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「私たち、もう別れましょう。」
ユリアナ・エイベル伯爵令嬢は放課後の学園で、お付き合いをしていた侯爵令息のレオポルド・ウィッカムにそう告げた。
レオポルドは綺麗な切れ長の瞳をこれでもかと見開いている。
ユリアナにとって、この反応は予想外だった。
ユリアナとレオポルドは学園の授業の実習で、一緒になったことをきっかけに度々話すようになった。
男性と女性では、履修科目が異なるものもあるが、それ以降、被っている授業では、必ずと言って良いほどレオポルドがユリアナに話しかけてくれるようになったのだ。
レオポルドは侯爵家の跡取りで、眉目秀麗、文武両道。同じ学園に通う令嬢たちから、熱烈な支持を得ていた。しかし、それを鼻にかけることもなく、周囲の全員に対して分け隔てなく優しいので、令息からもやっかみを受けることもない。
レオポルドに婚約者がいなかったこともあり、レオポルドは数多の令嬢から告白を受けていたが、いずれも真摯に対応するらしく、フラれたからといって、レオポルドを悪く言う令嬢もいなかった。
若いながらに素晴らしい処世術が身についているなぁ、というのが知り合う前のユリアナのレオポルドに対する感想だった。
しかし、ひとたび実習で一緒になり、優しくされてしまっては、ユリアナは抗うことなどできずに、ころころと恋の坂道を一気に落ちて行った。
実習で一緒になってから数か月した後、ユリアナは意を決してレオポルドに告白をした。
レオポルドにフラれた令嬢は数知れず。ユリアナひとりが告白したところで目立つことはないだろう。卒業も近づく中、婚約者についても考えなければならなかったので、ユリアナはこの想いを断ち切りたかった。
しかし、予想外にもレオポルドの返事は「良いよ」だった。
ユリアナが知る限り、レオポルドが令嬢からの告白に頷いたことは、学園生活の中では、ないはずだ。
ユリアナは夢でも見ているのかと思い、何度も聞き直してレオポルドに笑われたくらいだ。
その後、当然ユリアナは多くの令嬢からやっかみを受けたが、レオポルドが庇ってくれたことに加え、レオポルドの周りに対する態度があまり“変わらなかった”ことで、ユリアナが想像していたよりは被害を受けなかった。
恐らく周りの令嬢たちは、ユリアナの平々凡々な姿を見て、「“今”だけレオポルド様が付き合ってあげているだけで、敵にもならない。」と思ったようだった。
ユリアナは付き合い始めた当初、付き合えただけで十二分な幸せを感じていたが、徐々に物足りなさを覚えるようになった。
予定の合う放課後は一緒に時間を過ごすし、夜会があればエスコートしてくれる。
他の令嬢よりも贔屓にしてもらっていることは感じているが、レオポルドが周りの令嬢たちに対しても変わらず優しいところを見ると、ユリアナは辛くなった。
「可愛い」「好きだよ」という言葉も、レオポルドはあんまりにあっさりと口にするので、なぜか“義務的”な気がしてしまう。ユリアナはことあるごとに顔を真っ赤にしておろおろしてしまうのに、レオポルドはいつも穏やかな笑みを絶やさなかった。
ユリアナは、告白する前はフラれて潔く諦めるつもりでいたのに、どんどんと大きくなる欲求に苛まされていた。このままでは、自分が醜くなってしまいそうな気がしてならない。
そしてついに、お別れすることを選択したのだった。
今日は学園生活最後の長期休暇に入る前日なので、ユリアナはその日を狙ってレオポルドに別れを告げた。
どうせ、困ったように笑いながら、「わかったよ、ありがとう。」とあっさり別れを承諾されるとばかり思っていたユリアナは、目の前で絶句しているレオポルドを、信じられない気持ちで見つめていた。
「…どうして?」
レオポルドが震える声でユリアナに尋ねた。
ユリアナの向かいに座っているレオポルドは俯いてしまったので、ユリアナから表情は窺えない。
しかし、ユリアナも緊張していたし、レオポルドの反応が予想外だったので、内心パニックに陥っていた。ユリアナもレオポルドと同じく俯いて意味もなく手元で視線を彷徨わせてしまう。
「その、そろそろ将来のことを考えないとなと思いまして…。」
「将来のことを考えると、どうして別れることになるの?」
「学園の卒業も近づいてきたし…。」
「学園を卒業すると、どうして別れることになるの?」
(どうして今日は察してくれないの…!?)
レオポルドは、ユリアナが言葉足らずでも、いつも上手く行間を読んでくれる。
ユリアナが多くを語らなくても、賢いレオポルドなら、意味は分かっているはずだ。
ユリアナはさらに混乱した。
「レオポルド様も、そろそろご両親から婚約者の紹介を受けているでしょう?」
「いつもみたいに、“レオ”と呼んでよ。
…“も”ってことは、ユリアナは僕がいるのに婚約者の紹介を受けているの!?」
確かに、ユリアナは両親から婚約者候補の名前をいくつか聞いていた。しかし、まだ会ってはいない。
ユリアナの両親は、ユリアナがレオポルドと付き合っていることを知っていたが、相手は侯爵の中でも政の中心に近い、とても権力のある侯爵家の子息だ。この付き合いについて、両親は、レオポルドにとって学園時代の遊びにすぎないのだろうと考え、度々ユリアナに対し、卒業までに関係を整理するように言っていた。
ユリアナは両親の言葉が悲しくもあったが、概ね同意だった。
「だって…、レオポルド様とは将来一緒になれないじゃない。」
「僕とのことは遊びだった、ということ?」
(…まるで、私がとんでもない悪女みたいじゃない!)
ユリアナとレオポルドは学園の共有スペースの隅で話しをしていたので、ユリアナは思わず身震いをした。
ユリアナがレオポルドと遊びで付き合っていた、なんて根も葉もない噂が出回れば、ユリアナに命はない。
「…レオポルド様のご両親だって、私と付き合っていること、良い顔をしないじゃない。」
実際、ユリアナはレオポルドの両親と夜会で何度か顔を合わせたが、快い対応だったとは言い難い。レオポルドほど美しく、賢い青年であれば、もっと上の貴族の令嬢との縁組も容易いだろう。それなのに、こんなにも平々凡々かつ下の爵位の令嬢では面白くないと思うのは当然だ。
「それはそうかもしれないけど、ちゃんと考えている。だから、安心してほしい。」
(レオは私との将来を考えていた、ってこと?)
ユリアナは驚いて思わず目線を上げると、レオポルドは縋るようにユリアナを見つめていた。
ユリアナの初めて見る表情だ。
ユリアナは逡巡する。
嬉しい一方で、婚約してからも、結婚してからも、あのレオポルドの周囲に対しても優しい態度に、もやもやとした気持ちを抱え続けることになるのか、と思うと、やはり、どうしても頷けなかった。
レオポルドに周囲に冷たくしてほしいわけでもない。ただただ、我儘の加速してしまう自分に、ユリアナは心底嫌気がさしていた。
「何が不満だったか、教えてほしい。」
「…私の中の問題なの。ごめんなさい。」
「それじゃあ、納得できないよ。」
レオポルドはユリアナとの間にあるテーブルに身を乗り出して切々と訴えた。
ユリアナは居心地が悪くなって、今は真っ直ぐと向けられているレオポルドの視線から目をそらす。
(ええい、もう言ってやる…!)
そもそも、レオポルドから嫌われずに温厚に別れよう、と思ったことがいけなかったのだ。
ユリアナから告白したのに、身勝手にフろうとしているのは、紛れもない事実。
ユリアナは汚い本心をぶちまけてしまおうと思った。
「レオポルド様が大事なのは“みんな”でしょう?…私は、私だけを大事にしてくれる人が良いの。」
「僕なりに、君を大事にしてきたつもりだったけど…ごめんね。
足りないところは、ちゃんとするから、言ってほしい。」
「…ちゃんと考えている、と仰ってくれたけど、保証はないじゃない。」
「それは、そうだけれど…。もう少しだけ待ってほしい。」
「…イヤよ。今日、将来を約束してくれないなら、別れるわ。もし私のことが好きなら、すぐにでも、言えるはずでしょう?」
(この我儘女め!と怒って私をフッてくれれば良いわ。)
ユリアナは、当初想定していたお別れの流れから大幅にズレてしまったので、混乱の中で“今日お別れする”という目的に固執しすぎてしまっていた。
しかし、ここでなぁなぁにしてしまえば、また同じ日常に苛まされ、違った形で別れを迎えることになる。どうせ辛い別れになるなら、早く済ましてしまいたかった。
「あと少しなんだ、お願いだよ、ユリアナ。」
レオポルドは立ち上がってユリアナの足元に跪くと、ユリアナの両手を取った。
いつもの余裕綽々な様子のレオポルドからは全く想像もつかない。
「ごめんなさい。…さようなら。」
ユリアナはその手を払うと、呆然とするレオポルドを置いて、足早にその場を去った。
_____
ユリアナは休みに入ると早々に領地に引っ込んだ。
両親はユリアナがレオポルドとの関係を終わらせてきたことを聞くと、申し訳なさそうな顔をしながら、ユリアナを慰めてくれた。
婚約者候補との顔合わせは後にして、領地でゆっくりすることを許してくれたのだ。
ユリアナが領地で気持ちを落ち着けながら考えるのは、やはりレオポルドのことだった。
てっきり、レオポルドは“人間としてそこそこ好き”のレベルでユリアナのことが好きだっただけで、執着は全くない、とユリアナは思っていた。
どうしてあそこまで食い下がってくれたのか、混乱の解けた頭で不思議に思う。
しかし、それさえも、もう終わったことだ。
ユリアナは学園の宿題の合間に趣味のピアノを弾きながら、徐々に落ち着いた日常を取り戻しつつあった。
休みも半分過ぎた頃、ユリアナは王都の邸宅から転送されてきた1通の手紙を受け取った。シーリングワックスをよく見れば、ウィッカム家の家紋が押されている。
ユリアナが慌てて手紙を裏返すと、そこには見慣れない綺麗な字で“ソフィア・ウィッカム”と書いてある。ソフィアは現当主の奥様、要するにレオポルドの母で、侯爵夫人だ。
ユリアナは全く手紙の内容に検討がつかず、恐る恐る封を切った。
内容を要約すると、ウィッカム家に遊びに来てほしい、ということだった。
ユリアナは目を白黒させた。レオポルドの母ソフィアは、あからさまな態度を取りはしなかったが、ユリアナに不満があるのは言葉の端々から感じられた。
友好的に家に招いてくれるような関係ではないはずだ。
ユリアナはこの招待に全く良い予感がしなかったので、失礼とは思いつつも、今は領地に居て休みが明けるまで戻らないこと、既にレオポルドとはお別れを済ませたことを丁寧に書き、訪問ができないことを綴った。
しかし、その数日後、ウィッカム家の家紋が押された手紙がまた届いた。
今度の差出人は“ラインハルト・ウィッカム“、まさかの現当主、要するにレオポルドの父で、侯爵だ。
(お前ごときが、うちのレオポルドをフるなんて、何様だ!というお怒りのお手紙なのかしら…?)
ユリアナは恐ろしさに顔を真っ青にさせた。
できることなら、この手紙が届く前に王都の邸宅へ戻り、行き違いになってしまったことにしたい。
ユリアナは震える手で手紙を開くと、ゆっくりとその手紙に目を通した。
内容を要約すると、レオポルドの調子が悪いから、ウィッカム家に見舞いに来てほしい、ということだった。
別れたことは重々承知しているが、レオポルドが会いたがっている、らしい。
ユリアナが知る限り、レオポルドはいたって健康で、ユリアナと付き合っている間に体調が悪くなったことは一度もなかった。
心配ではあったが、別れ際にあれほど失礼な態度をとったユリアナに会いたがるなど、ユリアナは信じられなかった。
それに、レオポルドにはたくさんの友人がいる。ユリアナが行かなくても、既に何人もの見舞があったはずだろう。
侯爵直々のお願いではあるが、敵地に一人で乗り込むような勇気は、ユリアナにはなかった。
迷いに迷った挙句、ユリアナは王都の邸宅に居る侍女に、見舞いの花をウィッカム家に贈るよう、速達の手紙を出した。
まさか、再び手紙が届くようなことはないだろうが、怖くなったユリアナは、少し早いがまだ両親が残っている王都の邸宅に戻ることにした。
_____
ユリアナが王都の邸宅に戻ってすぐに、ウィッカム家から使いが来た。
いったいどこで聞きつけたのか、権力のある侯爵家には至る所に目があるらしい。
両親は大層驚いて、ユリアナに経緯を尋ねてきたので、ユリアナは手紙に書いてあったことを素直に伝えた。そのうえで、両親からレオポルドの見舞いに行きたいか尋ねられたので、ユリアナは迷った末に、ついに渋々と首を縦に振った。
わざわざ使いまで出したのだ。よっぽどユリアナを呼びたい理由があるのだろう。
身勝手な振る舞いでレオポルドに別れを告げた罰だと思い、ユリアナはその断罪を受けることにした。
近々、学園の休暇も明ける。レオポルドとの確執が大きくなってしまえば、残り数か月の学園生活が波乱になること待ったなしである。憂いは少しでも払っておくべきだ。
ユリアナは固い面持ちのまま、道中で購入した花束と共にウィッカム家の大きな門をくぐった。
付き合っていたころには一度も来ることのできなかったこの邸宅を、別れた後に訪れることになるとは、ユリアナは複雑な心境だ。
「ユリアナさん、急に使いを出して申し訳ないわ。」
出迎えてくれたのはソフィア、レオポルドの母である。
どうやら、父ラインハルトは公務で家にいないらしい。
ユリアナは会う人物がひとりでも減ったことにほっと息を吐いた。
「お招きいただきありがとうございます。最近まで領地におりましたので、お招きいただいた際に訪問できず、申し訳ございません。」
「いいのよ、気にしないで。」
ソフィアは嬉しそうに笑ってユリアナを歓迎した。
今まで、ユリアナと話すときは透明の壁が間にあるような、少し線を引いた話し方だったのに、今日は随分と温かい出迎えだ、とユリアナは肩透かしを食らったような気分になる。
「こちら、レオポルド様のお見舞いに…。」
「先日も綺麗なお花をありがとう。今日は直接あの子に渡してあげて。」
ユリアナが花束を差し出そうとすると、ソフィアはそれを受け取らずに早速レオポルドの部屋へと案内してくれた。
「レオ、鍵を開けてちょうだい。」
ソフィアはレオポルドの部屋の前に着くと、扉を叩いてから大きな声で中に呼びかけた。
(体調が悪いのに、内鍵をかけているの…?)
ユリアナは不思議に思ったが、ここで口出しをするのも、と思い黙って様子を窺う。
「レオ!」
「…放っておいてくれって、言ったじゃないか!」
突然中から聞こえた大きな声に、ユリアナは肩を揺らした。
レオポルドが大きな声を出したところを初めて聞いたので、尚更だ。
「ちゃんと学園には行くし、公務もこなす。それで良いだろう!」
レオポルドが心底苛立ったようにまくしたてるので、ユリアナは怖くなって少し後退りをする。
「レオ!ユリアナさんが来ているのよ!」
ソフィアはユリアナの様子を見て、慌てたように来客を告げた。
すると、中は途端に静かになってしまう。
(やっぱり、歓迎されていなかったのね。)
ユリアナは、ほんの少しだけ、レオポルドが本当にユリアナに会いたいと思ってくれていることを期待してしまっていた。
無言は拒絶、そう思ったユリアナは肩を落としながらソフィアに話しかけた。
「侯爵夫人、やっぱり、レオポルド様は私に会いたくないみたいです。
申し訳ございませんが、今日はこれで、」
ユリアナが帰ろうと話している途中に、カチャリ、と鍵の開く音がした。
「…帰らないで。」
扉の向こうから小さくレオポルドの声がしたので、ユリアナはソフィアに戸惑った視線を向けてしまう。
ソフィアがユリアナに「入ってあげて」と耳打ちするので、ユリアナは恐る恐る扉を開けた。
ユリアナは中に入って絶句した。
カーテンはすべて締め切られていて、明るい昼間なのに部屋の中は薄暗い。
目の前に立っているレオポルドは、着替えてはいるようだが、クッションを顔に押し当てていて、表情は窺えない。
「ええと、お久しぶりです。」
「…うん。」
「体調が悪いとお聞きしたのだけれど…。」
「…ちょっと元気がないだけ、大丈夫。」
「昼間は日の光に当たった方が良いですよ。」
レオポルドがクッションに顔を押し当てたままもごもごと話すので、ユリアナは気分を変えようと、部屋のカーテンを開け放った。
日の光に当たった埃がキラキラと光っている。
(…暫く、掃除も入れてなかったのかしら。)
レオポルドはどちらかというと綺麗好きだ。
意外なことが多すぎて、ユリアナは困ったようにレオポルドを見つめる。
いつものレオポルドならユリアナを一時たりとも立ちっぱなしにさせるようなことはない。
「座りませんか?」
ユリアナがレオポルドを促すようにレオポルドの肘の辺りの服を少し摘まむと、レオポルドはビクッと肩を振るわせた後、大人しくユリアナの向かいに腰をかけた。
「…お顔を見せてくれない?」
「だって、来るなんて知らなかったから、こんな顔見せられない。」
(…女子か!)
話しづらい、と思いユリアナが言えば、またまた意外な答えが返ってくる。
ユリアナは思わずツッコミを入れたくなったのをぐっと抑えた。
「私も、レオポルド様の調子が悪いからと、急にお呼ばれして…、
その、大丈夫?」
「…これが大丈夫に見えるの?」
「体調が悪いなら、私はこれで失礼したほうが良い、」
「帰らないで。」
ユリアナが席を立とうとすると、レオポルドは腕を伸ばしてユリアナの手を掴んだ。
顔は依然、もう片方の手でクッションを押さえたままだが、どうやって気づいたのだろうか。
ユリアナは大人しく座ると、レオポルドの出方を窺った。
「…あと少しだったんだ。」
「何が?」
「僕が、首席で学園を卒業すれば、結婚相手は好きにして良いって。」
ユリアナは驚きで目を丸くする。
「どうしてそれを、先に教えてくれなかったの?」
「卒業するまでユリアナに言ってはいけない、そういうルールだったんだ。…もう君に別れを告げられて、すべて崩壊したけどね。」
レオポルドは苦々しく吐き捨てるように言った。
ユリアナはレオポルドがまさか本当に2人の将来を考えていたとは思いもよらず、返答に苦慮する。
「…そっか。でも、意外だったわ。」
「意外?」
「その、レオポルド様は皆に優しいし、特別、私が好きなようには見えなかったから。」
「…君が言ったんじゃないか!」
レオポルドはついに顔を隠していたクッションを取り払って、いきなり立ち上がった。
ユリアナはびっくりして呆然と立ち上がったレオポルドを見上げる。
レオポルドは相変わらず美しかったが、少し隈が出来てやつれたような印象だ。
「君が言ったんじゃないか!万人に優しくするような人が好きだと!」
「…え?」
「君はこうも言ったよ。
文武両道で、学年で一番モテる人が良いって。」
「え!?」
ユリアナは身に覚えがなくて目が飛び出そうなほど驚く。
「それから、ぐいぐい来られるのは怖いから、徐々に優しく距離を詰められたいって、言ったじゃないか!」
「え?…え!?」
(レオポルド様にそんな話をした覚え、全くないけど…!?)
「…全部、ユリアナの言ったとおりにしてきたじゃないか。
何がダメだったの?教えてよ。」
「…本当に申し訳ないのだけれど、全く覚えていなくて…いつの話…?」
「12年前に、ガスパル侯爵夫人の催すお茶会に、君はエイベル伯爵夫人に連れられて良く付いてきていたじゃないか。」
「…そうだっけ…?」
小さいころ、確かにお茶会に連れていかれて、同じ年ごろの少年少女と遊んだ記憶はあるが、それがガスパル侯爵夫人の催したお茶会だったかどうか、ユリアナは覚えていなかった。
しかも、レオポルドほどの目立つ少年と会話した記憶などまるでない。
「僕が、庭園の隅にいたときに、ユリアナが声をかけてくれたんだ。」
(庭園の、隅…?)
いつも周囲に人がたくさんいるレオポルドには似合わない言葉だ。
ユリアナは首を捻ったが、うっすらとひとつの記憶を思い出す。
_____
「ねぇ、貴方、お名前は何て言うの?」
「レオ…ポルド…。」
幼い頃、ユリアナが連れていかれたお茶会で、少年は庭園の隅にうずくまっていた。
お喋りに飽きたユリアナが散策をしていたところ、その塊に気づいたのだった。
レオポルドは掻き消えそうな小さな声で名前を告げる。
「レオ、何ですって?…まぁ、レオで良いわ。
私はユリアナ。こんなところで、何をしているの?」
「…お花を眺めていたんだ。」
「あっちでみんなで楽しくお話ししているのに。」
「僕は人が多いところは苦手…。」
「まぁ!貴方って“シャコウセイ”がないのね!お父様が言っていたわ、シャコウセイのない貴族はダメだって。」
お気づきだろうが、ユリアナは小さいころ、大変高慢ちきだった。
外との関りがまだ少なく、蝶よ花よ、と育てられたので、自分が世界の中心なのだと思っていた。
レオポルドは、突然現れた少女に、グサり、と刺さる言葉を言われて、ますます小さく蹲る。
「人が怖いんだ。」
「そうなの?じゃあ、私が一緒に行ってあげるわ。」
ユリアナはほぼ無理やりレオポルドの手を取ると、ぐいと少女の力とは思えない力でその手を引いた。
「い、嫌だ!周りの人の目線が怖いんだ!」
レオポルドは小さいころから綺麗な顔立ちをしていた。
それに、由緒正しいウィッカム侯爵家の跡取りと言うこともあり、お茶会に集まる夫人たちが、自分の娘の婚約者にどうかと、目をギラギラと光らせていたし、既に将来のことを考えているような賢い少女からもメラメラとした視線を向けられていた。
一方、ユリアナはこのころ、将来の婚約者のことなど考えたこともない自由奔放な令嬢だった。
「何言っているのよ!貴方のことなんて、誰もそんなに見ていないわ、考え過ぎよ!」
ユリアナはぐいぐいとレオポルドを会場に連れて行くと、目をメラメラとさせている少女を寄せ付けないほど、一方的にレオポルドに話し続けた。
このケーキが美味しかった、だとか、この皿はユリアナの家にもある、だとか、どうでもいいことばっかりだったが、レオポルドは突然のことに事態が呑み込めておらず、気づけば帰る時間になっていた。
いつもなら、周りの目が怖くて、帰る時間を秒単位で待ちわびているのに、だ。
それ以降も、ユリアナはガスパル侯爵夫人のお茶会でレオポルドを見つけると、一方的に絡み続けた。
最初は疎ましく思っていたレオポルドだが、ユリアナと一緒に居ると、周囲の目線を気にしなくなっていることに気づき、ユリアナの言うとおり「考え過ぎ」だったことに気づいた。確かに目をギラギラさせて近づかれるのは怖いが、別に相手も殺そうと思っているわけではない、そう思うと、レオポルドは今まで怖がっていたことが馬鹿らしくなった。
それからは、レオポルドもユリアナにすっかり懐いて、2人でお茶会での時間を楽しんだ。
ユリアナは高慢ちきだったが、誰かを妬むような発言は絶対にしなかったし、いつも明るかった。レオポルドをあのギラギラした目で見てくることもない。ユリアナの視線の先にはいつも食べ物か、綺麗なお皿か、刺繍か、それしかなかった。
一緒に過ごした時間は僅かだが、レオポルドは周りにはいなかったタイプのユリアナに、あっという間に惹かれていった。
「ねぇ、君は他の令嬢みたいに、婚約者のことは考えないの?」
「う~ん。いつかは考えるんじゃない?」
「それなら…、僕がなりたい。」
レオポルドにとっては、小さいながらにとてつもなく勇気を振り絞って言った言葉だった。
真っ赤になって、プルプルと震えながらユリアナの返事を待つ。
「え~!嫌だ!」
あまりにあっさりとユリアナが答えるので、レオポルドの瞳には涙が浮かぶ。
「な、なんで…?」
「だって、私、王子様みたいな人と結婚するんだもん。」
「…具体的には?」
「ぐたいてき?」
「その、どんな人だったら、結婚したいの?」
「まずね、誰に対してもとっても優しい人が良いわ。
それから、頭が良くて、運動もできて、かっこよくて、同い年で一番人気があるくらい素敵な人!」
ユリアナはレオポルドの泣きそうな表情に気づかないまま、キラキラとした瞳で理想を語る。
「あとね、」
言葉を続けようとするユリアナに、レオポルドはまだるのか、といった表情でユリアナを見やる。
「あと、出会いは17歳。」
「…なんで?」
「お母様がお父様と出会った年齢なんだって。私もお母様とお父様みたいになりたいもの。」
「そうなんだ…。」
「それから、ぐいぐい来られるのは怖いから、スマートに優しく徐々に距離を詰めてくれる人がいいわ!」
「そう、なんだ…。」
出会いが17歳なんて、もう出会ってしまっている自分はどうしたら良いのやら、とレオポルドはますます悲しい気持ちになる。
ユリアナはレオポルドの気持ちも知らずに、その後も延々と理想の相手とデートについて喋り続けた。
ただ、レオポルドもこれで諦めてしまうほど、既に軽い気持ちではなくなっていた。
「僕、絶対にユリアナの理想の男性になるから!」
理想の出会いを超えられるほど、理想の男性になればいい、そう思ったレオポルドは、こうして自己研鑽の日々に身を投じた。
しかし、そんなレオポルドの決意もむなしく、ガスパル侯爵夫人がレオポルドの母ソフィアの派閥とトラブルを起こしてしまい、ソフィアがレオポルドを連れてガスパル侯爵夫人のお茶会に行くことはそれ以降、無くなってしまったのだった。
_____
ユリアナは思い出して顔を真っ青にした。
あの頃は本当に世間知らずで、記憶から消し去りたいほどの黒歴史だったため、今の今まですっかり忘れていた。
きっとあの子どもの頭の中身はお花とお菓子だけでできていたに違いない。
あれからユリアナは、流石に甘やかしすぎたと思った両親から強い叱責を受けたり、たくさんの令嬢たちに揉まれたりして、大分大人しくなり、そして処世術も身に着けた。
外に出始めたばかりの一番やんちゃなときにユリアナはレオポルドと出会ってしまっていたのだ。
「…趣味が悪いですね?」
「君がそれを言うの?」
(いや、だって、いくら話しかけてくれたからって、
あんな我儘なお子様を好きになるなんて…。)
ユリアナは自分のことながら、レオポルドの嗜好にドン引きである。
「兎にも角にも、全部ユリアナが言ったんだ。
君の名前しか知らなかったから、すぐに見つけることはできなかったけど、学園で君を見つけたときは運命だと思ったよ!
それなのに、君は僕のことを全然覚えていなかった…。
だから、それを利用して、ちゃんと17歳で知り合ったし、ぐいぐい来るのが怖いと言うから、徐々に距離を詰めようと、ちゃんと距離を保ったじゃないか。」
ユリアナは混乱する頭の中で、ひとつ腑に落ちたことがあった。
ユリアナはレオポルドと実習で一緒になってからというもの、不思議なほどあっという間に恋に落ちたが、それはレオポルドがユリアナの男性の趣味を熟知していたからだ。
流石に子供のころに抱いたような理想の男性なんているはずもない、と思いつつも、幼い頃の理想が全く変わってしまったわけではなかった。ちょっとした仕草から対応まで、レオポルドは何もかもユリアナのストライクだった。
「そっか…、そうだったんだね…。ありがとう?」
ユリアナはこの話をどのように収束させればよいのか分からない。
レオポルド曰く、学園を首席で卒業したらユリアナとの婚約が認められたようだが、ルールを破ってしまったので、それも無効になってしまっただろう。
「…いつも、好きなのは僕ばかりだ。」
「いやいやいや、私だって、ちゃんと好きだったわ!」
「ほら!もう過去形じゃないか!」
まさに、別れ際にユリアナが言いたかったことをレオポルドが言うので、慌ててユリアナは否定するが、レオポルドは興奮が抑えられないのか先程から立ちっぱなしで言い募ってくる。
「そんな…、まだ過去になんてしていないわ!」
これはユリアナの本心だった。
そう簡単に嫌いになれるはずもない。
レオポルドは大きく目を見開くと、ユリアナの手を引いて立ち上がらせた。
いつもよりも強く腕を引かれたユリアナはされるがままに、レオポルドの後をついて部屋を出る。
部屋を出れば、心配で聞き耳を立てていたのかすぐにソフィアが立っていた。
「レオ、やっと部屋から出てきてくれたのね、良かったわ!ユリアナさんもありがとう。」
ソフィアは涙ぐみながらユリアナにお礼を言った。
きっと、ユリアナが領地に引っ込んでいる間に涙なしでは語れないほどの出来事がこの家族の間にあったに違いない。
「母上。」
「何かしら?」
「僕はユリアナと結婚します。」
ユリアナはぎょっとしてレオポルドを仰ぎ見た。
「レオポルド様!」
「…何?」
「いや、結婚は…ご家族との関係もありますし…。」
「僕のこと、好きだって言ったじゃないか。嘘だったの?」
嘘じゃない、嘘ではないが、ユリアナの不安は未だに払拭されていない。
家族との関係もそうだが、醜い嫉妬にその身を滅ぼしたくないのだ。
「その…、別れるときにいった言葉は本音なのです…。」
「君だけを大事にしてくれる人が良い、だろう?そこの思考が小さい時と変わったなら、それは僕が合わせるから大丈夫。」
「いやいやいや、合わせてもらうなんて…。レオポルド様には、レオポルド様の思うままに生きてほしいわ。」
「それなら好都合さ。僕は別に進んで皆に優しくしていたわけでは無いし、君がゆっくり距離を縮めなくて良いと言うなら、願ったり叶ったりだ。」
「…本当に、私があんな小さい頃にそう言ったから、優しくしていた、と言うの…?」
「だから、さっきからそう言っているじゃないか。
社交のために、ある程度は今までの態度を崩せないかもしれないけれど、必要以上にはもうしないよ。」
ユリアナは唖然とした表情のまま、救いを求めるようにソフィアへ視線を移した。
「ユリアナさん、今までごめんなさいね…。我が家は貴女を歓迎するわ。」
「…でも、今まで反対していましたよね…?」
「レオがここまで頑なに我儘を言ったのは初めてだから、親としても答えてあげたいと思ったのもあるけれど…。」
ソフィアはそこまで言って、ちらりとレオポルドを見た。
「僕が、もう必要最低限は外に出ないし喋らない、って言ったからでしょ。」
(う、うわ~~~~…。)
ユリアナは開いた口が塞がらない。
今まで超優等生だったレオポルドが、いきなり超反抗期を迎えたので、レオポルドの両親はさぞ焦ったことだろう。
あの手紙が届いた理由も頷ける。
「最後は駄々をこねるみたいで、格好が全然つかなかったけど…、もう、ユリアナが迷う理由はないよね?」
レオポルドはユリアナの手を取って、きれいな微笑みを向けてきた。
「……はい。」
ユリアナは本当に頷いて良いのかわからないまま、半ば意識を飛ばしながら答えた。
「ありがとう!!」
レオポルドは力強くユリアナを抱きしめた。
今までは、別れ際に挨拶程度に少しの間緩く肩を寄せるように抱きしめられることはあったが、これほど強く抱擁を受けるのは初めてだ。
ドキドキと激しくなる胸の音はユリアナのものなのか、レオポルドのものなのか、わからないほどの距離に、ユリアナは顔を真赤にした。
あろうことか、レオポルドはユリアナの頭に顔を寄せて、思い切り息を吸い込んだ。
(う、う、う~~~~。)
ユリアナは恥ずかしさのあまり、心の内で唸り声を上げることしかできない。
抱きしめられていなければ、この場からあっという間に逃げていただろう。
一体どれほどの間、そうしていたのか。
流石に母ソフィアに止められたレオポルドが、ユリアナを離すまで、その時間は続いた。
_____
あれから数日で学園は最終学期を迎えた。
ユリアナが友人から聞いた話では、学園の生徒の間ではレオポルドとユリアナが破局したことが噂になっていたらしい。
それなのに、今まで以上に親密そうにしているユリアナとレオポルドを見て、学園の生徒たちは理由が分からず遠巻きに2人を見ていた。
レオポルドは宣言のとおり、ユリアナに一等優しくして、他の令嬢にはやや冷たい対応をするようになった。
令嬢曰く、「冷たいレオポルド様も素適…!」ということなので、ユリアナの不安は尽きないであろうが、不満は十分減った。
2人の婚約は、卒業を待つことになった。
レオポルドのプライドなのか、首席で卒業してから、というルールは崩したくないらしい。
とはいえ、今は最終学期、レオポルドが首席で卒業するのは決まったも同然だった。
「ユリアナ、今日は帰りに僕の家に寄るだろう?」
放課後、ユリアナとレオポルドは手を繫ぎながら帰りの馬車に向かって歩いていた。
「ええ、ソフィア様に呼ばれたの。」
「最近、ユリアナが家に来てくれても、母上に取られてしまってつまらないよ。」
「可愛がってもらえて嬉しいわ。レオとは学園でも会えるじゃない。」
レオポルドの母ソフィアは、娘がいなかったためか、ここ最近、娘ができたようで嬉しいとはしゃぎながら、ユリアナを可愛がった。
色々とものを教えてくれるだけではなく、自分が使っていた宝石類をプレゼントしてくれたり、街に一緒に買い物に出かけたりしてくれる。
先が思いやられていた家族との関係も良好に築けそうで、ユリアナはホッとしている。
「学園で会えると言っても…ユリアナは学園でくっつこうとすると、恥ずかしがるじゃないか。」
「…それは、知っている人に見られたら、恥ずかしいじゃない…。」
「僕は見せつけたいから、平気だけどなぁ。
ちゃんと君の言う事を聞いて、外では控えているのだから、たまにはご褒美が欲しいな。」
いつまでも待てはできないぞ、と言外に言われている気がしてユリアナは顔を赤くする。握っている手の手汗が気になってしまう。
徐々に距離を詰める必要がないと思ったレオポルドは、ぐいぐい来る。
小さい頃のユリアナはぐいぐい来る人が怖かったはずなのに、今のユリアナは全く嫌な気がしなかった。
(レオだけ、特別なんだろうけど。)
この美しい人と一緒にいれば、ユリアナの苦労は尽きないだろうが、その苦労は一瞬でレオポルドが薙ぎ払ってしまいそうだ。
「レオ。」
「何?」
「…好きよ。」
ユリアナは恥ずかしさから、視線を合わせずにぼそりと呟いた。聞こえたか、聞こえなかったか、わからないほどの音量だ。
次の瞬間、ユリアナはぐるりと強い力で横を向かされ、気づいたときには目の前に影が差していた。
「ちょっと、ん」
レオ、と続くはずだったユリアナの言葉は、レオポルドの口に吸い込まれた。
レオポルドはそのままぎゅっとユリアナを抱きしめる。
「ごめんね、先にご褒美をもらっちゃった。」
ユリアナの視線の先には至近距離に顔を赤くしてはにかむレオポルドがいた。
他の生徒も見ているこの場所で何てことをするのだ、とユリアナは思ったが、あまりのことに、はくはくと音にならない声を出すことしかできなかった。
「僕の方がずっと好き。」
レオポルドがとても嬉しそうに破顔するので、ユリアナは先程感じた文句も忘れて、レオポルドを強く抱きしめ返した。
ユリアナ・エイベル伯爵令嬢は放課後の学園で、お付き合いをしていた侯爵令息のレオポルド・ウィッカムにそう告げた。
レオポルドは綺麗な切れ長の瞳をこれでもかと見開いている。
ユリアナにとって、この反応は予想外だった。
ユリアナとレオポルドは学園の授業の実習で、一緒になったことをきっかけに度々話すようになった。
男性と女性では、履修科目が異なるものもあるが、それ以降、被っている授業では、必ずと言って良いほどレオポルドがユリアナに話しかけてくれるようになったのだ。
レオポルドは侯爵家の跡取りで、眉目秀麗、文武両道。同じ学園に通う令嬢たちから、熱烈な支持を得ていた。しかし、それを鼻にかけることもなく、周囲の全員に対して分け隔てなく優しいので、令息からもやっかみを受けることもない。
レオポルドに婚約者がいなかったこともあり、レオポルドは数多の令嬢から告白を受けていたが、いずれも真摯に対応するらしく、フラれたからといって、レオポルドを悪く言う令嬢もいなかった。
若いながらに素晴らしい処世術が身についているなぁ、というのが知り合う前のユリアナのレオポルドに対する感想だった。
しかし、ひとたび実習で一緒になり、優しくされてしまっては、ユリアナは抗うことなどできずに、ころころと恋の坂道を一気に落ちて行った。
実習で一緒になってから数か月した後、ユリアナは意を決してレオポルドに告白をした。
レオポルドにフラれた令嬢は数知れず。ユリアナひとりが告白したところで目立つことはないだろう。卒業も近づく中、婚約者についても考えなければならなかったので、ユリアナはこの想いを断ち切りたかった。
しかし、予想外にもレオポルドの返事は「良いよ」だった。
ユリアナが知る限り、レオポルドが令嬢からの告白に頷いたことは、学園生活の中では、ないはずだ。
ユリアナは夢でも見ているのかと思い、何度も聞き直してレオポルドに笑われたくらいだ。
その後、当然ユリアナは多くの令嬢からやっかみを受けたが、レオポルドが庇ってくれたことに加え、レオポルドの周りに対する態度があまり“変わらなかった”ことで、ユリアナが想像していたよりは被害を受けなかった。
恐らく周りの令嬢たちは、ユリアナの平々凡々な姿を見て、「“今”だけレオポルド様が付き合ってあげているだけで、敵にもならない。」と思ったようだった。
ユリアナは付き合い始めた当初、付き合えただけで十二分な幸せを感じていたが、徐々に物足りなさを覚えるようになった。
予定の合う放課後は一緒に時間を過ごすし、夜会があればエスコートしてくれる。
他の令嬢よりも贔屓にしてもらっていることは感じているが、レオポルドが周りの令嬢たちに対しても変わらず優しいところを見ると、ユリアナは辛くなった。
「可愛い」「好きだよ」という言葉も、レオポルドはあんまりにあっさりと口にするので、なぜか“義務的”な気がしてしまう。ユリアナはことあるごとに顔を真っ赤にしておろおろしてしまうのに、レオポルドはいつも穏やかな笑みを絶やさなかった。
ユリアナは、告白する前はフラれて潔く諦めるつもりでいたのに、どんどんと大きくなる欲求に苛まされていた。このままでは、自分が醜くなってしまいそうな気がしてならない。
そしてついに、お別れすることを選択したのだった。
今日は学園生活最後の長期休暇に入る前日なので、ユリアナはその日を狙ってレオポルドに別れを告げた。
どうせ、困ったように笑いながら、「わかったよ、ありがとう。」とあっさり別れを承諾されるとばかり思っていたユリアナは、目の前で絶句しているレオポルドを、信じられない気持ちで見つめていた。
「…どうして?」
レオポルドが震える声でユリアナに尋ねた。
ユリアナの向かいに座っているレオポルドは俯いてしまったので、ユリアナから表情は窺えない。
しかし、ユリアナも緊張していたし、レオポルドの反応が予想外だったので、内心パニックに陥っていた。ユリアナもレオポルドと同じく俯いて意味もなく手元で視線を彷徨わせてしまう。
「その、そろそろ将来のことを考えないとなと思いまして…。」
「将来のことを考えると、どうして別れることになるの?」
「学園の卒業も近づいてきたし…。」
「学園を卒業すると、どうして別れることになるの?」
(どうして今日は察してくれないの…!?)
レオポルドは、ユリアナが言葉足らずでも、いつも上手く行間を読んでくれる。
ユリアナが多くを語らなくても、賢いレオポルドなら、意味は分かっているはずだ。
ユリアナはさらに混乱した。
「レオポルド様も、そろそろご両親から婚約者の紹介を受けているでしょう?」
「いつもみたいに、“レオ”と呼んでよ。
…“も”ってことは、ユリアナは僕がいるのに婚約者の紹介を受けているの!?」
確かに、ユリアナは両親から婚約者候補の名前をいくつか聞いていた。しかし、まだ会ってはいない。
ユリアナの両親は、ユリアナがレオポルドと付き合っていることを知っていたが、相手は侯爵の中でも政の中心に近い、とても権力のある侯爵家の子息だ。この付き合いについて、両親は、レオポルドにとって学園時代の遊びにすぎないのだろうと考え、度々ユリアナに対し、卒業までに関係を整理するように言っていた。
ユリアナは両親の言葉が悲しくもあったが、概ね同意だった。
「だって…、レオポルド様とは将来一緒になれないじゃない。」
「僕とのことは遊びだった、ということ?」
(…まるで、私がとんでもない悪女みたいじゃない!)
ユリアナとレオポルドは学園の共有スペースの隅で話しをしていたので、ユリアナは思わず身震いをした。
ユリアナがレオポルドと遊びで付き合っていた、なんて根も葉もない噂が出回れば、ユリアナに命はない。
「…レオポルド様のご両親だって、私と付き合っていること、良い顔をしないじゃない。」
実際、ユリアナはレオポルドの両親と夜会で何度か顔を合わせたが、快い対応だったとは言い難い。レオポルドほど美しく、賢い青年であれば、もっと上の貴族の令嬢との縁組も容易いだろう。それなのに、こんなにも平々凡々かつ下の爵位の令嬢では面白くないと思うのは当然だ。
「それはそうかもしれないけど、ちゃんと考えている。だから、安心してほしい。」
(レオは私との将来を考えていた、ってこと?)
ユリアナは驚いて思わず目線を上げると、レオポルドは縋るようにユリアナを見つめていた。
ユリアナの初めて見る表情だ。
ユリアナは逡巡する。
嬉しい一方で、婚約してからも、結婚してからも、あのレオポルドの周囲に対しても優しい態度に、もやもやとした気持ちを抱え続けることになるのか、と思うと、やはり、どうしても頷けなかった。
レオポルドに周囲に冷たくしてほしいわけでもない。ただただ、我儘の加速してしまう自分に、ユリアナは心底嫌気がさしていた。
「何が不満だったか、教えてほしい。」
「…私の中の問題なの。ごめんなさい。」
「それじゃあ、納得できないよ。」
レオポルドはユリアナとの間にあるテーブルに身を乗り出して切々と訴えた。
ユリアナは居心地が悪くなって、今は真っ直ぐと向けられているレオポルドの視線から目をそらす。
(ええい、もう言ってやる…!)
そもそも、レオポルドから嫌われずに温厚に別れよう、と思ったことがいけなかったのだ。
ユリアナから告白したのに、身勝手にフろうとしているのは、紛れもない事実。
ユリアナは汚い本心をぶちまけてしまおうと思った。
「レオポルド様が大事なのは“みんな”でしょう?…私は、私だけを大事にしてくれる人が良いの。」
「僕なりに、君を大事にしてきたつもりだったけど…ごめんね。
足りないところは、ちゃんとするから、言ってほしい。」
「…ちゃんと考えている、と仰ってくれたけど、保証はないじゃない。」
「それは、そうだけれど…。もう少しだけ待ってほしい。」
「…イヤよ。今日、将来を約束してくれないなら、別れるわ。もし私のことが好きなら、すぐにでも、言えるはずでしょう?」
(この我儘女め!と怒って私をフッてくれれば良いわ。)
ユリアナは、当初想定していたお別れの流れから大幅にズレてしまったので、混乱の中で“今日お別れする”という目的に固執しすぎてしまっていた。
しかし、ここでなぁなぁにしてしまえば、また同じ日常に苛まされ、違った形で別れを迎えることになる。どうせ辛い別れになるなら、早く済ましてしまいたかった。
「あと少しなんだ、お願いだよ、ユリアナ。」
レオポルドは立ち上がってユリアナの足元に跪くと、ユリアナの両手を取った。
いつもの余裕綽々な様子のレオポルドからは全く想像もつかない。
「ごめんなさい。…さようなら。」
ユリアナはその手を払うと、呆然とするレオポルドを置いて、足早にその場を去った。
_____
ユリアナは休みに入ると早々に領地に引っ込んだ。
両親はユリアナがレオポルドとの関係を終わらせてきたことを聞くと、申し訳なさそうな顔をしながら、ユリアナを慰めてくれた。
婚約者候補との顔合わせは後にして、領地でゆっくりすることを許してくれたのだ。
ユリアナが領地で気持ちを落ち着けながら考えるのは、やはりレオポルドのことだった。
てっきり、レオポルドは“人間としてそこそこ好き”のレベルでユリアナのことが好きだっただけで、執着は全くない、とユリアナは思っていた。
どうしてあそこまで食い下がってくれたのか、混乱の解けた頭で不思議に思う。
しかし、それさえも、もう終わったことだ。
ユリアナは学園の宿題の合間に趣味のピアノを弾きながら、徐々に落ち着いた日常を取り戻しつつあった。
休みも半分過ぎた頃、ユリアナは王都の邸宅から転送されてきた1通の手紙を受け取った。シーリングワックスをよく見れば、ウィッカム家の家紋が押されている。
ユリアナが慌てて手紙を裏返すと、そこには見慣れない綺麗な字で“ソフィア・ウィッカム”と書いてある。ソフィアは現当主の奥様、要するにレオポルドの母で、侯爵夫人だ。
ユリアナは全く手紙の内容に検討がつかず、恐る恐る封を切った。
内容を要約すると、ウィッカム家に遊びに来てほしい、ということだった。
ユリアナは目を白黒させた。レオポルドの母ソフィアは、あからさまな態度を取りはしなかったが、ユリアナに不満があるのは言葉の端々から感じられた。
友好的に家に招いてくれるような関係ではないはずだ。
ユリアナはこの招待に全く良い予感がしなかったので、失礼とは思いつつも、今は領地に居て休みが明けるまで戻らないこと、既にレオポルドとはお別れを済ませたことを丁寧に書き、訪問ができないことを綴った。
しかし、その数日後、ウィッカム家の家紋が押された手紙がまた届いた。
今度の差出人は“ラインハルト・ウィッカム“、まさかの現当主、要するにレオポルドの父で、侯爵だ。
(お前ごときが、うちのレオポルドをフるなんて、何様だ!というお怒りのお手紙なのかしら…?)
ユリアナは恐ろしさに顔を真っ青にさせた。
できることなら、この手紙が届く前に王都の邸宅へ戻り、行き違いになってしまったことにしたい。
ユリアナは震える手で手紙を開くと、ゆっくりとその手紙に目を通した。
内容を要約すると、レオポルドの調子が悪いから、ウィッカム家に見舞いに来てほしい、ということだった。
別れたことは重々承知しているが、レオポルドが会いたがっている、らしい。
ユリアナが知る限り、レオポルドはいたって健康で、ユリアナと付き合っている間に体調が悪くなったことは一度もなかった。
心配ではあったが、別れ際にあれほど失礼な態度をとったユリアナに会いたがるなど、ユリアナは信じられなかった。
それに、レオポルドにはたくさんの友人がいる。ユリアナが行かなくても、既に何人もの見舞があったはずだろう。
侯爵直々のお願いではあるが、敵地に一人で乗り込むような勇気は、ユリアナにはなかった。
迷いに迷った挙句、ユリアナは王都の邸宅に居る侍女に、見舞いの花をウィッカム家に贈るよう、速達の手紙を出した。
まさか、再び手紙が届くようなことはないだろうが、怖くなったユリアナは、少し早いがまだ両親が残っている王都の邸宅に戻ることにした。
_____
ユリアナが王都の邸宅に戻ってすぐに、ウィッカム家から使いが来た。
いったいどこで聞きつけたのか、権力のある侯爵家には至る所に目があるらしい。
両親は大層驚いて、ユリアナに経緯を尋ねてきたので、ユリアナは手紙に書いてあったことを素直に伝えた。そのうえで、両親からレオポルドの見舞いに行きたいか尋ねられたので、ユリアナは迷った末に、ついに渋々と首を縦に振った。
わざわざ使いまで出したのだ。よっぽどユリアナを呼びたい理由があるのだろう。
身勝手な振る舞いでレオポルドに別れを告げた罰だと思い、ユリアナはその断罪を受けることにした。
近々、学園の休暇も明ける。レオポルドとの確執が大きくなってしまえば、残り数か月の学園生活が波乱になること待ったなしである。憂いは少しでも払っておくべきだ。
ユリアナは固い面持ちのまま、道中で購入した花束と共にウィッカム家の大きな門をくぐった。
付き合っていたころには一度も来ることのできなかったこの邸宅を、別れた後に訪れることになるとは、ユリアナは複雑な心境だ。
「ユリアナさん、急に使いを出して申し訳ないわ。」
出迎えてくれたのはソフィア、レオポルドの母である。
どうやら、父ラインハルトは公務で家にいないらしい。
ユリアナは会う人物がひとりでも減ったことにほっと息を吐いた。
「お招きいただきありがとうございます。最近まで領地におりましたので、お招きいただいた際に訪問できず、申し訳ございません。」
「いいのよ、気にしないで。」
ソフィアは嬉しそうに笑ってユリアナを歓迎した。
今まで、ユリアナと話すときは透明の壁が間にあるような、少し線を引いた話し方だったのに、今日は随分と温かい出迎えだ、とユリアナは肩透かしを食らったような気分になる。
「こちら、レオポルド様のお見舞いに…。」
「先日も綺麗なお花をありがとう。今日は直接あの子に渡してあげて。」
ユリアナが花束を差し出そうとすると、ソフィアはそれを受け取らずに早速レオポルドの部屋へと案内してくれた。
「レオ、鍵を開けてちょうだい。」
ソフィアはレオポルドの部屋の前に着くと、扉を叩いてから大きな声で中に呼びかけた。
(体調が悪いのに、内鍵をかけているの…?)
ユリアナは不思議に思ったが、ここで口出しをするのも、と思い黙って様子を窺う。
「レオ!」
「…放っておいてくれって、言ったじゃないか!」
突然中から聞こえた大きな声に、ユリアナは肩を揺らした。
レオポルドが大きな声を出したところを初めて聞いたので、尚更だ。
「ちゃんと学園には行くし、公務もこなす。それで良いだろう!」
レオポルドが心底苛立ったようにまくしたてるので、ユリアナは怖くなって少し後退りをする。
「レオ!ユリアナさんが来ているのよ!」
ソフィアはユリアナの様子を見て、慌てたように来客を告げた。
すると、中は途端に静かになってしまう。
(やっぱり、歓迎されていなかったのね。)
ユリアナは、ほんの少しだけ、レオポルドが本当にユリアナに会いたいと思ってくれていることを期待してしまっていた。
無言は拒絶、そう思ったユリアナは肩を落としながらソフィアに話しかけた。
「侯爵夫人、やっぱり、レオポルド様は私に会いたくないみたいです。
申し訳ございませんが、今日はこれで、」
ユリアナが帰ろうと話している途中に、カチャリ、と鍵の開く音がした。
「…帰らないで。」
扉の向こうから小さくレオポルドの声がしたので、ユリアナはソフィアに戸惑った視線を向けてしまう。
ソフィアがユリアナに「入ってあげて」と耳打ちするので、ユリアナは恐る恐る扉を開けた。
ユリアナは中に入って絶句した。
カーテンはすべて締め切られていて、明るい昼間なのに部屋の中は薄暗い。
目の前に立っているレオポルドは、着替えてはいるようだが、クッションを顔に押し当てていて、表情は窺えない。
「ええと、お久しぶりです。」
「…うん。」
「体調が悪いとお聞きしたのだけれど…。」
「…ちょっと元気がないだけ、大丈夫。」
「昼間は日の光に当たった方が良いですよ。」
レオポルドがクッションに顔を押し当てたままもごもごと話すので、ユリアナは気分を変えようと、部屋のカーテンを開け放った。
日の光に当たった埃がキラキラと光っている。
(…暫く、掃除も入れてなかったのかしら。)
レオポルドはどちらかというと綺麗好きだ。
意外なことが多すぎて、ユリアナは困ったようにレオポルドを見つめる。
いつものレオポルドならユリアナを一時たりとも立ちっぱなしにさせるようなことはない。
「座りませんか?」
ユリアナがレオポルドを促すようにレオポルドの肘の辺りの服を少し摘まむと、レオポルドはビクッと肩を振るわせた後、大人しくユリアナの向かいに腰をかけた。
「…お顔を見せてくれない?」
「だって、来るなんて知らなかったから、こんな顔見せられない。」
(…女子か!)
話しづらい、と思いユリアナが言えば、またまた意外な答えが返ってくる。
ユリアナは思わずツッコミを入れたくなったのをぐっと抑えた。
「私も、レオポルド様の調子が悪いからと、急にお呼ばれして…、
その、大丈夫?」
「…これが大丈夫に見えるの?」
「体調が悪いなら、私はこれで失礼したほうが良い、」
「帰らないで。」
ユリアナが席を立とうとすると、レオポルドは腕を伸ばしてユリアナの手を掴んだ。
顔は依然、もう片方の手でクッションを押さえたままだが、どうやって気づいたのだろうか。
ユリアナは大人しく座ると、レオポルドの出方を窺った。
「…あと少しだったんだ。」
「何が?」
「僕が、首席で学園を卒業すれば、結婚相手は好きにして良いって。」
ユリアナは驚きで目を丸くする。
「どうしてそれを、先に教えてくれなかったの?」
「卒業するまでユリアナに言ってはいけない、そういうルールだったんだ。…もう君に別れを告げられて、すべて崩壊したけどね。」
レオポルドは苦々しく吐き捨てるように言った。
ユリアナはレオポルドがまさか本当に2人の将来を考えていたとは思いもよらず、返答に苦慮する。
「…そっか。でも、意外だったわ。」
「意外?」
「その、レオポルド様は皆に優しいし、特別、私が好きなようには見えなかったから。」
「…君が言ったんじゃないか!」
レオポルドはついに顔を隠していたクッションを取り払って、いきなり立ち上がった。
ユリアナはびっくりして呆然と立ち上がったレオポルドを見上げる。
レオポルドは相変わらず美しかったが、少し隈が出来てやつれたような印象だ。
「君が言ったんじゃないか!万人に優しくするような人が好きだと!」
「…え?」
「君はこうも言ったよ。
文武両道で、学年で一番モテる人が良いって。」
「え!?」
ユリアナは身に覚えがなくて目が飛び出そうなほど驚く。
「それから、ぐいぐい来られるのは怖いから、徐々に優しく距離を詰められたいって、言ったじゃないか!」
「え?…え!?」
(レオポルド様にそんな話をした覚え、全くないけど…!?)
「…全部、ユリアナの言ったとおりにしてきたじゃないか。
何がダメだったの?教えてよ。」
「…本当に申し訳ないのだけれど、全く覚えていなくて…いつの話…?」
「12年前に、ガスパル侯爵夫人の催すお茶会に、君はエイベル伯爵夫人に連れられて良く付いてきていたじゃないか。」
「…そうだっけ…?」
小さいころ、確かにお茶会に連れていかれて、同じ年ごろの少年少女と遊んだ記憶はあるが、それがガスパル侯爵夫人の催したお茶会だったかどうか、ユリアナは覚えていなかった。
しかも、レオポルドほどの目立つ少年と会話した記憶などまるでない。
「僕が、庭園の隅にいたときに、ユリアナが声をかけてくれたんだ。」
(庭園の、隅…?)
いつも周囲に人がたくさんいるレオポルドには似合わない言葉だ。
ユリアナは首を捻ったが、うっすらとひとつの記憶を思い出す。
_____
「ねぇ、貴方、お名前は何て言うの?」
「レオ…ポルド…。」
幼い頃、ユリアナが連れていかれたお茶会で、少年は庭園の隅にうずくまっていた。
お喋りに飽きたユリアナが散策をしていたところ、その塊に気づいたのだった。
レオポルドは掻き消えそうな小さな声で名前を告げる。
「レオ、何ですって?…まぁ、レオで良いわ。
私はユリアナ。こんなところで、何をしているの?」
「…お花を眺めていたんだ。」
「あっちでみんなで楽しくお話ししているのに。」
「僕は人が多いところは苦手…。」
「まぁ!貴方って“シャコウセイ”がないのね!お父様が言っていたわ、シャコウセイのない貴族はダメだって。」
お気づきだろうが、ユリアナは小さいころ、大変高慢ちきだった。
外との関りがまだ少なく、蝶よ花よ、と育てられたので、自分が世界の中心なのだと思っていた。
レオポルドは、突然現れた少女に、グサり、と刺さる言葉を言われて、ますます小さく蹲る。
「人が怖いんだ。」
「そうなの?じゃあ、私が一緒に行ってあげるわ。」
ユリアナはほぼ無理やりレオポルドの手を取ると、ぐいと少女の力とは思えない力でその手を引いた。
「い、嫌だ!周りの人の目線が怖いんだ!」
レオポルドは小さいころから綺麗な顔立ちをしていた。
それに、由緒正しいウィッカム侯爵家の跡取りと言うこともあり、お茶会に集まる夫人たちが、自分の娘の婚約者にどうかと、目をギラギラと光らせていたし、既に将来のことを考えているような賢い少女からもメラメラとした視線を向けられていた。
一方、ユリアナはこのころ、将来の婚約者のことなど考えたこともない自由奔放な令嬢だった。
「何言っているのよ!貴方のことなんて、誰もそんなに見ていないわ、考え過ぎよ!」
ユリアナはぐいぐいとレオポルドを会場に連れて行くと、目をメラメラとさせている少女を寄せ付けないほど、一方的にレオポルドに話し続けた。
このケーキが美味しかった、だとか、この皿はユリアナの家にもある、だとか、どうでもいいことばっかりだったが、レオポルドは突然のことに事態が呑み込めておらず、気づけば帰る時間になっていた。
いつもなら、周りの目が怖くて、帰る時間を秒単位で待ちわびているのに、だ。
それ以降も、ユリアナはガスパル侯爵夫人のお茶会でレオポルドを見つけると、一方的に絡み続けた。
最初は疎ましく思っていたレオポルドだが、ユリアナと一緒に居ると、周囲の目線を気にしなくなっていることに気づき、ユリアナの言うとおり「考え過ぎ」だったことに気づいた。確かに目をギラギラさせて近づかれるのは怖いが、別に相手も殺そうと思っているわけではない、そう思うと、レオポルドは今まで怖がっていたことが馬鹿らしくなった。
それからは、レオポルドもユリアナにすっかり懐いて、2人でお茶会での時間を楽しんだ。
ユリアナは高慢ちきだったが、誰かを妬むような発言は絶対にしなかったし、いつも明るかった。レオポルドをあのギラギラした目で見てくることもない。ユリアナの視線の先にはいつも食べ物か、綺麗なお皿か、刺繍か、それしかなかった。
一緒に過ごした時間は僅かだが、レオポルドは周りにはいなかったタイプのユリアナに、あっという間に惹かれていった。
「ねぇ、君は他の令嬢みたいに、婚約者のことは考えないの?」
「う~ん。いつかは考えるんじゃない?」
「それなら…、僕がなりたい。」
レオポルドにとっては、小さいながらにとてつもなく勇気を振り絞って言った言葉だった。
真っ赤になって、プルプルと震えながらユリアナの返事を待つ。
「え~!嫌だ!」
あまりにあっさりとユリアナが答えるので、レオポルドの瞳には涙が浮かぶ。
「な、なんで…?」
「だって、私、王子様みたいな人と結婚するんだもん。」
「…具体的には?」
「ぐたいてき?」
「その、どんな人だったら、結婚したいの?」
「まずね、誰に対してもとっても優しい人が良いわ。
それから、頭が良くて、運動もできて、かっこよくて、同い年で一番人気があるくらい素敵な人!」
ユリアナはレオポルドの泣きそうな表情に気づかないまま、キラキラとした瞳で理想を語る。
「あとね、」
言葉を続けようとするユリアナに、レオポルドはまだるのか、といった表情でユリアナを見やる。
「あと、出会いは17歳。」
「…なんで?」
「お母様がお父様と出会った年齢なんだって。私もお母様とお父様みたいになりたいもの。」
「そうなんだ…。」
「それから、ぐいぐい来られるのは怖いから、スマートに優しく徐々に距離を詰めてくれる人がいいわ!」
「そう、なんだ…。」
出会いが17歳なんて、もう出会ってしまっている自分はどうしたら良いのやら、とレオポルドはますます悲しい気持ちになる。
ユリアナはレオポルドの気持ちも知らずに、その後も延々と理想の相手とデートについて喋り続けた。
ただ、レオポルドもこれで諦めてしまうほど、既に軽い気持ちではなくなっていた。
「僕、絶対にユリアナの理想の男性になるから!」
理想の出会いを超えられるほど、理想の男性になればいい、そう思ったレオポルドは、こうして自己研鑽の日々に身を投じた。
しかし、そんなレオポルドの決意もむなしく、ガスパル侯爵夫人がレオポルドの母ソフィアの派閥とトラブルを起こしてしまい、ソフィアがレオポルドを連れてガスパル侯爵夫人のお茶会に行くことはそれ以降、無くなってしまったのだった。
_____
ユリアナは思い出して顔を真っ青にした。
あの頃は本当に世間知らずで、記憶から消し去りたいほどの黒歴史だったため、今の今まですっかり忘れていた。
きっとあの子どもの頭の中身はお花とお菓子だけでできていたに違いない。
あれからユリアナは、流石に甘やかしすぎたと思った両親から強い叱責を受けたり、たくさんの令嬢たちに揉まれたりして、大分大人しくなり、そして処世術も身に着けた。
外に出始めたばかりの一番やんちゃなときにユリアナはレオポルドと出会ってしまっていたのだ。
「…趣味が悪いですね?」
「君がそれを言うの?」
(いや、だって、いくら話しかけてくれたからって、
あんな我儘なお子様を好きになるなんて…。)
ユリアナは自分のことながら、レオポルドの嗜好にドン引きである。
「兎にも角にも、全部ユリアナが言ったんだ。
君の名前しか知らなかったから、すぐに見つけることはできなかったけど、学園で君を見つけたときは運命だと思ったよ!
それなのに、君は僕のことを全然覚えていなかった…。
だから、それを利用して、ちゃんと17歳で知り合ったし、ぐいぐい来るのが怖いと言うから、徐々に距離を詰めようと、ちゃんと距離を保ったじゃないか。」
ユリアナは混乱する頭の中で、ひとつ腑に落ちたことがあった。
ユリアナはレオポルドと実習で一緒になってからというもの、不思議なほどあっという間に恋に落ちたが、それはレオポルドがユリアナの男性の趣味を熟知していたからだ。
流石に子供のころに抱いたような理想の男性なんているはずもない、と思いつつも、幼い頃の理想が全く変わってしまったわけではなかった。ちょっとした仕草から対応まで、レオポルドは何もかもユリアナのストライクだった。
「そっか…、そうだったんだね…。ありがとう?」
ユリアナはこの話をどのように収束させればよいのか分からない。
レオポルド曰く、学園を首席で卒業したらユリアナとの婚約が認められたようだが、ルールを破ってしまったので、それも無効になってしまっただろう。
「…いつも、好きなのは僕ばかりだ。」
「いやいやいや、私だって、ちゃんと好きだったわ!」
「ほら!もう過去形じゃないか!」
まさに、別れ際にユリアナが言いたかったことをレオポルドが言うので、慌ててユリアナは否定するが、レオポルドは興奮が抑えられないのか先程から立ちっぱなしで言い募ってくる。
「そんな…、まだ過去になんてしていないわ!」
これはユリアナの本心だった。
そう簡単に嫌いになれるはずもない。
レオポルドは大きく目を見開くと、ユリアナの手を引いて立ち上がらせた。
いつもよりも強く腕を引かれたユリアナはされるがままに、レオポルドの後をついて部屋を出る。
部屋を出れば、心配で聞き耳を立てていたのかすぐにソフィアが立っていた。
「レオ、やっと部屋から出てきてくれたのね、良かったわ!ユリアナさんもありがとう。」
ソフィアは涙ぐみながらユリアナにお礼を言った。
きっと、ユリアナが領地に引っ込んでいる間に涙なしでは語れないほどの出来事がこの家族の間にあったに違いない。
「母上。」
「何かしら?」
「僕はユリアナと結婚します。」
ユリアナはぎょっとしてレオポルドを仰ぎ見た。
「レオポルド様!」
「…何?」
「いや、結婚は…ご家族との関係もありますし…。」
「僕のこと、好きだって言ったじゃないか。嘘だったの?」
嘘じゃない、嘘ではないが、ユリアナの不安は未だに払拭されていない。
家族との関係もそうだが、醜い嫉妬にその身を滅ぼしたくないのだ。
「その…、別れるときにいった言葉は本音なのです…。」
「君だけを大事にしてくれる人が良い、だろう?そこの思考が小さい時と変わったなら、それは僕が合わせるから大丈夫。」
「いやいやいや、合わせてもらうなんて…。レオポルド様には、レオポルド様の思うままに生きてほしいわ。」
「それなら好都合さ。僕は別に進んで皆に優しくしていたわけでは無いし、君がゆっくり距離を縮めなくて良いと言うなら、願ったり叶ったりだ。」
「…本当に、私があんな小さい頃にそう言ったから、優しくしていた、と言うの…?」
「だから、さっきからそう言っているじゃないか。
社交のために、ある程度は今までの態度を崩せないかもしれないけれど、必要以上にはもうしないよ。」
ユリアナは唖然とした表情のまま、救いを求めるようにソフィアへ視線を移した。
「ユリアナさん、今までごめんなさいね…。我が家は貴女を歓迎するわ。」
「…でも、今まで反対していましたよね…?」
「レオがここまで頑なに我儘を言ったのは初めてだから、親としても答えてあげたいと思ったのもあるけれど…。」
ソフィアはそこまで言って、ちらりとレオポルドを見た。
「僕が、もう必要最低限は外に出ないし喋らない、って言ったからでしょ。」
(う、うわ~~~~…。)
ユリアナは開いた口が塞がらない。
今まで超優等生だったレオポルドが、いきなり超反抗期を迎えたので、レオポルドの両親はさぞ焦ったことだろう。
あの手紙が届いた理由も頷ける。
「最後は駄々をこねるみたいで、格好が全然つかなかったけど…、もう、ユリアナが迷う理由はないよね?」
レオポルドはユリアナの手を取って、きれいな微笑みを向けてきた。
「……はい。」
ユリアナは本当に頷いて良いのかわからないまま、半ば意識を飛ばしながら答えた。
「ありがとう!!」
レオポルドは力強くユリアナを抱きしめた。
今までは、別れ際に挨拶程度に少しの間緩く肩を寄せるように抱きしめられることはあったが、これほど強く抱擁を受けるのは初めてだ。
ドキドキと激しくなる胸の音はユリアナのものなのか、レオポルドのものなのか、わからないほどの距離に、ユリアナは顔を真赤にした。
あろうことか、レオポルドはユリアナの頭に顔を寄せて、思い切り息を吸い込んだ。
(う、う、う~~~~。)
ユリアナは恥ずかしさのあまり、心の内で唸り声を上げることしかできない。
抱きしめられていなければ、この場からあっという間に逃げていただろう。
一体どれほどの間、そうしていたのか。
流石に母ソフィアに止められたレオポルドが、ユリアナを離すまで、その時間は続いた。
_____
あれから数日で学園は最終学期を迎えた。
ユリアナが友人から聞いた話では、学園の生徒の間ではレオポルドとユリアナが破局したことが噂になっていたらしい。
それなのに、今まで以上に親密そうにしているユリアナとレオポルドを見て、学園の生徒たちは理由が分からず遠巻きに2人を見ていた。
レオポルドは宣言のとおり、ユリアナに一等優しくして、他の令嬢にはやや冷たい対応をするようになった。
令嬢曰く、「冷たいレオポルド様も素適…!」ということなので、ユリアナの不安は尽きないであろうが、不満は十分減った。
2人の婚約は、卒業を待つことになった。
レオポルドのプライドなのか、首席で卒業してから、というルールは崩したくないらしい。
とはいえ、今は最終学期、レオポルドが首席で卒業するのは決まったも同然だった。
「ユリアナ、今日は帰りに僕の家に寄るだろう?」
放課後、ユリアナとレオポルドは手を繫ぎながら帰りの馬車に向かって歩いていた。
「ええ、ソフィア様に呼ばれたの。」
「最近、ユリアナが家に来てくれても、母上に取られてしまってつまらないよ。」
「可愛がってもらえて嬉しいわ。レオとは学園でも会えるじゃない。」
レオポルドの母ソフィアは、娘がいなかったためか、ここ最近、娘ができたようで嬉しいとはしゃぎながら、ユリアナを可愛がった。
色々とものを教えてくれるだけではなく、自分が使っていた宝石類をプレゼントしてくれたり、街に一緒に買い物に出かけたりしてくれる。
先が思いやられていた家族との関係も良好に築けそうで、ユリアナはホッとしている。
「学園で会えると言っても…ユリアナは学園でくっつこうとすると、恥ずかしがるじゃないか。」
「…それは、知っている人に見られたら、恥ずかしいじゃない…。」
「僕は見せつけたいから、平気だけどなぁ。
ちゃんと君の言う事を聞いて、外では控えているのだから、たまにはご褒美が欲しいな。」
いつまでも待てはできないぞ、と言外に言われている気がしてユリアナは顔を赤くする。握っている手の手汗が気になってしまう。
徐々に距離を詰める必要がないと思ったレオポルドは、ぐいぐい来る。
小さい頃のユリアナはぐいぐい来る人が怖かったはずなのに、今のユリアナは全く嫌な気がしなかった。
(レオだけ、特別なんだろうけど。)
この美しい人と一緒にいれば、ユリアナの苦労は尽きないだろうが、その苦労は一瞬でレオポルドが薙ぎ払ってしまいそうだ。
「レオ。」
「何?」
「…好きよ。」
ユリアナは恥ずかしさから、視線を合わせずにぼそりと呟いた。聞こえたか、聞こえなかったか、わからないほどの音量だ。
次の瞬間、ユリアナはぐるりと強い力で横を向かされ、気づいたときには目の前に影が差していた。
「ちょっと、ん」
レオ、と続くはずだったユリアナの言葉は、レオポルドの口に吸い込まれた。
レオポルドはそのままぎゅっとユリアナを抱きしめる。
「ごめんね、先にご褒美をもらっちゃった。」
ユリアナの視線の先には至近距離に顔を赤くしてはにかむレオポルドがいた。
他の生徒も見ているこの場所で何てことをするのだ、とユリアナは思ったが、あまりのことに、はくはくと音にならない声を出すことしかできなかった。
「僕の方がずっと好き。」
レオポルドがとても嬉しそうに破顔するので、ユリアナは先程感じた文句も忘れて、レオポルドを強く抱きしめ返した。
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改めまして、可愛い初恋ストーリーでした。ほっこりしました。レオくんの本性にちょっとツボってしまいました(笑)
感想をいただきありがとうございます。
(誤字報告もありがとうございます。)
可愛いお話と言っていただけて嬉しいです( ꈍᴗꈍ)
御覧いただきありがとうございました!
かわいいお話でした❤️
1ヶ所
ユミルは一人でも会う人物が
→ユリアナ
一途なレオポルド初恋が実って良かったね😁
いつもありがとうございます( ꈍᴗꈍ)
連載の主人公と混ざってしまいました…御指摘ありがとうございます!