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第2章 冒険者に必要なもの
ウーパールーパーもどき
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「こっちのような気がしたんだけど」
森の中は、異様なほど静かだった。
まだ日差しは明るい。木々の間から木漏れ日が差し込んでいる。
本来なら、小動物や鳥の鳴き声があるはずだ。
それがまるで、音を全部吸い取られたみたいに――何もない。
足元の花がやけに鮮やかに見えるのも、音がないせいかもしれない。
「でも、この先、なんかヤバそうな気がする」
動物の気配が無いだけでも異様なのに、この先の空気はもっと重い。
何があるのか分からないけど、“普通の森”じゃない。
「……でもなぁ、“助けて”って言われた気がしたし」
そう呟いた声が、森の静けさに沈んでいった。
それでも、確かに“何か”が俺を呼んでいる気がした。
「ちょっとだけ。ちょっとだけ行って何も無かったら戻ろう。うん、そうしよう」
ちょっとだけ、と言いながら奥に進む。
森の密度が濃くなり鬱蒼としてきた。
(この糸を切ってくれてくれ)
「ん?今めっちゃはっきり聞こえた。糸?」
よく見ると蜘蛛の巣が所々にかかっている。
蜘蛛の糸を切れって事かな?
試しに手近の糸を切ってみる。
ナイフに軽く火を纏わせて、焼き切る感じで糸を払った。
(ちげぇよ阿呆!俺が絡まってる糸を切れと言ったんだ)
「はぁ?なんで文句言われなくちゃいけないんだ。っていうかお前は誰だよ何処にいるんだよ!」
(もう少し先だ)
「そもそも絡まってるって事は捕まってるんじゃん。なら"お願いします、助けてください"じゃないの?」
(……)
なんか葛藤している雰囲気を感じる。
少し進むと大きな蜘蛛の巣があった。その右端に絡まってる、なんだあれ?生き物なのはわかるんだけど、それ以外が分からない。そもそも動物?魔獣?いや、なんか喋ってるし魔獣かな。
昔なにかの物語であんなの見たことがある。えーとなんだっけ?ウパーパー?違うな、えっと……。
「あ、思い出した!ウーパールーパーだ!色違うけど。こいつ土色だけど。しかもなんか汚いコウモリの羽みたいのがある」
そいつはじっと俺を見つめてきた。
さっきまでうるさいくらいだったのにどうしたんだろう?
口を開いたり、閉じたり。何がしたいんだ?
(っ、お願いします!助けてください!!)
「ぅわっ、うるさい!」
意を決して言ったのだろう。いきなり頭に響いた大声についびっくりしてしまう。
まぁ、そう言えって言ったのは俺だし。仕方ない助けてやるか。
「……助けたあと、俺襲われたりしないよな?」
(しねぇよ!そこまで自分勝手じゃねぇよ)
「はいはい、じゃぁちょっとじっとしてて」
そう言ってまたナイフに炎を纏わせて近づけると、ペロンと土色ウーパールーパーは俺の炎を舐めた。……舐めた?舐めたの?なんで?
(おぃ、早くしてくれ)
「あ、うん」
見間違いと思うことにした。
糸に捕まってから暴れたのか、沢山の糸が体に巻きついていた。それも綺麗に剥がしてやる。
(ちっ、もう来ちまったか)
俺の周りを飛びながら自身を確認していると急に森の奥に向かって鋭い目を向け始めた。
俺も同じように森の奥に視線を向ける。なんだか、なんだろう?あそこだけ空気が重い?
(おぃ、もっと俺に魔力をよこせ。さっきみたいにナイフに炎を纏わせろ)
「え、ええ??」
いきなり何を言い出すんだこいつ。魔力?なんで俺がお前に?
(いいから早くしろ!)
「ああもう!わかったよ!」
あまりの気迫に咄嗟にナイフに炎を纏わせた。
それをこいつは吸った。吸ったというか、食べた?この奇妙な生き物がナイフに近づいて、その口に炎が吸い込まれていった。
(まぁあいつくらいなら充分だろ)
ずん
一気に森の空気が重くなった。咄嗟に目をやると、そこには見たこともない程の大きさの蜘蛛がいた。俺の身長くらいか?それよりも大きいかも。
そんな巨体に目が8つ。不気味な瞳が俺たちを"獲物"として見据えている。
「な、なにあれ...…」
(モーラ・タランチュラだ。糸が見えずらい癖に粘着力が酷くて厄介なやつ)
「え、俺無理なんだけど」
件を構えて炎を纏わせる。虫だから、火で対抗できるはず、という俺の安易な考えだけど。
(そうだ、あいつらは火が弱点だ。俺がちゃちゃっと倒してきてやるからお前はそれで防御でもしてろ)
「ぃや、ちょっと待っ、」
言い終わる前に、そいつは空を蹴った。
その瞬間、空気が爆ぜた。
モーラ・タランチュラが咆哮を上げ、無数の糸を吐き出す。
だが、糸は宙に浮かぶ前に燃えた。
炎が道を描くように走り、蜘蛛の巣を一瞬で灰に変える。
「な、なんだそれ……!」
炎を纏ったアレクが、一直線にモーラ・タランチュラへ突っ込む。
巨蜘蛛が脚を振り上げるが、その脚も焼かれるように崩れ落ちる。
そして――
ドンッ!
爆ぜるような音と共に、森の奥が一瞬、光の中にいるかのように明るくなった。
炎が蜘蛛を包み込み、黒焦げの塊が倒れる。
焦げた臭いと、熱風。
やがて静寂。
(……ふん、下等生物が)
アレクは土煙の中からぬるりと戻ってきて、翼を畳んだ。
その姿は、どう見ても“助けられた側”には見えなかった。
「えぇぇ、強すぎる」
でもそうか。確かにあいつみたいに丸焦げにしちゃえばね。……でも、森を燃やさずに出来るかな。
手の平に火を出してみる。
うーん、今のままじゃ対象物だけってのは無理そうだ、練習したら出来るかな。
ふわっとウーパールーパーもどきが飛んできて俺の火をパクリと食べる。
「……うまい?」
「あぁ、このでっかい蜘蛛より何万倍もな」
味あるの?あそこの丸焦げの蜘蛛もいつの間に食べたんだ?って、あれ、気が付けば……
「……お前喋ってる?」
「まぁな。お前から魔力貰ったら喋れるようになった。おい、俺様に名前を付けろ」
「なんでそう上から目線なんだよ。名前くらいあるだろ」
「あったけど忘れた。お前から新たな名前が欲しい」
「はぁ~?意味わかんない」
そう言って空を見上げるとそこはもう夕焼け……。綺麗なオレンジ色の空色をしていた。
「っあ!やばい!戻らないと!」
思っていたより時間が経っていたみたいだ。薬草を摘んでいた時は夕方なんてまだまだ遠かった。
そういえば手に持ってた薬草も何処にいったんだ!?慌てて辺りを見渡すけど落ちてるはずもなく。
「何やってんだお前」
ウーパールーパーもどきが俺の動作にため息を吐くが、そんなことに構っていられない。
ディーの「絶対に森に入るな」という言葉が頭を反芻する。
いや、ディーが戻る前に戻ればまだ間に合う!そして薬草を摘み直せば大丈夫!急いで戻れば間に合うはず!
慌てて森を出ようと踵を返す。
大丈夫、急げば間に合う!
そう思って駆け足で森を出ようと急ぐ。
しかし、もうすぐ森を抜けるところで異様な雰囲気のディーが腕を組んで俺を待っていた。
逆光になっていてその表情は分からない。けれど、雰囲気が、その佇まいが先程のタランチュラとはまた別の恐ろしさを醸し出していた。
森の中は、異様なほど静かだった。
まだ日差しは明るい。木々の間から木漏れ日が差し込んでいる。
本来なら、小動物や鳥の鳴き声があるはずだ。
それがまるで、音を全部吸い取られたみたいに――何もない。
足元の花がやけに鮮やかに見えるのも、音がないせいかもしれない。
「でも、この先、なんかヤバそうな気がする」
動物の気配が無いだけでも異様なのに、この先の空気はもっと重い。
何があるのか分からないけど、“普通の森”じゃない。
「……でもなぁ、“助けて”って言われた気がしたし」
そう呟いた声が、森の静けさに沈んでいった。
それでも、確かに“何か”が俺を呼んでいる気がした。
「ちょっとだけ。ちょっとだけ行って何も無かったら戻ろう。うん、そうしよう」
ちょっとだけ、と言いながら奥に進む。
森の密度が濃くなり鬱蒼としてきた。
(この糸を切ってくれてくれ)
「ん?今めっちゃはっきり聞こえた。糸?」
よく見ると蜘蛛の巣が所々にかかっている。
蜘蛛の糸を切れって事かな?
試しに手近の糸を切ってみる。
ナイフに軽く火を纏わせて、焼き切る感じで糸を払った。
(ちげぇよ阿呆!俺が絡まってる糸を切れと言ったんだ)
「はぁ?なんで文句言われなくちゃいけないんだ。っていうかお前は誰だよ何処にいるんだよ!」
(もう少し先だ)
「そもそも絡まってるって事は捕まってるんじゃん。なら"お願いします、助けてください"じゃないの?」
(……)
なんか葛藤している雰囲気を感じる。
少し進むと大きな蜘蛛の巣があった。その右端に絡まってる、なんだあれ?生き物なのはわかるんだけど、それ以外が分からない。そもそも動物?魔獣?いや、なんか喋ってるし魔獣かな。
昔なにかの物語であんなの見たことがある。えーとなんだっけ?ウパーパー?違うな、えっと……。
「あ、思い出した!ウーパールーパーだ!色違うけど。こいつ土色だけど。しかもなんか汚いコウモリの羽みたいのがある」
そいつはじっと俺を見つめてきた。
さっきまでうるさいくらいだったのにどうしたんだろう?
口を開いたり、閉じたり。何がしたいんだ?
(っ、お願いします!助けてください!!)
「ぅわっ、うるさい!」
意を決して言ったのだろう。いきなり頭に響いた大声についびっくりしてしまう。
まぁ、そう言えって言ったのは俺だし。仕方ない助けてやるか。
「……助けたあと、俺襲われたりしないよな?」
(しねぇよ!そこまで自分勝手じゃねぇよ)
「はいはい、じゃぁちょっとじっとしてて」
そう言ってまたナイフに炎を纏わせて近づけると、ペロンと土色ウーパールーパーは俺の炎を舐めた。……舐めた?舐めたの?なんで?
(おぃ、早くしてくれ)
「あ、うん」
見間違いと思うことにした。
糸に捕まってから暴れたのか、沢山の糸が体に巻きついていた。それも綺麗に剥がしてやる。
(ちっ、もう来ちまったか)
俺の周りを飛びながら自身を確認していると急に森の奥に向かって鋭い目を向け始めた。
俺も同じように森の奥に視線を向ける。なんだか、なんだろう?あそこだけ空気が重い?
(おぃ、もっと俺に魔力をよこせ。さっきみたいにナイフに炎を纏わせろ)
「え、ええ??」
いきなり何を言い出すんだこいつ。魔力?なんで俺がお前に?
(いいから早くしろ!)
「ああもう!わかったよ!」
あまりの気迫に咄嗟にナイフに炎を纏わせた。
それをこいつは吸った。吸ったというか、食べた?この奇妙な生き物がナイフに近づいて、その口に炎が吸い込まれていった。
(まぁあいつくらいなら充分だろ)
ずん
一気に森の空気が重くなった。咄嗟に目をやると、そこには見たこともない程の大きさの蜘蛛がいた。俺の身長くらいか?それよりも大きいかも。
そんな巨体に目が8つ。不気味な瞳が俺たちを"獲物"として見据えている。
「な、なにあれ...…」
(モーラ・タランチュラだ。糸が見えずらい癖に粘着力が酷くて厄介なやつ)
「え、俺無理なんだけど」
件を構えて炎を纏わせる。虫だから、火で対抗できるはず、という俺の安易な考えだけど。
(そうだ、あいつらは火が弱点だ。俺がちゃちゃっと倒してきてやるからお前はそれで防御でもしてろ)
「ぃや、ちょっと待っ、」
言い終わる前に、そいつは空を蹴った。
その瞬間、空気が爆ぜた。
モーラ・タランチュラが咆哮を上げ、無数の糸を吐き出す。
だが、糸は宙に浮かぶ前に燃えた。
炎が道を描くように走り、蜘蛛の巣を一瞬で灰に変える。
「な、なんだそれ……!」
炎を纏ったアレクが、一直線にモーラ・タランチュラへ突っ込む。
巨蜘蛛が脚を振り上げるが、その脚も焼かれるように崩れ落ちる。
そして――
ドンッ!
爆ぜるような音と共に、森の奥が一瞬、光の中にいるかのように明るくなった。
炎が蜘蛛を包み込み、黒焦げの塊が倒れる。
焦げた臭いと、熱風。
やがて静寂。
(……ふん、下等生物が)
アレクは土煙の中からぬるりと戻ってきて、翼を畳んだ。
その姿は、どう見ても“助けられた側”には見えなかった。
「えぇぇ、強すぎる」
でもそうか。確かにあいつみたいに丸焦げにしちゃえばね。……でも、森を燃やさずに出来るかな。
手の平に火を出してみる。
うーん、今のままじゃ対象物だけってのは無理そうだ、練習したら出来るかな。
ふわっとウーパールーパーもどきが飛んできて俺の火をパクリと食べる。
「……うまい?」
「あぁ、このでっかい蜘蛛より何万倍もな」
味あるの?あそこの丸焦げの蜘蛛もいつの間に食べたんだ?って、あれ、気が付けば……
「……お前喋ってる?」
「まぁな。お前から魔力貰ったら喋れるようになった。おい、俺様に名前を付けろ」
「なんでそう上から目線なんだよ。名前くらいあるだろ」
「あったけど忘れた。お前から新たな名前が欲しい」
「はぁ~?意味わかんない」
そう言って空を見上げるとそこはもう夕焼け……。綺麗なオレンジ色の空色をしていた。
「っあ!やばい!戻らないと!」
思っていたより時間が経っていたみたいだ。薬草を摘んでいた時は夕方なんてまだまだ遠かった。
そういえば手に持ってた薬草も何処にいったんだ!?慌てて辺りを見渡すけど落ちてるはずもなく。
「何やってんだお前」
ウーパールーパーもどきが俺の動作にため息を吐くが、そんなことに構っていられない。
ディーの「絶対に森に入るな」という言葉が頭を反芻する。
いや、ディーが戻る前に戻ればまだ間に合う!そして薬草を摘み直せば大丈夫!急いで戻れば間に合うはず!
慌てて森を出ようと踵を返す。
大丈夫、急げば間に合う!
そう思って駆け足で森を出ようと急ぐ。
しかし、もうすぐ森を抜けるところで異様な雰囲気のディーが腕を組んで俺を待っていた。
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