小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第4章 リューべルへの道

スバシリテン

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「あー、もう真っ暗じゃん。今からでも宿って見つかるもの?」

 俺は新しく発行されたギルドカードを両手にキラキラと目を輝かせていた。

 盗賊を引き渡して、ギルドでも報告して、なんと俺とアレクは冒険者のランクが上がったのだ。

 今まで最低ランクのFだったけど、今回の件はまさしく手柄、ということでEランクに上がったのだ。

「あー、今の時間じゃ厳しいかもな」

 どこの宿も夕飯時あたりから受付自体を辞めてしまうところが多い。

 幾つか宿屋をあたってみても、やはり部屋は取れなかった。

「あとは、あっちの方か」

 ディーは淡々と宿のある方へと歩きだす。

 もう今日は無理だよ。飯食って広場で野宿しようぜ...なんて口から出そうになった時

「お兄ちゃん!」

 聞いたことのある声が聞こえた。
 目をこらすと道の向こう側から、ミナちゃんが走ってくるのが見えた。うさぎ耳がぴょこぴょこ跳ねてて可愛い。

「あれ?ミナちゃんどうしたの?」

 走ってきた勢いのまま俺にぶつかり、ぎゅっとしがみつくミナちゃん。
 ふふ、ミナちゃんくらいじゃビクともしないし、一直線に走ってきてこの子やっぱり可愛い。

「こら、ミナ」

 と後から男の人が走ってきた。彼は犬耳族らしい耳がぴょこんと生えていた。

 ……お父さんかな?

「あの、ミナの父の……」
「お兄ちゃん!お宿決まった?」

 ミナちゃんは元気にお父さんの声に被せて俺に聞いてきた。

「あぁ~、それがまだなんだよね」

 お父さんをどうするべきか視線をちらっとよこしつつ、ミナちゃんに答えてあげる。

「それならミナのうちにおいでよ!」

「え?」

 今夜の宿は決まらなそうだし、泊まれるなら正直嬉しいけれど、でもお父さんは?と思って視線を向けると笑顔でうなづいた。

「はい。おそらく宿は難しいかと思いまして。その、昼間のお礼も兼ねてうちにいらっしゃいませんか?」

 まじで!?ラッキー!と思いつつ、ディーの顔もちらっと伺う。
 少しだけほっとした表情でうなづいてくれた。

「いいんですか!?」

「いいよぉ!」

 お父さんではなく、ミナちゃんが元気よく答える。耳がぴーんと立って、しっぽも小さくプルプル震えてる。

 ふふ、感情丸出し。

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

 俺は上機嫌で、両手を伸ばしてくるミナちゃんを抱き上げた。お父さんが「こら」とミナちゃんに言うが本人はなんのその。俺に「すみません」と頭を下げていた。

 "お礼"はギルドからきちんと盗賊捕縛の感謝料を貰っている。被害にあった個人からのお礼は無くても構わない。むしろ、馬が1匹逃げちゃったし、荷馬車は転倒していたから荷物も幾つかダメになっているはずで、ミナちゃんの家族も大変なはずなのだ。

「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「おっきぃお兄ちゃんは?」

「あ、えっと、ちょっと別行動してるんだ」

 今、アレクは鞄の中だ。たとえ狭くても、長時間人型で居たアレクは休みたかったらしい。完全に寝入ってるようでビクリともしない。

「そうなんだ。あのね」

 ミナちゃんはぎゅっと俺の服を掴んで、意を決したように話し始めた。

「今日ね、帰ってから、家が怖くて……」

「家が怖い?」

「うん、あのね、"ごとごと"って鳴ってるの。壁とか、天井が。それがね、怖くて」

「壁と天井が鳴ってる?」

「そうなの、怖いの」

 ミナちゃんはぎゅっとしがみついて、俺の肩に耳と顔を埋めてしまった。

「あの、すみません。それに関しては明日にでもきちんとギルドへ依頼を出そうかと思っていたので、気にして頂かくて大丈夫です」

 お父さんが申し訳なさそうに言う。
 ミナちゃんもこんなに怖がっているんだし、何かお手伝いできたらいいんだけど。

 ……ん?明日にでもギルドに依頼?

 ちらっとディーを見ると「まぁ、世話になるしな」と、俺にだけ聞こえるようにボソッと言った。

「あの!もし宜しければ、その依頼、先に俺らで見ても良いですか?」

「しかし、」
「っ本当!?」

 またもやミナちゃんはお父さんを遮って耳と一緒に勢いよく返事をした。

「お父さん、お願い!お兄ちゃんたちなら絶対大丈夫だよ!」

 ミナちゃんが俺の手をぎゅっと握る。
 その力の入り具合で、昼間からどれだけ怖かったか分かっちゃう。

 お父さんは小さくため息をついて、俺とディーを見た。

「……では、少しだけ様子を見てもらえますか?危険だと判断したらすぐに引き返してください」

「任せて下さい!」



 ミナちゃんの家は、街の外れにぽつんと建つ二階建ての木の家だった。
 外見は普通なのに、近づくと、かすかに“こつっ…かりっ”と木が軋むみたいな音がしていた。

「……確かに鳴ってるな」

 ディーが小さくつぶやく。

「ね、怖いでしょ……?」

 ミナちゃんは俺の後ろに隠れた。

「大丈夫。まずは音の場所、探してみるよ」



 リビング、廊下、階段。
 どこを歩いても、一定の間隔で “ゴト…ゴト…” と響く。

「……これ、固定されてない家具の音じゃねぇな」

「だよね。なんか…生き物の感じがする。小さめの」

 と言った瞬間、
 階段の上、天井裏の方から ドンッ!! と一発。

 ミナちゃんが「ひゃっ」と俺の服をつかんだ。

「大丈夫、大丈夫。見てくるから。何かあると行けないので皆さん安全な部屋に居てください」

 ディーがすっと前を歩くのを、俺もその後を追った。

 階段を登りながら、俺は小声でディーに言った。

「どうする?アレク……起きたら絶対行くよな?」

「もう半分起きてる。鞄の中で尻尾がパタついてるぞ」

「あっ……!」

 鞄が“もぞっ”と膨らんだ。

「ちょっと動くなって、くすぐったいって……!」

 変にモゾモゾ動くアレクがくすぐったい。
 そっと押さえたその瞬間。

 天井の方で、ガタッ!ガサガサッ!
 さっきより明らかにデカい音がした。

 その音に反応したのか、鞄の中のアレクが ピクリッ と動いた。

「……っあ、おいアレク!?待っ……!」

 俺の制止なんて聞かずに、
 アレクが鞄の口を器用に押し広げて、
 しゅばっ!!!
 猫みたいな機敏さで天井裏のほうへ飛んでいってしまった。

「おまっ……!?」

「はは、行ったな」

 ディーが笑ってやがる。

 天井裏から
 ドドドドッ! ガサアッ! キュイィ?
 みたいな、小さな魔物とアレクが暴れてるような音が響く。

 ミナのお父さんが驚いた声で

「な、なんだ今の……!?」

 と言いながらやって来た。
 ディーが落ち着いた声で答える。

「……上に入り込んでた小さい魔物だな。今、追い立ててますんで」

 ディー、めちゃ自然に言ってくれてありがとう……!


 その時、天井の隙間から
 ふわふわの影が“ぽとっ”と2つ落ちてきた。

「わっ!」

 小さな二股しっぽの魔物、スバシリテンだ。
 必死に逃げようとしてるけど、こっちもEランクになったばかりの冒険者だ。絶対に逃さない!

 俺はサッと前に出て、両手で1匹を受け止めた。

「つかまえた!」

 もう1匹は既にディーの手の中。

 俺たちに捕まったスバシリテンは逃れようと必死で暴れ回る。爪が鋭くて痛い。でもここで離したらまたミナちゃんが怖がっちゃう。

 全力で暴れ回っていたスバシリテンは次第に動きがなくなっていった。最終的に敵わないと思ったのか俺たちの腕の中でびくびく震えるだけだった。

 天井裏から魔力の塊が移動してるのに気づいた。そう、アレクが“誰にも見られずに”戻ってるのが分かったんだ。

 俺の1匹をディーに任せて「残りがいないか見てきます」と一旦屋根裏に引っ込む。

 すぐ後ろの影にすっと気配を感じたので、俺は背中越しに小声で言った。

「……おつかれ。よくやったな」

 すると背中にちょこんと“鼻ツン”された。

 その後、ミナちゃんとそのご両親、おじいさんも一緒にスバシリテンを外へ逃してあげた。

 家に戻ると耳と一緒にミナちゃんはぱぁっと顔を明るくした。

「もう鳴ってない……!こわくない!」

「うん、もう大丈夫。これで安心だね」

 そう言うと、ミナちゃんはぎゅっと俺の手を握った。

 ディーは小さく肩をすくめながら、

「……寝床確保ついでに良い仕事したな」

 とボソッと言った。
 ほんとそれ。

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