小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第3章 強くなるために

卒業しました!

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 子バルルの鳴き声が止んだ。

 その瞬間、ぐるりと顔がこちらを向いて目が合う。
 風が流れた瞬間、雪と一緒に細い風の刃が飛んだ。  
 頬をかすめる冷たさに、思わず息を詰める。  

「これが……こいつ風魔法か」  

 目の前の子バルルが羽をばたつかせるたび、切り裂くような風が生まれ、木の皮を削っていく。  
 とはいえ、傷は浅い。痛みよりも“恐怖”を撒き散らしている感じだった。  

(怖くて、暴れてるだけだ……)  

 一歩、足をずらしてかわす。  
 二歩目で地面を蹴り、風の向きを読む。  
 訓練で何度もディーやイディアに吹っ飛ばされたおかげで、こういう攻撃にはもう慣れていた。

 ディーやイディアに比べたら全然だ。  

「そこ!」  

 風が一瞬弱まった隙に距離を詰める。  
 小さな体がばさりと羽を広げる。  
 真っ赤な目がこちらを睨むけど――重い恐怖と混乱が滲んでいた。  

(……こんなに、簡単でいいのか?)  

 胸の奥でわずかなためらいが芽を出す。  
 でもすぐ、ディーの言葉が頭をよぎった。  

 ――ためらうな。魔獣は魔獣だ。  

 歯を食いしばり、踏み込みながら剣を振る。  
 風が鳴き、羽根が舞う。  
 一閃。  

 子バルルの鳴き声が一度、短く途切れた。  
 そして、森が静かになった。  

 しばらくその場に立ち尽くしたあと、エルは剣を下ろした。  
 胸の奥に何かが沈むような感覚。  
 けれど、それを表には出さず、深く息を吐いた。  

「……終わった」  

 後ろからディーの声が飛ぶ。  

「よくやった。戻るぞ」  

 エルは返事をせず、足元の小さな体を見つめた。  
 やがてしゃがみ込み、ためらいがちにその足を掴む。  
 小さな脚を握って持ち上げると、体が軽くぶらんと揺れた。  

 雪を踏みしめ、森を戻る。  
 ディーは何も言わず、いつもと変わらず前を進んでいく。

 手の中の重みが、確かに“依頼を果たした証”だ。
 次第に俺は無事にこなした達成感で気分があがり、足取りも軽くなっていた。




「俺、やったよ!」

 バン!と勢いよくギルドのドアを開けてカウンターに子バルルをおく。

「あら、早かったわね」

 いつもの犬耳お姉さんが対応してくれた。

「うん!簡単だった!あっという間だったよ」

「ふふ、これで見習い卒業しても大丈夫ね」

「うん!」

 俺の報告にお姉さんはにこにこと対応してくれる。
 ここからはいつもと同じ、ディーが対応する流れなので、犬耳お姉さんが子バルルの確認しに後ろに下がったら俺も脇に避ける。

 するとわらわらと馴染みの冒険者に囲まれた。

「おー、1人で討伐?すごいじゃん」
「ほっぺたの傷だけで済んだの?やるじゃん」
「てか戻っくるの早い早い!見習いのくせに!」
 と、俺の頭をもみくちゃにしながらそれぞれに褒めてくれる。

 ふふん、俺だってやれば出来るんだからな!

 どやどやと胸を張っていたら髪型が凄いことになってしまった。
「もー!ちょっと酷いんだけど!」と文句を言いながらもにやけが収まらない。

「おい、行くぞ」

「おうっ!」

 ディーが声を掛けてくれて、みんなの輪から抜け出す。「これからも頑張れよー」なんて声を掛けてくれて、それすらも嬉しくてずっと顔が緩んだままだ。

 先を行くディーを追いかけて隣に並ぶ。なんだか誇らしいさでいっぱいだ。
 ふと、ディーの手元にある手紙に目がいった。

「あれ?また手紙?」

「あー、気にしなくていい」

 いつもなら「気にすんな」の一言で終わるのに、今日は歯切れが悪いな、と思いつつも「ふーん」と返事をしていつも通り、宿へ帰った。



 そしてそれから数日、俺は無事に見習いを卒業して、立派な冒険者となったのだ!
 手元にある冒険者カードが嬉しくてニマニマが止まらない。見習いのカードよりもずっとしっかりしていて、燃やしても簡単には壊れないらしい。
 見習いと違って血を垂らして個人登録もした。
 水晶玉のくぼみに指を押し当てて、赤い光がカードに吸い込まれていく光景は何故か幻想的だった。
 無くすと再発行料が取られると説明も受けたが、無くすわけないじゃん!!嬉しすぎて、いつまでも眺めていたくて、中々ベルトポーチにしまう事ができなかった俺を「落としたらどうするんだ」っていうディーのイラついた一言でササッとしまうことが出来た。
 でもまだ口元が緩んでる気がして、シャキッとしないと、またディーに小言を言われちゃう。

 だって、これからディーが食事に連れていってくれるんだぜ?ディーの機嫌は損ねないに越したことはない。
 今までずっと飯=宿の食堂もしくは森だった。イディアが居る時でさえ、ほとんどが宿の食堂だったのだ。

 連れて来られたのは、冒険者がよく行く街の食堂。冒険者に混じって街の人もちらほら見える。

 メニューを見たが肉料理が多い。
 やっぱ肉だよな!肉!と思いながらメニューを選んでいく。
 宿屋の肉は野菜と一緒に炒めてあったり、煮込んであるのがほとんどだ。でも、ここのメニューは肉だけ焼いたものがある。どんな味だんろう?と思って選んでみた。ディーも「好きな物選べ」って言ってくれたので敢えて値段は見てない。

 ワクワクしながら待っていると、ついに料理が目に前に置かれた。鉄板の上にはお肉の分厚い切り身がドーンと鎮座しており、そこに茶色いソースがかかっている。
 鉄板からはみ出そうなほど大きくてぶ厚いお肉。まだ熱々の鉄板の上でじゅうじゅうと跳ねているソースの香ばしい匂いが鼻をくすぐり、すごく美味しそう!
 ナイフとフォークが置かれたが、ここはやっぱりそのままいくべきだよな?と思ってフォークで刺してそのままかぶりついた。

 噛んだ瞬間、口の中で肉汁がじわっと溢れ出し一気に天国に様変わり!お肉自体も美味しいし、ソースがピリッとしていてそれもアクセントになって美味い!とにかく美味い!

 途中で飽きることなくペロッと平らげてしまった。だって今まで食べたことないくらい美味しかったんだ。

 ふふ、今日はこれで終わりじゃないんだよね。なんとデザートも注文してしまったのだ!
 パンケーキのコケモモとビルベリーのソースがけ。
 手のひらより一回り大きいくらいのパンケーキが2つあって、その上に、コケモモとビルベリーの実のソースがたっぷりかかってて、これもすごく美味しそう。
 1口食べてみたらパンケーキがふわっふわでほんのり甘い。そこに甘酸っぱいコケモモとビルベリーのソースがまたすごく合う!どちらも酸味があるから甘さがしつこくなくて、控えめに言って最高。

 俺が美味しいデザートを堪能している間に、ディーは先程しまっていた手紙を出して読んでいた。
 少しだけ眉間に皺がよっていて、トラブルという程ではなさそうだけど、何だか悩んでるみたいだった。

「何か困り事?」

「あ、あー。……エル、お前は今日から冒険者で俺の保護はもう必要ない」

 少し悩んで、俺に真剣な声音で口を開いた。

「ああ」

 それは前から覚悟してた。だってディーは今日が来たらもう保護者じゃない。きっとディーは今まで通りひとりで行動するんだろうなっていうのはなんとなく想像していた。だからここでサヨナラでも、大丈夫。覚悟はある。

「あー、その、なんだ。だからお前が嫌だったら断ってくれていいんだが」

「え?何が?」

 いつになく歯切れの悪いディー。だけどなんだかその話し方が、俺が考えていた"別れ"というのとは違う風に思える。

 けれど、他にディーが俺に切り出す話題が何も思い浮かばない。
 "分からない"事に俺の心拍数が勝手に上がっていく。

 意を決して口を開いたディーの言葉はこれだった。

「俺の故郷に一緒に来てくれないか?」
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