忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第4章 神の器の奮闘記

第53話 クロワッサン革命

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「うわ!きっもちいい~!」

 翌朝、カラッとした朝の日差しを全身に浴びて、俺は思いっきり伸びをした。

「なんだろ、いつもより体が軽い。悪いもんが全部流れてった感じ!」
「おはよう!ほとんど二日寝てた天貴さん」

 その声に振り向くと、アリスが庭で私物の洗濯を干していた。

「おぉ!アリス、おっはよ~!」
 
 風に揺れる洗濯物たち。

「…ん?」

 干されたシャツの奥に、妙に見覚えのある青い布が揺れていた。

「あれはー…?」

 それはどうみても、俺の愛用してた青一色のあれ。
 
「な、なんで!?あれって、地底湖で流されたはず!?」
「ああ、それ?」

 アリスは洗濯バサミを挟みながら、さらっと答える。

「本当は、乾いた後持っていって驚かせようかなって思ったんだけど」





「な、なんでここに!?」
「数日前に水路に流れてきたのを見つけたの」

「えぇ!マジで!?」
「それがね、どうやらあの地底湖、この水路と繋がってるみたいなのよ!」

「ほへぇ!こいつもちゃんと農場に帰って来たんだ…」
「ね!びっくりでしょ!案外、奇跡って起こるものなのね」

「いや、案外起っちゃったら奇跡じゃなくね!?」

(はい出た。めんどくさい俺)

「そうかしら?天貴と玄太さんが来てから、私、奇跡ばっかり見てる気がするけど」

 アリスが笑った。

「そう言われてみれば、そうかもな?」

 俺が現代にいたあの日、今日みたいな何気ない朝にクータンと出会ってから色々あって。だけど今、俺はちゃんとここにいて、玄太も側にいて、クータンも生きてる。ついでにコイツも戻ってきたし!それだけで、たしかに「起こる奇跡」って、ちょっと信じてみたくなる。

「そんな、もんか?」
「そんなもんよ!」

 俺たちは朝の農場で笑って、こうして生きてる奇跡をかみしめる。

「じゃあ、もう一つ!奇跡を起こしに行きましょうか?」
「え?なんだよ、それ?」

「さ、行くわよ!天ちゃん!」
「天ちゃ……あーー!!」


 *****

 そして訪れた、アルカノア農場が誇る農具開発工房。

「あ~ら、天ちゃん!アリスもいらっしゃい」
「お邪魔します!ここも相変わらずですね!」

 そう言って試作品がころがる机の上を見回した。
 
「ノーグさん!‟例のアレ”の設計図、どうかしら?」
「あれね。設計は大体できたんだけどアルカウッドの調達は結構厄介よ?」

「うーん、やっぱそうよね」
「例のアレ?新しい農具武器か?」

 いや。王国が堕ちた今、非武装もくそもないし。そんなわけないよな。

「なぁ、アリス。アルカウッドってなんだ?」
「アルカウッドはね、アルカ山にだけ自生する魔法樹木よ。すごい耐久性と浮力をもってるの!」

「へえ!防護柵でも新調するのか?」
「お、鋭い!まあ、半分正解ってところ!」

 俺は首をかしげると、ノーグさんは少し肩をすくめた。

「来たるべき終末のための備え、とだけ言っておくわ!」
「終末って物騒だな、それ…」

 天使と悪魔のアルマゲドンでも来るのか?

「ま、いいや!今日は俺も頼みがあって来たんだった!」
「ふふ、さっきから気になってたのよ。天ちゃんが持ってるその剣」

 流石発明家。この剣の青い刀身は気になるよな。

「で、ノーグさん!早速ですがこの剣を違うものに打ち直せますか?」

 そう言って机の上に青い剣をゴトッっと置いた。ノーグさんはすかさず剣を手に取ってマジマジと鑑定する。

「やだ天ちゃん!これ、エレメタルじゃないの!?」
「それそれ!確か、ラクターさんもそう言ってました!」

「ねえ天貴。気になってたんだけど、その剣ってどうしたの?」

 俺は二人に、古戦場での修行と剣を手に入れた亡霊事件の説明をした。

「えーっと。天ちゃん?」
「はい?」

「あなた…その白銀の騎士の残留思念から託された魔剣を、改造しようって言うのね?」
「はい。ラクターさんも好きにしろって言うから!手持ちのスコップにでも変えてもらおうかなって」

 アリスとノーグさんはキョトンとした顔で見つめあう。

「っぷ…」

 そして、わははははと豪快に笑い飛ばされた。

「でも俺、剣なんて使えないし…」

 そんなにおかしい事なのか?

「ごめんごめん!でも、天貴らしいなって!ふふ…」
「本当よ!国中の剣士が喉から手が出るほど欲しがる剣をスコップに改造しようなんて!」

「無理ですかね…」
「そうねぇ。細身の剣だから、斧とか言われたら困っちゃうけどスコップなら」

「伝説のスコップね!いいと思う!あと玄太さんにも何か作ってあげたら?」
「ん~。じゃあ、お願いしようかな」

「…ふふ、了解」

 その後、少し他愛もないおしゃべりに花が咲いた。

「玄太といえば、アイツそろそろ起きそうだな」
「あら!じゃあ、てんぱいてんぱいって屋敷中ひっくり返される前に戻りましょうか!」

「ははは!だな!」

 その時、工房の扉に向かうアリスが、ヒールラベンダーの香りをフワッと残しながら俺の前をスッと横切った。

(あれ、この香り?)

「天貴~!行くわよ!」
「あ、ああ!」

 笑顔で手を振るノーグさんにお辞儀をして工房を出ようとした時、それは急に思いついた。

「あのノーグさん。もしまだ材料余ったら…」


 *****

 屋敷に戻る途中、アリスは悩める乙女に転身していた。

「うーん、どうしようかしら」
「なんだ?朝飯のメニュー考えてるのか?」

「そうね、パンかご飯か~って、違うから!」
「だ、だよな。玄太じゃあるまいし」

「アルカウッドよ!アルカウッドの調達!しばらく安定供給が必要なのよ」
「アルカ山かぁ…あそこ、怖ええからなぁ」

 そう言ってアルカ山での風との死闘を思い出す。

「山の風、山の意志…天貴が捕まっちゃってあの時は焦ったわよ!」
「そうそう!危うく谷底案件。メーちゃんとシェパがいなかったらやばかったな」

(…あれ?そういやモーちゃんとメーちゃん、最近見ないな)

「なぁ、最近あのテイマー姉妹はどこにいるんだ?」

 ようやく気づいた?と言わんばかりにドヤ顔で俺を見るアリス。

「ふっふっふ!実はあの二人はすでにアルカ山への先発部隊として送り込んであるの!」
「ほぇー!さすが預言者」

「…ちょっと?それなんか可愛げ無くない?」
「預言者に可愛いもクソもないだろ?」

「あるの!そうねぇ。未来少女とか、どうかしら?」

 自慢げに髪をファサッとかきあげるアリス。

「じゃあ、未来少女アリスさん」
「な、なによ?」

 そう答えると、アリスの顔が少し赤くなる。

「っぷ!本当にそれでいいのか?」
「もう、バカにして!」

 アリスに軽く小突かれながら玄関に飛び込む。

「ん!?んんん!?」

 すると屋敷に入った瞬間、フワッと漂うバターの香り。焼きたてのパンの香ばしい匂いと相まって、俺の胃袋が一瞬で目を覚ました。

「ただいま~玄太ぁ?甘乳パンかぁ?」
「あ!てんぱい!」

 キッチンの方から、粉まみれの玄太が元気よく顔を出した。ほっぺに小麦粉が良い感じにまぶされてて、もはや、おまえが美味そうだぞ?そして、おもむろに俺に向かってダッシュしてきたと思ったら。

「目覚めのいっぽ~~ん!」

 ゴボォ!っと俺の口にいつものようにパンをぶち込んでくる。

「ンゴォ!また、おま…ん!?」
「てんぱい、それ試作っすけど、どうっすか!?」

「甘乳…じゃねえ。なんかサクッとジュワッたぞ!?」

 予想外に甘くない&懐かしい味に頭が混乱してる。

「おはよう玄太さん!今日のお楽しみはなあに?」
「今日はクロワッサンに挑戦っす!パリサクジュワ~っすよ!」

「パリサク…なにそれ!楽しみすぎるわ!」

 そうそう、クロワッサン…って、玄太ってば、ほんと朝飯から全力だな。食う専門の俺としては、ありがたいばっかりなんだけど。そして、キッチンに入ると魔導オーブンから犯罪的なバターの香りが!

「どれどれ…」

 オーブンを開ける玄太の後ろから中を覗くと、黄金色に輝くクロワッサンがずらりと並んでいた。

「うぉっしゃ!焼けた!」
「うっわ…お前、異世界で革命でも起こす気かよ」

「お!それ、いいっすね。クロワッサン革命!」

 ふわりと広がる香ばしい匂いに、思わず喉が鳴る。

「じゃあ、アリスさんに焼きたてを進呈するっす!」
「まぁ!!いただきます!玄太さん!」

 アリスはさっそく、アツアツのそれを手に取ってかぶりついた。

「パリッとしてて、サクッと噛んだとたん、バターがジュワ~って!ちょっとこれ…朝から反則!」

 アリスが目を潤ませながらクロワッサンを見つめている。いや、泣くほど!?そんなに!?

「じゃ、俺も改めて…」

 俺もすかさず焼き立てを手に取り、思いっきりかぶりついた。

 ──サクッ!

 外は軽いのに、噛んだ瞬間にバターがじゅわっと広がる。しかも中はありえないほど、もちもち。

「なあ玄太。おまえ…パン職人だっけ?」
「ただのパン好き男子っす!」

「いや、好きってだけじゃ済まされねぇクオリティだよ!」
「そっすね!てんぱいの事はもっと好きっすけど!」

「ばっ、そうじゃくて!」

 思わず叫んだ俺に、玄太は少し照れたように鼻をかいた。

「はぁ~熱い熱い」
「ちょ!アリス、からかうなって!」

「あら、なんのこと?クロワッサンの事だけど?」

 すっとぼけるアリスの横で説明を続ける玄太。

「実は…てんぱいの看病しながら、ちょくちょく仕込んでたんすよ。発酵のタイミング見ながら」

 こいつ、俺の看病しながらしっかり「うまっ!」も仕込んでたのか。

「…ありがと」

 俺は口いっぱいのクロワッサンをもごもごさせながら、なんか……胸の奥がポカポカした。…と、そんなあったかい空気を切り裂くように、玄関のほうから元気な声が響いた。

「帰ったモ~!」
「メも帰ったべ~!」

 ひときわ大きな声とともに、モーちゃんとメーちゃんが勢いよくリビングに飛び込んできた。

「よっ、アルカ山調査隊!おかえり!」
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