小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第3章 強くなるために

B級冒険者の先生

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 なんで俺がこんなに怒られなくちゃいけないんだ。

 勝手について行ったのはアレクなのに。
 "主人"だからって、いちいち行動なんか把握してられないっての。俺の依頼の時だってすぐどっか行っちゃうのに。

 要するに、納得がいかない。
 いつもはアレクが「探索してくる」ってぴゃーっと森の奥に行っちゃう時は何も言ってこなかった癖に、なんで今回だけこんなにも言われなくちゃいけないんだ。

 アレクはアレクで「俺が居たから怪我もなく終わったんだろ」ってドヤ顔してるのに、ディーは「そういう事じゃない」って言うし。

 もうわっけわかんねぇ。

 イラッとして夕飯食いまくったら腹痛くなるし、もう……もう!

 しかもアレクはまた俺のベッドの真ん中占領してるし。もう、毎日毎日毎回毎回端っこに移動させるのめんどくさい!上に倒れ込んでやろうか。

 とは思いつつ、アレクが潰れちゃったら嫌なので毎回律儀に移動させる俺、優しすぎない?



 ・
 ・
 ・



 あれから半年が過ぎて、新しい鍛錬が始まった。剣の鍛錬だ。ディーが使ってるのは斧で剣は教えられないという事で新しい冒険者の先生を紹介された。綺麗なホワイトゴールドで長毛種の犬獣人だ。

「はじめまして。俺はB級冒険者のイディアです。よろしく」

「エルです!よろしくお願いします!」

 差し出された手を取って上下にぶんぶん振ったら笑われた。

「ふふ、待ってワンコみたい。ディーが保護者って怖くない?今からでも俺にする?」

 え?何言ってんだこの人。

「俺、ツミだし。犬じゃないし、猛禽類だし。それにディーは全然怖くないよ?ディーから離れるつもりはないし」

「えぇ、速攻振られたんだけど。ディーは無口で顔が怖くて、言うことも厳しくて優しさがないってギルドでは有名だから」

「そんな事ないと思うけどな、あ」

 ぬっとイディアの後ろに影が現れたと思ったら

 ゴンっ
「あいたっ」

 イディアの頭に拳が落ちる音と声が聞こえた。

「無駄口叩いてねぇで早く始めろ」

 ディーがムスッとした表情で告げる。
 でも俺には何となくわかる。耳の毛が微妙に膨らんでて、多分照れ隠し、なんだよな。

 くふっとわらいそうになるのを必死で堪える。ここで俺が笑っちゃったら俺も巻き添え食らっちゃうからね。

「ね?怖いでしょ?」

「え」

 いや、それはイディアが余計な事言うからじゃない?

「よっし、じゃあ気を取り直して始めようか」

「はいっ」

 はじめは何をするんだろう?素振り?打ち込み?ワクワクしながらイディアの言葉を待つ。

「あ、もうなんかそのキラキラ感眩しい」

「え?」

「じゃあまず俺を倒すつもりで全力で挑んできて?」

 倒すつもりで?全力で?

「俺の剣で良いの?全力で?魔術は?」

「魔術はとりあえず無し。実力を知るには全力が1番」

 なるほど?全力って本当に良いのかな?
 ちらっとディーを伺うとうんと頷いたので言われた通り全力で挑むことにした。

 剣を抜く前から地面を蹴って駆け出す、イディアの右脇腹から肩にかけて切り裂くイメージで駆けながら抜いていた剣を両手で振る。

 イディアはそれを剣も抜かずにひょいっと後方に避ける。

「うん、いいね、早い」

 ーー"ヒト"は魔物や魔獣と違って痛覚が鋭い。足を狙わなくてもある程度怪我を負わせれば自然と動くが鈍くなってくるから、外さない所を狙え。
 これもディーの教え。そんな事を聞いていたから狙いやすい胴体を狙った。難なく躱されちゃったけど。

 後方に避けられた所をすぐさま詰めて2撃目を放つ。次は腹に指すようにぐっと突き出すが、これも難なく躱される。体をひねるように避けられて、後ろを取られる。

 来る

 そう思った瞬間、地面に体を転がして一撃を避ける。

「え、今の避けるの?すごいね!」

 いや待って。イディア、まだ剣を抜いてないんだけど。剣も抜かずにひょいひょい避けられてるのが悔しい。

 くそ、何としても剣くらい抜かせてやる。

 俺の強みはスピードだ!

 間髪入れずに次の一撃、また避けられて次の一撃、偶に反撃が来る。それをギリギリで避ける。そしてまた一撃、たまに反撃食らって、、、の繰り返し。

 そのうち剣を持ってる手首を蹴り挙げられ、俺の剣が弾かれて飛んだ。

「はーい、しゅーりょー」

 からん

 少し離れたところで俺の剣が落ちる音がやけに大きく響いた。結局剣を抜かせる事は出来なかった。

「はぁ、はぁ、ありがとう、ございました」

「おつかれ。とりあえずねぇ、うーん、なんか習ってた?剣の動きが型にはまってるっていうかねぇ、なんかかたいんだよね。避けたり突っ込んで来るのは反応が早くてすごくいい、けどそれに比べて攻撃がかたい。避けられた瞬間次の攻撃に移っていいんだよ。最後まで待つ時間が勿体ないよ?」

「あ、はい」

 息切れしてる中でいっぺんに色々言われてよく分かんなかった。動きが硬い?

「えと?……おれ、動き、かたい、です?」

「んっとねぇ、なんっていうかな。まず最初の一撃。俺が避けてからも剣を振ってたでしょ?当たらないって思ったら振り続けるんじゃなくてそのまま、突きに移行したりだとか」

「あ~、なるほどぉ」

 そうかも!確かに俺、避けられたって分かっても剣を最後まで振り抜いてた!そっか、その時点で次の攻撃に、かぁ、なるほど。

 俺が一人でうんうん頷いているとイディアは満足と言った顔で俺の頭をぽんぽん撫でる。

「理解できたら次は体で覚えるように、だな」

「はいっ、くしゅ」

 汗が冷えてきたみたい。気がつけば夕方で冷たい風が吹いてきていて、くしゃみが出た。

「まだまだ寒いから風邪ひかないようにな」

「うん。次は絶対剣を使わせる」

「おぅ、頑張れ~」

 この無理だろっていう態度。ムカつく!絶対次は剣を使わせてやる。

 剣を拾いながら奮起する俺をよそに、ディーが話しかける。

「イディア、飯は?」

「奢ってくれるなら行く」

「しゃーねー」

「あざっす」

 こうして3人で飯を食いに行くことになった。
 そしてイディアは酒が入ると面倒くさかった。

 彼女ができない、彼女が欲しい、と。
 挙げ句の果てに周りが所帯持ちになっていくのに、と泣き始めてしまった。結構若いかなぁと思っていたけどそうでもないっぽいのかな。いや、でも20半ばで行き遅れって言われる種族もあるし分からないなぁ。

 ディーが席を立った時にコソッと「意外とディーさんモテるんすよ」って教えてもらったのはちょっと面白かった。ディーがモテる?ずっと一緒にいるけどそんな雰囲気ないけどなぁ。

 結局イディアは「人の金で飲む酒は美味い!」と言って酔いつぶれて仲間の人に迎えに来てもらってきた。……歩けなくなるまで飲むのはどうかと思うけど。しばらくは毎日訓練してくれるみたいだし、明日はきっと二日酔いってやつでへろへろだから勝てるかもしれない!
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