6 / 6
⑥
しおりを挟む
「それに社交界の中でも大丈夫だ」
そう言ってセヴラン殿下はグルリと周囲を見回した。
「今日は私の生誕パーティーで、上位貴族だけではなく国中から多くの貴族が出席している。その者達の前で包み隠さず、私のほうからシリル嬢へ求婚をしている状態なのだ。社交界の中で貴女の醜聞が起きるはずもない。そうだろう?」
ニコニコ笑いながら周りを見つめていくセヴラン殿下からは、笑顔の下に「いらぬ噂を許さない」といった無言の圧力が感じられる。それを周りの方々もしっかりと感じているのかもしれない。セヴラン殿下が視線を合わせた上位貴族の方々なんかは特に顔を強張らせながら頷いていた。
このタイミングで突然婚約を申し込んできたことさえ、外堀を埋めるためのことだったのでは、と思えてくる。
「醜聞的な心配さえなければアングラード家としては問題がないというなら、これで大丈夫だと分かってもらえたはずだ。だから安心して私の婚約者になってくれ。何があっても私が守ろう」
ただでさえ公然の面々で王族からの求婚を断ることはとても難しい。それなのに遠回しに断るために告げた私自身の言葉に足元を掬われているのだから。私はもう1度ガクッと肩を落とした。
「……ありがとうございます。これからよろしくお願い致します…」
田舎での素敵な隠居生活へ心の中でお別れを告げながら、私は巻き起こる拍手の中で強く抱き締められた。
「受けてくれて嬉しいよ! いかなる時も貴女を大切に愛しもう!」
そう言って抱き締められる。その一瞬見えたガイラス様とノエリア様の唖然とした顔に私はもう1つハッとした。
「セヴラン殿下……ノエリア様を市井からお捜しされた際にご助力されたとか」
「あぁ、コルベール子爵家が困っていたようだったからな」
「ガイラス様とノエリア様が出会われた舞踏会はたしかセヴラン殿下が開催されたパーティーだったと覚えていますが……」
「そうだな、それがどうかしたのか?」
まさかまわりの人達はこんな大勢の方々の中での抱擁で、こんな会話をしているとは思わないだろう。
「……国王や王妃への許可はいつ取られたのでしょうか?」
「勝ちを逃したくなければ、事前の準備が必要だろう?」
「仕組まれましたね……」
呆れて思わずセヴラン殿下を睨みつけようとした私だった。だけど。
「……言ったではないか、ずっと貴女が私の婚約者であれば、と願っていたと」
そんな私へ悪びれることなく向けられたのは、思わず赤面してしまうぐらい甘い笑顔と甘い声なのだ。
嬉しくて仕方がない、といった感情がダダ漏れの雰囲気でそんなことを言うものだから、私はもうなにも言えなくなる。
「あっ、だがこのパーティーでガイラスがしでかした騒動は私は関与をしていないぞ」
「本当でしょうか?」
「あぁ、これから策を施そうと思っていたんだ」
飄々としたその言葉に私は思わず溜息を吐いた。
これまではガイラス様の後始末に追われる日々だったけど、これからはセヴラン殿下との謀り合いにでもなりそうだった。
どちらも気が抜けそうにない日々なのだ。だけど。
「愛している。ずっと貴女だけを」
嬉しそうに笑うセヴラン殿下に、さっそく絆されかけているのだから、初回戦は私の負けのようだった。
〔完〕
そう言ってセヴラン殿下はグルリと周囲を見回した。
「今日は私の生誕パーティーで、上位貴族だけではなく国中から多くの貴族が出席している。その者達の前で包み隠さず、私のほうからシリル嬢へ求婚をしている状態なのだ。社交界の中で貴女の醜聞が起きるはずもない。そうだろう?」
ニコニコ笑いながら周りを見つめていくセヴラン殿下からは、笑顔の下に「いらぬ噂を許さない」といった無言の圧力が感じられる。それを周りの方々もしっかりと感じているのかもしれない。セヴラン殿下が視線を合わせた上位貴族の方々なんかは特に顔を強張らせながら頷いていた。
このタイミングで突然婚約を申し込んできたことさえ、外堀を埋めるためのことだったのでは、と思えてくる。
「醜聞的な心配さえなければアングラード家としては問題がないというなら、これで大丈夫だと分かってもらえたはずだ。だから安心して私の婚約者になってくれ。何があっても私が守ろう」
ただでさえ公然の面々で王族からの求婚を断ることはとても難しい。それなのに遠回しに断るために告げた私自身の言葉に足元を掬われているのだから。私はもう1度ガクッと肩を落とした。
「……ありがとうございます。これからよろしくお願い致します…」
田舎での素敵な隠居生活へ心の中でお別れを告げながら、私は巻き起こる拍手の中で強く抱き締められた。
「受けてくれて嬉しいよ! いかなる時も貴女を大切に愛しもう!」
そう言って抱き締められる。その一瞬見えたガイラス様とノエリア様の唖然とした顔に私はもう1つハッとした。
「セヴラン殿下……ノエリア様を市井からお捜しされた際にご助力されたとか」
「あぁ、コルベール子爵家が困っていたようだったからな」
「ガイラス様とノエリア様が出会われた舞踏会はたしかセヴラン殿下が開催されたパーティーだったと覚えていますが……」
「そうだな、それがどうかしたのか?」
まさかまわりの人達はこんな大勢の方々の中での抱擁で、こんな会話をしているとは思わないだろう。
「……国王や王妃への許可はいつ取られたのでしょうか?」
「勝ちを逃したくなければ、事前の準備が必要だろう?」
「仕組まれましたね……」
呆れて思わずセヴラン殿下を睨みつけようとした私だった。だけど。
「……言ったではないか、ずっと貴女が私の婚約者であれば、と願っていたと」
そんな私へ悪びれることなく向けられたのは、思わず赤面してしまうぐらい甘い笑顔と甘い声なのだ。
嬉しくて仕方がない、といった感情がダダ漏れの雰囲気でそんなことを言うものだから、私はもうなにも言えなくなる。
「あっ、だがこのパーティーでガイラスがしでかした騒動は私は関与をしていないぞ」
「本当でしょうか?」
「あぁ、これから策を施そうと思っていたんだ」
飄々としたその言葉に私は思わず溜息を吐いた。
これまではガイラス様の後始末に追われる日々だったけど、これからはセヴラン殿下との謀り合いにでもなりそうだった。
どちらも気が抜けそうにない日々なのだ。だけど。
「愛している。ずっと貴女だけを」
嬉しそうに笑うセヴラン殿下に、さっそく絆されかけているのだから、初回戦は私の負けのようだった。
〔完〕
520
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
バカ二人のおかげで優秀な婿と結婚できるお話
下菊みこと
恋愛
バカ二人が自滅するだけ。ゴミを一気に処分できてスッキリするお話。
ルルシアは義妹と自分の婚約者が火遊びをして、子供が出来たと知る。ルルシアは二人の勘違いを正しつつも、二人のお望み通り婚約者のトレードはしてあげる。結果、本来より良い婿を手に入れることになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです
白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」
国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。
目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。
※2話完結。
「仕方ないから君で妥協する」なんて言う婚約者は、こちらの方から願い下げです。
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるマルティアは、父親同士が懇意にしている伯爵令息バルクルと婚約することになった。
幼少期の頃から二人には付き合いがあったが、マルティアは彼のことを快く思っていなかった。ある時からバルクルは高慢な性格になり、自身のことを見下す発言をするようになったからだ。
「まあ色々と思う所はあるが、仕方ないから君で妥協するとしよう」
「……はい?」
「僕に相応しい相手とは言い難いが、及第点くらいはあげても構わない。光栄に思うのだな」
婚約者となったバルクルからかけられた言葉に、マルティアは自身の婚約が良いものではないことを確信することになった。
彼女は婚約の破談を進言するとバルクルに啖呵を切り、彼の前から立ち去ることにした。
しばらくして、社交界にはある噂が流れ始める。それはマルティアが身勝手な理由で、バルクルとの婚約を破棄したというものだった。
父親と破談の話を進めようとしていたマルティアにとって、それは予想外のものであった。その噂の発端がバルクルであることを知り、彼女はさらに驚くことになる。
そんなマルティアに手を差し伸べたのは、ひょんなことから知り合った公爵家の令息ラウエルであった。
彼の介入により、マルティアの立場は逆転することになる。バルクルが行っていたことが、白日の元に晒されることになったのだ。
熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。
許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?
風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。
そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。
ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。
それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。
わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。
伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。
そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。
え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか?
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる