小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第1部 子爵家の次男

約束の?ピクニック

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 あれから、約束の日に限って雨の強い日にあたり、公子様たちが来るのは雨の季節が終わった頃だった。

 夏の暑さも一緒に洗い流した雨の季節が終わると、涼しい風が吹く。寒くなる前のこの季節は実りの季節で、美味しい食べ物が沢山出てくる季節でもある。

 久しぶりに我が家に来たリュカ様は、落ち着く暇もなく「よし、行くぞ!」とエイルと共に馬車に乗せられた。レオ様が何も言わずにこにこしているということは彼も承知の上なのだろう。

 馬車は王都を抜けて草原にやってきた。森の入口近くで馬車は止まる。

「リュカ様、もしかして約束してたピクニック!?」

 エイルがなにか思い出したようにリュカ様に聞いている。

 ……約束なんてしてたっけ?それに前回会った時に喧嘩別れしてたのに、エイルがお手紙で仲直りしたって言ってたけど、喧嘩なんて無かったみたいにいつも通り仲がいい2人。

「ああ。天気もいいし、折角だからと思ってな」

 御者が扉を開けてくれて先にリュカ様が降りてエイルに手を差し出す。ちゃっかり、エスコートしちゃって。

 馬車をおりると心地よい風が吹き抜けた。
 うん、ピクニックには丁度いいかも。

 それにしても、と周りを見回すとさすが公爵ご子息。護衛の方が……数えるのは止めておこう。
 いつもは家に来てるし、最小限にして下さってるみたいだから護衛の人も気にするほど居なかったんだけど、王都出ちゃったらやっぱりそれなりに必要だよね。知らない人ばかりで緊張するなぁ
 。

 緊張しているのは僕だけのようで、公子たちはいつも通り、エイルはピクニックにはしゃいでいる様子だ。

 少し会えなかった期間があっただけで、リュカ様がエイル限定で紳士になっている。

「僕たちはあっちの木陰でお茶にでもしようか」

 レオ様に促されて、敷物に腰を下ろす。
 庭と違って、テーブルもイスも無いが、公爵家の使用人が淹れてくれたお茶は美味しい。うちとは比べ物にならないくらいの高級品なんだろうな。

 気がつけばエイルとリュカ様は2人できゃっきゃと原っぱを走り回っている。

 昨日は雨だったので地面はまだ湿っている所があるみたいで、ズボンの裾に泥が跳ねているけど、2人はこれっぽちも気にしていない。……いや、多分気がついていない。

「あーあ、土で汚れちゃって」

「ふふ、2人とも元気だよねぇ」

「ずっと雨で走り回れ無かったからですよねぇ」

 久しぶりに思いきり走れるからね。今日はきっと疲れ果てるまで走り回るんだろうなぁ。

 2人でただ駆け回っていたのにいつの間にか蝶を追いかけている。

「エイル!そっち行ったぞ!」

「えいっ!」

 蝶はひらりと舞ってエイルの手から逃げて、高く飛んでいく。

「あー、もうとどかないよぉ~」

「あ、エイル!トンボが居たぞ!」

「トンボどこ!」

「あ、こっちにはバッタが!」

「バッタどこ!」

 次々と目に入る虫を追いかける2人。
 うーん、微笑ましい。

 僕はいつの間にかリュカ様への警戒心は殆ど無くなっていた。以前にような嫉妬心も湧き上がってこず、ただ2人の遊ぶ姿を微笑ましく見ている。

「……レオ様は あの2人が"番"だと思いますか?」

 僕は初めからずっと疑問に思っていた事を聞く。

「ルアンはどう思う?」

「僕は、正直分かりません。エイルは近い年の友達がリュカリオ様しか居なくて、エイルの好きが友してなのか、違うのか判断ができません。でもリュカリオ様の以前の良くない噂が本当だったとしたら、この変わりぶりは、やっぱりエイルの為で、それは"番"だからかもしれないなって思う時もあって……結局答えは出ないんですけど」

「そうだね。僕も正直分からないよ。"番"は本人同士じゃないと分からないって言うしね。でも、僕は兄として、ルアンがリュカを認めてくれはじめてる事は、純粋に嬉しいかな。リュカが頑張ってるのはおそらく僕が1番近くで見ているだろうしね」

 ふふふっと笑うレオ様の髪を爽やかな風が揺らした。

「あにうえー、おなかすいたぁー」

「よしエイル!お昼にするぞ!」

 2人が泥だらけになりながら「ごはんっ♪ごはんっ♪」と僕たちの元に戻ってきた。
 使用人がお昼の準備を整えてくれる。

「エイル、ちょっと汚れすぎじゃない?」

 流石にこのままピクニックシートの上にあげるにはすごく泥が気になる。

「あ、ごめんなさい。すごく、たのしくて」

「大丈夫、着替え持ってきてるから。リュカも関係ない顔してるけど泥が凄いぞ?2人で着替えてきなさい。その間にご飯の準備をしてもらうから」

「レオ様、準備万端……」

「ははは、まあね」

 それから着替えてきた2人とランチタイムをした。

 うちならサンドイッチとクッキーで済ませるところだけど、そこは公爵家。サンドイッチの他に、照り焼きチキンとスープとか、デザートに焼き菓子とムースとか、考えられないくらい豪華だった。スープってどうやって持ってきたんだろう?焼き菓子も生地がふわふわでクリームがなめらかで美味しかった。

「ピクニックのご飯がこんなに豪華なんて」

 つい口をついて出たらレオ様に笑われた。ピクニックでこんな豪華な食事は普通ないですって。

 エイルはリュカ様と色々なものを半分こしながら食べてた。全部食べたいけど、全部食べようとすると食べきれないってエイルが言ったからだ。でも最後はナッツたっぷりボリボリクッキー3枚食べたのを兄は知ってるぞ?

 ご飯を食べたあとも元気に走り回るエイルとリュカ様。気がつくとズボンの裾にはまた泥汚れが……。

「あー、高級な良い服なのに、レオ様すみません」

 そう、今エイルが着ているのは公爵家が用意した着替え。もちろんうちで着ているのよりも質が良いいわゆる高級品というやつで。

「あ、洗って返した方が?」

 どうした良いのか分からなくて恐る恐る伺うとレオ様はクスクスと笑い始めた。

「いいよいいよ、あげるから。ふふっ、ルアンは面白いなぁ、ふふ」

 結局帰る直前にもう1回着替えて、それも頂く羽目になった。

 穏やかで思い出に残る1日だった。
 きっとこんな日がこれからも続いていくのだろうなと思った。
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