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第2章 冒険者に必要なもの
頼れる旅の仲間
しおりを挟む僕は今、2人で焚き火を囲んで先程倒したダイアウルフの串焼きにかぶりついていた。
「おいしい!なにこれ美味しすぎる!」
そう言いながら食べる僕を熊獣人は可哀想な目で見てくる。
だって家を出てからずっと乾いた携帯食だったんだもん。そこら辺の木の棒をナイフでちょっと尖らせて肉を刺して塩を振って焼いただけのお肉がこんなに美味しいなんて!ぱちぱちと弾ける焚き火の火花の音、噛むとじゅわっと口いっぱいに広がる肉汁。今の僕にとってはものすごいご馳走様だ。
解体も思っていたよりすんなり出来たし。それも言葉はすごく汚かったけど、驚くほど丁寧に教えてくれた。血抜きの仕方、骨の外し方、筋の切り方、教えてくれるとおりに手を動かしただけなのに気がつけば目の前には肉の塊!丁寧で分かりやすかったお陰で、僕たちは今こうして肉にありつけているのだ。
もちろん火を起こしたのは僕だけどね。その火加減についても事細かに指導してきてちょっとうるさかった。でもこんな美味しい肉にありつけるならいくらだって火も着けるし、お肉も捌いちゃうよ!
「はぁ、美味しかった。ご馳走様」
僕は大きめの串肉を3つも平らげた。これ、兄上が居たら絶対に「食べ過ぎ」って注意が飛んでくる量だ。
「さて、腹も満たされたところで。ふぅ」
熊獣人が一息ついて僕に視線を合わせた。彼は僕が3本食べる間に倍の6本を食べてた。体も口も大きいから?
「なんでガキが1人であんな森の奥に居たんだ?どこの村出身だ?」
「迷いました。……僕の村はありません」
嘘は言ってない。迷ったのは本当だし、僕は村の出じゃないから僕の出身の村なんてものは存在しない。
じっと僕の目を見つめてくる熊獣人。その居住まいにどこか落ち着きが無くなってくる。
「……はぁ。そういえば魔物に襲われて滅んだ村が幾つかあったな」
え!?そんな村があるの!?
……王都って本当に"安全"で"平和"なんだな。あそこにいる限り魔物に怯えて暮らすなんて絶対に無いのに、王都を出たら魔物に襲われることもきっと平然と存在するんだ。
そう思った瞬間、先程のダイアウルフに襲われた恐怖が蘇えった。獣独特の臭い、牙や爪の鋭さ、僕の命を狙う貪欲な眼差し……それまでに魔物に出会わなかった幸運と彼が助けに入って来てくれた事に心から感謝した。
先程の魔物ーーダイアウルフ。彼にこの魔物を教えてもらった。でも、実は僕はこの魔物を知っていたんだ。本で何度も読んだことがあったから。でも、実際に襲われても、これがそのダイアウルフなんて全然思わなかった。
このお肉のことだってそうだ。僕は最初「魔物の肉を食べるなんて」って言ったけど、彼は豪快に笑いながら「何言ってんだ坊主。世の中に出回ってるお肉の大半が魔物の肉だ」と言われるまで、自分が今まで気にもとめずに食べてきていた"肉"について知ってることがほとんど無かったことに気がついた。
僕は正直勉強は出来る方だ。鍛錬もリュカ様にあと少しで追いつけそうと思うくらいには上達してると自負してる。魔術も魔法も同年代では追随を許さないくらいに得意だ。でも、僕は自分自身で生きる力が足りない。"生きていく力"が圧倒的に足りないんだと、今日この数時間で深く痛感した。
「……で?お前はこれからどうするんだ?」
僕がぐるぐる考え込んでいた顔を"嘘は言っていない"、"帰る場所がない"と判断したらしい。それならそれで好都合だ。バレて家に連れ戻さたら確実にリュカ様に軟禁されると思うし。
「ノルデンに行って冒険者になる」
そう、これは僕の夢。僕は決意とともに彼に告げた。
「いや、お前いくつだよ。冒険者登録まだ出来ねぇだろ?」
「……え?冒険者って年齢制限があるんですか?」
そんな知らない、聞いたことが無い。
「あー、まぁ、知るはずもないか。犯罪が横行したから12歳になってないやつは登録できねぇんだよ」
「な。……ぇ、そ、う、なんですか」
僕は今11歳。来月12歳になる。……それまで家からこっそり持ってきたお金になりそうなもの売って生活する?そもそも僕が、例え小さくても宝石売ったら問題にならない?僕の今の見た目はただの町の少年だ。最悪盗んできたと思われるかもしれない。
……詰んだ!
「……まぁポーションの礼もあるしな、ノルデンに連れて行ってやるよ」
「本当!?」
ノルデンにまで行ければ何とかなるかも!こんな森の中で1人置き去りにされても困っちゃうし、ノルデン迄でも彼が一緒に来てくれるならすごく安全だと思う!
「坊主、名前は?」
「エルです!」
本名だとバレて家に連れ戻されるかもしれない。だから道中ずっと考えてたんだ。どんな名前で冒険者登録しようかなって!
でも、やっぱり皆から「エイル」って呼ばれてた名前が好きだったのもあって1文字減らしただけになっちゃったけど、これはこれで気に入ってるんだ!
「"エル"か。俺はディアリウセリオスだ」
……今なんて?
「ディアリウセリオス」
「でぃりあ、……でぇりゅ、でいあお……」
「ディ・ア・リ・ウ・セ・リ・オ・ス!」
……3回も言ってもらったのに全然分かんないや、どうしよ。
「ディアりゅ……。ディアリュセオ……?」
「…………。"ディー"でいい。"ディー"だ。皆そう呼ぶ」
「じゃあ最初からそう言って下さいよ!」
ムスッと膨れる僕を見て、ディーは豪快に笑い出した。
「はっはっは!まぁ、こんなチビに俺の名前がスラスラっと言える訳ねぇって分かってたさ。ちょいと揶揄っただけだ。気にすんな!」
焚き火の炎に照らされるその笑顔は、さっきまで森で見せていた恐ろしい強さとは違って、不思議と温かかった。
こうして、僕と“ディー”のノルデン迄の旅が始まった。
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