忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第3章:忠犬はてんぱいを追って

第45話 天貴氏は神の器?

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「玄太!クータン!戻ったぞ!」

 帰って一番、俺はまっすぐ自分の部屋に戻って、玄太とクータンに帰還報告。

「てんぱーーーい!おかえりなさいっ!」

「首尾は上々か?」

「おぅ!俺ら三人の食い扶持くらいは働いてきたぜ!」

「さすがっす!でも……結構苦戦したっぽいっすね?」

 そう言いながら、玄太が俺のツナギをじろじろと見つめる。

「そのツナギ、土と毛だらけっすよ!?どんな戦いしてきたんすか!?」

「いや、マジで軽トラみたいなやつと死闘繰り広げてきたんだって!」

 そう言いながら自分の身体を見下ろすと、確かにひどい。

「風呂行ってくる。さすがに今は人としてヤバい気がする」

「了解っす!ちゃんと洗ってくださいね~!」

「部屋に戻る際、甘乳パンを所望する!」

「はいはい」

 玄太とクータンの声に見送られながら、俺はふらふらと風呂場へと向かった。

 *****

 ザッバァァーーン!

「ふ~~、気持ちいいぃぃぃぃ!!!」

「はい!狩りの後のお風呂は格別ですね!」

 湯けむりに包まれながら、ベータ君と一緒に湯船に突入。思いっきり汗をかいた後の風呂って、なんでこんなに神なんだろうな!

「今日の紫のお湯、いい匂いだ!この花びら、なんだろ?」

 俺が手に取ると、ベータ君がちょっと誇らしげに笑う。

「今日はヒールラベンダーのお湯です!青巒の森に自生してるんで、今日採ってきたんですよ!」

「いつのまに!?薬効もあっていい匂いとか、チート花かよ」

 まさに癒しのダブルパンチ。そりゃもう、魂ごと溶けるってもんです。

 ガラァァ!!!

「おう、天貴!湯加減どうだ?」

 その声とともに、湯けむりをかき分けて現れたのは肩幅バグ級コンビ。コンバインさんとラクターさん。狩り帰りでまだ若干、野生の風まとってる感じある。

「ははは!狩りのあとは風呂が一番だな!」

 ザバァァァァァァァ!

 ふたりが湯船にどっかり沈むと、豪快な音を立ててお湯が波打った。ちょっと……いや、かなりの迫力。

「天貴!お前のアストラいいぜ!死角でも真上からイケるのはデカいぜ!」

「そんな~!やめてくださいよ!」

 改めてそう言われるとちょっと恥ずかしくて二人に背を向ける。

「いや、コンバインの言う通りだ!それに………ん?」

 ラクターさんがふと、俺の背中をじーっと見てきた。

「天貴?お前、背中に妙な痣があるな」

「え?あ~、そういや玄太も同じこと言ってたな」

 俺は何気なく笑って流そうとした。

 でも、ラクターさんは湯けむりの中で珍しく、真顔になってマジマジと背中を確認してくる。

「薄いが、模様に見えるな?歪んだ天秤のような……」

「え?」

(天秤?なんだそれ)

「やっぱ不思議なやつだな、お前って!」

 そう言って痣に手を伸ばすコンバインさんにラクターさんの怒号が飛ぶ。

「よせ!コンバイン、それに触れるな!」

「ふぁ!?はい!隊長!!」

 へ??俺の背中で一体何が……?

 *****

 風呂から上がり着替えをして部屋に戻ろうとしたところ、ラクターさんに呼び止められた。

「天貴。少し時間あるか?」

「え?あ、はい。何か?」

「確認したいことがある」

 その言葉に、どこかただならぬ空気を感じながら、俺はタオルで髪を拭きつつ後を追う。

 向かった先は、農場の屋敷地下にある、あまり使われてなさそうな書庫だった。

「あれ、ここ初めて来ました」

「そうだな。以前、話したアリスの練乳の件は覚えてるな?」

「はい、確か地下の書庫で見つけたレシピって……まさかここが!?」

 ラクターさんが棚の隙間を抜けて、奥の木箱をひとつ開ける。そして、古びた羊皮紙の束の中から、慎重に一枚を取り出した。

「うむ。これを見てみろ」

 広げられたそれは、古代文様とともに描かれた紋章の記録だった。

 真ん中に、大きく描かれたのは……。

「天秤……?」

「そうだ。傾いた天秤」

 そう言うと、おもむろに俺の後ろに立つラクターさん。

「脱げ、天貴」

「え?ちょっ……あっ……ラクターさん……!」

 *****

 そして、同じ時間。

 リビングの隅、ちょっと大きめのソファに、メガネの少女はちょこんと腰掛けていた。屋敷の風呂を借りたあと、タオルを頭にかけたままピクリとも動かない。

 途中、ラクターと天貴が一緒に地下へ向かう姿を偶然目撃してしまった彼女。

 地獄耳のミミは、その意味深すぎる二人の“密室の逢瀬”に耐えきれず、つい自慢のアストラ【エコーハント】を使ってしまった。

「でゅふ。イケないと分かっていても……ラク&天は見過ごせないでふ」

 手には、例のノート。

 そしてそのページには、すでにとんでもない妄想……いや、調査記録が追記されていた。
 
 ■玄太(アイツ)には内緒! 風呂上がりの情事!
 ■ラクター&テンキ! 地下密室の暗所密会
 ■ラクター氏・強引に天貴の服を脱がせる! 天貴の背中があらわに!?

「でゅふ。これは、玄&天危うしでふ」

 *****

 そして、話は地下室に戻る。

 ラクターさんは俺の背中をそっとめくり、じっと見つめた。

「うむ……やはり同じ形だな」

「え!?ええ!??」

 ラクターさんが、古びた羊皮紙をそっと広げた。

 そこには、天秤のように見えるけど、どこか歪んだ形をした紋章が描かれていた。

「この模様が俺の背中に?」

「うむ。この刻印、クザン・アストレイと呼ばれる神に関係しているようだ」

「クザン、アストレイ……?」

 初めて聞く名のはずなのに、どこか胸の奥がざわついた。まるで昔から知っていたような?

(なんか、妙にひっかかるな)

「その存在は実体を持たず、ただ“公平”という名のもとに存在する、この世界を司る神だ」

「神だって?じゃあ、俺ってその神と何か関係があるってことですか?」

 思わず声が震えた。ラクターさんは、静かに頷く。

「まだ確証はない。だが、これを見てみろ」

 そう言ってラクターさんが別の羊皮紙差し出した。

 差し出された羊皮紙には、古い画法で描かれた一枚の絵があった。そこにいたのは、背中に天秤の印を刻まれたひとりの人物。

「この人物、“神の器”と呼ばれていたようだ」

 その人物の背後には、うっすらと巨大な存在の影が描かれていたが、輪郭はぼやけ、正体はよく分からない。
 ただ、その姿は、風と雲をまとい、空を背負うように立っている。

「神と対話し、その力を借り、世界に何かをもたらした……そんなふうに記されている」

「すごい……まるで、英雄みたいな話じゃないですか」

「そう思うか?だが選ばれし者の名誉の裏には、代償も伴うのが常だ」

 ラクターさんの重い言葉が俺の逸る心にブレーキをかける。

「お前は“空”と対話し、天を動かす。まさに神に匹敵する器だと言っても過言じゃない」

 心臓がどくんと跳ねた。信じられなかった。でも、俺の背中には、たしかにその痣がある。

「この天秤って、そもそも何を意味してるんですか?」

 俺の問いに、ラクターさんは少し黙ってから、口を開いた。

「“均衡”だ。善でも悪でもない。ただ、どちらかに傾いた世界を……正す」

 その瞬間、背筋がゾクっとした。それは多分、ラクターさんが俺の背中に触れたせいじゃない。

「この痣、人に触れさせるな!いかなる影響があるか分からん!」

「は、はい」

 胸の中の、深いところが冷たくなるような感覚だった。

 なんだよそれ。俺はただ、異世界ここで玄太と楽しく暮らせれば充分なのに。

 ******

 アストラの使用を中断して、ノートに書きこむミミ。

「むぅ?何の話でふかねえ、これは」

 ■天貴氏の背中に【歪んだ天秤の痣】を確認
 ■クザン・アストレイ?
 ■天貴氏は神の器? 神に匹敵する力?

「これは新章突入でふな。続報が楽しみでふ」
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