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第1話
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「グルーム様、この度はメレーナ様とのご婚約、誠におめでとうございます」
グルーム伯爵のもとに挨拶に訪れたルガン侯爵は、自らの姿勢を低くし、こびへつらう感満載な様子でそう言葉を発する。
グルーム伯爵はつい最近、自身と同じく貴族家の生まれである貴族令嬢、メレーナとの婚約を成立させていた。
ルガン侯爵はそんなグルームの婚約に祝いの言葉を伝えるべく、こうしてはるばる彼の元を訪れていた。
…しかし、一方のグルームはどこかあまりうれしそうな表情を浮かべてはいなかった。
「なんだその話か…。正直、それはもう過去の話となった」
「か、過去の話、と言いますと…?」
グルームの言っていることの意味が全く理解でいないルガンは、かけられた言葉をそのまま返した。
するとグルームは、ややその機嫌を損ねた様子を見せながら、そう言葉を発するに至った理由を淡々と話し始めた。
――つい先日の事――
「メレーナ、君との婚約は見直すことにした」
「え……」
グルームはメレーナを自らの部屋に呼び出すやいなや、冷たい口調でそう言葉をかけた。
しかし、メレーナにはそのような言葉をかけられる心当たりが全くない。
それゆえに、はいそうですかと聞き入れることは当然できなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいグルーム様、いきなり婚約を見直すだなんて言われても、私にはなにがなんだか…」
「そうか、分からないか…。そのあたりは鋭いタイプだと思っていたんだが、言わないと分からないか…」
「…??」
グルームはやれやれといった表情を浮かべながら、メレーナに対してそう考えるに至った理由の説明を始める。
「正直、僕はもう君に対して恋愛感情を持っていないんだ。最初こそなかなか好みな雰囲気をしていたから関係を打診したんだが、正直もう飽きてしまったのだよ。僕は
それでもこの関係を維持するべきかどうか悩んでいたんだが、そんなある日の事、僕のもとに一人の女性が訪れてきた。君もよく知っているだろう?ソフィアだよ」
「……」
ソフィア、という名前にメレーナは聞き覚えがあった。
ソフィアはグルームの一つ下の年齢、メレーナから見れば4つ上の年齢に当たる。
メレーナはソフィアと直接話をしたことがあるのだが、その性格はお世辞にも良いものとは言い難いものであり、グルームの前では甘い口調を発して猫をかぶりながら、それ以外の者の前ではかなり攻撃的な口調で言葉を発することがよくあった。
しかしソフィアはグルームからいつからかかなり気に入られている存在であったため、その事を誰からも注意されることなくここまで関係を続けていたのだった。
「ソフィアは僕を飽きさせないんだ…!僕が喜ぶであろうことを的確にやってくれて、僕が癒されるであろう言葉を的確にかけてくれる…!正直今の僕にとって、これ以上ないくらいの存在だ」
「…だから、なんだと言うんですか?」
正直、そこから先の事は聞かずともメレーナは察することが出来た。
しかし、それを相手の口から直接聞かない事には、話が何も進まない。
ゆえに彼女はあえてその点をはっきりさせようとしたのだった。
「だから僕は、君との関係を諦めてソフィアとの新しい未来を築きたく思っている。…しかし正直、ここまで言わないとわからないとは驚きだった。僕が君の事を好きではなくなっていて、ソフィアの方が良い関係を築いているという事くらい、子どもだって分かりそうなものだがな…」
「…私はグルーム様の婚約者なのですよ?旦那様の事を疑う事なんでするわけがないではありませんか」
「そういうところも嫌なんだよ。そう言えばいいとでも思っているんだろう?しかし僕から愛想を尽かされたというのは紛れもない事実なんだよ。君はその事から目を背けていただけだろう?現実逃避をすることほどみっともないことはないぞ?」
「……」
本当にみっともないのはどちらなのか、誰の目にも明らかである。
しかしメレーナの心の中には、それを言い返せるほどのグルームに対する思いは関係に消えてしまっていた…。
――――
「それで、そのまま婚約関係は終わりになることになった。ゆえにルガン侯爵、僕とメレーナに対する祝いの言葉は不要だ。なんなら、僕とソフィアとの関係を祝う言葉をプレゼントしてほしいくらいだな」
「え…?もうすでにその話は決まっているのですか…?」
「あぁ、当然だとも。僕たちは互いに心を通わせるもの同士なのだから、当然だろう?」
「……」
さも普通の事のような表情を浮かべるグルーム伯爵であるものの、そんな彼の姿を見るルガン侯爵は内心でかなりドン引きしていた…。
「(すごいなこの人…。まるで自分の行いに一切の非がないとでも言いたげだ…。メレーナ様には気の毒だけれど、正直こんな男から離れられただけでもよかったんじゃないだろうか…。離縁することになったと言えばイメージはよくないかもしれないけれど、今回に限ればその方が正解なようにも思える…)」
メレーナに対する同情心を抱きながら、心の中にそう言葉をつぶやいたルガン侯爵。
一方のグルーム伯爵はそれまでと変わらず、悪びれる様子など一切なく上機嫌な表情を浮かべている。
…しかし、この時本当になにも分かっていないのは伯爵の方であった。
すでに自らの立場を崩壊させる時計の針が、進み始めているという事に…。
グルーム伯爵のもとに挨拶に訪れたルガン侯爵は、自らの姿勢を低くし、こびへつらう感満載な様子でそう言葉を発する。
グルーム伯爵はつい最近、自身と同じく貴族家の生まれである貴族令嬢、メレーナとの婚約を成立させていた。
ルガン侯爵はそんなグルームの婚約に祝いの言葉を伝えるべく、こうしてはるばる彼の元を訪れていた。
…しかし、一方のグルームはどこかあまりうれしそうな表情を浮かべてはいなかった。
「なんだその話か…。正直、それはもう過去の話となった」
「か、過去の話、と言いますと…?」
グルームの言っていることの意味が全く理解でいないルガンは、かけられた言葉をそのまま返した。
するとグルームは、ややその機嫌を損ねた様子を見せながら、そう言葉を発するに至った理由を淡々と話し始めた。
――つい先日の事――
「メレーナ、君との婚約は見直すことにした」
「え……」
グルームはメレーナを自らの部屋に呼び出すやいなや、冷たい口調でそう言葉をかけた。
しかし、メレーナにはそのような言葉をかけられる心当たりが全くない。
それゆえに、はいそうですかと聞き入れることは当然できなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいグルーム様、いきなり婚約を見直すだなんて言われても、私にはなにがなんだか…」
「そうか、分からないか…。そのあたりは鋭いタイプだと思っていたんだが、言わないと分からないか…」
「…??」
グルームはやれやれといった表情を浮かべながら、メレーナに対してそう考えるに至った理由の説明を始める。
「正直、僕はもう君に対して恋愛感情を持っていないんだ。最初こそなかなか好みな雰囲気をしていたから関係を打診したんだが、正直もう飽きてしまったのだよ。僕は
それでもこの関係を維持するべきかどうか悩んでいたんだが、そんなある日の事、僕のもとに一人の女性が訪れてきた。君もよく知っているだろう?ソフィアだよ」
「……」
ソフィア、という名前にメレーナは聞き覚えがあった。
ソフィアはグルームの一つ下の年齢、メレーナから見れば4つ上の年齢に当たる。
メレーナはソフィアと直接話をしたことがあるのだが、その性格はお世辞にも良いものとは言い難いものであり、グルームの前では甘い口調を発して猫をかぶりながら、それ以外の者の前ではかなり攻撃的な口調で言葉を発することがよくあった。
しかしソフィアはグルームからいつからかかなり気に入られている存在であったため、その事を誰からも注意されることなくここまで関係を続けていたのだった。
「ソフィアは僕を飽きさせないんだ…!僕が喜ぶであろうことを的確にやってくれて、僕が癒されるであろう言葉を的確にかけてくれる…!正直今の僕にとって、これ以上ないくらいの存在だ」
「…だから、なんだと言うんですか?」
正直、そこから先の事は聞かずともメレーナは察することが出来た。
しかし、それを相手の口から直接聞かない事には、話が何も進まない。
ゆえに彼女はあえてその点をはっきりさせようとしたのだった。
「だから僕は、君との関係を諦めてソフィアとの新しい未来を築きたく思っている。…しかし正直、ここまで言わないとわからないとは驚きだった。僕が君の事を好きではなくなっていて、ソフィアの方が良い関係を築いているという事くらい、子どもだって分かりそうなものだがな…」
「…私はグルーム様の婚約者なのですよ?旦那様の事を疑う事なんでするわけがないではありませんか」
「そういうところも嫌なんだよ。そう言えばいいとでも思っているんだろう?しかし僕から愛想を尽かされたというのは紛れもない事実なんだよ。君はその事から目を背けていただけだろう?現実逃避をすることほどみっともないことはないぞ?」
「……」
本当にみっともないのはどちらなのか、誰の目にも明らかである。
しかしメレーナの心の中には、それを言い返せるほどのグルームに対する思いは関係に消えてしまっていた…。
――――
「それで、そのまま婚約関係は終わりになることになった。ゆえにルガン侯爵、僕とメレーナに対する祝いの言葉は不要だ。なんなら、僕とソフィアとの関係を祝う言葉をプレゼントしてほしいくらいだな」
「え…?もうすでにその話は決まっているのですか…?」
「あぁ、当然だとも。僕たちは互いに心を通わせるもの同士なのだから、当然だろう?」
「……」
さも普通の事のような表情を浮かべるグルーム伯爵であるものの、そんな彼の姿を見るルガン侯爵は内心でかなりドン引きしていた…。
「(すごいなこの人…。まるで自分の行いに一切の非がないとでも言いたげだ…。メレーナ様には気の毒だけれど、正直こんな男から離れられただけでもよかったんじゃないだろうか…。離縁することになったと言えばイメージはよくないかもしれないけれど、今回に限ればその方が正解なようにも思える…)」
メレーナに対する同情心を抱きながら、心の中にそう言葉をつぶやいたルガン侯爵。
一方のグルーム伯爵はそれまでと変わらず、悪びれる様子など一切なく上機嫌な表情を浮かべている。
…しかし、この時本当になにも分かっていないのは伯爵の方であった。
すでに自らの立場を崩壊させる時計の針が、進み始めているという事に…。
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