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第3章 強くなるために
特別依頼 *ディー視点
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ギルドの扉をくぐった瞬間、ざわついた空気が肌に刺さった。
依頼板の前には人だかり。視界の端にはこの時間には滅多に居ない冒険者たち。
「群れだってよ」
「群れって言っても普通の群れの数じゃねぇ」
「しかも街道沿いだぞ」
「これは特別依頼じゃねぇか?」
耳をそばだてながら、「仕方ねぇな、カウンター行くか」とぼそっと呟いてまっすぐカウンターを目指す。エルは依頼板を見ようと首を伸ばして頑張ってるが、アイツは背が低いから無理だろ。ピンと伸びた耳の先に生えてる産毛まで必死に背伸びしてるみたいで愉快だな。
「なぁ、"特別依頼"ってなんだ?」
慌てて俺に着いてきたエルが疑問を口にする。そういえばエルがギルドに来るようになってから特別依頼は無かったっけか。
「ちょっと厄介な依頼で、普通は組まねぇんだが、別の冒険者同士で組んで依頼をしたりだとか、ちょっと変わったヤツ」
「へぇ」
簡単に説明しただけだが、エルは納得のいった顔をした。やっぱり理解力はある。
「あ!ディーさんお待ちしていました!依頼板見ていただけましたか?」
カウンターに着いた途端に待ってましたと声をかけられた。はぁ、嫌な予感しかしない。
「あんな人だかりじゃ見れねぇ」
「ですよね、すみません」
ぶっきらぼうに答えたのに律儀に謝ってくるあたり、受付も大変だな。隣でワクワクしてるエルに申し訳なさそうな顔を向けてから、キリッと切り替えて俺に向き直った。
「街道沿いにヴェノムタランチュラが大量に出てしまって、ディーさんとあちらにいらっしゃる冒険者達と討伐してきて欲しいのです」
犬耳お姉さんが手で示した先には酒場の席に座ってる冒険者4名。……やっぱりか。あいつらがこの時間に居ることがそもそもおかしいんだ。
「わぁ、ディーすごい!これさっき言ってた"特別依頼"だよな?」
「お前は留守番」
「え、なんで」
なんでって、こっちなんで一緒に着いてこれると思ってたのかが不思議なんだが。
「ごめんね、エルくんには危なすぎて同行の許可は出せないわ」
俺の代わりに受付が答えてくれる。
「なんでぇ?俺だってダイアウルフ2匹も討伐したし、最近はディーとの組手で避けられる事も増えてきたのにぃ!」
「相手はヴェノムタランチュラだ。ダイアウルフとは訳が違う。タランチュラは群れで動かないはずだが、まだ幼体か?」
エルに言い聞かせるように言ったが、タランチュラは基本群れない。群れるとしたら幼体の時だけだ。弱くても、襲われた時に沢山いたらその分逃げ切れる確率が高いからな。
「そのようです。群れの中で共食いもしてるようですが、なにぶん数が多くて、受けていただけますか?」
なるほど。街道沿いだし、俺とあいつらなら無事に終えれるって事だな。
「ああ、分かった。今からだな」
「はい、ありがとうございます」
犬耳お姉さんが片手をあげると、先程の冒険者がぞろぞろと集まってくる。「ディー、久しぶりだな」「あぁ、今日は頼む」「それはこっちのセリフでもある」軽く言葉を交わしてギルドを後にしようとする。
エルの納得いかないっていう顔が見えた。勝手に着いてこられても困るし「ここで待ってろ」と、他の冒険者にも聞こえるように言ってから出てきた。
「それにしてもお前が誰かの保護者やるなんて驚きだなぁ」
今日組んだ冒険者の1人から声がかかる。ずっとノルデンで冒険者をしているヤツだ。名前は……なんだったかな。B級冒険者なのは覚えているが、こうやってたまにしか関わらないから覚えてねぇや。
「ただの気まぐれだ」
そう、ただの気まぐれ。なんだか放っておけなくて、何となく一緒にいてやってもいいかなと思った、本当に気まぐれでなってやっただけだ。
「でもさすがディーさん見る目ありますね!だって見習いなのにダイアウルフ倒したんでしょ!?中々居ないっすよね!彼すごいですよ!」
別の冒険者が言った言葉には、正直俺も驚いた。ダイアウルフなんて倒せないとは思っていた。倒せたとしても大怪我を負うと思っていた。1度襲われてたし、恐怖に足がすくむと思っていた。ところが怪我なんて爪が腹にかすったくらいで、自分でギルドまで走って行っちまうんだから。まぁ、落ち着きがないところはまだまだガキだけど。
最近の組手でも、きちんと目で追えるようになってきた。避けることも増えてきた。体が動けるようになってきたからだ。……成長が早いのは、種族のせいか、まだまだガキだからなのか、それとも素質なのか。近いうちに剣を使った稽古も始めないといけないな。……しかし俺の獲物は斧だ。教えられることは少ない。あいつに斧は無理だろうしなぁ。
「おっと、無駄話もここまでだ。そろそろ着くぞ」
この中で一番の年長者が口を開く。
先程から森の雰囲気が湿ってジメジメした薄暗い感じに変わって、まだ昼前だというのに、異様なほど静かだった。
「俺が先行して見てきます」
若くて身軽なやつが小走りで奥に向かう。さっきエルのことを褒めてたやつだ。俺たちは無言でゆっくりと奥に進む。皆自然と手には獲物を持ち始めていた。
慎重に歩を進めると、前方から先程の若者が戻ってきた。表情は浮かばない。
「あの、居たんですけど。その、幼体、と言うには大きくて、群れてるから成体ではないんでしょうけど、ちょっと思ったよりもかなり厄介かも知れません。数は数えられるだけでも20は超えてました。奥にまだいる可能性は大きいです」
「イディア!後ろ!」
誰かが彼に叫んだ瞬間、後ろから毒糸が飛んでくる。彼は咄嗟に避けて糸を剣で切った。
「すいません!つけられてた!」
気がつけば囲まれていて、一気に場が戦場に変わる。
俺らは自然と円陣になり、飛びかかって来るヴェノムタランチュラの相手をする他なかった。
依頼板の前には人だかり。視界の端にはこの時間には滅多に居ない冒険者たち。
「群れだってよ」
「群れって言っても普通の群れの数じゃねぇ」
「しかも街道沿いだぞ」
「これは特別依頼じゃねぇか?」
耳をそばだてながら、「仕方ねぇな、カウンター行くか」とぼそっと呟いてまっすぐカウンターを目指す。エルは依頼板を見ようと首を伸ばして頑張ってるが、アイツは背が低いから無理だろ。ピンと伸びた耳の先に生えてる産毛まで必死に背伸びしてるみたいで愉快だな。
「なぁ、"特別依頼"ってなんだ?」
慌てて俺に着いてきたエルが疑問を口にする。そういえばエルがギルドに来るようになってから特別依頼は無かったっけか。
「ちょっと厄介な依頼で、普通は組まねぇんだが、別の冒険者同士で組んで依頼をしたりだとか、ちょっと変わったヤツ」
「へぇ」
簡単に説明しただけだが、エルは納得のいった顔をした。やっぱり理解力はある。
「あ!ディーさんお待ちしていました!依頼板見ていただけましたか?」
カウンターに着いた途端に待ってましたと声をかけられた。はぁ、嫌な予感しかしない。
「あんな人だかりじゃ見れねぇ」
「ですよね、すみません」
ぶっきらぼうに答えたのに律儀に謝ってくるあたり、受付も大変だな。隣でワクワクしてるエルに申し訳なさそうな顔を向けてから、キリッと切り替えて俺に向き直った。
「街道沿いにヴェノムタランチュラが大量に出てしまって、ディーさんとあちらにいらっしゃる冒険者達と討伐してきて欲しいのです」
犬耳お姉さんが手で示した先には酒場の席に座ってる冒険者4名。……やっぱりか。あいつらがこの時間に居ることがそもそもおかしいんだ。
「わぁ、ディーすごい!これさっき言ってた"特別依頼"だよな?」
「お前は留守番」
「え、なんで」
なんでって、こっちなんで一緒に着いてこれると思ってたのかが不思議なんだが。
「ごめんね、エルくんには危なすぎて同行の許可は出せないわ」
俺の代わりに受付が答えてくれる。
「なんでぇ?俺だってダイアウルフ2匹も討伐したし、最近はディーとの組手で避けられる事も増えてきたのにぃ!」
「相手はヴェノムタランチュラだ。ダイアウルフとは訳が違う。タランチュラは群れで動かないはずだが、まだ幼体か?」
エルに言い聞かせるように言ったが、タランチュラは基本群れない。群れるとしたら幼体の時だけだ。弱くても、襲われた時に沢山いたらその分逃げ切れる確率が高いからな。
「そのようです。群れの中で共食いもしてるようですが、なにぶん数が多くて、受けていただけますか?」
なるほど。街道沿いだし、俺とあいつらなら無事に終えれるって事だな。
「ああ、分かった。今からだな」
「はい、ありがとうございます」
犬耳お姉さんが片手をあげると、先程の冒険者がぞろぞろと集まってくる。「ディー、久しぶりだな」「あぁ、今日は頼む」「それはこっちのセリフでもある」軽く言葉を交わしてギルドを後にしようとする。
エルの納得いかないっていう顔が見えた。勝手に着いてこられても困るし「ここで待ってろ」と、他の冒険者にも聞こえるように言ってから出てきた。
「それにしてもお前が誰かの保護者やるなんて驚きだなぁ」
今日組んだ冒険者の1人から声がかかる。ずっとノルデンで冒険者をしているヤツだ。名前は……なんだったかな。B級冒険者なのは覚えているが、こうやってたまにしか関わらないから覚えてねぇや。
「ただの気まぐれだ」
そう、ただの気まぐれ。なんだか放っておけなくて、何となく一緒にいてやってもいいかなと思った、本当に気まぐれでなってやっただけだ。
「でもさすがディーさん見る目ありますね!だって見習いなのにダイアウルフ倒したんでしょ!?中々居ないっすよね!彼すごいですよ!」
別の冒険者が言った言葉には、正直俺も驚いた。ダイアウルフなんて倒せないとは思っていた。倒せたとしても大怪我を負うと思っていた。1度襲われてたし、恐怖に足がすくむと思っていた。ところが怪我なんて爪が腹にかすったくらいで、自分でギルドまで走って行っちまうんだから。まぁ、落ち着きがないところはまだまだガキだけど。
最近の組手でも、きちんと目で追えるようになってきた。避けることも増えてきた。体が動けるようになってきたからだ。……成長が早いのは、種族のせいか、まだまだガキだからなのか、それとも素質なのか。近いうちに剣を使った稽古も始めないといけないな。……しかし俺の獲物は斧だ。教えられることは少ない。あいつに斧は無理だろうしなぁ。
「おっと、無駄話もここまでだ。そろそろ着くぞ」
この中で一番の年長者が口を開く。
先程から森の雰囲気が湿ってジメジメした薄暗い感じに変わって、まだ昼前だというのに、異様なほど静かだった。
「俺が先行して見てきます」
若くて身軽なやつが小走りで奥に向かう。さっきエルのことを褒めてたやつだ。俺たちは無言でゆっくりと奥に進む。皆自然と手には獲物を持ち始めていた。
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「あの、居たんですけど。その、幼体、と言うには大きくて、群れてるから成体ではないんでしょうけど、ちょっと思ったよりもかなり厄介かも知れません。数は数えられるだけでも20は超えてました。奥にまだいる可能性は大きいです」
「イディア!後ろ!」
誰かが彼に叫んだ瞬間、後ろから毒糸が飛んでくる。彼は咄嗟に避けて糸を剣で切った。
「すいません!つけられてた!」
気がつけば囲まれていて、一気に場が戦場に変わる。
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