小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第2章 冒険者に必要なもの

"見習い"だけど

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 ギルドの扉を開けた瞬間、むわっと鼻を突いたのは酒と肉と汗が混ざった匂いだった。
 中では大声で笑う冒険者たち、酒杯を打ち鳴らす音、依頼票の貼られた掲示板の前で押し合う人々。俺は思わず立ち止まってしまった。

「うわぁ……これが、冒険者ギルド……!」

 目がキラキラしているのを自覚しながら呟くと、ディーに背中をぐいっと押された。

「突っ立ってんな。邪魔だ」

 俺は慌ててカウンターに向かう。そこに座っていたのは、髪をすっきりまとめた犬耳のお姉さん。にこやかだけど、どこか鋭い目をしていた。

「冒険者登録をお願いしますっ」

 俺は元気にお姉さんに告げた。

「はいはい、新規登録ね?──って、君」

 ペンを持ちかけたお姉さんの手が止まる。俺をじっと見て、苦笑混じりに眉を下げた。

「どう見ても見習いの年齢でしょ?嘘はダメだよ」

「えっ、そ、そんな……!俺もうすぐ12歳なんです!あとちょっとで登録年齢に届くから!大丈夫です!」

「“あとちょっと”は大丈夫じゃないの。それにそれも嘘でしょ。どう見たって10歳くらいでしょ」

「俺が小っちゃいのはそういう種族だから!猛禽類の中でも1、2を争う小型種族なの!」

「へぇ、猛禽類ねぇ。でもね、僕、嘘はダメだよ?お父さんかお母さん、お兄さんでもいいから冒険者業の保護者が居ないと登録はできません」

 お姉さんのつんとした言葉に、俺は項垂れるしかない。実年齢さえも疑われてる始末だし。

「俺は冒険者登録できます」

「できません」

 気を取り直してピシッと言ってみたけど一蹴された。むむ、ダメか。

「ホーンラビットなら討伐できる。冒険者できます」

「へぇ、小さいのにすごいね。でもダメです」

「むぐぐぐぐ、なんで!俺そんなに小さくないし!来月12歳だし!」

「だから嘘はダメだって。何も証明するものも無いんでしょう?そうやって無理に冒険者になって、みんな帰ってこなくなったんだから」

「俺そんな事にならないし!」

「そういう子程そうなるの。はい、大人しくおうちに帰りましょうね」

「むむむむっ」

 暫くお姉さんと無言の睨めっこをする。
 しかし一向にお姉さんは折れてくれない。

 その時、ばんっと机に紙が叩きつけられた。

「これ、頼む」

 ディーだ。
 ディーが机の上に依頼表を載せた。依頼表を覗き込むと討伐依頼。なんの討伐依頼だろ?ディーのでっかい手が邪魔をして見えない。

「ディーさん、確認しますね。少々お待ちください」

 お姉さんはディーが叩きつけた紙を持って奥に引っ込んでしまう。

「冒険者になるのも大変だな?」

 ディーがにやにやと俺を横目で見てくる。
 すごくその態度がムカつく!

「こんな筈じゃなかったの!」

「ディーさんお待たせしました」

 お姉さんが戻ってきて、ディーは受注の手続きを済ませてしまう。うぅ、悔しい。俺も、俺だって冒険者出来るのに。

「僕も早く帰りなさい」

 ディーが去った後、ついでのようにお姉さんに窘められる。

「俺も冒険者に」

「あのねぇ、出来ないものは出来ないの。自分で行かないなら実力行使に出るけど?」

 お姉さんはすごくいい笑顔なんだけどその笑顔の向こう側がすごく冷たくて怖い。

 仕方なく帰ろうとしたその時。

 ばん!っとまた机に紙が叩きつけられた。
 振り向くとまたディーが紙を叩きつけている。

「……はぁ。ったく仕方ねぇな。見習い用の登録用紙持ってきてくれ、それとこれ、こいつ用」

「え?え?」

 俺はにわかには信じられなかった。だってディーが持ってきた依頼書は薬草採取のものだし、「仕方ねぇな」って言って「登録用紙」……。

「え、嘘、ディー、良いの?」

 胸の内がじんわりと熱くなる。

 諦めろって言われると思ってた。突き放されると思ってた。だって最初にディーは「ノルデンまで」って言ってたし。

「1週間も数年も変わんねぇだろ」

 そう吐き捨てたディー。
 いや、それはかなり変わると思うけどとは思ったけど。でも、そんなことどうでもよかった。

 俺は嬉しさのあまりディーに飛びついていた。

「ふふ、良かったわね」

「うん!」

 お姉さんもさっきの怖い雰囲気が消えて優しい笑顔だ。
 持ってきてくれた登録用紙に記入して、ディーに渡す。

「ディー、書いて!」

 俺から受け取った用紙を見て眉間に皺を寄せ寄せて一言「字が気持ち悪ぃくらい綺麗だな」と呟いて味のある字で署名してくれた。

 そしてお姉さんに用紙を渡すのではなく俺に再度押し付けて「年齢サバ読むな」と言われた。

「読んでないよ!?俺がちっこいのは種族なんだって!ねぇ!?」

 ディーを見てもお姉さんを見ても首を横に振られる。俺は泣く泣く、実際に年齢のサバを読む羽目になった。

 受け取ったギルドカードは灰色で右上に"見習い"と赤字で目立つように書かれている。ディーのギルドカードは白だった。白もかっこいい。他にも黄色やオレンジなど様々な色があるらしい。ランクによって変わるんだって。

 登録名は「エル」。
 年齢欄は実年齢より2つも下。

 納得いかない部分もあるけど、俺の初めての冒険者カード。そして身分証。ディーに「さっさとしまえ」と言われるまで、俺は飽きずにギルドカードを眺めた。

「なぁなぁ、俺の薬草採取って何採るの?これから行くの?ディーの討伐依頼は何狩るの?」

 俺の薬草採取の受注は保護者であるディーがやってくれた。だから俺は実際に何を採れば良いのか知らない。それにディーの討伐依頼も気になる。何を狩るのかな。俺も一緒に討伐行けるかな?

 俺の矢継ぎ早の質問にディーは眉間に皺を寄せてため息を吐く。

「うるせぇ。いいから黙って着いてこい」

 そう言ってたどり着いたのはノルデンを出て少し行った先の森の入口。気がまばらに生えていて、太陽の日差しが気持ちいい。草木もそよ風になびいていてとても朗らかだ。

「お前の依頼はこれを採ること」

 そう言ってディーの足元に生えている葉が肉厚の薄い緑色の植物を示す。

「木の近くに生えてるやつは採るな。こうやって草の間に紛れて生えてるやつだ。色の濃いのは別の種類だ採るんじゃねぇぞ」

「なんで木の近くにはダメなの?」

「栄養が木に取られるからだ。効能が低くなる。根っこもなるべくちぎらねぇようにこうやって採るんだ」

 そう言って薬草に根っこの周りを指で掘る。第1関節ほど掘ったら根っこと茎の境目を引っ張るとスルッと抜けた。

「おぉ、簡単そう!」

「採れるだけ採れ。森の奥には入るな。食えそうなものも採っとけ、今日の夕飯だ」

「了解!ディーは?」

「俺のをこなしてくる。絶対ぇ森に入んなよ!ここら辺にいろ!」

 そう言って駆け足で森の中へと行ってしまった。

「そんなに言わなくても大丈夫なのに」

 ポツリと零すが、その言葉は誰にも届かない。

「っよぉし!採取するぞぉ!」

 気を取り直して声を出す。
 さっきディーガ採ってくれたのをお手本にして同じ薬草を探す。依頼書はディーが持って行ってしまったので結局この薬草が何なのか。どれくらい必要なのかが分からない。

 まぁ薬草だし、多くとっても無駄にはならないよね!そう思ってしゃがんで採取を探し始めた。




 (……ぃ。……ぃ、き……て……ん……ろ)

「誰?何か言った?」

 何かが聞こえた気がしてキョロキョロ見回してみたけど俺1人。時々風が森を抜けてくる音くらいしか聞こえない。

「?空耳かな」

 (聞こ……ぃ。助け……)

「ん?やっぱり何か聞こえるな?」

 聞こえるというか、頭に響いてくるような?でもそれは遠くて、なんだか水に沈んだようなくぐもった声ではっきりとは聞こえない。

「こっちかな?」

 なんとなくこっちに居そうと思って森に近づく。

 (聞こえ……ら、た……れ!)

 さっきより少しだけはっきりと聞こえる。けれどまだ何を言ってるのか分からない。

 この先は森だ。森には入るなってディーは言ってた。けれどこの声?は気になるし。もう少し近づけばはっきり聞こえるかも。
 ディーは討伐の依頼をこなしに行ったからまだ帰ってこないだろうし。

「よし、少しだけ、少しだけなら大丈夫」

 俺はディーの言いつけも守らずに、"ちょっとだけ"と言い訳をしながら森に入っていった。
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