忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第4章 神の器の奮闘記

第59話 その柵、本当に柵ですか?

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「そしたら、精霊さんがね!!」
「そうそう!んで、そこでてんぱいがー!」

 次の日のリビングでは、アリスと玄太がアルカ山の武勇伝で、朝から賑やかだった。いや、騒がしいというべきか? 

「ところでこのスープ、めちゃ美味いな!昨日の牙剥き出しのウサギさん使ったのか?」
「そうよ!思わぬ戦利品!お父様もコンバインさんも、いっぱい食べてね!」

「うむ、いただこう。早速おかわりをくれ!」
「あ、隊長早い!アリス、俺も頼む!」

 ラクターさんもコンバインさんも食欲満点!そんな他愛もない朝食タイム。するとふいに、玄関のチャイム音が鳴った。

「誰かしら?」

 キィィ……。玄関が開く音。その場の全員がその足音に注目する。

「おはよう、皆様。食事中だったかい?」

 リビングのドアの先にいたのは、光を反射する白シャツ。端整な顔立ちに、細縁の銀眼鏡。肩にかかる白い髪が、朝の光を受けてふわりと揺れていた。

「ノーグさん…!」

「今日は少し早起きできたの。早速これ、持ってきたわよ」

 彼の手には、一本の手持ちスコップ。それは透き通るような群青で、金属と宝石が融合したような光沢を放ってる。持ち手の部分には、螺旋状の紋様が刻まれている。

「…天ちゃんご依頼のエレメタルスコップ、完成よ!」

 そう言って俺にスコップを手渡してくれた。

「マジかよ…ありがとうございます!すげぇ!!」

 俺は、吸い寄せられるようにそのスコップを手に取る。見た目の光沢感に反して手触りは軽くて、でもしっかりと芯がある感じ。

「それ、エレメタル製か!?ってことは、属性吸収型のスコップってことかよ!?」
「ぜ、贅沢ね…!」

「ほう。あの剣をスコップに変えたのか!?ふ……天貴らしいな」

 ラクターさんもコンバインさんも初めて見る魔導スコップに感心している。

「軽くて持ちやすい!やっぱノーグさん、すごすぎる」
「ふふ…喜んでもらえて嬉しいよ。作った甲斐があったわ」

 ノーグさんはクスッと笑う。でもその瞳には、研究者としての誇りが宿っていた。

「名は、まだつけていない。天ちゃんが命名なさい」
「…うぉお、命名式っすね!」

「なんかノーグさんの言う事っていちいちキラキラして、やっぱ只者じゃないって感じ!」
「いいえ、私はただの農具発明家よ?」

「絶対”ただの”じゃないって!!」

 ツッコミが飛び交う中、俺は改めてスコップを掲げた。青く煌めくその刃に、朝の光が宿る。

「…よし、命名!ブルーストライクってどうだ?」
「おおお、それっぽいっす!てんぱい!」

「ふふ。気に入ったわ。いいセンスね」

 ノーグさんが満足げに頷いたあと、ふと懐から小さな布袋を取り出した。

「それと、これも天ちゃんに渡しておくわ」
「ん?」

「頼まれた通り、余った素材で加工したわよ」

 袋の中には、青く透き通る指輪と、二つのネックレスが丁寧に収められていた。俺は指輪を手に取って、そっと光にかざす。静かな青が光に揺れて、自然とある笑顔が浮かんだ。

(…これ、だな)

 俺は少しだけ笑って、指輪を玄太に差し出した。

「これ、お前に、な。お守り代わりってやつだ」
「え……オレにっすか?」

 玄太は一瞬、目を丸くして、それからおそるおそる指輪を受け取った。

「…わぁ。めっちゃキレイ…」

 光にかざすと、指輪は淡く輝きを放つ。玄太はまばたきもせず、それをじっと見つめて指にはめた。

「わぁ…薬指にぴったりっすよ!てんぱい!」
「は?へ、へぇ?偶然だな?」

 よりによってなんで薬指サイズなんだよ。まあ、右手だったけど。

「てことは、これって…誓いの指輪…っすよね…?」
「は?いや、違う違う!そういうのじゃねぇから!」

 だが、もう遅かった。玄太の顔がみるみる崩れていく。

「うわぁぁああん!!一生大切にするっす!」

 喚きながらジャンプして、思いっきりのしかかってくる。

「重いっ!やめろって!話がややこしくなるからぁ!!」
「だってだって……!てんぱいと一緒に取ったエレメタルで…こんな素敵な物をぉぉ」

「いやそこは合ってるけど!感情の方向おかしいって!」

 泣きわめく玄太は一旦置いておいて、続いて二つのネックレスをラクターさんに渡す。

「あと、これは俺からじゃない。ノーグさんが、ラクターさんとアリスにって!」
「…ノーグが?」

 ラクターさんの少し驚いた反応にノーグさんは表情を変えずに説明した。

「ま、深い意味はないわよ?ただ形は変わっても、あなた達が持っていた方がいいでしょ?ね、ラクター?」

 ノーグさんは目を逸らしながら、やや早口でそう言った。

「…っふ。粋な事してくれる。感謝するぞ、ノーグ!」

 それだけ言うと、首元にネックレスをかける。そして隣のアリスにも、無言でひとつ、かけてやった。

「わぁ!あ、ありがとう。お父様、ノーグさん!」

 アリスがネックレスを胸にあてて、微笑んだ。

「なんだろ、これ…うれしい香りがする」

 その笑顔に、ラクターさんもほんの少し、口元を緩めた。
 一瞬、リビングの空気が静まる。ノーグさんも目を伏せながら、わずかに頷いた。

 そして──

「じゃ、後は農場の柵の作業っすね!!」

 玄太が指輪をさすりながら、にこっと笑った。その姿に、ノーグさんも「ふふっ」と小さく笑う。

「ええ、そうね!新しい防護柵の設計図は完璧よ」

 ノーグさんは腕を組み、満足そうにうなずいた。

「みんな、もうすぐどんどんアルカウッドが届くから、ノーグさんの設計図の通りに作業の方、お願いします!」

 アリスは皆の前で深々と頭を下げると、リビング中が一気に熱を帯びるような、そんな空気になった。

「何言ってんだ!別にアリスのわがままってわけじゃないんだ」

 俺は胸を張って思ったままを言葉にした。

「そうだ、アリス。これは俺たち全員の戦いだろ?」

 ラクターさんの言葉に皆がうんうんと頷き、俺たちの農場防衛プロジェクトは、新たなフェーズに突入したのである。


 *****

 なんて、かっこいいこと言ってたけどさ。

「ちょ、待て待て!!一気にこんなに届くって聞いてないぞおい!!!」
「うおおおっ!?もうウッドの山、届いてるっすか!!」

 ぞくぞくと農場に運ばれてきた大量のアルカウッドの山。

「いやいや、アリス!?木こりの皆さんどんな伐採してんの!?」
「ふふ…その筋のアストラ持ちのみなさんよ?」

 想像を絶する木材の山に正直ドン引き。最初は10本くらいからコツコツ始めると思ったら軽く200本はありそうな勢い。

「で、でもおれ、やるっす!全部、てんぱいのために!」
「いや。お前の動機、俺に偏りすぎだろ!」

 そして作業はすぐに始まった。アルカウッドをめぐる、ドタバタの第二章スタートだ。

「柵の外周に深い溝を掘るのよ!」
「古い柵は薪にする!みな、ここに集めてくれ!」

「了解!おっしゃ、みんな俺に続け!」

 ノーグさんとアリスの監督のもと、ラクターさんが指揮をする。コンバインさんは率先して作業に取り掛かりつつ号令を上げる。

「よっしゃ!俺たちも負けてらんねえ!玄太、もう一本運べるか?」
「この指輪があれば余裕っす!あと百本くらいイケます!」

(いや、それパワーリングじゃねえから!)

「ま、いいや。じゃあそっち持ってくれ!」

 俺たちは笑い合いながらも、巨大な”防護柵らしきもの”の建設を進めていった。


 *****

 そして作業に追われながら、数日が過ぎたころ。農場の外周には、太く青白い光を宿す柱たちが、しっかりと並び始めていた。

「よし…地上はだいたい終わりね。次は…っと」

 ノーグさんが設計図を広げ、地面にしゃがみ込む。そこには、複雑な線が幾重にも交差する魔方陣のような印が描かれていた。

「おいおい…やっぱこれ、ただの柵じゃないよな?どこまで掘り下げるんだ?」

 俺が思わず覗き込むと、アリスがすかさず間に割って入ってきた。

「えーっと、そこは企業秘密ってことで♪」
「え、なにそれ怖い」

「ふふ。ひとつだけ言っておくと、天ちゃん。この柵、地表に見えてる部分は全体の一割にも満たないのよ?」
「……は?」

「この柵ね、地中深くまでぐるりと潜らせてるの。木材のほとんどが、土の下!」
「いやいや、地下にまで柵張って意味あるか?帝国軍は地面から攻めてこないだろ?」

「ふふ……“見えないところこそ肝心”って言うでしょ?」
「またそれっぽいこと言いやがって……」

 アリスはノーグと目を合わせて、どこか企んだような笑みを浮かべた。

「とにかく!基礎さえできちゃえば、残りの作業は農場の皆で進めるから、ね?」
「ん~、まぁそうだな!細かい事は気にすんなってか」

 俺はアリスの笑顔に押されて、なんとなく納得したフリをする。だがその実、俺が知らないところでは――この“防護柵”の名を借りた、とある巨大な構造物の製造が着々と進んでいたのを俺は気づかなかった。
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