弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件

ゆきりんご

文字の大きさ
3 / 5

3話

しおりを挟む
 僅かに開いたカーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。見知らぬ部屋に一人。そうだ、昨日ハンクと……。やらかした。完全にやらかした。悲しいかな、全て覚えている。いっそのこと記憶を無くしていた方が嬉しかった。まさか、部下と一線を越えてしまうとは。訴えられでもしたら、否定のしようがない。誘ったのはこちらの方だ。部下と体の関係を持ってしまうなんて、文書管理課おっさんのことを悪く言えたもんじゃない。
 週末明けの職場。僕はハンクとの距離感を今まで通りでいることに努めた。

「うわ、イリアスさん、もう相手見つけたんすか?」
「え、なんで分かったの? もしかして、どっかに痕付いてる?」

 チェスターがうなじの辺りをを指さす。

「いち、にい、三つくらいすかね、見えてるっすよ。首元隠れる服の方がいいんじゃないすか」
「うわ、本当? 気付かなかったな……そんなしつこく痕を付けるような人じゃないと思ってたんだけど」

 ちらりとハンクを見る。今までと変わらない様子で、淡々と仕事をこなしている。

「随分と盛り上がったんすねぇ」
「も、もうこの話は終わり。ほら、さっさと仕事して」
「うぃっす」

 盛り上がった。それは間違いない、けれど、寂しさはあまり埋まらなかった。
 セフレになってほしいなどと口走ってしまったが、上司と部下だ。二度目はもうない。ハンクも、酔った勢いの言葉のあやだと理解してくれているはずだ。
 夜、ひとりぼっちでベッドに入る。布団を被っても、目は冴えたまま。仕事で疲れているはずなのに、眠気がやってこない。
 寝たのだか起きていたのだか分からないまま、夜が明けた。空が白んできたことに半ば絶望しながら、眠るのを諦めてベッドを出る。
 顔を洗って、鏡を覗き込む。

「うわ、肌の調子わる」

 クマを隠すクリームをこんもりと肌に乗せる。肌の調子が悪いから、伸びも悪い。
 そんな日が続いていたある日のこと。

「イリアスさん、次、いつ会えますか」

 事務連絡以外でハンクから声をかけられた。珍しいこともあるもんだ。

「いつって、毎日会ってるだろ」
「そういうことじゃないって、分かってますよね?」

 壁際に追い詰められ、逃げ場がない。こんなときに限って、部屋には僕たちのほか誰もいない。

「な、なんのことだか」
「シラを切るつもりですか? 先輩が覚えてるのは、この前のチェスターとの会話で分かってるんですよ」
「じ、上司が部下に手を出すのはよくないし」
「手を出されたのは先輩の方じゃないですか」
「そういう問題じゃなくて」
「セフレだからって、一回切で捨てるんですか」
「う、うぁ……」
「イリアスさん、もしかして最近ちゃんと寝れていないんですか?」
「三十近くもなれば肌の調子よくないのがデフォルトだよ。そんな近くで見るなって」
「本当にそれだけですか」

 口がくっつきそうなほど、顔が近づく。顔の前に手を出して、待ったをかけた。

「は、ハンクはなんでそう僕に拘るんだ。遊び相手にしたって僕以外にいくらでもいるだろ。わざわざ、こんな三十路間近の男を相手にしなくたって……」
「イリアスさんの本質はそれなんですね。いつもは自信があるように見せておきながら、本当は自信がない。まあ、お酒入った時の様子で分かってはいましたけど。大変、可愛らしいと思います」

 本当は自信がない。ハンクの言う通りで、何も言い返せない。

「ちわーす、戻りましたー」

 チェスターの声が聞こえ、ハンクを突き飛ばす。しかし、チェスターは何かを察したようだった。

「あー、イリアスさんの新しい相手ってハンクなんすか」
「え、えっと……」
「そうですよ」

 誤魔化そうと言葉を探している間にハンクが肯定してしまった。

「マジすか」
「まあ、一回切で捨てられそうになっているところなんですが」
「うーわ、イリアスさん、それはないっすわ」
「そ、その気がないのに引きずるよりもよっぽど誠実だ。ハンクなんて、いくらでもモテそうだし、いつまでも俺に付き合わせるのは悪いよ」
「イリアスさんらしくないっすね。いつもは『プリティでキュートな俺に付いてこい』みたいな感じなのに」
「イリアスさんは『俺』なんて言わない」
「ハンクはちょっと黙って。振られたのが続いて自信無くしたんすか」
「まあ、そんなところかな」
「イリアスさん、とにかく今日は飲みに付き合ってもらいますから」
「今日、仕事が立て込んでるから遅くなるよ」
「手伝いますし、いつまでも待ちます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

使用人の俺を坊ちゃんが構う理由

真魚
BL
【貴族令息×力を失った魔術師】  かつて類い稀な魔術の才能を持っていたセシルは、魔物との戦いに負け、魔力と片足の自由を失ってしまった。伯爵家の下働きとして置いてもらいながら雑用すらまともにできず、日々飢え、昔の面影も無いほど惨めな姿となっていたセシルの唯一の癒しは、むかし弟のように可愛がっていた伯爵家次男のジェフリーの成長していく姿を時折目にすることだった。  こんなみすぼらしい自分のことなど、完全に忘れてしまっているだろうと思っていたのに、ある夜、ジェフリーからその世話係に仕事を変えさせられ…… ※ムーンライトノベルズにも掲載しています

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

パン屋の僕の勘違い【完】

おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

処理中です...