アオハルのタクト

碧野葉菜

文字の大きさ
61 / 70
追奏曲(カノン)

1

しおりを挟む
 精神疾患、思い込みの産物、なにをどう考えたって、説明もできなければ納得もできん。
 春歌がおらんようになって初めてのピアノコンクール、事前にエントリーしてもうたから、仕方なく足だけ運んだ。指先一つ、動かす気力もなかった。それやのに椅子に座った途端、腕が持ち上がり、鍵盤を駆け巡った。なにかに引っ張られるような感覚やった。力強い箇所は、マグマが暴れるように、静かな箇所は、羽が舞い降りるように。緩急の激しい歌う音符。生きた旋律は、あいつの――。

「いやぁ、マジですげーわ、水島のピアノ」

 想像を吹き消す、現実の声。耳を傾けた先には、いつもと変わらん光景がある。大して親しくもない、二人の男子生徒。最近は、実力を露わにした俺を持ち上げるのに忙しい。

「こないだ観に行ったら、あり得ん手の動きしてんの」
「遠くからでもわかるよな。腹に響くっていうか、めっちゃ聴き入ったし」

 机に片肘をついて二人を見上げる。我慢できん笑いが込み上げて、鼻を抜けて空気に伝わる。バカにしたんがバレたやろうか。別にええ。今まで俺を、俺のピアノを、取るに足りんものとして、バカにしてきたんはお前らの方や。だからって声を荒げたりせず、あくまで余裕を持って対応する。天才が凡人相手に、目くじらを立てる必要なんてないから。

「大したことないって。これくらいできて当然や。親にも恩返しせなアカンし。二人は進路どうするん? 才能ないなら、必死で努力するしかないから大変よなぁ」

 二人は表情を固めた後、苦笑いをしてお互いの目を探った。高校三年生、否応なしに迫られる未来の選択に、焦りや不安を抱いている生徒も少なくない。そんな中、俺は一人、別の遠い場所におる。高い山のてっぺんから見下ろすような、爽快な気分。結果を出した者に、世間は優しい。自分に寛大になれるんも、勝者の特権や。

「なんか水島、感じ変わったよな。偉そうっていうか」
「ちょっとピアノができるからって、調子にのってるんちゃう」

 放課後の教室で、二人がコソコソ話すんを聞いた。周りの反応が、予想通りすぎて笑える。優れた者は妬まれるし、出る杭は打たれる。善悪や正論も存在せん、個々の欲望がひどくちっぽけに思える。
 違和感を覚えたんは、最初だけやった。不思議な渦に巻き込まれて、自分が自分でなくなるような。そんな恐怖は、コンクールで優勝した怒涛の滾りに飲み込まれた。
 弾けば弾くほど、みんなが俺を讃える。口を揃えて褒めちぎって、ライトを浴びせて拍手をする。才能を称されることは、最強のエクスタシーで、麻薬に等しい中毒性があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...