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第1部 子爵家の次男
赤ちゃんの鍛錬?
しおりを挟む「エイル、一緒に遊ぼう。今日はご本を読んであげるね。」
「ほぅらエイル。兄バカのルアン兄様が来ましたよ。」
「ちょっと母上それはどうかと思います。エイルが僕の事兄バカのって覚えたらどうするんですか。」
「ふふふ。充分立派な兄バカですよ、ルアン。」
初めてエイルに会ってから1ヶ月。この1ヶ月でエイルは何度も熱を出して会えない日も多かった。だから僕はエイルに会えるのが嬉しくて、朝起きて朝食前に顔を見に来て、朝食を摂ったら勉強。その勉強の休憩時間の度に顔を見に来て、午後の剣術のお稽古の後のおやつの時間を終えたら自由時間なのでエイルと一緒に過ごすのが日課になっていた。
1日に何度もエイルの顔を見に来るのは自他共に認める兄バカである事に変わりはないんだけれども。でも毎回母上がそう言うから、それで覚えられでもしたら悲しいのは事実なので。
エイルに兄バカって言われたら悲しいな。じゃぁ、なんて呼んでもらおうかな、喋れるようになったらルアン兄様って呼ばれたいかも。ルア兄とかも良いかもしれない。これは重大な呼び名案件だ。お喋りが始まる前にきちんと決めて前々から言い聞かせておかないと、本当に兄バカって覚えられてしまうかもしれない。由々しき事態だ。
母上に抱かれていたエイルは僕の事を見てにこぉっと笑ってくれる。手足をバタバタ動かして体全体で僕に会えるのを喜んでくれている!と、思っている。
もう僕がお兄ちゃんって分かってるみたいで、もう本当に可愛い可愛い可愛い!僕の天使は最高に可愛い!呼ばれ方問題は後で考えよう。今は可愛いエイルと一緒の時間を楽しみたいんだ。
「エイル、今日はお兄ちゃんが物語を読んであげるね。」
そう言いながら、母上が座っているソファの向かいに座って絵本を広げる。
この位置だと広げた本の向こう側に抱っこされているエイルが見える。絵本を読んであげつつ視界の端で可愛い可愛い僕の天使のエイルを愛でることが出来るってことに気づいた僕って頭がいいよね、ふふふん。
実はまだ首が座ってなくて不安定だからという理由で僕はまだエイルの事を抱っこ出来ていない。
エイルくらいの頃から首が座る子が多いみたいだけど、せっかちだけどのんびり屋さんなエイルはまだまだみたい。早く僕のお膝抱っこで絵本を読んであげたいな。
「今日の絵本は勇者と悪のトカゲの話だよ。」
僕の事をキラキラした瞳で見てくるエイルに絵本の紹介をして、ニコリと微笑んだ。
助産師さんや乳母、他の方達に言葉を理解する前から絵本を読んであげるのはいい事だって聞いてから、僕は沢山の絵本を読んであげようと思って必ず短いお話の絵本を持っていくようにしている。短くないと直ぐに飽きちゃって手遊びを始めちゃうからね。エイルの様子を見ながらわざと物語を端折って短くしちゃう時もあるんだ。だって、僕そっちのけで手遊び始めちゃうと悲しいんだもん。
僕はエイルと同じことを共有したいんだ。
うん、立派な兄バカだなって自分でも思ってるよ。弟や妹の居る友人も僕みたいに可愛い可愛いって言ってるのはあまり聞かないからね。でも、だってうちのエイルは天使みたいに可愛いんだから仕方ない。天使なエイルは1番可愛いんだもの。
「とある国にはとても恐れられているトカゲがいました、・・・・・・」
僕は開いた絵本を読み始めた。絵本の向こうに見えるエイルの様子を伺いつつ、飽きてないかな、楽しんでくれるかなって思いながら聞き取りやすいように殊更ゆっくり、はっきりと、でも飽きないように抑揚をつけて絵本を読み始めた。
「…………こうして、勇者様のおかげて国は、平和になりましたとさ。おしまい。」
終わりの言葉と共に絵本をパタリと閉じる。
エイルは僕が音読している間、じっと僕の事を見ながら手を伸ばしたり手足をジタバタしてくれてたからきっと楽しんでくれてたと思う。
「エイル、絵本楽しかったね!」
僕がニコニコとエイルに話かけるとエイルも僕に手を伸ばしながら満面の笑みだ。
僕の絵本を楽しんでくれたようで何より。
エイルはまだ言葉になる前の喃語という音の発生もしない。それは生まれてから半年前後で出るらしい。エイルはどうかな?早く喋って欲しいけど、産まれる前はせっかちさんだったのに生まれてからはのんびり屋さんみたいだから。でも、きっと可愛い声してるんだろうなぁ。
まだ聞いた事のないエイルの声を想像しながら頭を撫でようと手を翳すと、エイルの小さなお手手が僕の手を追ってくるから、わざと動きを鈍くしてエイルの手に捕まってみた。
「ふふ、エイルに捕まっちゃったね。エイルすごいなぁ~もう僕の事捕まえられるんだね。」
頭も撫でたかったけれど、エイルから僕の指を握ってくれたのが嬉しくてニマニマしながらその指を擦る。
お互いにニコニコニコニコと見つめあっていたら「ふふふ、私の息子達が可愛いわぁ」なんて母上にからかわれてしまった。ちょっとエイルと2人きりの世界に飛んでたかも。恥ずかしい。
「ルアン様、こちらはエイル様の玩具でございます。遊んであげてくださいませ。」
エイルのお世話係が僕に渡してきたのは布で出来たドーナツ状の玩具。エイルがにぎにぎするのにちょうどいい大きさで振ると中に入ってる鈴がちりりん、と気持ち良い音を出すものだった。
エイルの見える位置でちりりんと鳴らすとエイルはじっと玩具を見つめている。
ちりりんと鳴らしながら少し位置をずらすとエイルの視線が追ってくる。
か、かわいい~。
そのうちエイルの手が出てきて何回かひょいひょいっと逃げたけれど直ぐに捕まえさせてあげてエイルの手でちりりんと音が鳴って不思議そうに眺めている。
それを見ていた母上がニコニコと口を開いた。
「ふふ、ルアンに鍛えられてエイルは運動神経が良くなりますね」
「え、そうなの!?」
「えぇ。小さい頃から動かしていれば、その分違いますよ。見る時も目だけではなくて首ごと追えるようになれば首も座ってくるのですよ。」
「そうなのですね!」
もしかしたら動くというのは赤ちゃんにとって鍛錬と同じ事なのかもしれない。
僕と母上でそんな会話をしている中、エイルは手にした玩具をブンブン振ってちりりんと音を出して遊んでいた。
そのうち音を出すことよりも振ることに熱が入ったのか、真剣にブンブン振っていて、握る力が弱まったのか玩具がスポーンとエイルの手から飛び出していってしまった。
それまでニコニコ笑顔だったエイルの顔が驚きというか何が起こったのか分かってないような顔に一瞬で変わったのが面白くてでも可愛くて、母上とくすくすくすくすといつまでも笑っていた。
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