元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

碧野葉菜

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6、決別と本物の愛

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「影では人の悪口ばかり、虚言癖や妄想癖もあり、ひどい時は私や両親に暴力を奮ったりと、手がつけられませんでした。私も花瓶を投げられたことがあり、危うく大怪我をするところでした。しかし、身内にそんな者がいると知れたら、家の名が汚れてしまいます。だから私と両親は、彼女専用の部屋を作り、なるべくそこから出てこないようにと、必死に隠し続けたのです」

 さも苦しげに事実を述べるヒロイン……を演じるミレイユに、アンジェリカは愕然とした。
 クラウスは表情を変えず、ただ静かに聞きに徹している。

「……なので、姉がブリオット公爵の結婚相手に選ばれた時は、本当に驚きましたわ。外出しない姉が、あなた様に見そめられるはずもありませんから。なのできっと、この婚約は、フランチェスカ家とのご縁を望まれてのことだと察しました。ならば、相手はお姉様でなくてもよいはずです……お姉様のように、心に問題を抱えた女性を妻にすれば、ブリオットの沽券に関わります。どうか、お姉様との婚約を破棄し、私と結婚なさってください、今ならまだ間に合いますわ」

 あくまで家のためという名目で、ミレイユはクラウスとの結婚を主張した。
 精神異常者に仕立て上げられたアンジェリカは、ソファーに大人しく座ったまま、ミレイユを傍観していた。
 今までも散々な思いをしてきたが、ここまで計画的に陥れようとするなんて、アンジェリカにはミレイユがまったく理解できなかった。

「……話はよくわかりました、いろいろ考えてくださったようですね」

 微笑するクラウスに、ミレイユは上手くいったと心の中でほくそ笑んだ。

「当然ですわ、爵位式でお会いして、あなた様がどれほど素敵なお方なのか理解しました。そんなお方がお姉様のせいで不幸になるのは、見ていられません。お姉様のことは大切ですが、貴族界やこの国のことも考え、心を鬼にして進言いたしました……」

 エメラルドの瞳に涙を浮かべ、ミレイユはアンジェリカを尊重する台詞も織り交ぜる。
 クラウスはそんなミレイユから、アンジェリカに視線を移した。
 そして、ハッキリと問う。

「アンジェリカ、今、彼女が言ったことは事実ですか?」

 クラウスの声に我に返ったアンジェリカは、パッと彼の方を見た。
 すると、アンジェリカを真剣に見つめる瞳とぶつかる。
 クラウスは、アンジェリカに選択肢を委ねた。
 このまま黙っていていいのか、侮辱されたまま泣き寝入りするのか、本当にそれでいいんですか、と――クラウスの眼差しが語りかけていた。
 アンジェリカは胸に熱いものが込み上げた。
 凍っていた心が、溶けて動き出すようだ。
 このままでいいわけがない。やられっぱなしで泣いてばかりの自分とは、もうさよならしたい。いや、さよならするのだと、アンジェリカは心に決めて、すっくと立ち上がった。
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