2 / 4
2
しおりを挟む抑制剤の入った鞄はロッカーにあるから取りに行かないと...。
「なんか匂わないか?」
「確かに、甘い香りがする」
出入口に向かっているとざわめき始めた。
すぐにここを離れようと足早になる。
体が熱に浮かされたようにふらふらする。
「...っ!」
足がもつれて倒れそうになったが、目を瞑っても痛みはやってこなかった。
「大丈夫か」
頭上から低く落ち着きのある声がした。
見上げると受け止めてくれたのは先程のイケメンだった。
「すみません...。ありがとうございます」
「君は...」
「急ぐので失礼します」
言葉を遮って、先を急ぐ。
戻ったらちゃんと謝らないといけない。
発情している今、襲われても仕方ない状況だ。
とにかく今は抑制剤を飲まないと。
「あった...!」
抑制剤を飲んだから、これで収まるはずだ。
それにしても、突然ヒートになるなんて。
会場へ戻るとざわめきは収まっていた。
気のせいということになったのかもしれない。
あの受け止めてくれたイケメンの所までいく。
「先程は言葉を遮ってしまい、申し訳ありません」
「いや、それは気にしなくていい。あの場で言うことではなかったからな」
何を言おうとしたのか気になるところだが、わざわざ聞くのも失礼だろう。
「私の名前は叶由貴だ。君の名前を聞いてもいいか」
「桜田凛です」
叶由貴さんか。
叶...もしかして叶グループの!?
「叶グループの系列であるK会社の社長をしている。君は事務の方で働いている桜田くんか」
僕の表情を読み取ったのか答えてくれる社長。
それにしても僕のことを覚えてくれていたなんて。
「そうです、社長」
会話の途中で秘書らしき方が社長に耳打ちする。
何かあったのだろうか。
「失礼する。また」
僕は軽く頭を下げた。
やはり社長という立場は何かと忙しそうだ。
僕の態度は失礼ではなかったか、今になって不安に思う。
大丈夫だよね...。
「桜田っ!今のって…」
「わっ、びっくりした」
「さっき受付が終わったんだよ。それより、あのイケメンが叶社長...?」
「そうみたいだね...」
「まじか!」
会場の端に行き、小さな声で話す。
「そろそろ上がらないと」
春の迎えに行かないといけない。
「もうそんな時間か」
「先に上がるね。お疲れ様」
「おう!」
子供の事情を説明してあるので、いつも定時で上がらせてもらっている。
さて、保育園まで春を迎えに行こう。
304
あなたにおすすめの小説
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
手の届かない元恋人
深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。
元彼は人気若手俳優になっていた。
諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
お前が結婚した日、俺も結婚した。
jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。
新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。
年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。
*現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。
*初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる