小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
18 / 82
第1部 子爵家の次男

痴話喧嘩 ではありませんってば

しおりを挟む


「な、なななな!エイルは俺と結婚するのだろう!?」

「う?ぼくは おひめさまと けっこん するの」

「なんでだよ!姫って誰だよ!俺と結婚するって決まってるんだよ!あんなに沢山ハグもキスもしてるのに!」

「へぇ~。"たくさん"ハグもキスもしてるんだぁ」

 ……あ、ゼルに、ここで見聞きした事は他言無用って釘を刺しておかないと!

「なんでリュカ様が、ぼくのけっこんきめるの!」

「なんでって俺とお前は運命なの!」

「やだー!ぼくは おひめさま と けっこん する!」

 ゼルに釘を刺す前に、リュカ様とエイルがヒートアップしてきてる。こちらを何とかした方がいいのか?

「エイルが姫と結婚出来るわけないだろ!お前はもう俺のものなんだから!素直に俺と結婚を……」

「ぼく "もの"じゃないもんー!!リュカ様なんて だいきらいー!やーだー!」

「っ、!!」
「リュカ!」
「エイルっ」

 リュカ様がエイルの「大嫌い」の言葉にショックを受けているうちに、レオ様がリュカ様の腕を引っ張って部屋の隅でおそらく説教を始めた。リュカ様の「でも!」「だって!」という声が聞こえるが、レオ様の声はさすがに聞こえない。

 僕は、泣き出したエイルの元に駆け寄り抱き上げた。

「大丈夫、リュカ様は悪気があった訳じゃないんだよ」

 そう声をかけながら、丁寧に優しく背中をぽんぽんしてあげる。しばらくそうしていると、次第に泣き止んで、うとうとし始めた。
 体力はあっても、泣き疲れちゃうとすぐ眠くなっちゃうんだよなぁ。

「……見事な痴話喧嘩だったな」

「痴話喧嘩なんかじゃない」

 ゼルめ、なんてこと言い出すんだ。

 泣き止んでからもずっと背中を優しくぽんぽんし続けていたからか、エイルは完全に寝入ってしまった。

 耳と尻尾がしょぼんと項垂れたリュカ様がさっきの勢いとは打って変わって、静かにエイルに近づいてきた。

「エイルは、寝てしまったのか?」

 リュカ様は優しい手つきでエイルの頭を撫でたあと、小さな声で「すまなかった」と呟いた。

 あのわがまま坊ちゃんが、謝った!
 どれだけ噂が良いものに変わったとしても、謝罪の言葉を口にするのは本当に成長した証だからだ。

「エイルが起きたら、ちゃんと伝えておきますね」

 そう言うと、リュカ様は少しだけ安堵したように目を細めた。
 なんだか心がふんわり暖かくなって、こちらまで微笑みそうになる。

「リュカが申し訳ない事をした。少し、家でも頭を冷やさせたいから、今日はこれでお暇させてもらうよ」

「いえ、こちらこそすみませんでした。」

「ごめんな、エイル。またな」

 リュカ様の手と声は最後まで優しかった。
 何かを感じととったのか、寝ているエイルがふわりと微笑んだ。

「ところでゼル。今日見たこと聞いたことは他言無用だよ?」

「はいっ、心得ております」

 レオ様は最後に綺麗に微笑みながらゼルに釘を指して帰っていった。

 リュカ様の耳と尻尾はまだしょんぼりしていたけれど、ちらちらとエイルの様子を振り返りながら部屋を出ていく姿がなんだか可愛く思えてしまった。

 僕はエイルを乳母に預けて、ほっと息をつく。
 部屋に残ったのは僕とゼルの2人きり。

「……ゼルは帰らないの?」

 レオ様が笑顔で釘をさしてたし、ゼルも特に用はなかったはずだ。

「えー、そう追い返すなって。少し、語り合おうじゃないか」

 ……あ、帰る気無いな?

 ゼルが来たことで新たに用意されたお茶とお菓子に手を付けながら続けた。

「いっやぁ、本当に坊ちゃんがエイル君に首ったけ?執着?してんのな。子供のおままごとくらいを想像してたからびっくりしたわ。……いやー、リュカ様、言い合いしてた時はどうなるかと思ったけどさ。ちゃんと謝ってたな。あれには驚いた」

「……僕も驚いたよ。リュカ様があんな素直に反省するなんて、今まで見てきた中でも初めてだったと思う」

 ルアンは小さく笑って、向かいの椅子に腰を下ろす。

 ゼルはふはっと笑い、指で髪をかきあげた。

「俺は正直、噂しか知らなかったけどさ。わがままで手のつけようがないとか言われてたけど、あれじゃただの恋にまっすぐな少年じゃないか。良い意味で裏切られたわ。リュカリオ様、噂だけじゃなくてきちんと成長してるじゃん」

「……そうだよね。僕は正直、エイルのお披露目から悪い噂のリュカ様は見たことがなくて。噂を頼りに 認めない ってずっと思ってたけど、今日のあの殊勝な態度、もう彼の努力は認めないといけないのかも」

 ゼルはふむ、と頷くと、椅子の背もたれに身を預ける。

「そうだな、噂よりも目の前の事実が大丈夫だよな。でもさ、さっき見たアレは絶対誰にも言わねーよ。というか、言えねぇな。あの修羅場。……いや、痴話喧嘩?」

「だから痴話喧嘩じゃないってば」

 ぴしゃりと言い切るルアンに、ゼルは肩を揺らして笑う。

「……わかってるって。エイル君、年相応で可愛かったな。無邪気で、まっすぐで……あれじゃ、リュカ様もルアンも独占したくなる気持ちもわかる」

「うん、僕の弟は世界一素直で可愛い。これは紛れもない事実」

 僕はゼルの「可愛い」に全力で肯定した。エイルに叶う存在なんか、この世に居るはずがない。

「はははっ、そーいうとこだよルアン」

 ゼルは急に声を出して笑い始める。
 そういうとこってどういうとこだ?

「それにしても。ルアンもレオニス様も兄っていうより、親みたいだったな」

「……僕はエイルの兄だよ」

 はぁ、とこれみよがしに溜息を吐く。

 でも確かに、明らかに母上よりはエイルの面倒を見ている気がする。朗らかな母上は"見て"いるだけのような気がして、絵本の読み聞かせもお昼寝の子守唄も僕がやってあげてたし、あれ?

 レオ様は、家柄もあってか親が忙しすぎるのもあるんだろうな。だからきっとそうならざるを得なかったんだろう。

 ゼルはにっと笑い、立ち上がる。

「さて、と。雨も弱まってる今のうちに、俺は引き上げようかな。あ、実は来た時にプリン渡してあるんだ。後でエイル君と食べてくれ」

「あぁ、ありがとう」

「おぅ、じゃあまたな」

 ゼルは軽く手を振って部屋を後にした。


 その夜、夕食後の談話室で今日あった出来事を両親に伝えたら、母上が「まぁまぁ。ふふ痴話喧嘩ねぇ」といつものように笑っていた。

 だから、違いますってばぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

処理中です...