婚約破棄は、婚約できてからの話です。

白雪なこ

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婚約破棄は、婚約できてからの話です。

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前書き
徒然なるままに。恐怖を感じないソフト婚約破棄騒動です。
異世界ですが、ほのぼの?な日常です。恋愛オーラのレベルは、会長次第です。
主人公は転生者ですが、無自覚です。

*****

 こちらでは、「お前などとは、婚約破棄だ!」と怒鳴る1年生の男子生徒の声がして。
 あちらでは、「貴方とは、婚約破棄よ!」と喚く2年生の女子生徒の声がして。

 ハルダカラ学園の中庭は、今日もうるさいです。読書の邪魔です。
 そろそろ、生徒は中庭私語厳禁とか、中庭利用禁止の校則が出来るのではないでしょうか。
 出来て欲しいですね。
 出来て欲しいですよね?

 え?私語厳禁はいいが、利用禁止だと、読書する人間も入れないんじゃないか?
 モーマンタイ、じゃなかった、ノープロブレム、じゃなかった、問題ありません。
 少々思考が混乱してしまいました。きっと騒音のせいですね。失礼しました。

 読書に適したベンチは中庭の外側にありますから。
 私語厳禁も、利用禁止も、本を愛する人にも、昼寝を愛する人にも、全く差し支えのない校則です。早く出来て欲しいです。

 中庭の外、屋内の通路に設置されているベンチは人気ですしね。変わらず利用できるのなら、校則を歓迎する生徒の方が多いでしょう。中庭の綺麗な花は通路からでも十分に楽しめますし。

 私の場合は、中庭に面した図書室を利用しているだけなので、もともと関係ないですね。
 少し暑いですが、校則が出来ていない今日のところは、窓を閉め切るという対処で乗り切ることにします。あ、全部は無理ですね!廊下側のドアと廊下の窓は全開でお願いします。蒸し暑いので!

 あら?良い本を見つけました!
 これを有効利用してくださる方におすすめしなくては!

 ターゲットは既に発見しております。

 図書室の窓際の席でうつらうつらと舟を漕ぐ、我が学園の生徒会長リーダーデッスさん。良いところにいらっしゃいますね。彼の前の机に積まれた本の一番上にそっと「校則についての生徒会からの要望書の作り方」を乗せれば任務完了です。

 あ!中庭騒音問題に気づいて頂かないといけませんので、中庭と書いてある本も必要です!
 ありました!「静かな中庭で耳を澄ます」が!
 これで、良いですね。上に重ねておきます!

 満足です。
 良い仕事をしました!

 お昼休みはそろそろ終わりますので、教室に向かわねばなりません。
 では、頼みましたよ、リーダーデッス生徒会長!(念)



 最近我が学園で大流行り中の、迷惑千万な“婚約破棄ごっこ”。
 2ヶ月ほど前から人気の舞台が、婚約破棄を題材にしたものらしく、「婚約破棄」というセリフを使ってみたい人達バカが増えている現状です。学園でのブームはまだしばらく続くかもしれません。

 まあ、大抵の生徒は、遊びだったり、恋人との口喧嘩の際に使ったりで、大した害はないのですけれどね。ただ、うるさいだけで。本当にうるさいだけで。

 大事なことは2回言うようにと、忘れっぽい友人が言っていました。2回伝えても忘れる癖に。




 大した害はない……筈でしたのに。
 世の中には、厄介な事柄が溢れています。おかしな人間も溢れています。



「ミリアム!お前などとは、婚約破棄だ!」

ホワイWhy?」
「は?」
「……」

 また少々思考が混乱してしまいました。たまに知らない言語が口から漏れるのです。脳の病気でしょうか。怖い。あ、失礼しました。
 それにしても。
 はあ。何でしょうか?これは、何なのでしょうか?

 おかしいですね。ここは中庭ではない、セーフティゾーンですのに。
 中庭の外の屋内の通路もデンジャラスゾーンに加わったのですか?いつ!?

 それなら、学園緊急放送で知らせてくださらないと!
 え?加わっていない?では、何故?

「おい、ミリアム!聞いているのか!お前などとは、婚約破棄だ!わかったか!」

 聞いていますけれど。大事なことではないので、それは1回でいいと思います。はい。あと、貴方は何を言っているのですか?

「いつもいつもツンと澄まして、俺を無視しやがって!そんなお前とは婚約破棄だ!お前などと結婚などしてやるもんか!」

 ツンと澄ましていましたか?それは失礼。
 でも、恥ずかしい指摘はやめて欲しいです。

 背筋を伸ばし、下を向かずに、顎を引き、前を向いて歩くように教育されている私達ですから。顎をあげて、顔を前に突き出して歩くのは、恥ずかしいことです。

 まさか、自分が人前でそんな歩き方をしていたとは!
 もう恥ずかしくて泣きそうです。泣いて良いですか?

「な、泣いても、無駄だ!」

 いえ、泣かせてください。
 キビーシ先生、こんな私が「礼儀作法」の試験で、学年トップだなんておかしいのではないですか?
 先生ぇ。(涙)

「と、とにかく、お前とは婚約破棄だ!理解したか!?」

 貴方とは“婚約破棄ごっこ”で遊ぶ程親しくないですし、口喧嘩の際に婚約破棄と言っちゃう恋人同士でもありませんが……関係は、この学園に通っているもの同士?話したこともない。ああ。3ヶ月程前でしたか。ご両親と一緒に冒険者ギルドに登録に来られた時に、挨拶しましたね。あそこは、父がギルド長を務めていますので、私もよく出入りしています。ふむ。挨拶しただけ、ですよね?コンビもパーティも貴方とは組んだことありませんし。本当に挨拶しただけ。そこから、どこをどうしたら貴方と私が婚約したことになるのか。私にはわかりません。
 もしかして、あれですか?「あの子、同じ学年の子なんだ!」「ほぉ、ギルド長の娘さんなのか。可愛らしいな。ははは、お前の婚約相手だと良いな。」と言う軽口を本気にしたパターンですか?それはよくあることですので慣れております。大丈夫、全て「まあ!まさかそんな、ふふふ。」で流せます。どんぶらこ。ただ、これまでに、婚約破棄妄想まで進んだパターンはございません。あら?経験不足ですね。どうしましょう?そして、ドンブラ湖?とはどこにある湖でしょう?

「あの、オレガオレさん?婚約破棄は、婚約を結んでいる相手としか出来ませんので。ごっこ遊びではなく、そのセリフを使いたいのなら、まずは、婚約できてからの話ではないでしょうか?貴方と私が婚約することはないと思いますけど」

 その時、息を切らしたリーダーデッス生徒会長が駆けつけてきました。

「はぁ、はぁ!は、話は聞いたぞ!いや、聞こえていたぞ。生徒会室まで声が響いていたからな。オレガオレくん!迷惑行為はやめたまえ!ミリアムは、君の婚約者などでは決してない!勘違いするな!大体ミリアムのご両親のカーシズ夫妻は、話の通じないバカが嫌いだ。剣も魔法も全教科で低空飛行の、学年の進級すら危ぶまれている君には出る幕はない!ミリアムに謝罪して、即刻立ち去れ!あとで、学園からの呼び出しがあるからな!」

 そう言って、頭のおかしなオレガオレさんを追い払ってくれた、リーダーデッス生徒会長。たまには役に立ちますね。

 オレガオレくんは、涙目で退場です。どんまい。
 ん?ドン舞?なに?……ま、いっか。

 リーダーデッス生徒会長。ありがとうございます!
 やればできるんですね!
 え?上から目線?それは申し訳ございません。ですが、下から目線はちょっと……。

「くそ~、腹立つ!!俺のミリアムと婚約破棄とか!お前などと婚約するか、ボケ!寝言は寝てから言いやがれ!」

 ……オレガオレくんには当分の間、静かに眠っているかの様におとなしくしていただきたいですが、貴方も眠りにつきたいのですか?リーダーデッス生徒会長。まあ、学園内は授業以外での魔法禁止ですけれどね。

「婚約破棄も、俺のミリアム妄想も、婚約できてからの話ですよ」
「いや、俺は、絶対に婚約破棄しないし!」
「よくわかりました。そうですね。では、婚約できてから、破棄しましょう!婚約できてから、破棄しましょう!」
「だから、破棄しないって!そして、それは大事なことじゃないので2回言わないで!」
「大事なことは2回言うべきだと言い出したのは貴方よ、ラーク・リーダーデッス生徒会長様?そういえば、中庭私語厳禁、中庭利用禁止の提案はどうなりました?」
「それはまだだけど。すぐ出す!」
「学園内での婚約破棄禁止も案に入れておいてくださいね」
「わかった」
「ついでに、俺のミリアム発言禁止も入れますか?」
「ミリアム、酷いオニ!冷たい!」
「ふふふ!」
「貴方のパーティ抜けても良いですか?」
「それは、絶対ダメ!」
「ふふふ!」

 今いた(俺の)ミリアムがもう笑う。
 今はそれに満足して、リーダーデッスは、早期の婚約成立を誓うのだった。

 fin

*****
後書き
生徒会長の片思いなのか、両思いなのか。両思いの場合は、ツンデレではなく、ツンツンですね。
図書室に入り浸るミリアムのそばにいつも付いてる、番犬生徒会長。
卒業までには、婚約できるでしょう。多分。
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