電車の男ー社会人編ー番外編

月世

文字の大きさ
49 / 53

収拾 おまけ

しおりを挟む
〈加賀編〉

「あ、忘れてた」
 おやすみと言い合い、目を閉じてさて寝ようというとき、布団の中で唐突に思い出した。
「なんですか?」
 倉知が抱きまくらの要領で俺を抱きしめながら訊いた。
「まあいいや、明日で」
「え、気になって眠れない」
「アレだよアレ。高橋から預かってたんだった、例のアレ」
 ガバッと起き上がった倉知が、「ハイジャンの?」と声を裏返らせた。
「ごめん、いつだっけ、三日前? 月曜に貰ったの鞄に入れっぱだわ」
「そんなに前に……」
「明日観よ。寝よ寝よ」
 あくびをして布団に潜り込むと、倉知の深刻な声が頭の上に降ってきた。
「観ます、今すぐ」
「えー……」
「出して」
 お願いします、と揺さぶられながら、今の出してはエロいなとニヤニヤする。
「起きて、加賀さん、ほら」
 部屋の明かりを点けられた。
「うわー、まぶしい、目が、目があああ」
「さあ、起きて」
 俺の顔面をつかんで、チュウ、と唇に吸いついてくる。
「お願いします、愛してますから」
「お前なあ、下半身が起きたらどうすんだよ」
 下腹部をさすりながら、身を起こす。必死ぶりが可愛いので起きることにした。
 そういうわけで、深夜のDVD鑑賞会が始まった。
 倉知はソファには座らず、リビングのセンターテーブルの前でちょこんと正座している。
「ちょこんとしてて可愛い」
 褒めてから、DVDをセットして、リモコンを操作しながらソファに身を投げた。
 再生ボタンを押すと映像が映り、倉知の体が少し跳ねた。
 高橋が映っている。高橋の母親は、かなりの瞬発力で録画ボタンを押したらしい。登場シーンからしっかり撮れている。
「加賀さんは?」
 倉知がソファの俺を振り仰ぐ。
「もうちょいあと。高橋の飛ぶとこ観てよ、なんかすごいから」
 どうぞ! というアナウンサーの合図で高橋が走り出す。おそるおそる走ってきて、直前でなぜか立ち止まり、ぴょんと少し飛び上がってバーに体当りしながらマットに倒れ込む。改めて映像で見るとちょっと面白い。でも倉知はピクリとも動かないし、笑い声も漏らさなかった。後ろから覗き込むと、真顔だ。
 ああー、ざんねーん! わあー、あははと現場とスタジオの声が重なった。ジタバタもがく高橋を、アナウンサーが助けている。
 画面はスタジオに戻り、アナウンサーが「惜しかったですねえ」「惜しかったですか?」とやり取りをしたあとで、こっちを向いた。「え? はい、わかりました、もう一人飛びます」と再び現場の映像が映る。
「か、か、加賀さんだ。テレビに加賀さんが」
 倉知が前のめりになる。
「あ、駄目だ、恥ずかしくて見れない、わーわーわー」
 ソファから腰を上げ、寝室に逃げた。
 ドアの向こうで騒ぐ倉知の声。
 えっ、六十センチも上げるんですか? すごい、さすが加賀さん、はあっ、ああ、カッコイイ、喋ってる、加賀さんカッコイイ、キラキラしてる、スーツ……カッコイイ……、実物はもっとカッコイイですけどね、ふふ、がんばれ、がんばって加賀さん、あーっ、すごい、飛んだ、すごい、カッコイイ、えっ、カッコイイ、何今の、カッコイイ、これは永久保存版だ、ねえ加賀さん……あれ? 加賀さん?
 ドアを開けて、顔を覗かせた。
「終わった?」
「いつの間にそこに?」
 ソファの背もたれから倉知が顔を出す。
「終わったんなら寝るぞ」
「先に寝ててください、もう一回観ます」
 まさか俺に倉知を盗られてしまうとは。
 俺め。
 夜が更けていく。

〈おわり〉
しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...