物語は始まらない

白雪なこ

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ケース3「行方不明なインディスの物語」

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 少し前に、母さんが死んだ。

 悲しかった。

 困った。

 だって、あたし、まだ14歳だもの。

 一人で生きていくには早いよ。

 だって、あたし、もう14歳だもの。

 一人で生きていけないのに、すぐに生きていかなきゃいけなくなるの。

 平民は15歳で大人だよ。独り立ちだ。

 早いよ。

 あたし、まだまだ子供なのに。

 18歳とか20歳とかじゃない。14歳なのに。来年になったって、15歳だよ。

 この世界は、おかしいよ。



 この国の平民は、15歳で就職が当たり前?

 そりゃあ、前はあたしだって、そう思っていたし、そのつもりだったよ。

 でも、今のあたしには、違う。働く気なんてない。だって、あたし、あっちの世界だったらまだ子供だもん。

 まだまだ誰かに守ってもらえる子供だもん。

 何言ってるか、わからない?まあ、そうだろうけど、15歳が子供で当たり前の世界もあってね?それをあたしは知ってるってこと。

 みんなが知らなくても、あたしは知ってるの。



 それにね?


 フフフフ、うふふ。



 あたしね?


 貴族令嬢なんだっ!


 もうすぐ、貴族の父親があたしを迎えに来る予定なの。

 他の子たちにはナイショだよ。連れて行って欲しいとか言われても困るしぃ。

 これは、秘密。

 だから、まあ、あたしの就職のことは、心配していらないというか。

 面接までしてもらって悪いけど、あたしはいいよ。就職しないから。

 ほら、もうすぐ貴族令嬢になるから、働く必要なんてないしね。


 フフフフ、うふふ。

 あ、た、し、男爵令嬢になるんだ!

 貴族としては下っ端だけど、まあ、一応貴族だし?

 それに、貴族になれれば、あとはね?

 フフフフ、うふふ。


 え?

 貴族の父親がいても、男爵令嬢にはなれない?

 迎えにも来ない?


 そんなはずないじゃない!

 だって、あたし!!

 ヒロインなのよ!

 あ。

 言っちゃった。

 これ、オフレコでお願い。

 え?

 ヒロインってなんだ?


 んー、まっ、いいか。あなたには、色々喋っちゃったし。
 特別に、教えてあげる。

 でも、他言無用よ、内緒よ。


「イケメンパラダイス☆ラボロン学園へようこそ」っていうゲームがあるんだけど、あたし、そのゲームのヒロインなんだ!あ、ゲームじゃなくて、えーと、この世界にある学園の話ね。ヒロインのあたしが、ラボロン学園に入学したら、始まるの!ゲーム、じゃなくて、えーと、ストーリーじゃなくて、えーと、あたしの……活躍が!

 え?そろそろ働き口決めとかないと、来年ここを追い出されたら、寝床がなくなるぞ?


 もー!

 だから、来年までこんなとこにいないってば!
 もう時期なの、もうすぐなの!来年じゃないの!

 多分近日中に、父親が迎えに来るから!そしたら、こんなボロい教会で寝泊まりなんてしないっつーの!

 平民は貴族になれない?

 何言ってんの?

 そりゃ母さんは平民だったけど、父親は男爵よ?

 飲み屋で働いていた母さんと、いい関係になって、あたしが生まれたの!

 一晩の関係でも、生まれたら、こっちのもんよ!

 当時は、1年暮らせるぐらいのお金しかもらえなかったらしいけどさ。

 ちょっとね?事情が変わるんだ!

 ふふ。父親にはね?貴族の奥さんと、息子1人と娘2人もいるけど……もうすぐ娘2人は事故で死んじゃうの。

 若いのに、可哀想だよね!家も困るよね?

 だから、あたしがね?娘になってあげるんだ!

 どこかに嫁がせる予定だった娘がゼロになると、貴族としては困るからね!

 フフフフ。

 どこかどころか、あたしの場合は、凄いことに……王子……ンフフフフ、うふふ。ああ、これは流石にナイショにしとかないと。

 ンフフフフ。

 まあ、あたしは、男爵令嬢になるから、15で八百屋に就職とかしないってことで!オケ?わかってくれた?

 平民は貴族になれないぞ?

 しつこいな!なれるちゅーの!ていうか、貴族の娘だから、もうあたし、貴族なんじゃない?生まれながらの貴族というか、さ?

 は?

 法律?

 何それ?

 両親に貴族籍がない子供は、平民?片方じゃ駄目?

 は?

 いやでも、ほら、後妻とかで平民の女が……そんで、その息子が後継で……とか?よくあるでしょ?

 え?ない?


 後妻でも妾でも、貴族と結婚や、同居はできない?妾としても囲えない?

 何それ?屋敷を与えたりしなくとも、ほら、愛人とかいるでしょ?その愛人の子が……引き取られたりとか、あるはず!


 なんでよ!あるでしょ!


 は?一夜限りはあっても、貴族は囲ったりできない?男が貴族籍失う?

 妾になれるのは、離縁された貴族女性だけ?戻る家のない貴族女性の救済処置?

 何それ、平民にも救済いるでしょ?

 あたし、まだ14よ?

 父親が面倒みないとダメな子供よ?

 1年暮らせるぐらいのお金が手切れ金?

 何それ!

 あ!養育費は?貰ってないから、これから責任取ってもらわないと!

 何?

 何よ!

 は?母さんを襲ったわけじゃなく同意の結果だから、あとは自分たちでなんとかしろ?母親が死んだら、教会で世話になれてるから、問題ないだろ?


 いや、いやいやいやいや!問題しかないわ!


 迎え……来るよね?

 え?来たら、父親は貴族じゃなくなる?

 平民として一緒に住むつもりか?

 息子に代替わりして追い出された父親を、娘として面倒見るというパターンなら、法律違反じゃない?

 は?あたしが面倒を?

 どゆこと?

 貴族のお金は個人で好きにできないから、家を出された平民となる父親は、大金なんて持ち出せない?


 は?

 お金のない、元貴族の中年の、無職の父親の面倒を、あたしが?

 なんで?

 なんで?

 嫌に決まってるでしょ?ありえないでしょ?


 平民じゃなく、男爵の父親……来ないの?

 え?平民の父親が来る可能性があるなら、就職決めといた方がいい?

 いやいやいや!

 無理無理。

 いやだ、絶対嫌!

 あ!あたし、隣町の教会に移りたい!
 いいよね?

 あ、そだ!隣町なら、法律違ったりは?

 え?同じ?


 ……いや、それでも、ここじゃなく、隣町で就職する!




 おかしいな。

 あたしの「イケメンパラダイス☆ラボロン学園へようこそ」はどこ行ったの?



 え?ラボロン学園はある?

 は?

 貴族令嬢だけの女子学園?

 イケメンと、パラダイスは?

 イケメン女性騎士のパラダイスと噂?


 いやいやいや、そんなのいらんし!


 まじで、あたしの「イケメンパラダイス☆ラボロン学園へようこそ」はどこ行ったの?

 嘘でしょ?

 あたしのヒロイン人生は?

 王子や高位貴族の坊ちゃんたちにモテモテの……


 え?


 隣町は若者多いから、就職難?


 あたし……どこ行けばいいの?


 八百屋?


 まじ?


 いや……


 八百屋?


 うっ……夜の仕事はちょっと……しかも給料安いとか……


 やっぱ、八百屋?

 え?農場もある?ど田舎で、休みない?



 あー、その、八百屋でお願いします。はい。

 来週から見習いでも働ける?

 来年になってからだと、隣町から来た人に取られちゃうかもしれない?



 ……あの、来週から行きます。八百屋。

 はい。

 ……よろしくお願いします。


 あ、はい。あたしの「イケメンパラダイス☆ラボロン学園へようこそ」は行方不明みたいなので、とりあえず……働きます。父のことは、もういいです。はい。娘の私は、そう!アレです!行方不明ってことで!はい!


 よろしくお願いします。





 おしまい。


 ここまでのケース。多分100年以内ぐらいの過去に、誰かが「ヒロインが活躍する可能性」という芽を、根こそぎ消した模様。(笑)


これで、ヒ、ロ、イン 三部作完結です。(笑)
「行方不明なインディスの物語」では、インディスの発言のみでお送りしましたが、インディスは、会話の相手と面接中です。教会で世話になってる孤児たちは、面接の相手(おじさん)に口利きしてもらい、就職を決めています。小規模で忙しい商店などの見習いは、直接面接などせず雇われます。

インディスがやたら「あたし」と言っていますので、「あたし」と書いてあるのを読むだけで、イラッとし、受け付けなくなる方が多かったのではないかと思います。
作者も「あたし」は苦手なので、イラッとしております。
何度も「わたし」に直そうかとも考えたのですが、インディスのウザさが薄まりそうなので、直さず置いておくことにしました。インディスは、イラッとしちゃうウザイキャラということで、よろしくお願いいたします。

「物語は始まらない」シリーズはまだ続く予定です。
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