ピンク髪の悪魔は廊下を爆走する!なんてったってヒロインだからね!

白雪なこ

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ピンク髪の悪魔は廊下を爆走する!なんてったってヒロインだからね!

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 ヒロインは苛立っていた。
 何故、こんなことになったのかと。
 自分はどうして、こんな酷い目に遭っているのかと。


 **


 15歳の春、ふと気がつけば、自分が自分ではなかった。
 街を歩いていて、湧き上がってきた強烈な違和感。

 え?周囲の景色がおかしい?
 は?周囲の人間もおかしい?

 見慣れた色合いじゃない人だらけだ。
 近くの店の大きな窓ガラスに映る人物の色合いも猛烈におかしい。

 え?

 私?

 自分だったよ!
 周囲だけじゃなく、自分もおかしい。ていうか、周囲より、飛び抜けておかしい!

 妙に艶々したピンク色の派手な髪。

 何これ?ペ?とかパ?の人?

 私の頭がピンクなの?嘘でしょ?
 そして、つるぺたボディ、ちんちくりん系。

 格好良いモデル系なら少しは喜べたかもだけど、どこからどうみても立派なちんちくりん系だ。
 
 子供アニメのキャラみたい?
 いや、あそこまで頭が大きいわけじゃないけど。
 うん、頭がシャツの首元で引っかかって、着替えができない……ことはない。多分。

 なんだこれ?
 少し考えてみると、この姿の自分の名前や家は覚えている。
 帰れる。

 私の本当の名前や家は……あれ?名前は……タドユキナ!そう、ユキナ!
 家は……トウキョウ?違うか。キュウシュウ?違うか。
 マローナ?そうそう、そこ!
 って、これはこの姿の私の住んでいる、この街の名前だ!
 
 えー、本当の家ことは?
 何も思い出せない?
 やばいよ、私、帰れないじゃん。

 ヤダヤダ、怖い。
 マジで、怖い!

 とりあえず、“今は”思い出せている、この街の家に帰る。
 全部忘れちゃって、どこの誰だかわからなくなったら困るから。
 覚えているうちに帰る。

 周囲に並ぶ家と同じく、二階建ての煉瓦造りの家。
 玄関ドアは木製で、鍵なしで入れる。防犯大丈夫か?

 この家に住んでいる親?
 ……そう、仕事でいない。うん。

 自分の部屋もわかる。
 部屋にある姿見で、自分を確認。
 うん。ピンク頭といまいちボディの割に、顔は可愛い方かもしれない。
 それに安堵する。いや、安心できないけど。

 でも、頭の色、絶対に変だし。
 つるぺたボディだし。
 ちんちくりん系だし。

 どうすんの、これ?
 
 じっくり鏡の中の自分を観察していて、気づいた。
 もしかして、私、まだ子供なのかもしれない。
 この少年の様な体つき!12歳?ぐらいかな?つるぺたは今だけかもしれない。
 いやでも、さっき街中で見たこのぐらいの子供よりバランスが……

 ちんちくりんは……固定?嫌なんですけど。
 でも、どこか見覚えがあるようなないような。
 その前に名前だ、名前。
 私は誰?年齢は?

 私は。そう、マリリン!
 マリリン、15歳!

 おい!12歳じゃないじゃないか!

 つるぺたボディで、ちんちくりん系で、生涯固定?
 そ、そんな!嫌だ~!
 ゲームとか、アニメでは可愛いなと思うけど、リアルではボンキュッボンに憧れていたのよ!

 いや、落ち着け、私。これは私ではない!
 
 そう。ゲームとか、アニメの世界の!
 そう、夢でその中に!

 ああ、なんだ。夢か。今寝てるのね、ユキナは。
 なんだ。焦って損した。バカだな私。

 夢なら夢って書いておいてよね!もう!
 神様のウッカリさん!

 で、ここは何の世界?

 あ、自分で当てちゃおう!折角だし、楽しまないと!

 部屋を見渡すと、見覚えのある、特徴的なデザインの制服がかけてあった。
 膝丈の白いセーラーカラーのワンピース。胸元にリボン型の巨大ブローチ。
 顔の幅サイズだよ。いや、邪魔でしょ、これ。

 でも、わかった。ここがどこか。

 少し前にハマっていたスマホゲームだわ。
 “愛されたのは私でした。少女は学園で愛に包まれる”って、ゲーム。
 そして、ピンク頭の私。

 ヒロインじゃん!
 ウケる!





 ウケてる場合じゃありませんでした。

 何度寝て起きても、私はマリリン、15歳!
 ピンク頭で、つるぺたボディで、ちんちくりん系なままです。

 ユキナとして目覚めたいけれど、どんな世界が、ユキナの世界なのかもわからないんだもん。

 ユキナ情報もないし。今と顔や髪の色が違うことしかわからない。
 ユキナの世界は?どうやったら、夢から覚める?戻れる?




 次第に世界や自分に対する違和感もなくなり、転生の自覚は少しだけあるけれど、私はほぼマリリンとして生きている。夢ではない、このリアル世界で。

 憧れの異世界転生を果たし、前世でハマっていたスマホゲームの世界のヒロインとして生きる!という自覚はないけれど、マリリンは、運命に従い、マローナ学園に入学。

 あんなにおかしいと思っていたことも忘れ、今は自分の姿が大好きになっている。
「いやーん、この制服私に似合う!」と、鏡の中の自分を愛ですぎ、入学式に遅刻。

 家で食べられなかったパンを咥えて、走りに走って、門が閉まる前に、学内に滑り込み。

 入学式で、最後に会場入りする、高位貴族令息攻略対象が待機している中に突っ込んでいき、ブリブリぶりっ子で、魅了。

 流石ヒロイン!

 どんな無茶な意見も、マリリンヒロイン無双で、叶えてしまい、学園の一般生徒達を震撼させた。

 目を合わすな、睨まれたと泣かれ、高位貴族令息たちに責められるぞ!
 近くに寄るな、突き飛ばされたと泣かれ、高位貴族令息たちに責められるぞ!
 持ち物の側にも寄るな、盗られた、壊されたと泣かれ、高位貴族令息たちに責められるぞ!
 
 高位貴族令息たちは、貴族だから、当然みんな婚約者持ちだ。

 マリリンは、「皆さんは、我慢ばかりしていて可哀想!」と、いつもいつも慰めていた。みんな「そうなんだ、辛いよ。だし」と、断罪ができるその時を心待ちにしているようだった。

 姿を見たことはないけれど、婚約者はみんな高位貴族の令嬢だと聞く。
 だから、派手で傲慢な悪役令嬢に、虐められたらどうしよう、と不安に思っていた。
 会う前から、貴方たちの婚約者に虐められたら、婚約者を成敗してね?とは言えないので、言う準備だけして、待っていた。可愛い私が、虐められて、それを高位貴族令息達が助けてくれる未来を信じて。婚約者とは婚約破棄よね。そして、私がみんなのお姫様になるの!


 そんなことを考えていたら、明日、貴族のが、学校に来るとの情報を得た。なんでも、見学するとか?

 貴族の子供って、悪役令嬢達だよね、絶対。
 学園に入る前に見学する子供ってことは、1こ下か!
 婚約者を見ないと思ったら、なるほど!
 そっか、来年入学か!
 でも、来年まで待つなんて、長すぎるわ!
 相手がまとめてくるなら、まとめて片付ければ良い話!
 明日勝負をかけちゃお!
 かかってこんか~い!


 お昼休みの頃に来て、食堂とか見学して、午後の授業を、廊下側から少し見学して帰るらしい。

 よし!

 まずは、親にどうしてこんなにすぐにボロボロにするの!と怒られながら買い直してもらった、まだ綺麗な制服と靴を脱いで着替える。

 毎日の激しい走り込み、地面への滑り込みのせいで、ボロボロになった古い制服と靴を身につけ、廊下を歩く集団に向かって爆走!ちょっと距離があったので、滑り込むタイミングがズレちゃいそうで、必死に走る。

 廊下の角を曲がれば、悪役令嬢の集団に突っ込んで、転ける。そして、泣く!完璧!

 走って引き離したけど、私の後ろから高位貴族令息達が、婚約者を出迎える為に歩いて来ている筈だから、転ばされた、泣かされたと、アピールできるわ。

 これで、悪役令嬢退治は余裕で終了。最大の邪魔者がいなくなった学園では、私だけが愛に包まれるの!






 真っ赤な顔で、顔を歪めて突っ込んできた、ピンク色の生き物。

「きゃあぁああ!いやぁあやめてぇ、悪役令嬢ぉぉぉ!酷いわぁぁぁ!誰か助けてぇええええ!」

 自分達の真ん中に滑り込みながら、大声で叫び、すごい顔で睨んできたあと、固まったピンクの悪魔。

 怖い、怖すぎる!

 びえぇぇーーーーーーーん!
 びえぇぇーーーーーーーん!
 びえぇぇーーーーーーーん!

 40人程いた、7歳児達はもちろん大号泣だ。

 怖いよぉ、えーん!怖いよぉ、えーん!


 あら?私より、ちびっちゃいのがいっぱい?マリリンも内心パニックだ。


 背後から複数の足音が近づいて来た。騒動に気づいて駆けてきた高位貴族令息達だ。
 マリリンとしては、涙を出して救いを求めたいが、顔が強張っていてうまくいかない。


「ローズ、ローズ、大丈夫か!」
「何があった?メリー!」
「シルビィ、こっちへ、こっちへおいで!」
「どうした!ああ、こんなに泣いて!私のリリー!」
「私が来たから大丈夫だぞ!ほら、シーナ、こっちへおいで!」


 高位貴族令息達は、廊下に座り込んでいるマリリンなど、目に入らないかのように、震えながら大泣きしている美少女達の下に駆けつけて、抱きしめたり、抱き上げたりして、慰めている。

 その他の子ども達は、数人いた引率の教師にしがみついてエグエグと泣いていたり、子ども同士団子になったり、壁にくっついて泣いていたりで、カオスである。








 ヒロイン、マリリン。
 入学前の見学ではなく、社会見学に来た、7歳児の集団を襲って、怖い目に合わせたとして、退学。
 これまでの問題行動を庇ってくれていた高位貴族令息達が、裏切りました。


 元々いた、同世代の婚約者達は、13歳の頃、女児を集めたお茶会で、落雷により全員亡くなったんだって。
 この国では現在女児の人数の方が男児より少なく、貴族は6歳ごろに婚約者が決まるので、13歳で婚約者を亡くした少年達とその親は困ったらしい。

 同世代でフリーで残っているのは問題のある令嬢のみ。縁を結びたいと思えるようなの令嬢は見つからず。そこで、まだ婚約者が決まる前の5歳児と婚約することになったのだ。5歳の男児がいる家からはブーイングの嵐だったそうだが、そこは全員高位貴族。黙らせたそうだ。

 なので、本日社会見学に来た、小さな令嬢達は、彼らこの学園に通う高位貴族令息達にとっては、大事な大事な宝物。普段チヤホヤしてくれていても、マリリンなど比較にならない、守るべき愛する婚約者ちゃん達なのだ。


 マリリン、惨敗。






 修道院に入るのは、持参金が足りないと言うより、ない。
 なので、過酷な場所にある修道院の修道女の手伝いをする下女として、マリリンは辺境に連れて行かれた。

 マリリンヒロインは苛立っていた。

 何故、こんなことになったのかと。
 どうして、自分が、こんな酷い目に遭っているのかと。
 可愛い自分は、人生勝ち組はなかったのか。
 高位貴族の誰かのお嫁さんになり、宝石とドレスで誰よりも美しく身を飾って。
 素敵な男性に囲まれて、毎日優雅にお茶会をしたりして。
 こんなに可愛いのだから、お姫様にだってなれたはず。


 いや、頭の色、絶対に変だし。
 つるぺたボディだし。
 ちんちくりん系だし。
 バカだし。

 でも、頑張れ。
 バイバイ。


 そんな声が聞こえた気がしたけれど。


 マリリンヒロインは、握りしめた洗濯物に、恨みを込めて、ガッシガッシと洗ったのだった。

 fin


*******
ユキナは、元の世界に帰れたようです。マリリンに憑依してただけみたいな。マリリンの性格は、元々自分勝手です。そして、自分のことが大好き。ユキナはそれを見せられていただけですね。

婚約者の成長待ちな少年たちでした。
貴族は全員婚約者がいるし、平民は近づいてこないし。身分無視なヒロインといると、婚約者が生きていたら、こうやって学園で喋ったり、頼られたりしたのかなと、半分妄想世界に生きていて、ヒロインの迷惑行動についてはよく考えてなかったのでしょう。彼らも、後で迂闊な行動について、叱られました。大事な現婚約者と婚約解消なんて嫌なので、そのあとは更生??したようです。
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