小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第1部 子爵家の次男

護衛

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 それから幾日も経たずして、リュカリオ様とエイルの婚約が正式に発表された。

 同時に、エイルのお披露目式でのリュカリオ様の“結婚宣言”、そしてその日からの彼の努力、さらには2人が“番”かもしれないという噂までが飛び交った。

 公爵家といっても次男との婚約。発表は貴族向け新聞のうち、たった1社だけに掲載されたが、その日のうちに我が家の前には記者が押し寄せてきた。

 父上からは「相手にしなくていい」と釘を刺されていたので、僕たちはなるべく気にせず過ごすようにしているけれど。

「にいさまー、また人きてるよー」

 エイルは気になって仕方がないようだ。 かくいう僕も、視線が気になるので外での鍛錬を控え、もしもの事を考えてゼルのもとへ行くのもしばらくお休みしている。

「そうだねぇ……早く来なくなってくれるといいんだけどね」

「リュカ様もレオ様も来られないしー。あの人たちのせいでやだ~」

 そう。お互いの家からも安全のため外出禁止が出されていて、いつものようには会えない状態が続いている。エイルはリュカ様との文通を続けているようだけど。

 ……とはいえ、もう一週間も経った。
 あの人たち、一体いつまで居座るつもりなんだろう。

 ちなみに今回の婚約に関して、我が子爵家からは公式発表は一切出していない。
 フェルダイン公爵家が全面的に取り仕切ってくださり、実務もすべて任せている形だ。

 けれど、いざエイルが婚約書に血判を押す時には、両家の家族が揃って王都の大教会へ出向いた。
 もちろん、立会人は大神官様。余計な者が立ち入らないよう、すべて内密に運ばれた。

 そしてその2日後、発表。
 世間は当然、驚きをもって迎えた。

 まさかの嫡男を差し置いての次男婚約。しかもお相手は子爵家の次男坊。

 ……ただ、跡継ぎを求められない同性婚だからこそ、成立した話なのだろう。

 さて、門前に記者が張りついた以外にも、生活に変化があった。

 それは、エイルに2人の護衛が付くようになったことだ。公爵家から安全の為にと派遣されている。

 といっても、四六時中見張っているわけではない。 自室には入らないし、食事中や家族との時間にも距離をわきまえている。あくまでさりげない警護だ。

 それに何よりありがたいのは、護衛である2人——カイとラウルが、僕とエイルの剣術指導までしてくれていること!

 今は記者避けのため、外部の先生を呼べない状況なので、時々家令が見てくれることもあるけれど、基本勉学は本を使った自主学習のみ。 だからこそ、こうして剣術だけでも実地で教えてもらえるのは本当に助かっている。

 日々の勉強の不安や外に出れない鬱憤を、僕は剣を振って晴らしているような状態だ。





「いいですね、そのまま間を開けずに打ち込んで。……ほら、間が空くと打ち返されちゃいますよ」

 今日も護衛のひとり、カイが指導してくれている。

 場所は屋内、しかも玄関ホール。門の外に記者がいても視線は届かず、広さも申し分ない。 家の中で刀を振れる場所って、実は意外と限られているのだ。

「もっと広い部屋ないの?」って思うかもしれないけど……うちはしがない子爵家。家も建物も歴史は長くても、さすがに公爵家みたいな広間はない。 父上とも相談した結果、ここが一番現実的だった。

 当然だけど、カイに勝てたことは一度もない。
 だって相手は本職の騎士だし、うちは武門の家でもないし。父上も一応文官だし。

 でも、貴族としてのたしなみの一環として、剣術の心得は必要とされている。 体を鍛えることで、精神もついてくる……とか言うけど、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。

 エイルも毎日、木刀を握って果敢に挑んでいる。
 まだ4歳。そもそも一般的に鍛錬を始める年齢に満たしていない。だけど僕やリュカ様と早く一緒に稽古がしたいと、毎日真剣に鍛錬してる。

 正直言って、めちゃくちゃ可愛い。

 兄バカって自覚はあるけど……小さな身体で「やぁっ!」と突っ込んでいくその姿が、どうにもたまらない。
 本当にうちの弟は世界一の可愛さだ。




 コツンっ

「あいたっ……」

「集中力、切れてましたね。今日はここまでにしましょう」

 カイに見抜かれ、今日の稽古は終了。
 うん、仕方ない。エイルが可愛いのが悪い。

 ちなみにカイは、ラウルが離れている時なんかに「実際に襲われたときの戦い方」や「逃げ方」も教えてくれる。

 型通りの騎士道ではなく、実戦寄り。
 不意打ち、目くらまし、かすかな間合いの取り方——そういう、“勝つため”の動き。

 もちろん、本当に襲われるなんて嫌だけど……知っていて損はないし、僕もエイルも真剣に学んでいる。







 そして。

 門前から記者がようやく姿を消し、僕たちがやっと外へ出られるようになるまでには、そこからさらに2ヶ月もかかってしまったのだった。
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