22 / 82
第1部 子爵家の次男
護衛
しおりを挟むそれから幾日も経たずして、リュカリオ様とエイルの婚約が正式に発表された。
同時に、エイルのお披露目式でのリュカリオ様の“結婚宣言”、そしてその日からの彼の努力、さらには2人が“番”かもしれないという噂までが飛び交った。
公爵家といっても次男との婚約。発表は貴族向け新聞のうち、たった1社だけに掲載されたが、その日のうちに我が家の前には記者が押し寄せてきた。
父上からは「相手にしなくていい」と釘を刺されていたので、僕たちはなるべく気にせず過ごすようにしているけれど。
「にいさまー、また人きてるよー」
エイルは気になって仕方がないようだ。 かくいう僕も、視線が気になるので外での鍛錬を控え、もしもの事を考えてゼルのもとへ行くのもしばらくお休みしている。
「そうだねぇ……早く来なくなってくれるといいんだけどね」
「リュカ様もレオ様も来られないしー。あの人たちのせいでやだ~」
そう。お互いの家からも安全のため外出禁止が出されていて、いつものようには会えない状態が続いている。エイルはリュカ様との文通を続けているようだけど。
……とはいえ、もう一週間も経った。
あの人たち、一体いつまで居座るつもりなんだろう。
ちなみに今回の婚約に関して、我が子爵家からは公式発表は一切出していない。
フェルダイン公爵家が全面的に取り仕切ってくださり、実務もすべて任せている形だ。
けれど、いざエイルが婚約書に血判を押す時には、両家の家族が揃って王都の大教会へ出向いた。
もちろん、立会人は大神官様。余計な者が立ち入らないよう、すべて内密に運ばれた。
そしてその2日後、発表。
世間は当然、驚きをもって迎えた。
まさかの嫡男を差し置いての次男婚約。しかもお相手は子爵家の次男坊。
……ただ、跡継ぎを求められない同性婚だからこそ、成立した話なのだろう。
さて、門前に記者が張りついた以外にも、生活に変化があった。
それは、エイルに2人の護衛が付くようになったことだ。公爵家から安全の為にと派遣されている。
といっても、四六時中見張っているわけではない。 自室には入らないし、食事中や家族との時間にも距離をわきまえている。あくまでさりげない警護だ。
それに何よりありがたいのは、護衛である2人——カイとラウルが、僕とエイルの剣術指導までしてくれていること!
今は記者避けのため、外部の先生を呼べない状況なので、時々家令が見てくれることもあるけれど、基本勉学は本を使った自主学習のみ。 だからこそ、こうして剣術だけでも実地で教えてもらえるのは本当に助かっている。
日々の勉強の不安や外に出れない鬱憤を、僕は剣を振って晴らしているような状態だ。
「いいですね、そのまま間を開けずに打ち込んで。……ほら、間が空くと打ち返されちゃいますよ」
今日も護衛のひとり、カイが指導してくれている。
場所は屋内、しかも玄関ホール。門の外に記者がいても視線は届かず、広さも申し分ない。 家の中で刀を振れる場所って、実は意外と限られているのだ。
「もっと広い部屋ないの?」って思うかもしれないけど……うちはしがない子爵家。家も建物も歴史は長くても、さすがに公爵家みたいな広間はない。 父上とも相談した結果、ここが一番現実的だった。
当然だけど、カイに勝てたことは一度もない。
だって相手は本職の騎士だし、うちは武門の家でもないし。父上も一応文官だし。
でも、貴族としてのたしなみの一環として、剣術の心得は必要とされている。 体を鍛えることで、精神もついてくる……とか言うけど、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。
エイルも毎日、木刀を握って果敢に挑んでいる。
まだ4歳。そもそも一般的に鍛錬を始める年齢に満たしていない。だけど僕やリュカ様と早く一緒に稽古がしたいと、毎日真剣に鍛錬してる。
正直言って、めちゃくちゃ可愛い。
兄バカって自覚はあるけど……小さな身体で「やぁっ!」と突っ込んでいくその姿が、どうにもたまらない。
本当にうちの弟は世界一の可愛さだ。
コツンっ
「あいたっ……」
「集中力、切れてましたね。今日はここまでにしましょう」
カイに見抜かれ、今日の稽古は終了。
うん、仕方ない。エイルが可愛いのが悪い。
ちなみにカイは、ラウルが離れている時なんかに「実際に襲われたときの戦い方」や「逃げ方」も教えてくれる。
型通りの騎士道ではなく、実戦寄り。
不意打ち、目くらまし、かすかな間合いの取り方——そういう、“勝つため”の動き。
もちろん、本当に襲われるなんて嫌だけど……知っていて損はないし、僕もエイルも真剣に学んでいる。
そして。
門前から記者がようやく姿を消し、僕たちがやっと外へ出られるようになるまでには、そこからさらに2ヶ月もかかってしまったのだった。
70
あなたにおすすめの小説
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる