢とか侯爵家の誰かと釣り合うはずじゃないか。
子爵家の、しかも年下の男の子?いやいや、どう考えても場違いだろ。
しかも婚約者本人はずっと隠されてて、公に出てくるのは今日が初めて。
みんな"どんな奴か"って、いい意味よりも悪い意味の好奇心でいっぱいだった。
……で、今日。
実物を見て、俺は固まった。
なんだあの子。
小柄で、幸せそうに笑った顔は無邪気で、やたら美味そうに肉頬張ってるし……。
マナーは完璧すぎるくらいなのに、どこか可愛げがある。見てると周りの空気まで和らぐ。
……ずるい。普通に可愛い。女の子かと思ったくらいだ。
しかもだ。
パッと見は衣装の色が違うから別々に用意したのかと思ったら、よく見ると金糸の刺繍が揃ってて、共通の意匠があちこちに隠れてる。
オシャレすぎる“お揃い”に、心の底から感嘆した。
さらにリュカリオ様が横で完全に「俺の婚約者に何か文句ある?」オーラを出してて。
自然に庇ってる姿が、もう……絵になってるんだよ。
……あれ?
公爵家とか子爵家とかどうでもよくね?
普通にお似合いじゃね?
可愛いお姫様とナイトじゃん。どっからどう見ても。まあ、お姫様は男の子だけど。
しかも二人だけの世界作っちゃってるし……あ、リュカリオ様が赤くなった。何話してんだろ。なんだか2人の周りだけほわほわ別の世界みたいに見えるんだよな。
あれ見せられたら、誰も茶化せないだろ。
――っていうか、陰口叩いてた連中にも見せてやりたい。いや、見てたはずなんだけどね。
それにしてもよく公爵家子息の婚約者に陰口なんて言えるよな、無謀すぎる。
本人たちは「婚約者に向けただけ」って思ってるかもしれないけど、公の場では公爵家令息と同等に扱うべき存在なんだぞ?命知らずにも程がある。
二人を見てたら、俺も恋人といちゃいちゃしたくなってきた。いや、恋人なんて居ないけど。
今日のパーティは俺みたいな奴にとっては婚活パーティでもあるんだし、いい人探しに行くべきなんだろう。
……でも、二人の世界があまりに眩しくて、微笑ましくて、目が離せない。
よし、今日は探すのやめだ。
俺の恋人は後でどうにでもなる。今日は二人を観察させてもらおう。
そう決めた瞬間、リュカリオ様はレオニス様と一緒にどこかへ行ってしまった。
おーい婚約者忘れてるぞ?って思ったけど、連れていけない事情があるのかもしれない。高貴な貴族様の事情なんて俺には分からんが。
……で、一人残された婚約者がぽつん。
あれ、ちょっと寂しそうだな。もしかして今俺が声かけたら仲良くなれるチャンスかも?でもリュカリオ様怖ぇんだよな……どうしよう。
「ねぇ、君がリュカリオ様の婚約者なの?」
葛藤してたら、誰かに先を越された。
しかもその声音、やたら棘がある。見ると、さっき陰口叩いてたやつの一人じゃないか。
……嫌な予感しかしないんだけど。
「あのさぁ、君みたいな子がリュカリオ様の婚約者とか分不相応なんだけど」
「そうそう、食い意地張ってるし、子供すぎてありえない」
「背も低いし、正直まだ子供じゃん?リュカリオ様には全くふさわしくない」
……あーあ。数も増えてきたし。
そう言ってるお前らだって、まだまだ“子供”だろ。なんならリュカリオ様も大人じゃないんだから子供のうちに入るぞ?
エイル君が何か言い返してるけど、ここからじゃ聞こえない!
近づいた方がいいか?いや、いっそ止めに入るべきか?そもそも俺が入ったところで止められるのか?
リュカリオ様、なんでこういう時に限って席外すんだよ……!早く戻ってきてあげてよ!
――バシャンッ。
エイル君の背中に、ぶどうジュースが派手にかかった。
うわ……衣装が台無しだ。
しかもよりによってぶどうジュース、あれ落ちないんだぞ!?いや違う、そうじゃない!流石にこれはやりすぎだろ!
「あーあ、せっかくの衣装なのに、これじゃリュカリオ様に会えないね」
「ははは、いい気味」
「そうだそうだ、このまま消えちゃえばいいのに」
「消えてしまえ、消えてしまえ!」
陰口は次第に声を荒げ、集団の悪意は輪になって彼を追い詰める。
……これは泣くだろ、普通。
俺も思わず拳を握った。
けど。
エイル君は泣かなかった。
むしろさらに笑みを深めて、ジュースをかけたやつに向かって何か言った。
……大人だ。いや、強い子だ。
さっきまで寂しそうにしてたのに、今は全然へこたれてない。
逆に煽っちゃったのか、相手は顔真っ赤にして拳を握った。
え、ちょ、殴る気!?エイル君吹っ飛ぶだろ!?
「っ、この……!」
振り上げられた拳。けど、エイル君はひらりとかわした。
次の瞬間、護衛たちが一斉に飛び込んできて場がざわめく。
「……はぁ、せっかくのお祝いの席なのに」
避けた拍子に、ぽつりと漏れた言葉が耳に入った。見た目通りの可愛らしい声。
その小さな背中が、やけに大きく見えた。
「エイルっ!大丈夫か!?」
ようやくリュカリオ様が駆け戻ってきた。
遅ぇよ!何やってたんだよリュカリオ様!
「うん、大丈夫」
リュカリオ様を確認した時の笑顔。安心しきった天使の笑顔。
きっと見惚れてしまったのは俺以外にも居たはずだ。
「でも……衣装が……」
「お前が無事ならそれでいい!」
「ちょっ、リュカリオ様っ」
ぎゅうっと抱きしめられ、恥ずかしがるエイル君。
あ、2人の周りに花が舞った。幻覚でもなんでもいい、舞った。
「ぁのっリュカリオ様、僕たちはリュカリオ様を思って……」
「ぁあ”?」
……空気が読めないにも程がある。
低い声と冷たい眼差しで睨まれて、全員凍りついた。
「エイル、帰ろう」
「え、でも……」
「ほら、行くぞ」
殿下に挨拶して、二人はそのまま会場を後にした。
……やっぱり、あの二人、どっからどう見てもお似合いだろ。
48
あなたにおすすめの小説
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる