忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第4章 神の器の奮闘記

第49話 異常気象大特訓!

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 リビングではアルカノア農場の臨時参謀会議が開かれていた。ラクター、アリス、コンバイン、そしてミミ。

 朝陽が差し込み、カップに残った湯気が静かに揺れる。

「まさか、こういう形で攻撃してくるとはな…」

 ラクターがテーブルに肘をつき、ため息交じりに言う。

「そうね、襲撃はしばらく無いと油断してたわ」

 アリスは腕を組んで小さく息をついた。

「正面から落とせないと踏んで、ひん曲がった野郎だぜ!」

 コンバインがからかうように言うと、会議の緊張感がふっと和らいだ。ミミはノートに小さく「要注意:心理作戦」と走り書きしていた。その様子を、ドアの隙間から覗いていた俺と玄太。

「…てんぱい」

 玄太がボソッと小声でつぶやく。

「おれたち、今回ちょっと足引っ張っちまいましたね」
「まあな。今回は不意打ち気味だったからな」

 そう言いながらも、俺自身どこか歯がゆさを感じていた。無自覚とはいえ、もとはといえば俺の痣が引き起こしたようなもんだしな。

「だからっすよ!」

 突然、玄太が俺の肩をガシッと掴んで、くっつきそうなくらいググっと顔を近づけてくる。

「だから?」
「てんぱい、異常気象の特訓に行きましょう!」

「異常気象?」
「いざという時、使えませんでしたーって…それ、シャレにならないっすから!」

「いやまぁ、そうだけどさ?」

 確かに危険が迫るたびに教えてもらってたんじゃ、間に合わないよな。

「てんぱい、まだ氷とか猛熱とか、手つけてないやつあるんすよ!」
「でもお前、特訓って…?」

「行きましょう!特訓デートっすよ!!」

 ぐいぐいと押してくる玄太に、俺はあえなく陥落。

「…ったく、じゃあ付き合ってもらうか」
「そうと決まれば、善は急げっすね!」

 そう言って玄太は周辺の地図をピッと取り出した。タイミングよくリビングから出て来たラクターさんを引き留めてアドバイスをもらう玄太。

「広くて誰もいない場所?それなら南に向かった先に、昔、他国と激戦になった古戦場がある」

 ラクターさんは地図を広げながら、指先で場所をなぞって教えてくれた。

「今はもう荒れ地になって住民もいない。地盤は固くて気流にも影響が少ない。訓練にはうってつけだ」
「さすがラクター隊長!知識の泉!」

 玄太がぴょんと飛び上がってガッツポーズする。

「だが気をつけろ。かつては魔導砲や炸裂アストラが飛び交い、多くが無念に散った土地だ。残留思念もあるかもしれん」
「え、それやばいやつ!?」

 俺が慌ててラクターさんを見ると、彼はにやりと笑った。

「だから訓練なんだろう?」
「くっ…ぐうの音も出ない…!」


 *****

 そして俺たちはラクターさんに教えてもらった古戦場を目指して絶賛迷子中。

「おっかしいな。ラクターさんに聞いた場所はたしかこの辺なんだけど…」

 地図を見ながら、うっそうと生い茂る林の中で、道なき道を進む俺たち。

「て、てんぱい!こっち…!」

 少し前を歩いていた玄太が振り返り、手を大きく振った。俺は慌ててそのあとを追う。そして木々の間を抜けた瞬間、目の前の景色が一変する。

「ここ、だな!」

 視界が一気に開けたそこは、草もまばらな岩地の平原。かつての戦の痕が、そのまま時間に取り残されたように残っていた。砕けた石柱、朽ちた馬車の車輪、焼け焦げた金属片。遠くの丘には、誰かがかつて陣取ったらしき壕の跡が、ぼんやりとシルエットを浮かべていた。

「うわぁ。戦場って、ホントにこんなになるんすね」

 玄太の声も自然と小さくなる。ここにかつて、誰かの絶叫や誰かの無念があったのかと思うと、自然と足取りが重くなる。俺の足元の砂利が、ザリと音を立てた瞬間、空気の温度が少し下がった気がした。

「本当に、ここ大丈夫なんだろうな?」

 不意にこぼれた俺の弱音に、横から即座に声が返ってきた。

「大丈夫っすよ!てんぱいは“異常気象”を支配する男なんすから!」

 玄太は、どこまでも真っ直ぐな目で俺を見上げた。ざらついた地面も、不穏な空気も、その笑顔で少しだけ薄れた気がする。

「支配ねぇ。そんなすげえ異常気象あるのか?」
「任せてください!全部マスターしちゃえば、帝国軍なんて一網打尽っすよ!」

「お前、変に自信持ちすぎなんだよ」

 でも。そんなお前がいてくれるから、俺は進めるんだけどな。

「じゃあてんぱい!まずはコールドスナップからっす!」
「コールドスナップ?聞いたことないな」

「突然の冷気で地面ごと凍っちゃう現象みたいっす!名付けて“氷鎖(ひょうさ)の大地”!」

 説明を聞いた俺は、右手を空にかざす。気流の動き、気圧の境目、雲の輪郭。全部が、指先に集まり出すのが分かる。

「じゃあ、いくぞ。氷鎖の大地!!コールドスナップ!」

 ピシィィィ……シャキーン!

 すると俺達を取り囲むように周囲の地面に霜の筋が走り、瞬く間に広がっていく。凍結した地表からは、薄青い氷の花が次々と咲き、俺と玄太を中心に幻想的な氷結陣を描いた。

「うわっ!これ、絶景!氷鎖じゃなくて氷華に変更っすね」

 玄太が感動してる間にも、冷気はさらに深く地層にまで浸透していく。…が、その瞬間。突然空気が変わった気がした。風が止まった。草木も、虫も、鳥も、何もかもが沈黙した。なのに、何かが近づいてくる気配だけが、異常に重く、皮膚にまとわりついてくる。

「…玄太。念のため聞くけど、俺ら以外、誰もいなかったよな?」
「は、はい。ここにいるのは、おれとてんぱいだけっすけど……」

 ザリ…ザリ…。

 霜を踏む音が、空っぽの霧の奥から、ひとつ、またひとつと増えていく。

「来たか?ラクターさんの言ってたやつが!」

 そして、俺たちの周囲にボーっと現れたのは武器を構えた兵士の姿。けれどそれはどう見ても生者じゃない。熱と血の残留思念をこの地に落として、土に帰れなかった者たち。

「てんぱい!幽霊っすよ!異世界ぱねえっすっ!」
「昼でもお構いなしってやつか」

「てんぱい!!もう一回スナップを!」

 玄太に言われるがまま、俺はもう一回コールドスナップを仕掛ける。

「凍てつけ、亡霊ども!!」

 ピシィィィィ!

 しかし、凍てつく氷結陣に多少動きが鈍った気がするが、奴らの進軍は止まらない…!

「てててんぱい、ダメ!あいつら足が無えっす!」
「そ、そっか…幽霊だしな!」

 数体の思念が剣を構え、霧の中から突っ込んできた。

「納得してる場合じゃないっす!え~っと次は次は」

 そう言ってメモをたどる玄太が「あ!」と声を上げる。

「熱だ!ゾンビ系は火とか熱いやつに弱いはず!!てんぱい、ヒートウェイブ…えっと、こういう感じっす!」

 異常な熱を溜め込んだ大地が冷めることなく…よし!もう行ったらぁ!

「立ち昇れ熱風!ヒートウェイブ!」

 俺が拳を天に掲げた瞬間、大地が低く唸りをあげた。すると、霜の下から熱気が噴き出し、瞬く間に霧と冷気の花を蒸し焼きにしていく。

 ──ゴォォォッ!

 空気が揺らぐ。陽炎が立ちのぼり、亡霊たちの動きが鈍る。やつらは揺らぐ大気に距離感を失い、攻撃のタイミングを乱したままふらついた。

「てんぱい!熱の効果で陽炎みたいにユラユラしてるっす!」
「地熱攻撃&撹乱効果って感じか!!これ、もっと次もあるのか!?」

「ありますっ!ヒートウェイブの派生で、ヒートアイランドっす!」

 都会などでしばしば起こる、太陽の熱を蓄積しすぎたアスファルトが起こす現象らしい。ここにアスファルトはないが、俺のスカイリンクならヒートウェイブで無理やり条件を作っちまうってところか!

「おっしゃ、まとめて還ってもらうぜ!熱源解放!ヒートアイランド!」

 地面から立ち昇る熱が、一気に上昇する。焼け焦げた大地が赤熱し、風さえ焦げたような匂いを運ぶ。

 ジジジ……ゴォォォォォ……。

 視界が赤く染まり、熱のドームが形成されていく。その熱波の渦に、残留思念たちの輪郭が、ひとつ、またひとつと溶けていく。

「効いてる!効いて…ひぃ!あっちい!!」

 周囲の熱を避けるように玄太が俺の足にしがみつく。

「俺にくっついてろ!玄太!」

 それでも溶け切らずに、熱霧を切り裂いて現れた亡霊たち。

「来いよ…まとめて、焼き祓ってやる」

 俺は足を踏みしめ、天に拳を掲げる。

「ヒートアイランド、最大展開!!」

 ブォォォォォン!!

 爆発するような熱気が大地から突き上げ、鎧の亡霊たちを一気に包み込んだ。兵士の影たちは断末魔もあげず、光と熱に融けて消えていった。

「はぁはぁ…やったか!」

「ふぅ!やりましたね…って…あれ?」

 玄太の不穏な気づきに目を凝らすと、奥の方に異様なオーラをまとった一体の騎士。白銀の鎧を着た、おそらくこの地の戦いで散った猛者。

「あ、あいつ、やべえな。思念が強すぎるってやつか」
「ボスだぁ!ボスっすよ!てんぱい!」

「お前、なんかはしゃいでねえか?」
「きき、気のせいっすよ!!あぁ、それよりアイツ!ほら!」

 熱波が地面を赤く染める中、黄金の騎士は一歩も足を止めなかった。

「あいつ足がある…?他と違う!」

 炙られた白銀騎士は、熱をものともせず、ただ真っ直ぐ俺たちに向かってきやがる。

「てんぱい…ヒートアイランド、通じてないっ!」
「チッ!アイツ、熱を無効化してる!?」

 歩くたび、足元で地面がじゅうっ…と音を立てて蒸発する。奴が踏んだ地面の浮かぶのは、アストラによる干渉紋か?

「アイツ、相当なアストラ使いだったみてえっすね」
「だったら、青雷で一気に落としてやる!」

 俺は青空を睨み、雷雲を呼び出す。

「修行になんねえけど、緊急だ!落ちろ青雷!!」

 バチィィィィン!青白い稲光が天から一直線に白銀騎士に着弾。

 が……!

「…え!?吸収した!?」

 白銀騎士のもつ青い剣が、雷の軌道を受け止めるように振り上がり、雷の光がまるで剣先に溶け込むように消えた。

「てんぱい!雷もダメっす!剣が雷を喰ってる!」
「クソ!どうすりゃっ…」

 俺が言葉を詰まらせた時、玄太の目がキラリと閃いた。

「そうだ!てんぱい、雨だ…!」
「…は?」


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