小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第2章 冒険者に必要なもの

朝ごはん

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「朝飯にすっぞ」

「うん、でもダイアウルフ全部食べちゃったよ?」

 そう、朝ごはんにするのは良いけど、昨日のダイアウルフは全て食べきってしまっている。

 俺はまだ携帯食料持ってるけど、ディーは俺がそんなもの持ってるなんて知らないだろうし、どうするんだろう?

「現地調達だ!着いてこい」

 そう言って焚き火の火も消さずにずんずんと森に入っていった。




「おい、エル、こっちとこっちどっちが食えると思う?」

 そこまで奥に進まず、言って見せてきたのは俺にとってはただの草。
 ディーの右手に持っている草は先に向かって少し赤みがかった色をしてる細長い草。
 左手に持っているのは明るい緑色の茎から色が少し濃い緑色のトゲトゲの葉っぱが生えている草。

「……どっちも草じゃん」

「あ?どっちかは食えんだよ。おめぇも食ってるはずだ、さぁどっちだ」

 そんなこと言ったってどっちもただの草だよ。俺は薬草とか野草とかの勉強は全くしてないんだ、わかるわけが無い。

「うーんと」

 とりあえず悩むふりをしてみる。トゲトゲしたのは口の中で引っかかって痛そうだし、よし!

「こっちの細長いほう!」

「ばか、こっちは痺れ草だ。舌がピリピリするぞ。人によっては軽い呼吸困難を引き起こす。ま、死にはしねぇがな、ほら」

 そう言って俺が選んでしまった細長い草をグイッと突き出してきた。

「要らないよ!こんな怖い草!」

 つい受け取ってしまって慌てて振り落とす。

「おい、エル、ここ掘ってみろ」

 そんな俺の動作は意にも介さず木に巻き付く少し太めの蔓の根元を俺に指し示した。

「これ?この根っこを掘れって事?」

「あぁ、掘ってみろ」

「えぇ、俺素手なんだけど...…」

 手が汚れるのが嫌だったが、掘れというので掘る。これでまた毒だったら怒るぞ?

 固めの土を、手を土で汚しながら掘っていると、出てきたのは丸っこい芋。多分芋、どう見ても芋。

「芋だぁ、これ食べれるの?」

「あぁ、ふかすと美味い。ただ皮には毒があるからしっかり剥くこと」

「うん!」

 皮なんて向いたことないけどなんとかなるなる。だって平民は自分でご飯作ってるんでしょ?だったら俺にもできると思うし。

「さて、次は大事な肉だな」

「にく!……え、魔物狩るの?今?」

「んなわけねぇだろ。魔物じゃなくても肉は居る」

「"いる"って……??」

 俺が頭に?を浮かべていると少し先の木の枝を小さなリスが駆けて行った。

「リスじゃ小せぇな」

「っ!!」

「太った野ネズミか野うさぎか、キツネがいると昼まで持つんだがな」

「ぉ、ぉぅ」

 野ネズミなんて見たことないし、野?ウサギやキツネなんてペットだと思ってた。狩って食べるんだ……衝撃すぎて言葉も出ないや。

「おい、エルお前まさか狩った事もねぇのか?」

 言葉には出さず顔を上下にぶんぶん振った。

「はぁ、まじかよ。どこの良家の坊ちゃんだよ、まさか今まで食ってた肉が何かも知らなかったとか言うなよ」

「えっ、……」

 やば、"良家の坊ちゃん"の言葉と、実際に今まで食べてた肉が何の肉かなんて全く知らなかった事につい目を逸らしてしまった。

「……まじかよ」

 ディーのため息混じりの言葉に、"信じらんねぇ"という言葉が聞こえた気がした。

「よし、罠を仕掛けるぞ」

「りょーかい」

 罠なんて物語で読んだことはあっても実際に見るのは初めてだ。しかもきちんと獲物を狩るために仕掛けるんだ。すっごいワクワクしてきた。

 ディーは森の中を少し歩き回ると、ぴたりと立ち止まった。

「よし、ここだ」

 彼が選んだのは小さな獣道。獣が通った跡なのか、草が踏み倒されて細い筋のようになっている。

「見ろ、ここ。足跡が残ってるだろ」

「……あ、本当だ。小っちゃい足跡っぽいのが並んでる」

「野ネズミか、ウサギの足跡だな。こいつらは同じ道を何度も通る。そこを塞げば獲れる」

 そう言ってディーは腰の鞄から、しなやかな麻紐を取り出した。
 ナイフで手早く近くの若木の枝を切り、余分な小枝を削いでいく。その動きは慣れたもので、迷いが一切ない。

「まずはこの若木をバネ代わりにする。しなる若木は森にいくらでもある」

 ディーは力強くその若木に麻紐を括り付け、地面近くまで引き下げた。

「ここに輪を作って、踏んだら足がすっぽ抜ける仕組みだ」

 若木に結びつけた紐を器用に結んで輪っかを作った。
 その輪を獣道の真ん中に広げ、周囲の枯れ葉や草でさりげなく隠した。

「で、この小枝を"トリガー"にする」

 彼は地面にY字の枝を突き立て抜けないか確認した。輪っかを作った麻紐を小枝に軽く引っ掛ける。Y字の枝をストッパーにして小枝を引っ掛け、また枯葉や草木で隠す。
 一見しただけでは、そこに罠があるとは到底分からない。

「踏んだらどうなるの?」
「こうなる」

 ディーは人差し指で枝をちょんと押した。
 次の瞬間、若木がしなりを戻し、輪が勢いよく跳ね上がる。ぶんっ!という音と共に、空中で縄がぶら下がった。

「わっ!すごっ!小枝が外れると若木がしなって釣り上げられるんだ!」

「これで獲物の足を絡めて吊り上げる。小物なら一発だ」

 ディーは満足げに腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。
「いいか、エル。冒険者にとってロープとナイフは命綱だ。これを疎かにするやつは命も疎かにしている」

 俺は罠を見上げながら、ごくりと唾を飲み込んだ。

「ねぇ、ところでこの紐、動物の足に対して輪っかが大きくない?」

「これはすべり結びっつって、獲物がかかるとぎゅって絞られる結び方なんだ」

「え、なにそれ!すごい!」

「暴れれば暴れるだけ締め付けられる」

「俺も!俺にも教えて!」

「あぁ、他にも何ヶ所か仕掛けるから教えてやるよ」


 全部で5つ、罠を仕掛けた。
 俺が仕掛けたのは1つ。紐の結ぶのにももたついて、更にトリガーの小枝が上手く仕掛けられず、しかけた瞬間小枝が外れて縄が上がってしまったりして1個を仕掛けるのに大分時間が掛かってしまった。

 その間にディーは3つも仕掛けて最初のと合わせて4つ。俺は1つ。合わせて5つ。

「全部掛かるかな?どれくらいで掛かる?ここで見張るの?」

 矢継ぎ早の質問に、ディーは露骨にうるさそうな顔をした。

「うるせぇなぁ。あいつらは気配に敏感だ。待ってる間に川で水汲んだり、さっきに場所に戻って芋の下拵えするぞ」

「分かった!」

 いつかかるかな?何匹かかるかな?俺の仕掛けにかかってくれるかな。

 俺はワクワクしながら朝飯の準備に取り掛かった。
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