16 / 53
芽吹く
しおりを挟む
町子のこと好きな子の視点
知らない奴ばかりの新しい教室。
二年に進級すると、元々多くはなかった友人と離れ、一人になった。
退屈だった。
頬杖をついてぼんやりと虚空を眺めていると、前の席に座った女子が、勢いよく振り向いた。
「後ろの人、こんにちは」
「はあ、こ、こんにちは……」
「初めまして。何君ですか?」
大きな目で見つめられ、声が震えそうだった。なんて可愛い顔だ。
「や、八坂です」
「八坂神社の八坂?」
「え、は、はい、そうです」
「すごーい、カッコイイね」
名字をカッコイイなんて褒められたことは、今まで一度もなかった。
変わった子だ。上手く言えないが、変人オーラがにじみ出ている。
たとえ変人でも、この可愛い顔さえあれば人生イージーモードだろう、と恨みがましい気持ちが芽生えた瞬間、彼女が右手を差し出した。
「よろしくね、神社君」
「神社君?」
「違った、八坂君だった」
どんな間違え方だよ、というツッコミを飲み込んで、手を握る。
「私、持田町子っていいます。よろしくね」
握った手があまりにも小さくて、華奢で、好きかもしれないと思った。
好きかも。いや、なんだかすごく、この子が好きだ。
彼女が動くたびに、黒髪のツインテールがふわふわと揺れる。女子に囲まれて、とても楽しそうに笑っている。よく笑う子だ。というか、常に笑っている。
すごい。
キラキラしている。
エネルギーに満ち溢れ、全力で生きているみたいな、まるで野生動物みたいな、生命力を感じる。
というと、ゴリラかな、と勘違いされそうだが、はっきり言って、顔がハチャメチャに可愛い。こんな可愛い子は見たことがなかった。テレビで踊っていても不思議じゃない。いやきっと、テレビで踊っている子だ。
心臓が、ドキドキ鳴っている。
嘘みたいに可愛い。
アイドルを通り越して、天使だ。
今日から一年間、この天使と同じクラスなんて。しかも後ろの席なんて。
幸せ、かもしれない。
「町子、おはよー」
「さっちゃん、おはよ。また同じクラスだね、イエーイ」
キャッキャと手を握り合わせている。一人二人と女子が増えていく。みんな、町子町子と親しげに話しかけている。
そりゃそうだ、と思った。どう見ても陰キャの俺にさえ、話しかけてくれた。
誰にでも優しく、みんなの人気者なのだろう。
「担任、誰かなあ」
「倉知先生だったら、町子どうする?」
「倉知先生が担任だったらおそらく私は一生分の運を使い果たしたことになるので、明日、隕石に当たって死にます」
「死ぬな町子」
死ぬな、生きろ、と女子たちにもみくちゃにされている。
持田さんはどうやら倉知先生が好きらしいということがわかった。
倉知先生は、数学を担当している新卒の若い教師だ。背が高くてカッコよくて、劣等感の塊の俺なんかは、見た瞬間に引け目を感じた。
でも、いい先生だ。優しくて、穏やかで、授業は丁寧でわかりやすい。昼休みに男子とバスケやサッカーをしているところをよく見る。歳が近いせいか、そうしている姿は生徒と見分けがつかないほどだ。
親しみやすさがあって、男子にも女子にも人気だが、先生は既婚者だ。
不毛な恋。
いや、俺が持田さんを好きだとして。どちらかというとこっちのほうが、不毛な恋だ。
「担任ガチャ、当たれ!」
チャイムが鳴ると、女子たちがドアの前に並んで立ち、祈り始めた。大半の生徒が着席しているのに、彼女たちは無邪気に祈り続けている。
教室のドアが、わずかに開いた。
全員が、固唾をのむ。ドアの隙間からひょこりと顔を出したのは、歴史の西村先生だった。西村先生は楽しいし面白い。彼女たちのいう「担任ガチャ」は、大当たりだ。わっ、と拍手が起きたが、ドアの付近で祈っていた女子たちは、崩れ落ちている。
「はい、みんな、席に着いて」
西村先生が手を叩くと、女子たちがゾンビのような動きで各自席に着く。持田さんも唇をとがらせて戻ってきた。
「二年二組のみなさん、副担任の西村です。担任はこちら……、ほら入って」
ざわめきの中、なぜか申し訳なさそうにぺこぺこしながら倉知先生が入ってきた。その瞬間、椅子に腰を下ろしたばかりの持田さんが、弾かれたように立ち上がった。彼女の全身が、小刻みに震えている。彼女が握り締めている机が、ガタガタ鳴った。
友人たちが、「町子!」「やったね!」「町子、死ぬな!」と笑顔で彼女を振り返っている。
教室の最後尾に移動した西村先生に代わって、倉知先生が教壇に立つ。
「おはようございます。二年二組の担任になった、倉知です。一年間、よろしくお願いします」
教室を見渡して、先生が頭を下げた。歓声と拍手が鳴り響く。持田さんが、「あああああああよろしくお願いしまああああす! あああああああ!」と叫んでいる。誰よりも大きく、誰よりも激しく、拍手を繰り出している。
半狂乱で喜ぶ彼女を見て、俺は思った。
可愛いな。
やっぱり好きだな。
と。
揺れ乱れるツインテールを見上げて、高鳴る胸を、押さえた。
〈おわり〉
知らない奴ばかりの新しい教室。
二年に進級すると、元々多くはなかった友人と離れ、一人になった。
退屈だった。
頬杖をついてぼんやりと虚空を眺めていると、前の席に座った女子が、勢いよく振り向いた。
「後ろの人、こんにちは」
「はあ、こ、こんにちは……」
「初めまして。何君ですか?」
大きな目で見つめられ、声が震えそうだった。なんて可愛い顔だ。
「や、八坂です」
「八坂神社の八坂?」
「え、は、はい、そうです」
「すごーい、カッコイイね」
名字をカッコイイなんて褒められたことは、今まで一度もなかった。
変わった子だ。上手く言えないが、変人オーラがにじみ出ている。
たとえ変人でも、この可愛い顔さえあれば人生イージーモードだろう、と恨みがましい気持ちが芽生えた瞬間、彼女が右手を差し出した。
「よろしくね、神社君」
「神社君?」
「違った、八坂君だった」
どんな間違え方だよ、というツッコミを飲み込んで、手を握る。
「私、持田町子っていいます。よろしくね」
握った手があまりにも小さくて、華奢で、好きかもしれないと思った。
好きかも。いや、なんだかすごく、この子が好きだ。
彼女が動くたびに、黒髪のツインテールがふわふわと揺れる。女子に囲まれて、とても楽しそうに笑っている。よく笑う子だ。というか、常に笑っている。
すごい。
キラキラしている。
エネルギーに満ち溢れ、全力で生きているみたいな、まるで野生動物みたいな、生命力を感じる。
というと、ゴリラかな、と勘違いされそうだが、はっきり言って、顔がハチャメチャに可愛い。こんな可愛い子は見たことがなかった。テレビで踊っていても不思議じゃない。いやきっと、テレビで踊っている子だ。
心臓が、ドキドキ鳴っている。
嘘みたいに可愛い。
アイドルを通り越して、天使だ。
今日から一年間、この天使と同じクラスなんて。しかも後ろの席なんて。
幸せ、かもしれない。
「町子、おはよー」
「さっちゃん、おはよ。また同じクラスだね、イエーイ」
キャッキャと手を握り合わせている。一人二人と女子が増えていく。みんな、町子町子と親しげに話しかけている。
そりゃそうだ、と思った。どう見ても陰キャの俺にさえ、話しかけてくれた。
誰にでも優しく、みんなの人気者なのだろう。
「担任、誰かなあ」
「倉知先生だったら、町子どうする?」
「倉知先生が担任だったらおそらく私は一生分の運を使い果たしたことになるので、明日、隕石に当たって死にます」
「死ぬな町子」
死ぬな、生きろ、と女子たちにもみくちゃにされている。
持田さんはどうやら倉知先生が好きらしいということがわかった。
倉知先生は、数学を担当している新卒の若い教師だ。背が高くてカッコよくて、劣等感の塊の俺なんかは、見た瞬間に引け目を感じた。
でも、いい先生だ。優しくて、穏やかで、授業は丁寧でわかりやすい。昼休みに男子とバスケやサッカーをしているところをよく見る。歳が近いせいか、そうしている姿は生徒と見分けがつかないほどだ。
親しみやすさがあって、男子にも女子にも人気だが、先生は既婚者だ。
不毛な恋。
いや、俺が持田さんを好きだとして。どちらかというとこっちのほうが、不毛な恋だ。
「担任ガチャ、当たれ!」
チャイムが鳴ると、女子たちがドアの前に並んで立ち、祈り始めた。大半の生徒が着席しているのに、彼女たちは無邪気に祈り続けている。
教室のドアが、わずかに開いた。
全員が、固唾をのむ。ドアの隙間からひょこりと顔を出したのは、歴史の西村先生だった。西村先生は楽しいし面白い。彼女たちのいう「担任ガチャ」は、大当たりだ。わっ、と拍手が起きたが、ドアの付近で祈っていた女子たちは、崩れ落ちている。
「はい、みんな、席に着いて」
西村先生が手を叩くと、女子たちがゾンビのような動きで各自席に着く。持田さんも唇をとがらせて戻ってきた。
「二年二組のみなさん、副担任の西村です。担任はこちら……、ほら入って」
ざわめきの中、なぜか申し訳なさそうにぺこぺこしながら倉知先生が入ってきた。その瞬間、椅子に腰を下ろしたばかりの持田さんが、弾かれたように立ち上がった。彼女の全身が、小刻みに震えている。彼女が握り締めている机が、ガタガタ鳴った。
友人たちが、「町子!」「やったね!」「町子、死ぬな!」と笑顔で彼女を振り返っている。
教室の最後尾に移動した西村先生に代わって、倉知先生が教壇に立つ。
「おはようございます。二年二組の担任になった、倉知です。一年間、よろしくお願いします」
教室を見渡して、先生が頭を下げた。歓声と拍手が鳴り響く。持田さんが、「あああああああよろしくお願いしまああああす! あああああああ!」と叫んでいる。誰よりも大きく、誰よりも激しく、拍手を繰り出している。
半狂乱で喜ぶ彼女を見て、俺は思った。
可愛いな。
やっぱり好きだな。
と。
揺れ乱れるツインテールを見上げて、高鳴る胸を、押さえた。
〈おわり〉
59
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる