小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
41 / 82
第2章 冒険者に必要なもの

口の悪い熊獣人

しおりを挟む

 目の前に立ちふさがるのは、先ほど遠吠えをした1匹を合わせて7匹のオオカミ型魔獣。
 牙を剥き、低い唸り声を響かせながら、じりじりと包囲してくる。

「ちっ……7匹か」

 前に立つ熊獣人が舌打ちをし、ちらりとこちらを振り返る。

「おい坊主、動けるか?」

「っ、はい!動けます!」

 慌てて返事をしたが、正直、立っているだけで精一杯だった。
 肩の傷は熱を帯びてずきずきと痛み、握った剣も震えている。

 ……動けるかって、逃げることを考えてるのかな?
 いや、相手は足の速い魔獣だ。7匹相手に逃げ切れるはずがない。

「しっかり立ってろ!剣を構えろ、隙を見せんな!」

 熊獣人の檄が飛ぶ。

「っ、はい!」

 そうだ。狙われているのは僕だ。
 奴らは熊獣人に意識を向けているが、時折、赤みを帯びた黄色い瞳がこちらを伺う。
 あの獣臭い視線は、僕を獲物から外してなどいない。
 倒れたら、すぐに引きずられていくだけだ。だから、気を抜いたらダメだ。

 必死に足に力を込め、剣を前へ突き出す。

「グルルルルゥ……」

 低い唸り声。狼たちが地を這うように間合いを詰めてくる。
 ……どうしよう。さっきの一撃は圧倒的だったけど、今は7匹が相手。大丈夫なんだろうか。

「ガルルルルゥッ!」

 1匹が飛び出した瞬間、群れ全体が一斉に熊獣人へ襲いかかる。

「うぉりゃあッ!」

 熊獣人は咆哮と共に、斧が横薙ぎに振り抜く。
 刃から迸った雷光が閃き、轟音を立てて獣たちを薙ぎ払った。

「ギャウッ!」
「キャンッ!」

 焼け焦げる臭いと悲鳴。
 次々と魔獣が弾き飛ばされるが、全てを薙ぎ払うには至らなかった。3匹が直撃を免れ、そのまま熊獣人に飛びかかる。

「坊主!気をつけろ、1匹抜けた!」

 その叫びに振り向くと、視界の端から雷撃をかすめた1匹がよろめきながら迫ってきていた。
 後ろ足は痺れているのか動きは鈍い。だが、牙の鋭さと僕を狙う目の鋭さは変わらない。

 胸が高鳴る。恐怖と同時に……ここで立たなきゃ、という決意が込み上げる。
 守られてばかりじゃ駄目だ。僕だって冒険者になるんだ。よろよろの一匹くらい、僕が仕留めてみせる。

「ガルルルゥッ!」

 泥を蹴立て、飛びかかってくる魔獣。
 焦ってはダメだ。牙が迫る瞬間まで引きつけて、そして

「うりゃあっ!」

 炎を纏わせた剣を突き上げた。
 肉を裂く感触。火が毛皮を伝い、魔獣の全身を包む。

「ギャアアアッ!」

 絶叫を上げて地面を転げ回る魔獣。肉の焼けこげる匂いが辺りを覆う。やがて炎が消えると、その体はぴくりとも動かなくなっていた。

「……やった……!」

 全身から力が抜け、泥にへたり込む。

「坊主、やるじゃねぇか」

 駆け寄ってきた熊獣人は、肩から血を流し、片足を引き摺っていた。

「っ、それ!」

 彼の背後には、さらに倒れた魔獣の影が8匹。
 ……さっきより数が増えてる。きっと途中で増援が来たのだ。

 僕の胸に罪悪感が広がる。僕が迷って森に入らなければ、彼がこんな怪我をすることもなかったのに。

「あ?こんなのかすり傷だ。まずは森を抜けるのが先だ」

 強がる声に反して、その顔は歪んでいる。無理もない。1人で3匹を相手にしたのだ。斧は小回りが利かないはず……相当苦戦しただろう。

 ……僕のせいだ。僕が森の奥に迷い込んだから。どうしよう。……そうだ!こんな時のためにポーションを持ってきたじゃないか!

 慌てて鞄から瓶を取り出すと、熊獣人の目が見開かれる。

「お前!そんな高価なものをっ」

「え?」

 ポーションって高価なの? 家には10本くらいあったけど……。
 でも、ここで渋って彼に傷跡が残ったら、僕の気持ちがいたたまれない。

 キュポン。

 蓋を開け、足の傷にかけようとしたけれど

「……量ってどれくらい?」

 適量が分からず聞いた僕に、熊獣人は一瞬ぽかんとした顔をした。

「ぁあ?もう貸せ!」

 そう言って瓶をひったくり、僕をぐっと引き寄せる。

「へ?」

 戸惑う間もなく、僕の肩の傷にポーションがかけられた。
 しゅわぁ、と淡い光が走り、じわじわと傷が塞がっていく。同時に痛みもすぅっと消えていった。

「おぉ……すごい……って違う!これはあなたのために」

「うるせぇ! 黙れ、このお人好しのくそガキが!」

 そう言って余ったポーションを自分の足と肩にかける。みるみるうちに塞がっていく傷口。

 この人、口は悪いけど、助けてくれるし、褒めてもくれるし、悪い人じゃないんだよね。今までこんな口の悪い人周りに居なかったからちょっとビビるけど。

「……これ、めちゃくちゃ上等なポーションじゃねぇか。どこで……」

 その時――

 ギィェェエエーッ!

 遠くで、鳥とも獣ともつかぬおどろおどろしい鳴き声が響いた。

「ちっ、続きは後だ。まずはここを離れるぞ」

 そう言って熊獣人は、倒した魔獣の一匹を肩に担ぎ、駆け出した。

「おい、チビ!ついてこい!」

「っ、はい!」

 必死で後を追う。大きな魔獣を担ぎながら、それでも僕より速い。それが悔しい。

 やがて、森の空気が変わった。
 木々の隙間から差す柔らかな日差し。愛らしい「チュンチュン」の鳥の鳴き声。小動物の駆ける音。
 脇には澄んだ小川が流れていた。

 ……川?

 熊獣人は川のほとりで魔獣をドサリと下ろす。

「よし、手伝え」

「え?あ、はい?」

 何を?と言う間もなく、ナイフが獣の体に突き立てられる。

「ぼさっと突っ立ってんな!解体を手伝え!」

「え!?解体!?やったことないです!」

「はぁ?そんなことも知らねぇでどう生きてきたんだ!……いい、教えてやる。来い!」

 そして僕は見知らぬ熊獣人に教えて貰いながら初めての魔獣の解体をしたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

処理中です...