小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第1部 子爵家の次男

愛おしきドヤ顔

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 僕とエイルと母上だけだった時間もあと少しで終わってしまう。

 何故かと言うと、3歳を迎えたエイルはお披露目と言う名のお茶会が開かれるからだ。

 その為に首都にあるタウンハウスまで母上とエイルと一緒に領地からゴトゴトと馬車に揺られてやって来た。それが一週間前の事。

 馬車での3日間の旅の移動中もエイルはそれはそれは可愛かった。邸から出たことの無かったエイルは車窓から見える景色が新鮮らしく、キャッキャと楽しそうに眺めていた。小さな体で乳母の抱っこから身を乗り出して外を眺め、時折僕と母上の顔を確認してにこぉっと笑顔を振り撒いてくれる。
 この行動は、幼児が安心感を得る為の行動だと母上に教えて貰った。エイルが何かしていてもそれを見守っている事をエイルも確認して安心感を得ているんだと、そして当然ながら僕もやっていた行動だと言われた。後半は要らない情報だったけれど、その時にきちんとエイルの目を見て、大丈夫だよ、ちゃんとここに居るよ、と笑顔で返すと良いのだとも教えて貰った。逆に、エイルが振り返ってもエイルの方を見ずに他の人とお話を続けたり、ずっと本を読んでしまっているのは良くないのだそうだ。

 途中、親戚筋や通らせていただいた領地の邸に宿泊させて貰った時もエイルは心配になる位キャッキャと愛想を振り撒いていた。
 何故心配になる程かと言うと、首都に行くまでに通らせていただいた隣の領地で宿泊させて頂いた、そこはそこの領主の弟さんの邸だったのだが、「エイル様と同じ年頃の子供が居たら良かったのですが」と言われてしまったからだ。母上はあらあらまぁまぁと言った感じでやり過ごしていたけれど、僕はまさかそんな事言われるとは思っていなくて吃驚してしまった。だってエイルはまだ3歳だ。僕にだってまだ縁談の話は来てないのに、3歳のエイルにそんな話が出るものなの?

 部屋に通されてから母上が「あれは社交辞令ですよ。ふふ、ルアンもまだまだですね」と言われて恥ずかしかった。そうだよね、エイルはまだ3歳だもの、社交辞令だよね。社交辞令って難しいな。

 そんな事が有りながらもエイルはグズる事無くタウンハウス迄やって来ることが出来た。
 因みに僕の時は馬車の中でじっとしている事が難しかったらしく、外に行きたいと終始大変だったらしい。覚えてないし恥ずかしいから言わないでいて欲しかった。

 タウンハウスに着いて翌日からは僕はエイルと一緒に居る時間が思っていたよりも少ない事にショックが隠せなかった。
 父上の上司を呼ぶとの事で、礼儀作法を執事長に教わる為だ。それに加えて、日々の勉強と鍛錬も継続される。領地で礼儀作法は教わっているけれど、今回は父上の上司が来られるので再度1から確認していくとの事だった。しかも、僕は嫡男として当日も父上と行動を共にする事が多い為、その為の礼儀作法も加わっている。

 僕は何時エイルに会いに行けばいいのだろう。

 お手伝いと称して叔父上がタウンハウスに滞在して下さって居るのだが、日々のお勤めがあり、僕に礼儀作法の1部を教えて頂いているのにも関わらず、何故か叔父上の方がエイルと遊んでいる時間が多い。

 叔父上は父上の弟に当たる親戚である。
 父上はとある人の秘書の様な仕事をしているとの事。その実際使えている人はさらに位が高い人に仕えていて、職場でもよくお会いする様で目を掛けてもらっていると聞いている。
 けれど叔父上は、王立図書館の司書兼事務をしているのだ。父上とは全く関係ないお仕事で、立ち位置もそれ程高くなく、位の高い貴族との接点はほぼ無いと聞いた。ただ、さすが図書館の司書だけはあって知識が豊富で話し方が面白く、僕はエイルに会いに行きたいのについつい話を聞いてしまう。それに叔父上に「知識と礼儀は自分を助ける」と言われてしまうと、途中で切り上げて貰うことも出来ない。叔父上の言って下さっている事も理解出来るのだけれど、やっぱりエイルに会いたい。

 結局僕はお披露目と言う名のお茶会が開かれる2日前までエイルと充分に会う時間が取れなかった。エイルに会えるのが朝食と夕飯の時だけなんて正直悲しすぎた。ここに来るまでの3日間はずっと一緒だったのもあって本当に辛かった。2日前にほぼほぼ問題ないと執事長と叔父上のお墨付きも貰え、明日の前日は最終確認という事で今日1日は自由を貰えたのだ。
 1日自由と言われたけれど、毎日勉強と鍛錬をしてきた僕は何故か簡単な復習と鍛錬をしてからエイルに会いに行った。朝食を終えてすぐ会いに行くことは出来たけれど、なんだかしっくり来なかったからだ。

 エイルの居る部屋をトントンとノックして「ルアンです」と名乗る。すると少ししてから「どうぞ」と可愛い声が聞こえてきた。

「エイル凄いね。エイルがどうぞって言ってくれたの初めてで凄く吃驚しちゃったけど嬉しかったよ」

 僕が扉を開けて中に入るとエイルは「あにうえ~」と駆け寄ってくれる。ついついそれが嬉しくて抱き上げてしまってから「あ」と先日叔父上に言われたことを思い出してしまった。「3歳になったのに直ぐに抱き上げては行けませんよ」という言葉を。

「本日はお休みですし、仕方ないという事にしておきましょう。然し、呉々も公の場で直ぐに抱き上げることはしないようにして下さいね。」
「⋯⋯はい。」

 何故か室内に居た叔父上に注意された。何故叔父上がここに居るのだろう。今日は図書館に勤務しないのだろうか。

「ふふ、実は明後日兄上の次男のお披露目だと上司に伝えたら本日から休みを頂きまして、それでここに居るのですよ。」
「そうだったのですね。」

 僕の疑問を言葉にしてないのに、おそらく表情から読み取った叔父様の答えに僕も笑顔で返す。
 休みなのは分かったけど、だからってなんでエイルの部屋に居るのかという質問には答えてくれ無さそうだ。

「あにうえ、あにうえべんきょーがんばってるから、ぼくも、べんきょーしました!」
「そっかぁ。エイルも勉強頑張ったんだね。どんな勉強したの?」
「たくさんおはなしする、べんきょーしました!もじもよんでかけます」
「確かにここに来る前よりお話上手になってるね。文字も読んで書けるの?凄いね」
「えへへへ」

 褒められたエイルは嬉しそうににこにことしている。それに釣られて僕もにこにこと顔が緩む。

「おります。おろして、ください」

 部屋の真ん中辺りに来たところでエイルが訴えるので下ろしてあげる。少し寂しいが、ですます口調も、きっちり喋れてるところもここに来てからだ。成長が嬉しくもある。

 ピシッと立ったエイルは手のひらを上にして母上の方へ伸ばし「ははうえ」今度は僕の方に向けて「あにうえ」そして叔父上の方へ向けて「おじうえ」と言い、両手を体の横に添えて息を吸った。

「ほんじつは、おこしいただき、ありがとーございます。ラパーチェ家がじなん、えいるです。」

 1拍程置いてから、どう?きちんと言えたよ!と満面の笑みで僕を振り返った。

 初めて見るエイルのドヤ顔が可愛すぎるんですけれど!!!
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