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第1話
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「セレスティン、どうして僕の言ったことを守れないんだ?婚約者としての関係を結んだ以上、僕のいう事に従うというのは当たり前の事だろう?約束を守るというのは子どもだって分かる理屈じゃないか。それがどうして守れないんだ?」
機嫌を損ねた様子を浮かべながら私の婚約者であるカサル様はそう言葉を発する。
無論、私だって守れるだけの約束であるなら絶対に守るし、わざわざカサル様の機嫌を損ねることを狙ってやったりはしない。
けれど、彼が私に突き付けてくる約束はそれはそれは守ることなんてできないものだった。
「お言葉ですが、カサル様のおっしゃられる約束は非常に一方的なものであるように思えるのです…。ご自分は婚約を結ばれた後も自由な交友関係を築かれているのに、私には付き合い以外で他の誰とも関わるななどと…。しかも私はそんな約束はした覚えはありませんのに、いつの間にかその約束は事実であると言ったような雰囲気…。私はどうしてもそこに納得ができないのですが…」
確かに、私たちの間には明確な”立場の違い”というものがある。
彼は王宮に仕える士族としての立場を持っていて、それは言うならその存在を王宮から直接的に認められている素晴らしいもの。
一方の私は、なんの立場や価値も持たない普通の女。
だから、彼からすこし難しい要求やお願いをされるという事自体には、特に何か思っているわけではない。
…でも、そんな私にとっても彼が私につきつけてくる婚約継続の条件は、無茶苦茶だと言わざるを得ないものばかりだった。
「そもそもセレスティン、君はもう僕との婚約者の関係となり、新しい自分をスタートさせたわけではないか。であるなら、過去に交友があったものとの関係はもう必要ないだろう?それをすべて捨てるというのは当たり前の事じゃないか。僕にとって君の過去は必要なものではないし、別に君にとってもいらないものだろう?どうせ大した過去など存在していないのだから」
「……」
「王宮に仕える僕の隣に立つことが出来て、調子に乗ってしまう気持ちもわかる。現に僕は、その気になればどんな貴族令嬢とも関係を築くことができる立場の男なのだからな。しかし、だからといってその行いが許されるわけではない。セレスティン、その事をしっかりと自分の心に言い聞かせてもらおうか」
…カサル様は自分に相当な自信があるのか、ことあるごとにそんな言葉を口にする。
自分が本気を出せば貴族令嬢と結ばれることができるとか、王族の人と食事を行うことが出来るとか…。
時には、自分は次期王子になれるだけの器だと言ったこともある。
…それが本当だというのなら、そんな人が一体どうして私との婚約を選ぶことにしたというのか…。
それが実現できないものだと知っているから、妥協で私の事を横に置くだけにしたのではないだろうか…。
「…セレスティン、何を考えている?」
「い、いえ…なにも…」
…私は頭の中の考えがそのまま顔に出てしまっていたらしく、その事が癇に障った様子のカサル様は私に詰めかかる。
「…セレスティン、勘違いをするんじゃないぞ?何度も言っているが、僕は本気になればどんな相手とも婚約関係を築くことが出来るんだ。あえて正直に言わせてもらえば、君の代わりはいくらでもいるんだ。一度婚約関係を取り付けたからと言って、安心してなめたことをしていたらいつでもこの関係を切り捨ててやるからな?」
「……」
…自分の方から、「僕との婚約を受け入れてほしい、どんなことがあっても幸せにする」などと言っておきながら、婚約を結ぶや否やこの態度…。
別に彼の事が心から憎いだとか言うつもりはないけれど、ただ一方的に言われるだけでは私も納得がいかない。
ここで静かに黙って彼の言葉を聞き入れるのが、出来のいい女のやることなのかもしれない。
そういうタイプの方が求められているのかもしれない。
でも、私にはそんな女を演じる気はさらさらなかった。
「なら、本当に私の事を追い出されたらいかがですか?私もずっと疑問に思っていたのです。カサル様はよくご自分の立場の事を私に自慢されますが、それならどうしてわざわざ私のような女を選ばれたのかと。本当にご自分が貴族令嬢や王族の方の子ことを射止めることが出来るというのでしたら、それを現実にされたらいいのではありませんか?」
「…なんだって…?」
「でも、本当はそれはできないのでしょう?だから私に自慢することでしか威張ることが出来なくて、こうして小さなプライドを守ることしかできないのでしょう?」
「…お、お前……言わせておけば……!」
見るからに頭に血を登らせているカサル様。
でも、私はまったくひるむつもりはない。
「どうなんですか?やっぱり私の言う事の方が正しいのですか?だからなにもできないのですか?」
「…セレスティン、よく聞け」
すると、カサル様はそれまで私が聞いたことのないほど低い声で、こう言葉をつぶやいた。
「その言葉、後から後悔することになるだろう。この僕を挑発して婚約破棄させたなど、いつになっても受け入れられるはずがないのだからな。…セレスティン、お前との関係は今日をもって終わりだ。荷物をまとめてここから出ていってくれ」
カサル様は私の目をどこか悔しそうに見つめながら、強気な口調でそう言葉を発した。
…それが、私たちの関係を逆転させる第一歩であるとも知らず…。
機嫌を損ねた様子を浮かべながら私の婚約者であるカサル様はそう言葉を発する。
無論、私だって守れるだけの約束であるなら絶対に守るし、わざわざカサル様の機嫌を損ねることを狙ってやったりはしない。
けれど、彼が私に突き付けてくる約束はそれはそれは守ることなんてできないものだった。
「お言葉ですが、カサル様のおっしゃられる約束は非常に一方的なものであるように思えるのです…。ご自分は婚約を結ばれた後も自由な交友関係を築かれているのに、私には付き合い以外で他の誰とも関わるななどと…。しかも私はそんな約束はした覚えはありませんのに、いつの間にかその約束は事実であると言ったような雰囲気…。私はどうしてもそこに納得ができないのですが…」
確かに、私たちの間には明確な”立場の違い”というものがある。
彼は王宮に仕える士族としての立場を持っていて、それは言うならその存在を王宮から直接的に認められている素晴らしいもの。
一方の私は、なんの立場や価値も持たない普通の女。
だから、彼からすこし難しい要求やお願いをされるという事自体には、特に何か思っているわけではない。
…でも、そんな私にとっても彼が私につきつけてくる婚約継続の条件は、無茶苦茶だと言わざるを得ないものばかりだった。
「そもそもセレスティン、君はもう僕との婚約者の関係となり、新しい自分をスタートさせたわけではないか。であるなら、過去に交友があったものとの関係はもう必要ないだろう?それをすべて捨てるというのは当たり前の事じゃないか。僕にとって君の過去は必要なものではないし、別に君にとってもいらないものだろう?どうせ大した過去など存在していないのだから」
「……」
「王宮に仕える僕の隣に立つことが出来て、調子に乗ってしまう気持ちもわかる。現に僕は、その気になればどんな貴族令嬢とも関係を築くことができる立場の男なのだからな。しかし、だからといってその行いが許されるわけではない。セレスティン、その事をしっかりと自分の心に言い聞かせてもらおうか」
…カサル様は自分に相当な自信があるのか、ことあるごとにそんな言葉を口にする。
自分が本気を出せば貴族令嬢と結ばれることができるとか、王族の人と食事を行うことが出来るとか…。
時には、自分は次期王子になれるだけの器だと言ったこともある。
…それが本当だというのなら、そんな人が一体どうして私との婚約を選ぶことにしたというのか…。
それが実現できないものだと知っているから、妥協で私の事を横に置くだけにしたのではないだろうか…。
「…セレスティン、何を考えている?」
「い、いえ…なにも…」
…私は頭の中の考えがそのまま顔に出てしまっていたらしく、その事が癇に障った様子のカサル様は私に詰めかかる。
「…セレスティン、勘違いをするんじゃないぞ?何度も言っているが、僕は本気になればどんな相手とも婚約関係を築くことが出来るんだ。あえて正直に言わせてもらえば、君の代わりはいくらでもいるんだ。一度婚約関係を取り付けたからと言って、安心してなめたことをしていたらいつでもこの関係を切り捨ててやるからな?」
「……」
…自分の方から、「僕との婚約を受け入れてほしい、どんなことがあっても幸せにする」などと言っておきながら、婚約を結ぶや否やこの態度…。
別に彼の事が心から憎いだとか言うつもりはないけれど、ただ一方的に言われるだけでは私も納得がいかない。
ここで静かに黙って彼の言葉を聞き入れるのが、出来のいい女のやることなのかもしれない。
そういうタイプの方が求められているのかもしれない。
でも、私にはそんな女を演じる気はさらさらなかった。
「なら、本当に私の事を追い出されたらいかがですか?私もずっと疑問に思っていたのです。カサル様はよくご自分の立場の事を私に自慢されますが、それならどうしてわざわざ私のような女を選ばれたのかと。本当にご自分が貴族令嬢や王族の方の子ことを射止めることが出来るというのでしたら、それを現実にされたらいいのではありませんか?」
「…なんだって…?」
「でも、本当はそれはできないのでしょう?だから私に自慢することでしか威張ることが出来なくて、こうして小さなプライドを守ることしかできないのでしょう?」
「…お、お前……言わせておけば……!」
見るからに頭に血を登らせているカサル様。
でも、私はまったくひるむつもりはない。
「どうなんですか?やっぱり私の言う事の方が正しいのですか?だからなにもできないのですか?」
「…セレスティン、よく聞け」
すると、カサル様はそれまで私が聞いたことのないほど低い声で、こう言葉をつぶやいた。
「その言葉、後から後悔することになるだろう。この僕を挑発して婚約破棄させたなど、いつになっても受け入れられるはずがないのだからな。…セレスティン、お前との関係は今日をもって終わりだ。荷物をまとめてここから出ていってくれ」
カサル様は私の目をどこか悔しそうに見つめながら、強気な口調でそう言葉を発した。
…それが、私たちの関係を逆転させる第一歩であるとも知らず…。
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